「はぁ・・・はぁ・・・」
リヒト・アティスマータは走り続ける。迫り来る脅威から・・・頼れる仲間はわずか、敵は大軍・・・気を抜けば一巻の終わりである。
「くそ・・・こんなことになるなんて・・・」
自分の軽はずみな行為に激しく後悔する。しかし、時すでに遅し。今は姿は見えないが間違いなく奴らは自分を探している。
「リヒト!!」
「お前も無事か!!」
声のする方を見ると、そこには数少ない自分の味方がいた。
「ルクス、グレン!!お前ら無事だったのか!!」
「この俺様もな」
そこに、アテムも加わった。
「どうやら全員やられてねえみたいだな・・・しかし・・・」
「見つけた!!4人ともいるわー!!」
敵が彼らの姿を見つけ迫ってきた。
「ちっ・・・見つかっちまったか・・・お前ら!!まとまってると一網打尽だ!!バラバラに逃げるぞ!!」
「うん、そうだね!!」
「わかった!!」
「うまく逃げろよ!!」
そういうと彼らは再び散り散りになった。
「どうして・・・こんなことに・・・なってしまったんだーーーーーー!!!!」
リヒトの叫びが辺りに響いた。
話は数刻前にさかのぼる・・・
装甲機竜の工房内
「な・・・なんだこれ・・・」
リヒトは目の前の惨劇に言葉が出なかった。
「どうだリヒト!!この装備、カッコいいだろう!!気に入ったか!?」
その隣にはこの工房の所長を務めているリヒトの双子の姉、リーズシャルテ・アティスマータことリーシャがいた。彼女は、リヒトに振り返りニッと笑う。
目の前にはリヒトの纏う神装機竜《ゼルレウス》がある・・・しかし、そのゼルレウスの現状にリヒトは唖然としていたのだ。具体的にいうと・・・
《ゼルレウス》の両手に巨大なドリルが2つ取り付けられていたのだ・・・
「こいつは《遺跡(ルイン)》で発掘されたとてもレアなパーツなんだ!!そいつをお前の機竜に特別に取り付けてカスタマイズしたのだ!!イカすだろう!?」
リーシャは得意げに説明するがリヒトにとっては火に油を注ぐことでしかなかった。
「俺の・・・俺の《ゼルレウス》に・・・一体何してくれんだあんたはぁぁぁぁぁぁぁ!!」
リヒトの怒りの怒号が工房に響き渡った。
「な・・・何をそんなに起こってるんだリヒト!!せっかくお前の《ゼルレウス》をかっこよくカスタマイズしてやったのに!!」
「あれのどこがかっこいいんだ!?俺は《ゼルレウス》の手に巻貝取り付ける趣味は無い!!」
その言葉はリーシャの逆鱗に触れた。
「ま・・・巻貝だどぉ!?あれのどこが巻貝だ!?どう見てもドリルだろうがぁ!!」
「どっちでもいいわ!!そもそもドリルってただの穴掘り道具だろ!?」
「ちっがーーう!!ドリルは芸術性にも優れ戦闘にも有効な素晴らしい装備だ!!なぜ私の双子のお前がドリルの魅力を理解しない!?」
「双子関係ねえだろ!!そんなにドリルつけたきゃ姉さんの《ティアマト》にでも取り付けてろ!!」
「おまえぇ!!人が良かれと思ってやったのになんだその態度はぁ!!」
「「うぎぎぎぎぎ・・・」」
売り言葉に買い言葉が続き2人は激しくにらみ合っていた。この2人、双子ということもあって普段はとても仲が良いのだが時折このように大きな喧嘩をするのである。
「とにかく!!このドリルは外させてもらうからそのつもりで!!」
「あーそうか!!それならもう良い!!後で頼んでも絶対につけてやらんからな!!」
「こっちから願い下げだ!!」
そういうとリヒトはさっさとドリルを外して工房を後にした。
「まったく・・・姉さんったら余計なことを・・・」
ここは教室、ここではリヒトがルクス、アテム、グレンと一緒に談笑していた。
「まぁ落ち着けよリヒト、しかしお前らも喧嘩するんだな」
「そりゃするときはするさ、にしても・・・」
リヒトはふと視線を向けるとそこには・・・
「はぁ〜・・・」
机の上でぐったりしているルクスがいた。
「ルクスは大丈夫か?すごい疲れてるみたいだけど」
「昨日の休日は丸一日依頼を受けてたからな・・・それでもまだ一向に依頼が減らないしな」
「うん・・・1人じゃ捌き切れなくて・・・」
ガラッ
「あぁいたいた、あなた達に話があったのよ」
すると、学園長のレリィ・アイングラムがこちらにきた。
「レリィさん?なんすか?」
「ルクスくんが依頼が多くて大変って話を聞いて、ちょっとした余興を考えたのよ」
「余興?」
「名付けて・・・『ルクスくん、リヒトくん、アテムくん、グレンくん争奪戦』!!」
