疲れたときに見たくない艦これ   作:chy

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三話   二日目午後

 

 

 弓道場か。案内してくれるっていうことは内装の使い方とか教えてくれるのだろう。でも彼女らが弓を使うところはあまり想像できないなぁ。

 ふと服が引っ張られるのを感じる。

 

 「ん?……あ」

 

 大鳳に見透かされそうになったことですっかり夕立のことを忘れていた。いや、アレの後にまともに顔が見られなくて、考え事をして意識の外に追い出したのが正しいか。

 

 「ふふふ…」

 

 なんだその顔は。傍に立つ夕立は顔を赤らめながら妖しく目を細めている。笑みを浮かべたその唇をなぞっている。

 

 「…早く行こう」

 「あっ、ちょっと置いてかないでほしいっぽい~!」

 

 

 

 

 早足で弓道場に行く。玄関の前に三人はたむろっていた。少し待たせすぎたかな。

 

 「あっ提督ぅ、ちょっと遅かったんじゃない?」

 「これでも早く終わらせたっぽい」

 「ちょっと仕事に手間取ってさ。それで?ここを案内してくれるのか?」

 

 確かに思ってたのよりも大きめで、武道には縁のない私には勝手がわからないところだ。

 

 「うん、そのつもりだったんだけどぉ…」

 

 なんだか白露が歯切れが悪い。今日は閉館しているのだろうか?

 

 「ちょっと間が悪かったわねぇ…」

 「悪いけどここは後回しにしようと思うんだ」

 「?」

 

 ほかのみんなもここを避けようとしているようだ。

 

 「全然構わないよ。じゃあ…」

 「あら提督、ここに何か用?」

 

 入口のほうから声がかけられる。そちらのほうを見ると弓を持った女性が、…空母?この人は全体挨拶の時に見たかの一航戦という…どちらがどちらの名前かはわからないが。

 しかも村雨たちの反応を見るに、きっと私はあまり会うべきではないのだろう。

 

 「ちょっと、散歩がてらに見学させてもらおうとね」

 「そう…でも今日はお引き取り願えるかしら。今は赤城さんと訓練しているので」

 「そうか、また空いているときにするよ」

 

 本音では少しぐらいはと頼みたいが、ぶつかるのもいやなのでひく。

 

 「ちょっと、いいかしら」

 「なんだ?」

 「見学とはいかなくとも少しぐらいなら時間をさけるわ」

 

 見た目よりも話が通じる人で助かった。気が変わらないうちにお邪魔させてもらおう。

 

 「ホントか!じゃあお邪魔させてもらうよ。じゃあ皆…」

 「待ちなさい。少しといったでしょう」

 「わかってる。手早くするよ」

 「そうじゃないわ。私はあなたとの時間を少しとるといったのよ」

 「私とのか?」

 

 予期していない言葉に少したじろぐ。

 

 「何度も言わせないで。早く入りなさい」

 

 その言葉に従い、白露たちを待たせてすごすごと中に入る。一般的な弓道場は事務室や弓張場などがあれば十分だろう。が、この施設は弓道場と呼ばれつつも、実際には三階まである。トレーニング施設も兼ねており、空母以外のトレーニングを好む者も多く使っているらしい。さっき会った大鳳もここでトレーニングをしていたのだろう。

 ひとまず靴を下駄箱に入れ、加賀の後ろをついていく。…よく考える前に付いていってしまっているが、もしかしてリンチにかけられたりはしないか心配だ。

 

 「加賀さん、遅かったですね」

 「ごめんなさい、赤城さん、少し立ち話をしてたの」

 

 流石は一航戦。二人鍛錬を欠かしていないようだ。

 

 「先におやつ食べ始めちゃいましたよ。ほら、はやくどうぞ」

 

 流石…の一航戦ではなかった。おやつというには莫大な量の食べ物がテーブルの上に積み上げられている。二人で食う量じゃないので、ほかの人もくるのだろうか。

 

