翌日
あの覗き騒ぎから翌日の朝。
ルクスとグレンは地下室の鉄格子の中にいた。
ベットとトイレ一つの簡素な独房。手枷や足枷こそはつけられていないものも、所持品は全て没収されていた。
「ん…ふぁ〜、もう朝か?石の床はやっぱり寝づらいな…」
「ふぁ〜、グレンおはよう…」
「起きたかルクス、しっかしこれからどうなるのかな…このまま牢獄行きってなったら笑い話にもならネェぞ…」
「…おっかない事言わないでよ…」
グレンの言葉にルクスは冷や汗をかきながら言い返していると…独房の扉の方から足音が聞こえてくる。扉を開けるのは昨日の大浴場の時の金髪の少女と少年だった。
「お目覚めかな?変質者二人…いや、この場合元王子様と元名門貴族様と言うべきかな?」
少女は一部を黒のリボンでくくった金髪と、剣先のように鋭い真紅の瞳。白を基調とした制服に身を包み、どこか影のある笑みを見せてくる。
少年の方は少女と同じ色の金髪と真紅の瞳だが背はスラリと高く痩せているが確かにしっかりとした体つきであった。
「…まいったな、俺たちの事も調べ済みってわけか」
二人ははぁ〜、とため息をつく。金髪の少女はこちらに顔を向けると剣先のように鋭い瞳が更に鋭くなり、影のある笑みも更に深くなる。
「…昨日はどうも、変質者さん。良い夜を過ごせたよ」
「あっ、いや…あれは事故であって…故意にしたわけじゃ…」
「ルクス…頼むからこれ以上煽らないでくれ…」
金髪の少女は怒気を更に強くし、ルクスは冷や汗が背筋を伝うのを感じる。その横でグレンは顔に手を当てながらため息をついた。
「ふっ。まぁいい。お前らに言いたいことは死ぬほどあるけど、その前に学園長から話があるそうだ。ついてこい」
金髪の少女はフッと笑うと、牢の鍵を開ける。
「……あの、学園長って?」
ルクスが疑問を問いかけると、金髪の少女は、ほうと顔を向ける。
「純朴そうな顔をして、口も立つようだな。知らずに忍び込んだとでも言うつもりか?この学園の女子寮に」
「そのまさかと言っても信じてはもらえないんだろ?」
「…女子寮…そうだった…てことは、ここは…」
「そう、俺たちが来る事になっていた王立士官学園だ。てゆーかお前本当に知らなかったのか…」
ルクスの反応にグレンはため息をついた。
「リーズシャルテ・アティスマータ」
「……?」
「…え?」
目の前の金髪の少女から言葉と笑みが返ってくる。
「私の名前だよ。新王国第一王女、通称、『朱の戦姫』。お前の帝国を五年前に滅ぼした、新王国の姫だ。隣のこいつは私の弟リヒト・アティスマータ通称、『白き流星』。よろしくな、王子様と元名門貴族様?」
「ええぇぇぇええっ!?」
「……終わった…よりによって王女様だなんて…」
ルクスは叫び声に近い高い声をあげ、グレンは顔に手を当てグッタリとした。
そして今、彼らは、アカデミーの学園長、レリィ・アイングラム学園長の前に立っている。
…何故かアテムも同行していた。
「…それで、今回のは不幸な事故、と、言うことで良いのよね?ルクス・アーカディアくん?」
「…はい、レリィ・アイングラム学園長。」
「…なのでどうか寛大な御処置をお願いします」
レリィ学園長は大きな椅子に座り、机に両肘をつけ、手に顔を乗せ、ルクスとグレンを見やる。
「ヤーハッハッハッ!猫を追いかけて屋根が落ちて風呂場に落ちて今に至るってわけか、こりゃ傑作だな!!ヤーハッハッハ!!」
アテムは事の顛末を聞くと大笑いした。
「なんていうか…少し同情するなコレ…」
リヒトは少しルクスたちに同情していた。
「装甲機竜が遺跡から発見されて十余年。私達女性は、旧帝国が敷いてきた男尊女卑の風潮と制度により、その使用は殆ど禁じられてきたわ。でも―五年前のクーデターで新王国が設立したのを境に、その認識は一変。操縦に使う運動適性はともかく、機体制御自体の相性適性は女の方が遥かに上というデータが報告され、以後、専門の育成機関を設立し、他国に負けない機竜使いの士官を揃えるべく、その育成に力を注いでいるというわけです」
「で、でも、何で僕なんかが呼ばれたんですか?」
ルクスは困惑した表情でレリィに問いかける。ルクスは『咎人』としての仕事でここに来るよう依頼されたのだ。
「あらあら。かの『無敗の最弱』ともあろうものが、随分と謙遜するのね」
王都のコロシアムで月に一度行われている、装甲機竜を用いた公式模擬戦。
戦績次第では賞金も出るその場で、最多の出場回数を誇り、その戦闘スタイルからつけられた異名で、ルクスは呼ばれていた。
「ほう、まさかあんたがあの『無敗の最弱』とはな…是非戦ってみたいものだ」
アテムはルクスを見ながら獲物を見つけた肉食獣のような目で笑いながら睨んだ。
「貴方たちもこの学園に入学する事になったからよ」
「え?えぇぇぇぇぇ!?」
「本当に何にも知らなかったのかよ…」
学園長の言葉にルクスは驚愕し、グレンはため息をついた。
「ちょっと待て!!」
しかし、それにリーシャは待ったをかけた。
「学園長!私はやはり納得できないな!!!
