光に集う竜   作:クロバット一世

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少し時間が出来たので投稿です


12話 恋人役

『争奪戦』の騒動が終わったその日の晩、リヒトは義母のラフィ・アティスマータに1人呼び出されていた。

 

「義母さん…これって」

 

「ええ、ベルベットが持っていた笛よ」

 

リヒトの目の前には以前旧帝国の残党と襲撃を仕掛けてきたベルベットが所持していた笛があった。ベルベットはこの笛を使い幻神獣(アビス)を操っていたのが確認されていた。

 

「幻神獣を操る力を持つ笛……もしかしたらこれは遺跡(ルイン)の最深部を開く『鍵』ではないかという仮説が上がっているの……それで……もうじき遺跡調査が行われるでしょ?だから……」

 

「俺にこの笛が『鍵』かどうかを探ってきてほしいって訳か」

 

「ええ……リーシャにも伝えてあるわ」

 

幻神獣を操る道具、それがどれだけ恐ろしいかは考えるまでもない、確かに調査をする必要は大いにある。

 

「分かった。任せて義母さん」

 

「ありがとうリヒト」

 

リヒトの返答にラフィは安心したように微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

「それで、今回の依頼について詳しく説明しようと思うの」

 

授業が終了し、昼食の時間になっていた。

リヒトとクルルシファーは現在食堂で相席しており、クルルシファーは今回の1週間の恋人という依頼についての説明をした。

 

クルルシファーが留学に来た理由の一つに新王国の貴族や重役と婚約を結ぶ、もしくは結婚する。つまり政略結婚という目的があるらしい。そして婚約の進捗を確認するため実家から従者が送られてくる。要はその従者を誤魔化すための『恋人』だそうだ。個人的な目的を果たすためらしいがそこは教えてくれなかった。

 

「政略結婚か……あまり良いもんじゃないな……」

 

「あら、新王国の王子様らしく無いわね。貴族の婚約なんて9割はそんなものでしょ?」

 

「まぁ……そうなんだけどね……」

 

確かにクルルシファーの言う通りである。しかし、自分はどうせ結婚するなら、心から愛することが出来る人と相思相愛になりたいものである。

 

「でもさ……俺って恋愛なんてしたこともないし演技なんて……やっぱり他のそういったことに詳しい人のほうが……」

 

隣国に留学していた時もほとんど修行に明け暮れていた自分には難しいと判断し断ろうとした途端、突然クルルシファーはリヒトの耳元に顔を近づけた。そうすると、角度によってまるで口づけしているように見え、あたりから驚愕の声があがった。

 

「もし断ったら……覗きの件をみんなに公表するけど?」

 

「ダイジョウブデス、ゼンリョクデヤラセテモライマス」

 

リヒトは悟った……逃げ場など存在しないのだと。

 

 

 

「グヌヌ……」

 

「お……落ち着いてくださいリーシャ様……」

 

「ヤハハ、アテが外れたなお姫様、どーせ依頼で王子様をこき使おうとでも考えてたんだろうけど、他にとられたな」

 

そんな2人を見てリーシャは不機嫌そうな顔で2人を見つめ、ルクスがそれを宥めてアテムは面白いものを見るように2人を見ていた。ちなみに今回の『争奪戦』で捕まらなかったのはアテムだけであり、ルクスはリーシャに、グレンはフィルフィに捕まっていた。ルクスは工房の手伝いを、グレンはフィルフィとケーキを食べる依頼を受けることになっている。

 

「全く……あいつにはこの国の王子としての自覚をだな……」

 

リーシャは溜息を吐きながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

クルルシファ―との『恋人』依頼も三日目に突入した。

 

『恋人』らしく振る舞うため学園生活はなるべく一緒に過ごしている。主に食事をしたり演習で組んだりなどだが、それなりに『恋人』としての雰囲気は出せていると思う。それから最近は宿題を教えてもらったりもしており、大変感謝している。