 「あれ、提督じゃないですか。こんなところにいらっしゃるとは…」

 

 気づくの遅くない?ひとまず無視されなくてよかった。

 

 「こんにちは、ここでお茶会でも開くのか?」

 「そんなことないですよ、ただの加賀さんとおやつ食べるだけですもの」

 「二人で?」

 「ええ、そうですよ。分けてほしいならだめです。ご自分で用意してください」

 「そんなつもりじゃない。純粋に思っただけだ」

 

 この量を二人で食べるのか…。大食いっていうレベルじゃない。

 

 

 

 「ところで」

 「?」

 

 二人が菓子を食い漁っているのをただ見るために来たのではない。話がしたくて連れてきたはずだし、ただの世間話なら駆逐艦の娘たちも連れてきてもよかったのだ。

 

 「加賀は私に話があるって言ってなかったか?」

 「ああ…」

 

 まさか忘れられていたのか。提督とおやつの優先度を比べた場合に、おやつが優先される…それが今の私の立場ということなのだろう。

 

 「まあ、加賀さんが呼んだのなら要件はあれですかね」

 「提督、単刀直入に言わせてもらうわね」

 

 表情が変わらず淡々と告げられる。

 

 「今すぐにほかの職場に移ってもらえないかしら」

 

 驚きはしない、予測していた範囲内の話だ。この話は話し合いの余地を持たせてくれるのか。昨日今日の経験ではとてもそうは思えない。

 

 「その話はもうおなかいっぱいだ。とりあえず理由を聞かせてくれるか」

 「もしかしてもうほかの子があなたに何かいったのかしら」

 

 私がリアクションを取らなかったことが意外だったようだ。

 

 「千歳さんと翔鶴さんがな。翔鶴さんのほうはヒステリックなほどだった」

 

  さん付けでイヤミったらしく言ってやった。

 

 「まったくあの子ったら…。まああの子の様子を見たならわかるでしょう」

 「わかるものか。一体何であそこまで反応するのかまず理由をきかせてくれ」

 「それぐらい言われたときに本人に聞いておきなさいよ」

 

 それができたら困っとらんわい。話す気があるなら早く教えてくれ。

 

 「ちなみにどれぐらいのことは聞いたのかしら」

 「まともに聞けたことなんてほとんどない…。でも、内容からして訳ありっていうか、人からなにか…なにか人間不信。それぐらい」

 

 聞くどころか話半分で終わったからなぁ。

 「そう…あの子がそうなった理由を話しても仕方がないけど、とにかく人を嫌っている艦娘が多いのよ」

 

 一応私もその口なのだけど、と加賀は付け加えた。

 

 「だから整備員さえいないのよ。普通の施設なら必要不可欠なのだけれど、それは人の武器しか整備しないでしょう?」

 

 確かに必要ないな。艦娘の使う装備は全て妖精さんか艦娘が整備担当する。人がいなければ人用の武器を整備する必要もない。万が一深海棲艦ではなく、人が襲ってきたとしてもここでは怖いこともない。

 

 「けれど、一人もいないってことは……武器の整備だけじゃないだろう?管理から清掃までも人員がいるはずだろ」

 「それくらいなら妖精さんと自分達でできるわ。世には工作艦とかいうのもいるもの」

 「しかしだからといってそんなわがままを中央は放っておけないだろう?中央は何も言わなかったのか?」

 

 これではほとんど人の手を離れて軍属とはいいがたいではないか。

 

 「何も問題はないわ。上と相談して作戦には絶対に参加するという条件を飲んだもの」

 「…まあ確かに過度な抑圧は謀反をうむが…」

 「そういうことよ」

 

 話をつけてあると言われれば、返せる言葉もない。

 

 

 

 

 話が終わり、しばし考えたのちに私の答えを聞かせる。

 

 「…しばらく置いていてくれないか」

 「……」

 「その間にもう一度評価をしてくれないか」

 

