まだ日が昇ったばかりの城塞都市に警戒を伝える鐘の音が響く。街には数機の機竜使いが幻神獣の襲撃を伝えるために飛び回っていた。
リヒトたちを含む士官候補生は、装衣に着替えて格納庫に集合する。
「よし、全員揃ったところで現状の通達をする」
ライグリィの声が格納庫に響く。
「出現した幻神獣は大型一体だ。現在第一の砦を既に突破し、第二、第三の砦に常駐している。警備部隊の機竜使い数名が討伐に向かっているが、突破されて城塞都市に被害が及ぶ可能性もある。そこで我々も迎撃部隊を編成し、戦闘に加わることとする。以上!!」
ライグリィがそう告げて、話は終わった。
王都にも救援要請を出しているとの話もあり、それを聞いて安堵の息をついている生徒がちらほらリヒトたちの目に入った。
「呆れたもんだな。言っちゃなんだがここのお嬢様連中は少しばかり平和ボケすぎねぇか?」
それを見てアテムが溜息を吐きながらそう呟いた。
「えっ? それってどういう……」
「…………っ!?そういうことか……」
それを近くにいたルクスが疑問に思い、聞き返す。
しかしリヒトはアテムの言葉の意味に気づいたようだ。
「わからねえのかルクス?王都の救援がそう簡単に来るわけねぇってことだよ。ただでさえこの国には機竜使いが少ねえんだよ。だから俺みたいな傭兵を雇うくらいなのによ」
「アテムのいう通りだな。戦闘には加わることはまず間違い無いと考えるべきだろ」
アテムの言葉にグレンも賛同した。
「声が大きいぞ、アテム君、グレン君」
シャリスが口元に人差し指を立てて、苦笑しながら近づいてくる。
「ルクス君ならこの国の軍事情勢について事情は知っていると思ってたんだがね」
「でもさー、実際問題はそうなんだよねー」
側にいたティルファーが先ほどのアテムの答えに共感するように肩をすくめる。
「Yes.ここの都市が普通の都市ではないことは、ルクスさんもご存じのはずです」
そして、ノクトも言葉を添えると、三人は外へ出る扉に向かって歩き出した。
「どこに行くんですかシャリス先輩?」
「我々は『騎士団(シヴァレス)』だからね、こういう時は率先して出張らないといけないのさ」
シャリスは小さく笑うと、格納庫から出ていった。この後、演習場で機竜を纏い、討伐へと向かうのだろう。
「それじゃ、私も行ってくるぞ」
リーシャがリヒト達にそう告げて格納庫から出て行こうとしていた。よくよく周りを見れば『騎士団(シヴァレス)』のメンバーがほとんど消えていた。
「姉さん……気をつけて」
「心配するな、いつも言ってるだろ?私はお前の姉だと」
そう言うとリーシャは格納庫から出て行った。
因みにリヒトたちは『騎士団』に所属していないため現在は待機という命令である。
クルルシファーは『騎士団』所属だが留学生である彼女は戦闘には出るとしても支援らしい。
「まぁリーシャ様はもちろん『騎士団』は強い、大型幻神獣一体だけならなんとかなるだろ」
「……………。」
グレンがそんなことを言う中、リヒトは得体の知れぬ不安に駆られていた。
「あら、なにか気になることがあるのかしら? 私は離れたところから様子を見てくる予定だけど―――」
突然、クルルシファーが訪ねてきた。
「……みんな、妙だと思わないか?」
「…?リヒト、それってどういう…」
リヒトの言葉にルクスがそう訪ねた。
「この前の警報も無い中突然現れた幻神獣の群れ、そして今回の大型幻神獣…3年生が不在のときにこうも幻神獣が現れるなんて…普通じゃありえないことだ。俺には何か裏があるような気がしてならない」
「確かに、リヒトのいう通りだな」
アテムもリヒト同様違和感を覚えていたようだ。
「…わかったわ。それじゃあ私も念のため周囲を探って来るわ」
そう言うとクルルシファーは格納庫から機竜を纏って出て行った。
―――イイイィィイイィ!
リヒトは笛のような音が聞こえた気がした。
リヒトとルクス、そしてグレンは当てもなくふらふらと格納庫を歩いていると、見知った顔を見つける。
「………フィー?どうしたんだよこんなところで?」
グレンがフィルフィに話しかけるが反応がなく様子がおかしかった。
「笛の音が、聞こえて、くる……。向こうから……」
そう言って指を幻神獣がでた方角へと向ける。
「笛?…………っ!!まさか……」
ドオンッ!