わたしたちにとって、こいつらは覗き魔、痴漢、下着ドロの変態で犯罪者だ!!そんな「男たち」を学園に通わせるつもりか!!と言うかまず軍に突き出す方が先だろ!!」
「姉さん落ち着いて…」
「ちょっと待て!!俺は下着ドロと言われる筋合いは無い!!それはルクスだけにしてもらおうか!!」
「だから僕も誤解なんだって!!」
リーシャの言葉にグレンとルクスは激しく否定した。
「…う~んこのまま終わる気配が無そうね…ルクス君たちの事はよくわかっているつもりなんだけど…実際、今回の事故が偶然起きたなんて断言できないのよね~」
「そこは断言してくださいよ!?」
やや涙目で、ルクスは訴える。
「でも実際、故意かどうかと言われると、誰にも証明できないのよね。なら、本件の被害者でもあり、二年の首席でもあるリーズシャルテさん。彼らの処分は、貴方の裁量に任せてもよろしいかしら?」
「ええぇぇぇぇ!?」
「フッ…」
それに対しルクスは驚いたがリーシャは笑みを浮かべるとルクスとグレンを見つめ、
「なら決闘だな」
「…はっ?」
「…えっ?」
ルクスとグレンは二人で情けない声を漏らした後、リーズシャルテは帯剣の柄に触れ、同時にゆっくりと、学園長室の扉の前に歩いていく。
「お前たち二人と私とリヒトと二人でのタッグマッチで決闘するという事だ。貴様らが私たちに勝てれば無罪放免で私たちもお前たちの編入を認め、王子様が働くことを許してやる。だが、負ければ二人揃って犯罪者として牢獄行きだ。勝負は装甲機竜を使った、短時間タッグマッチの模擬戦。それでいいな。野次馬たち!」
扉の向こうには扉越しに話を聞いていた女子生徒がうじゃうじゃいた。
そして「キャー」という歓声が響き渡る。
そしてリーシャは女子生徒たちに叫ぶ。
「学園の皆に伝えろ!!!新王国の姫と王子が旧帝国の王子と貴族をやっつける見せ物だとな!!!」
そう叫んだ後、リーシャは女子生徒たちとともに学長室を後にした。
リヒトはルクスたちに近づくと、
「…なんつーか、面倒な事になっちまったけど…ゴメンな」
ルクスたちに素直な謝罪をした。
「何で、こんなことに…」
「ハァ…こうなったら仕方がねぇ…なるようにやるしかねぇって」
ルクスは肩を落とし、グレンもため息を吐いた。
「アテムくん、あなたは戦わなくても良いの?あなたなら真っ先に喧嘩売りそうなんだけど…」
学園長の言葉に対しアテムは
「何言ってんだ学園長、これはあの姫様が売ってあいつらが買った喧嘩だ。俺が出る幕じゃねーよ」
そう言い返していた。それがアテムの美学のようだ。
「それでは新王国第一王女リーズシャルテ&新王国第一王子リヒト対、旧帝国第七王子ルクス&グレンの機竜対抗試合を執り行う!」
審判役の教官の声と同時に、舞台が歓声と熱気に包まれる。
学園敷地内にある、装甲機竜の演習場。周囲を円状に石壁で囲い、中には土を敷いた広いリングがある。その中央で、リーシャとリヒト、ルクスとグレンが対峙していた。
『両者、接続準備!!!』
審判の声を聞いたリーシャは赤いを腰から機巧殻剣を引き抜き、機竜を呼び出す詠唱を開始する。
「目覚めろ、開闢の祖。
一個にて軍を成す神々の王竜よ。《ティアマト》!!!」
詠唱を終えたと同時にリーシャは眩い光に包まれ、赤い神装機竜、《ティアマト》を身に纏い、姿を現した。
次にリヒトも自身の機巧殼剣を抜き、詠唱を唱えた。
「招来せよ、願いと災いを司る光の竜。
天界より悪を裁け《ゼルレウス》!!!」
そして、リヒトは眩い光に包まれ、純白の神装機竜《ゼルレウス》を身に纏い、姿を現した。
その機竜は白銀の装甲に銀色の剣を持ち、そして背中には竜の尾を思わせる砲台が取り付けてあった。
『ルクス選手、グレン選手、接続の準備を!』
リーシャとリヒトの接続を確認し、二人に接続を促す。
先に動いたのはグレンだった。グレンは自身の機巧殼剣を抜き、詠唱を唱える。
「進撃せよ、大地に覇を成す災厄の竜。
炎を喰らいて全てを屠れ《アカムトルム》!!!」
すると、グレンの体に黒と赤の模様の大型の神装機竜《アカムトルム》を纏っていた。その機竜の左手には巨大な二本の刃がついた大型のクローであった。
そして最後にルクスも自身の機巧殼剣を抜き、詠唱を唱えた。
「来たれ、力の象徴たる紋章の翼竜。
我が剣に従い飛翔せよ、《ワイバーン》!!!」
詠唱を終えたルクスも光に包まれ、青い装甲機竜、ワイバーンを身に纏った。
両者の接続を確認した審判は、
『両者、戦闘準備!!、模擬戦開始!!!』
審判の声と同時に試合開始の鐘がアリーナに鳴り響いた。
ゼルレウスとアカムトルムを出しました。
果たして決闘の行方は…今後にご期待ください。
感想待ってます