 せっかく大抜擢されて得たこのポストをあっさり捨てるのはもったいない。せめてやれるだけやってみようと思う。

 

 「…まあ、予定外にあなたが送り込まれたから男性に会ったことのない面々が浮足立っているし、その埋め合わせをする時間もいるでしょうね」

 「ありがとう」

 

 私のまいた種を危惧している部分もあって聞き入れてもらえた。

 

 「感謝するのは自由だけど期待しないことね」

 「君も人嫌いなのに話し合いをしてくれることもありがとうね」

 「大騒ぎされたら困るからしたまでよ」

 

 なんであれ話をつけることができて助かった。

 

 「まあ私からはこんなところよ、もう行ってもいいわ」

 「ああ、失礼したな」

 

 話はできるが上司になれたわけじゃないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外に出ると、白露たちが迎えてくれた。それほど長い間話し込んでいたわけでもないが、短かった訳でもないのでだれてしまっただろう。

 

 「待ったか?」

 「待ったよ!どうだった?」

 

 様子から察するに私が酷い目にあわされていないか心配だったらしい。

 

 「どうもないさ。古参の方とお話ができて良かったよ」

 

 そういうとホッとしたような顔になる。まああの人ってきつそうな事しそうな雰囲気あるもんな。

 

 「なんだよ、そんな気になることがあったのか」

 「いやー、とうとう提督連れてかれたって思って」

 「僕たちがついていけないから何かあったらって心配したよ」

 

 白露が軽いのに対し時雨はちゃんと心配してくれてうれしい。夕立なんかあっちの方で遊んでいる。

 

 「あくまでも同僚なんだから心配しすぎだ。ほら、俺を案内してくれるんだろ?ここは加賀に教えてもらったから。次にいくつもりのところはないのか?」

 

 ついていくときに自分が一番ビビってたであろうことは内緒だ。

 

 「提督さん、大淀さんにはもうあってるよね?」

 「初日に会ってるぞ」

 「そーねぇ、工廠には行った?明石さんにはかなりお世話になると思うし」

 

 明石って言えば工作艦か。顔と名前合わせておきたいな。

 

 「工廠は…まだだな。明石は昨日の集会の時に顔は見ているはずだけど」

 「じゃあ行きましょ、もう夕方よ?」

 

 仕事が終わったのが早いとはいえ、遅い昼飯のちに色々あったしもうそんな時間か。村雨の案にのって工廠に行くことにした。

 

 

 

 

 「工廠ってこっちだったよな?」

 「そっちでもいいけどこの路地を通ればもっと近いっぽい」

 「へー、これどこに出るんだ?他にも近道とかあるの?」

 

 こういう抜け道ってのはいつになってもワクワクする。 

 

 「いいけど口で言ってもわかりづらいからね、今度現地で言うよ、それよりも加賀さんとはどんな話をしたんだい?」

 

 時雨が弓道場でのことを聞いてくるが、あまり明るい話じゃないのでぼかして答える。

 

 「えーっとな、これからどうしていくのかとかそんな感じ」

 「ふーん、ほかには?」

 「特には」

 「ホントに?」

 「ホントだ」

 

 やたらと念を押してくるけど間違ってはいない。

 

 「もしかしてさ、僕たちに干渉しすぎないようにとか言れなかったかい?」

 「そんなことは言われてないよ」

 

 かなりイイ線いってる。きっとこの娘らもここにいる時間が長いから誰が何考えてそうかわかるんだな。

 

 「そう…なら全然いいんだ。これから提督のこともっと知りたいからね」

 

 

 

 

 

 

 雑談しているうちにに工廠の前まで来ていた。ただ工廠に提督が足を運ぶ機会は仕事をこなす上でほとんどないだろう。建造改修、解体等の作業は事務を通して行うからだ。

 それはつまりこの重要施設で働く者との接触する機会が少ないということだ。

 

(少なくとも印象を良くして帰りたいな…」

 「途中から声漏れてるわよ提督」

 