そして、今日は街へ2人でデートに行くことになっていた。

 

「……よしっ」

 

リヒトは私服を身に包み待ち合わせの場所で待っていた。

しばらくするとクルルシファーが私服で歩いてくる。

 

すらりとした細身の身体に、長く綺麗な青色の髪をなびかせて歩くその姿は誰もが見とれることだろう。

 

「ごめんなさい、待たせたかしら?」

 

「あ……いや、俺も今来たばかりだから……」

 

あまりの美しさにリヒトは思わず固まってしまった。

 

「ふふ、ありがと。じゃあそろそろ行きましょう」

 

そういってクルルシファーが腕を絡ませてくる。学園で一緒にいる時はだいたいこうしてくるので、慣れてきてはいるのだがやはり照れてしまう。

リヒトは頬を赤く染めながらクルルシファーと歩き出した。

 

 

 

デートを楽しみ夕方になった頃、2人は食事をするためにレストランへと足を運んだ。

 

「ええと……レストランってこっちで良いんだっけ?」

 

「さぁ?私はあなたの顔を見ていたから」

 

「あう…………//////」

 

突然の言葉にリヒトは思わず赤面した。

クルルシファーは微笑みリヒトの手を引っ張った、

 

時間のせいもあるのだろう、人気のなくなった通りを二人は歩いて行く。

 

薄暗い道に入った瞬間。長年の武者修行で培われた危機察知能力が何かを感じとり、リヒトがいきなり動いた。

 

「クルルシファー、危ない!」

 

リヒトはクルルシファーを抱き寄せた。すると、クルルシファーが先ほどまでいた場所を竜尾網線が通っていく。

 

「ちっ、避けやがったか」

 

建物の影から剣を構えた男が2人現れる。さらには空中から《ドレイク》を纏った男が数名現れた。顔を布で隠しているところを見る限り、賊の類だろう。おそらく目的は伯爵令嬢であるクルルシファーと新王国王子であるリヒトの誘拐

 

「ったく……あぶねぇなぁ……」

 

ノエルはクルルシファーを抱きかかえながら距離を取る。するとさらに数機の《ドレイク》が姿を現した。《ドレイク》の能力である『迷彩』の効果である。

 

「おっと、機竜は呼ぶなよ? まあ、呼んだところでどうにもならんがな」

 

「おとなしく機攻殻剣(ソードデバイス)を渡しな」

 

2人の男たちは勝ち誇ったように笑みを浮かべた。

 

「リヒト君。少しでいいから隙を作れないかしら?召喚の時間が欲しいの」

 

周りに聞こえないように、クルルシファーが小声で話してくる。

 

「何をしている!!さっさと言う通りに……」

 

賊の1人がこっちに機攻殼剣を構えた瞬間、リヒトはとっさに自身の《ゼルレウス》の機攻殼剣で男の剣を払った。

 

「んなっ……こいつ……」

 

もう1人の男は慌てて斬りかかるがリヒトはそのまま蹴りを繰り出し鳩尾に叩きつけた。

 

「貴様っ……やっちまえ!!」

 

《ドレイク》を纏った男たちは声を荒げながら機竜息砲を構えた。

 

「―――転生せよ、財貨に囚われし災いの巨竜。遍く欲望の対価となれ、《ファフニール》」

 

詠唱符(パスコード)を唱えると、少女の背後に白銀の機竜が現れる。

 

これがクルルシファーの神装機竜《ファフニール》

 

「舐めるな貴様ァ!!」

 

男たちはあたりに散らばりクルルシファーを取り囲もうとした。

 

「《財禍の叡智(ワイズ・ブラッド)》」

 

しかし、クルルシファーは特殊武装〈凍息投射(フリージング・カノン)〉で全ての《ドレイク》を撃ち落とした。

 

《ファフニール》の神装《財禍の叡智》、その能力は一定距離内の未来を数秒先まで予知する能力である。

 

戦闘の音を聞きつけ、近くまで来ていた警備兵たちに賊を引き渡した2人が再びレストランの方へと向かおうとすると

 