その時、大きな地鳴りが格納庫に響いてきた。リヒトの嫌な予感が的中したようだ。
「―――以上が、遠距離から視認して、ノクトさんの竜声から聞いた現在の戦況よ」
格納庫に神装機竜《ファフニール》を纏ったクルルシファーが戻ってきて、状況を伝えていた。
その話を聞いて、待機していた生徒たちは静まり返っていた。
クルルシファーの話によると、大型の幻神獣アビスが突然自爆し、中から大量の幻神獣が出てきたらしい。さらに旧帝国の反乱軍も攻めてきて『騎士団』は壊滅寸前であると。
「わかった……。協力感謝する。クルルシファー」
ライグリィが答えると、格納庫内の空気が重くなった。
「……ルクス、みんな、ここを頼む」
リヒトはそう言うと、自身の機攻殼剣を手にして格納庫を去ろうとした。
「まてリヒト・アティスマータ!!1人で向かっても危険だ!!まずは援軍を編成して念入りに…」
「それじゃあ遅すぎる!!」
ライグリィの言葉をリヒトの怒声が遮った。
「そうしているうちにも姉さんや他の『騎士団』の人たちが危険な状態なんだ!!遅くなってからじゃ遅すぎる!!それに……俺はアティスマータ新王国第2王子、リヒト・アティスマータだ!!誰1人絶対に死なせない!!」
「……出来るのか?」
すると、アテムがリヒトの目を見ながらそう訪ねた。
「……必ず助けに行く、もうこの国で悲しい結末を作らない!!」
リヒトの目はまっすぐとアテムを見ており、まさにこの国を守る王子そのものであった。
「……なら、僕も行きます」
そのとき、ルクスが立ち上がり前に歩き出した。
「兄さん…でも…」
アイリは目に涙を浮かばせながらルクスを止めようとした。
「大丈夫。ちゃんと帰ってくるから。僕はアイリを一人になんてしないから」
そう言ってアイリの頭軽く撫でた後、ルクスはリヒトと外へ向かう。
「機竜の出力調整はしてあります。私なりにですが……」
アイリは涙を浮かべ、俯いたままそう告げる。
「ありがとうアイリ。グレン、アテム、2人はここをお願い」
「あいよ、気をつけてな」
ヘラヘラしながらアテムはルクスへと言葉を返しグレンは静かにルクスを見つめて聞き出した。
「……『使うんだな』、ルクス」
「……うん」
「気をつけろよ。」
グレンと会話を終えるとルクスはリヒトと外へと駆け出した。
「フハハハ!無様だなぁ、新王国の王女よ」
「くそっ……逆賊どもが……」
反乱軍の首魁、元アーカディア帝国近衛師団長ベルベットの高笑いがリーシャの耳に響く、リーシャは反論の一つしたくてもできないほどにボロボロだった。
反乱軍の戦力は砦の機竜使い約100機、幻神獣ガーゴイル30体。
リーシャ達『騎士団』のメンバーは奮戦した。しかし、多勢に無勢。
『騎士団』側は総崩れとなり、『三和音(トライアド)』もシャリスを残して2人は撤退。残ったメンバーは5人に満たなかった、そしてついに神装機竜《ティアマト》を纏ったリーシャまでが墜ちた。
当然残ったメンバーはリーシャの救援に向かおうとするが、幻神獣に阻まれて動けない。
「さて、貴様を捕らえて新王国と交渉するための人質とするか……いや、ここにはこれだけの大戦力とこの笛がある。別にお前を利用する意味などないか、雌犬」
「……!?」
リーシャの、ここまでボロボロになっても気丈に保っていた表情が絶望に歪む。
「そうだ!思い出したぞ!お前に刻印を焼き付けたのは俺だったなぁ!」
「くっ……」
「さて、余興は終いにするか。――その命、散らすがいい!!偽りの姫様よ!!」
嗜虐の笑みを浮かべたベルベットは機竜息砲をリーシャに向けられ砲撃が放たれる……そのとき、白銀の光がリーシャの纏う《ティアマト》をリーシャごと砲撃から離れた場所へと連れ去った。リーシャが目を見開いて見ると、神装機竜《ゼルレウス》を纏い鋭い目でベルベットを睨みつけるリヒトがいた。
「偽り……なんかじゃ無い……」
「リヒト……っ」
「姉さんは…この国を守るために戦い続けて……そして多くの人たちから慕われている!!姉さんは偽りなんかじゃない!!正真正銘この国の王女だ!!」
リヒトの怒りの声が辺りに響いた。
「ふん、偽王女の次は紛い物の放浪王子か、良いだろう、貴様ら姉弟仲良くあの世に送ってやる!!」
上空に佇んでいたベルベットは、リヒトの姿と生きているリーシャを見て、大剣を構える。それを合図に他の機竜使い達も剣を構える。
「姉さん…あとは任せて」
そう言うとリヒトは長剣《七星剣》を構え、無数の幻神獣や機竜へと斬りかかった。リヒトは向かって来るガーゴイルを斬り裂きそのまま別の機竜を倒す。高速で動くリヒトは次々と幻神獣や機竜を倒して行った。
「くそっ……怯むな!!数で一気に畳み掛けろ!!」
ベルベットは慌てながらリヒトを慌てながら倒そうと一部のガーゴイルが数匹。リヒトの背後へ攻撃を仕掛けてきた。
しかし、
「ハァァァアッ!!」
そこへルクスが現れガーゴイルの攻撃をガードした。
「ルクス……」
リーシャがルクスを見ると攻撃を無理にガードした《ワイバーン》は装甲が損傷していた。
「ルクスっ!!大丈夫か!?」
「すみません、リーシャ様。せっかく直してもらったのに……」
ルクスはリーシャに背を向けたまま、リーシャに対し詫びを入れる。そして腰に差していたもう一本の機攻殻剣を抜き、詠唱を唱える。
「――顕現せよ、神々の血肉を喰らいし暴竜。黒雲の天を断て、《バハムート》!」
圧倒的な威圧感と存在感を放つ黒き竜がルクスの体を包む。
黒い神装機竜を纏ったルクスは飛翔し、ベルベット率いる反乱軍の前に立ちはだかる。その右手には、闇より深い黒色の大剣が握られていた。
「ルクス……いろいろ聞きたいことがあるけど……今はとにかく奴らを倒すぞ。ベルベットは俺が倒す。」
リヒトの言葉にルクスは静かに頷き共に反乱軍と向かい合った。
反撃の狼煙が上がった。
すいません!!思ってたより長くなってしまい本格的な戦闘は次話になります。