 これからをうまく過ごすためにはできるだけ仲良くしていかないとどうしようもない…。そんな思いがこぼしてしまう。

 

 

 「提督は印象を気にするんだね」

 「なんだって第一印象が大事だからな」

 「でもそれは昨日の内から気にしておくべきでなんじゃないかな」

 

 まあそうなんだけど。

 

 「私たちが改装したりするときにもここに来るんだよ」

 

 私たちが改装っていうのを聞くとそれとなく人との壁を感じる。

 

 「個人的には滅多に来ることがなさそうだなぁ」

 「そんなことないよ?家具とかの治してもらうときとかここに持ってきたりするしっていうか、この基地の設備新調したの明石さんらと妖精さんだからここに相談するしかないよ?」

 

 へえ、思ったよりも融通が利くところらしい。

 

 「明石さんいますかー?」

 

 工廠の重い門を開けて中に声をかけてみたが返事がない。今は留守なのかな。

 

 「明石さんのことだから奥の部屋でだれてるっぽい」

 

 工廠の奥、作業場の向こうに部屋がありそこに白露たちに案内される。

 中には昨日挨拶の時に見かけた顔、明石さんが机に突っ伏していた。

 

 

 「お邪魔しまーす、もしかして気分が悪いんですか」

 「ああ、提督。こりゃまたどうしてここに?」

 

 まずはここに来た理由を手早く話す。

 

 「そうですか、確かに駆逐の娘らはいい子たちですからねぇ」

 「それでここも尋ねたわけです。それで明石さんはいつもここで仕事しているのか?」

 「あー、まあそんなところです。今は仕事が回ってこないのですることがないですけど」

 「そっか、これからよろしくお願いします。ここでは家具とかも直せるとか」

 「まあそうですね、この鎮守府の一般機器を受け持つことも多いですね」

 

 工作艦の枠を超えた守備範囲が頼もしい。

 

 「さすがだなぁ、やはり機械に詳しいと色々できていいですね」

 「ん…そうでもないですよ」

 

 ふっと笑うその様子にきっとできる人なりに悩みがあったのだろう。

 

 「それはそうと提督、貴方はここが初めての着任だって聞きました」

 

 やっぱり不安なのかな。この環境と相まってどういう意図がおるのかか分からないけど。

 

 「そうですね。でもちゃんと教官に教え込まれましたから」

 「そうですか…。」

 「あっ、でも基本的なことは学んできたので心配しないでください」

 

 自分がへっぽこでないと言い訳のように言う。基本しか知らないから不安なんだろうに。

 

 「あの提督、貴方が久方ぶりの提督でその、お手柔らかにお願いします」

 「いえいえ、こちらこそお願いします」

 

 

 

 

 

 

 「ふぅ…」

 

 なんだかどっと疲れた気がする。特に何かしたわけでもないのだけど。明石さんは特に敵意はないような気がする。

 

 「ふーん、なんだか提督、態度が全然僕たちと違ってたね」

 「いや時雨、なんていうかなぁ駆逐の娘は小さいでしょ?」

 

 悪いけど君たちは同僚という感じがしないからなぁ。

 

 「別に時雨たちを軽んじているわけじゃないんだよ。仕事で人に会ったらあんな感じだって」

 「ふーん」

 

 子供のような容姿をしているのでつい同伴する先生のような気持になる。

 

 「へぇ~、じゃあホントに小さいか確かめてみる?」

 

 村雨が妖しく笑い胸元を強調する。出てる雰囲気はとてもじゃないが子供とは思えない。

 

 「そういうわけじゃなくてだな…」

 「ほらほら、村雨のいいところ、見てみたくなぁい?」

 「ほら、提督をからかい過ぎない。もう日が暮れて消えるし、食堂に食べに行きましょ?」

 

 そういって白露が助け舟を出してくれる。

 

 「そういえばお腹すいてきたっぽい?」 

 「さっきお昼食べたような気がするんだけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そろそろ食いにくかね」

 