「さすがの腕前でした、お嬢様」

 

二人の目の前から細身の女性が現れた。

 

「あら、もう来ていたのね」

 

「ご無沙汰しております。お嬢様」

 

「クルルシファー。もしかしてこの人が?」

 

「ええ、そうよ。彼女はアルテリーゼ・メイクレア、エインフォルク家の執事よ」

 

「じゃあこの人が前に言ってた婚約の進捗を確認に来るっていう従者か、ええと……俺は」

 

「存じております。アティスマータ新王国第2王子、リヒト・アティスマータ様。本来なら相応の場所での挨拶が礼儀であるところをこのような場所で申し訳ありません」

 

「いや、緊急の事態だったし大丈夫だ」

 

「ありがとうございます。それで、これからお嬢様とお話があるのですが……」

「ああ、俺が同行することになってるけどそれで良いなら……」

 

「…わかりました。そのように……」

 

アルテリーゼと呼ばれた女性はリヒトの言葉に頷くと、2人を案内した。

 

歩くこと数十分。

学園の敷地からさほど離れていないお店に入る。

 

「なぁ、ここって酒場だろ? いいのか?」

 

入ったお店はどう見ても酒場だった。士官学園の校則で酒場の出入りは禁止こそされてはいないが、推奨されてはいない。

 

「ここは私が責任を持ちますのでご安心ください」

 

アルテリーゼがその疑問に答える。

 

「まず座りましょう。門限まであまり時間もないでしょうし」

 

「そうだな、腹も減ったし」

 

クルルシファーに促され、三人はそれぞれ席に着く。

四人掛けの席にリヒトとクルルシファーが並んで座り、その対面にアルテリーゼが座る形だ。

 

「ご壮健で何よりですお嬢さま。ですが、もう少し気をつけて下さい。あなたの体はエインフォルク家のものなのですから」

先ほどの賊のことを言っているのだろう。

 

「なら賊に狙われるのも仕方ないことだと思うのだけど?」

アルテリーゼの言葉に皮肉な口調でクルルシファーが返す。

 

「さっきも言ったけど、時間があまりないの。手短に頼むわ。どうせあなたの用件はわかりきってるし」

 

「お嬢様がそう不真面目だから、私がこうして来ることになったんですよ」

 

「なら心配いらないわ。私はリヒト君と恋人同士だし」

 

「……え?」

 

クルルシファーの言葉にアルテリーゼはポカンとした。

 

「お……お嬢様……それはどういう……」

 

「言葉の通りよ、神装機竜の使い手であり何より新王国王子、何か問題でもあるかしら?」

 

「そうでしたか……。それは困りましたね……」

 

クルルシファーの言葉を聞いた後、もう一度リヒトを見て深呼吸をすると呟く。

 

「どうしてかしら、彼のどこに不満があるの?」

 

「いえ、そうではなくてですね……」

 

「ほう、これはこれは。私も見くびられたものだな?」

 

アルテリーゼが返答に困っていると、店の入り口の方から突然男の声が発せられた。リヒトたちはそちらに視線を向ける。

 

「バルゼリット卿!? なぜここに? 会食の予定は明日のはず―――」

 

「ああ、忘れたわけではないぞ? ただ私は少しせっかちなところがあってだな、一足先に我が未来の妻の顔を見ておきたくなったのさ」

 

男はそう言いながら、アルテリーゼの前まで歩いて来た。

 

「ほう、評判通りの美しさだな。これでも俺は王都の社交パーティに何度か顔を出したことがあるのだがな、これほどの華は見たことがないぞ」

 

バルゼリットと呼ばれた男は舐めるようにクルルシファーの頭からつま先まで視線を這わせ、満足そうに頷く。

 

「あまりじろじろ見ないでもらいたいのだけど」

 

男の視線にクルルシファーが顔をしかめる。

 

「これは失礼、我が未来の妻よ」

 