レリィの言葉に周囲が騒ついた。レリィは懐から赤い依頼書を取り出すと・・・
「これは一週間の特別依頼書!!これを制限時間内に持っている人はその依頼書の所有者の男子に一週間依頼が優先される!!ちなみにルクスくんの負担のことも考えて男子全員参加ってことで!!」
その言葉に周囲の女子は歓喜の声で包まれた。
「ちょ・・・ちょっと待ってください学園長!!冗談ですよね!?」
リヒトは慌てて講義しようとすると・・・
「良いではないかなぁ!!王子として雑用をすることもあるだろうしなぁ!!」
リーシャが悪意ある笑みでその声を遮った。どうやらさっきのことをまだ根に持ってるようだ。
「じゃあ制限時間は今から1時間だことで、よーい・・・」
「えっ・・・ちょっと早くな・・・」
パァンッ
「にげろぉぉぉぉぉ!!」
「うわぁぁぁぁぁ!!」
「レリィさんあんたって人はぁぁぁ!!」
「ヤーハッハッハ!!面白くなってキタァー!!」
こうして鬼ごっこが始まった。
グレンSIDE
「くそぉ・・・レリィさんったら本当に突然とんでも無いこと思いつくんだよなぁ・・・」
グレンは追いかけてくる女子を振り切り茂みに隠れていた。
「しばらくここでやり過ごして・・・」
「あっ・・・グーちゃんみっけ」
突然背後から声が聞こえ振り返ると・・・
「ウォォッ!?フィー!?」
桃色の髪の毛の少女、フィルフィがそこに立っていた。
「な・・・なんでここに!?」
「グーちゃん捕まえたらケーキくれるってお姉ちゃんが言ってた」
どうやらフィルフィは依頼書でケーキを頼むようだ。
「ったく・・・あの人は・・・」
「そういう事だから・・・怪我しないように捕まえるね」
「え?」
グレンがふと顔を上げるとそこにはフィルフィはおらず
ガシィッ!!
「んなぁ!?いつのまに!!」
フィルフィはいつの間にかグレンの背後に回り腕を押さえつけていた。
「くそっ・・・動けねぇ・・・離せフィー!!てかなんでこんな力強いんだよ!?」
「ちょっと武術習ってたから・・・」
ふにゅん
すると、密着しているためフィルフィの豊満な胸がグレンの背中に思いっきり押し付けられていた。
「うぉぉぉぉぉぉ離せぇぇぇぇぇ!!///////」
グレンは顔を真っ赤にして抵抗した。
「逃げちゃ駄目、グーちゃんも一緒にケーキ食べよ?」
ふにゅんふにゅん
さらに強く押さえつけるためさらに胸が押し付けられる。
「わかったもうわかったから!!ケーキでもなんでも一緒に食ってやるから離せぇぇぇぇぇ!!」
グレンの顔は茹で蛸のように真っ赤になっていた。
「ん、わかった」
そういうとフィルフィは手を離した。すると、グレンはぐったりと倒れ懐から依頼書が落ちた。
「依頼書・・・」
フィルフィはそれを手にすると嬉しそうに微笑んだ。
グレン・ハーヴェイ脱落
リヒトSIDE
「はぁ・・・とりあえずこの部屋に入ろう・・・」
リヒトはどこか隠れれる場所がないか探して走り、演習場の控え室にたどり着いた。
「今の時間ならみんな探しに出ているし、誰もいないはず……」
リヒトはゆっくりと中を警戒しながら入っていく。予想通り誰もいなかった。
「残り五分か。ここに隠れていれば余裕だろ」
壁に掛けてあった時計を見ながら呟く。念のため、着替え用の仕切りがある場所の隅っこに身を潜めた。
あと少しでこのゲームも終わる。帰ってゆっくりできると思っていた。だけど現実はそう甘くはなく、ガチャリと入口のドアの開く音がした。
「はぁ、あと少しでアテムくんを捕まえられると思ったのに・・・」
「アテムくん狙いなの?私はグレンくんかなぁ・・・」
「やっぱり私はリヒト王子かなぁ・・・」
「私はルクスくん!!」
聞いたことのある声がする。確か『騎士団(シヴァレス)』のメンバーの声だ。
リヒトはこっそりと向こう側を窺う。
見覚えのある『騎士団(シヴァレス)』のメンバーと、見覚えのない、おそらくは最近戻ってきたらしい三年生のメンバー。合わせて五、六人といったところだった。
「嘘だろ・・・」
ここで見つかったら逃げ場はない。リヒトは完全に気配を消し、こちらに来ないよう祈った。
すると、しゅるっと衣擦れの音が聞こえてくる。どうやら着替え初めてしまったようだ。
「まじかよ・・・最悪じゃねえか・・・」
このまま着替え終わって出ていってもらえればいいのだが―――。
「あ、クルルシファーさん。こんにちは」
一人の女生徒の明るい声が聞こえた。
(クルルシファーさんっ!? よりによってあの人か・・・!!)