 本当ならばあのまま一緒に白露型の娘らと食堂に食べに行っても良かったのだが、もしまた翔鶴などに詰め寄られたらと思うと時間をずらしたかった。

 

 今は九時前だ。大抵のやつは食べ終えているだろう。

 

 「すいません、誰かいますか?」

 

 厨房に声をかけると割烹着を着た女性が出てくる。鳳翔さんだ。

 

 「あら、提督さん今からですか?」

 「ええ。ちょっとやることがあってこんな時間になってしまいましたが」

 

 初めてここに着任して挨拶した後に顔を合わせた。私の立ち位置も理解してくれている。

 

 「初日からお仕事大変そうですね、それとも別件ですか?」

 「まあ仕事以外で色々あったんですよ」

 

 その日にあったことを鳳翔さんに話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「村雨はどう思う?あの人のこと」

 「いいわねぇ提督。かなり期待できるんじゃない?」

 

 今日のことで姉たちと話が膨らむ。やはり新しく来たあの人が話題になる。

 

 「ていうか提督は本当に軍属なのかな?あんな感じの人は今までみたことないよ」

 「だって時雨はちゃんとみたことのある人が全然いないっぽい」

 

 姉である時雨は人柄よりも唐突にここに着任したことのほうが気になるようだ。

 

 「む、じゃあ夕立はどう思うんだい?」

 「う~ん」

 

 正直あの提督さんはいろんな意味でかなりイケる、昼間のはちょっと我儘の度が過ぎちゃったと自分で思う。自分の盛り具合にひかれていないか今になって怖くなる。

 

 「素敵な提督さんだと思うっぽい。でも…」

 「でも?」

 

 きっとあの提督さんのこと欲しがる人がいっぱい出てくる気がする。まだあの体験をしたことは黙って優越感に浸っておきたい。

 

 「まだあって日も浅いしからゆっくり仲良くなればいいと思うっぽい」

 「おぉ…思ったより夕立がしっかりしてるわね」

 

 村雨ったら失礼なことをいう。もう少し違う言い方はしてほしい。

 

 「んぅー、村雨だって普段だらだらしてるっぽい」

 「まあまあ、じゃあみんな好きって事ね」

 「明日もまた会いにいっちゃう?いっそ秘書官になったらいいのかも!」

 

 白露の提案はとてもいいと思った。でもみんなで秘書官になったらきっと自分の好き勝手にはできなくなる。

 

 「そっそれはまだ早いっぽい!」

 「いやいやこういうのか早くやるのが一番なんだから。だいじょうぶ、あたしが言ってあげるから!」

 「そうじゃなくってっ…ほら提督さんと急に引っ付いちゃうと提督さんが注意されちゃうかも!」

 

 勢いづく白露を慌てて止める。一度決めたら躊躇わない姉なので早めに止めたい。

 

 「あー。まあ言われてみればそうかもだけど、見つかったら庇ってあげればいいでしょー」

 「でも」

 「そういえばさ」

 

 私と白露が熱くなっているところに時雨が声をかける。

 

 「夕立さ、今日お昼の後の提督と仕事ってなにしてだんだい?」

 「えっ…。どうしてそんなこと聞くの?」

 「いや?ただ聞いてみただけさ。聞かれて困る何かがあったのかい?」

 

 しまった。軽く流しておけばよかったか。変な反応したことで余計な詮索をされてしまった。

 

 「別に普通?特にいうことはないっぽい」

 「本当に?お仕事してただけ?」

 「もうっそうだって言ってるっぽい」

 「そう。でもさ」

 

 時雨が私の髪の匂いを嗅ぐ。もしかして…いやもうお風呂に入ったしいまさら怖がることなんて…

 

 

 「夕立の髪から提督の匂いがするよ?」

 「!!」

 

 やっぱり時雨は鼻が利くなぁ。誰にもばれないようにお風呂に入るまで遊んでいるふりして距離開けてたのに入ってもバレちゃうのか。

 