男は小さく笑みを浮かべながら謝罪を述べた。

 

「これはこれはリヒト王子殿、まさか貴方がここにいるとは思わなかったぞ」

 

「貴方こそ久しぶりですね、四大貴族クロイツァー家嫡男、バルゼリット・クロイツァー卿」

 

「―――ッ!?」

 

リヒトが男の名を言った瞬間、酒場の雰囲気が変わった。

 

「四大貴族だと……っ!?」

 

「どうしてこんなところに―――」

 

酒場で飲んでいた客たちからそんな声が聞こえてくる。酒場に緊張が走った。

 

「四大貴族の嫡男? アルテリーゼ、あなたまさか―――」

 

「ええ。誠に勝手ながら私の方で明日、会食の予定を立てさせていただきました。その場でお嬢様を紹介し、婚約を結んでいただきたいと思いまして」

 

「はぁ、どうしてその話が私の耳に入っていないのかしら?」

 

クルルシファーが呆れたようにため息をつく。

 

「お嬢様の耳に入ってしまうと何かと理由をつけて逃げてしまいますから」

 

「そうかしら? でも残念だったわね、今の私には『恋人』がいるのよ? ねぇ、リヒト君?」

 

「あ…そ、そうだ。」

 

急に話を振られ、リヒトは慌てて答える。

 

「なるほど、しかしリヒト王子…このエインフォルク家との今回の縁談は貴公がこの国に帰還するよりも前から話を進めていた縁談でありましてねぇ…それを横からかすめるのは王族としていかがなものか?」

 

バルゼリットはリヒトを見下すような目で見ながらそう言った。

アティスマータ新王国では現在政治は四大貴族の力が強いため王家の力はあまり高くないのである。

そのため、リヒトの義母のラフィも四大貴族に強引な姿勢を見せられないのだ。

 

「それに、いくら神装機竜の使い手といっても俺と貴公では悪いが勝負にならない。そうは思わないか?未来の我が妻よ」

 

「そうかしらね」

 

「……なに?」

 

クルルシファーのつぶやきにバルゼリットは顔をしかめた。

 

「悪いけど、『未来の我が妻』って言うのはやめてもらえるかしら?私と貴方はまだ他人なのよ」

 

キッと睨みつけるクルルシファーにバルゼリットは笑みを浮かべるとリヒトの方を見た。

 

「では、俺と王子殿で機竜の決闘をするのはどうだ?」

 

「なっ!?バルゼリット卿!?」

 

バルゼリットの提案にアルテリーゼは驚愕した。

 

「このまま強引に話を進めても彼女は納得しないだろう…ならわかりやすく決闘で決めれば話が早い。どうだ?リヒト・アティスマータ殿?」

 

「…分かった。そう言う事なら相手になってやる」

 

「どうせなら…わかりやすく2対2でまとめて決着をつけるのはどう?そっちのペアにはアルテリーゼが入ればいいわけ」

 

「決まりだな。では3日後、決闘の場所はこちらで用意する。逃げないことを祈らせてもらおう、リヒト王子殿?」

 

そう言ってバルゼリットは酒場の出口に向かいだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ごめんなさいね、面倒ごとに巻き込んでしまって」

 

帰り道、突然クルルシファーがリヒトにそう呟いた。

 

「なんのこと?」

 

「本当の恋人じゃないのに私のために決闘をする羽目になって良い迷惑でしょ?」

 

「なんだそのことか?別に良いよ。それに……俺、あいつ嫌いなんだ」

 

あの男は旧帝国の思想を今も尚持っており自分もいい感情を抱いてなかった。

 

「……貴方に頼んで……本当に良かったかもね♪貴方のこと……嫌いじゃないわ」

 

「あぅ……//////」

 

突然の言葉に再び顔が熱くなったリヒトは顔を逸らしながら早歩きで学園に戻った。




久々に書いた割に長くなりました。

また時間が空いた時に書けたら書くのでよろしく!!
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