彼女は何かヤバイ・・・リヒトの直感がそう告げていた。
「そういえば、クルルシファーさん。装甲機竜の指南書どこにあるか知りませんか? この部屋のどこかにあったはずなんですけど・・・」
「ああ……。本は日に当たるところに置いとくと痛んでしまうから、確かこっちに置いておいたはず―――」
という声と共に足音が近づいてくる。
(終わった・・・これで俺は覗き魔王子か・・・義母さん、姉さん、ごめんなさい・・・)
もう打つ手は無い・・・リヒトが諦めると
「えっ・・・」
仕切りのこっち側にきてしまった少女と目が合う。
制服を脱いで、白い下着姿になっているクルルシファーと。その姿はまるで天女のように美しかった。
「・・・ッ!?」
クルルシファーは意表を突かれたような顔でリヒトを見る。
いつも冷静な顔でいる彼女だが、さすがに頬を少し染めているようだった。
「クルルシファーさん? どうかしたの?」
その様子を見て疑問に思ったのか、仕切りの向こうから生徒の声がする。
(さらば。俺の学園生活・・・さらば。我が人生・・・)
リヒトがそう諦めていると、
「……。なんでもないわ、指南書はちゃんと見つけたから」
クルルシファーは何事もなかったように、いつもの涼やかな表情に戻っていた。そして指南書を手に取り、向こう側へと歩いていった。
(助かった…のか…?)
リヒトは状況を理解出来なかった。
「私、やっぱり今日はやめとくわ。《ファフニール》の整備が終わってなかったのを思いだしたから」
「そう? わかった。じゃあ私たちは行くからね」
そういうやりとりが終わると控え室から出ていく音が聞こえ、気配が消える。
「・・・もう大丈夫よ」
声が聞こえリヒトが出てくると、
「あなたは色々と気をつけたほうがいいわね」
クルルシファーが制服を着直して、ソファーに座っていた。
「悪いクルルシファー、助かった。」
「もう隠れる必要はないわよ、さっきイベント終了の鐘がなってたみたいだから・・・」
「えっ? そうなのか。逃げきれたか……」
「依頼書はちゃんと持ってる? 出してみなさい」
「それならちゃんとここに……」
リヒトは安心してポケットから依頼書を取り出した。
「ちょっと見せて貰えるかしら?」
クルルシファーが手を出してきたので、
「あいよ、はいコレ」
と依頼書を渡した。
「あなたもまだまだ甘いわね」
「えっ―――?」
リヒトがそう呟いた瞬間、遠くの方で鐘の鳴る音が聞こえてくる。終了を告げる鐘の音だ。
「えっ!? 終わったはずじゃ……」
依頼書を持っているクルルシファーのほうを見る。
「だから言ったでしょ? まだまだ甘いって」
「しまったぁーーーーー!!」
リヒトは床に膝をつく。完全に騙されたのだった。
「これから一週間よろしくね、リヒト君?」
「はぁ・・・まぁルールはルールだ、潔くうけるよ」
こうなっては仕方ない、そもそも引っかかった自分が悪かったのだ。そう言い聞かせて返事を返した。
「素直でいいわね。それじゃあ早速依頼なんだけれど――――――」
そう言って立ち上がると、リヒトのほうに近づいてきて胸元に手を置いてきた。
「これから一週間、私の恋人になって欲しいの」
「はい?」
今回は少し長くなりました!!
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