 「だって今日ずっといたから仕方ないっぽい」

 「そうじゃないよね?僕だって結構いたじゃない」

 「もう、匂いぐらい気にしないで欲しいっぽい」

 

 かぶりを振って話を打ち切って誤魔化す。こういう時、弁が立つのは時雨や村雨のほう。付き合っては主導権を取られる。

 

 「まあ時雨が言いたいことはわかるわ。どうしてそんな機嫌がいいのか、私だって聞きたいもの」

 

 村雨も次いで尋ねてくる。

 

 「雰囲気って言われたって元々あたしはこうっぽい。むしろどう変わったか教えてほしいっぽい」

 「だってやたら満足気でとびきり落ち着きがないもの。それにいつもはもっとかまってほしそうな雰囲気が出てるし?」

 

 自分では気づかなかったけど、姉妹から見ると普段道理には見えなかったようだ。

 

 「うぐっ、それはやったことがない執務仕事ができて浮かれてるだけっぽい…」

 「いやいや、流石にあたしでもわかるって。今までで一番!ってぐらいに浮かれてたし」

 

 ついには白露にも指摘されてしまう。こうなったらもうこの姉妹はしつこく聞き出してくるだろう。しまいには春雨や涼風たち別室の妹らも加勢してくるかも。

 

 「結構なわがまま言ったんじゃないの?」

 「ちょっとハグしてもらっただけ!怒られるようなことじゃないっぽい!」

 「へぇ」「ふーん」「そっかー」

 

 三人とも生返事で、腹立たしい。信じてくれてもいいじゃない。

 

 「なに?羨ましいならみんなもハグしてもらえばいいっぽい」

 「だめだよ。夕立」

 「もうわかったってば。もう提督さんに無茶言わないっぽい」

 

 自分でもやり過ぎたと思う部分に反省しないといけないとは思っている。

 

 「違うよ」

 「え?」

 「夕立嘘ついてるでしょ」

 「!」

 

 …時雨ってホントに嫌になるぐらいに人のこと見てるよね…。

 

 「だってハグで頭に特に強く匂いが付くなんておかしいじゃないか」

 「別にぃ~?匂いなんてどこででもつくっぽいし?」

 「じゃあ何をしたのか教えてはくれないのかい?」

 「秘密~。てゆうか時雨わかっているなら聞かなくてもいいっぽい。三人ともわかってって聞くなんて意地が悪いっぽい」

 

 どこまでわかっているのかわからないけど、知らないふりをして探られているというには腹が立った。

 そういってそっぽいむくと長女のフォローが入る。

 

 「そうじゃないって。なんだか気になっただけだから。ほら夕立、お菓子あるよ!三日月からもらったんだよ!」

 「…もらうっぽい」

 「でも夕立さ、一つだけ聞いておきたいんだけど。」

 「ひとつだけにならいいっぽい」

 

 質問攻めはもううんざり。あのことは秘密って決めてるんだから。あ、三日月のお菓子は生チョコだ。あの娘こんなの作るんだ。

 

 「提督とのキスどうだった?」

 

 つい包みを。開ける手が止まってしまう。はったり?いや、白露もそこまでわかってるなら最初からそう聞けばいいのに。

 

 「さあ?気になるならやってみればいいっぽい。あ、これおいしいっぽい。今度何かお返ししなきゃ」

 「どうなの?気になるからさー」

 「ふふっ。だから私から言えることはないっぽい」

 

 これはまだ私だけの秘密なんだから。この感覚を独り占めできていることが気持ちよくてたまらない。

 

 

 

 

 「笑いながら行っちゃうなんて相当だね」

 「これはホントにやっちゃたと思うべきだけど…。流石に盛りすぎでしょー」

 「まああの娘は動物っぽいところがあるし今さら予測できなくはないかな」

 

 夕立が抜けてもまだ談話、いや家族会議は続く。

 

 「あら、てっきり白露は夕立に先越されて一番とられた―って嘆くかと思ってたわ」

 「いやもう嘆いてるよ…。だー、もう!夕立ったら仕掛けるなら言ってくれたってぇー!」

 「あーあ、村雨ったらなんで火に油を注ぐようなこといっちゃうかな」

 

 夕立が嬉しそうに寝に行ってしまって残された僕たちは夕立の反応から提督と…その、えっちなことをしたと判断した。まったく、同じ姉妹でこうも差が出るとは…。

 

 「でさ、時雨はどこまでやったと思う?」

 「やっぱりあの反応からチューぐらいはしたんだろうね」

 「だよね~…。え、うそ―…。夕立に先抜かれるって…傷つくわー…」

 

 村雨も覇気が抜けたように陰のある顔になってる。かなり失礼なことを言っているけど、僕もその気持ちはわかる。みんなしてそういう想像してたのに自分たちが様子見している間に速攻で目標をもぎ取りに行ったのだ。怖いもの知らずにも程がある。

 

 「…どっちからかなぁ?」

 「どっちでもいいもん…。…いやどっちだろ!これ大事だよね!てゆうか夕立さ!迷惑かけたって言ってたよね!じゃあ夕立が無理にせがんだんじゃないの!?」

 

 村雨の小声から急に勢いづいてくる白露。普段面倒を見ている夕立が自分たちを差し置いて提督を魅了できるということだけでも否定したいらしい。でも気になることがある。

 

 「そうかもしれないけどさ、でも夕立の頭から強く匂いがしたんだよ。なにしたのかな…?」

 「うーん、頭にキスとか?」

 「頭にそんなにするもんなの?」

 

 わからないけど、髪が邪魔でそうそうしない気がする…。

 

 「チューはしてなくてずっと撫でてもらってたっていうのは?」

 「流石に夕立の余裕は撫でてもらったことだけじゃ生まれないと思うんですけどぉ―…うぁあん…」

 「あーもうやっぱり夕立に便乗させてもらうべきだったかしら」

 

 いまだ村雨はダークサイドに落ちたままで、ネガティブ思考が止まらない様だ。白露に至っては妹に御膳立てしてもらいたがっている。

 

 「僕たちってやっぱりこういうのってヘタなのかな…」

 「かもねぇ」

 「じゃああのさ、その、あれね?ヤッたのかな?一線は超えたのかな?あたし的にはないと思いたいけど」

 

 白露が妹の不貞は許さないとばかりに聞いてくる。

 

 「うーん、どうかしら?そもそも提督と夕立が執務室に行ってたのって30分ぐらいよね?その時間でできるものなの?」

 「…わかんない」

 「…僕も」

 

 今まででそんなことを知るような機会はなかったから仕方ないといえばそうなのだけど、なんだかいざ知識が及ばなくなると虚しい…。自分で弄る時と同じぐらいでいいのかな…。

 

 「じゃあ直接で確かめるしかないわね」

 「確かめるって?」

 「提督に直接何をしたか聞きにいくの。もしかしたら提督を食べられるかもしれないわ!」

 「ちょっとっ!食べるってその表現は…アレじゃない…」

 「聞けたら十分じゃないかな…」

 

 村雨はこのテのことに関してはかなりアグレッシブだけど、姉妹のことに問いただすのは…。恥ずかしいかな…。

 

 「もー!なに言うぐらいで恥ずかしがってるのよ!そんなんじゃの他人との行為を嗅ぎつけるだけの女になっちゃうわよ!」

 

 別に自分だって機会があれば逃さずにヤレるはずだし。もし空母やほかの先輩の言うように提督が良くないものなら、使い捨てても文句はないし、どちらにせよじっくりやるのがいい。

 けど…。

 

 「…いいよ、明日聞きに行こうじゃないか。みんなで行くかい?」

 「時雨も行くなら行くよ!妹にばっか一番手いかせないんだからね!」

 「はいはーい、じゃあみんなで行ってやろうじゃない。じゃあ明日のお昼に行ってみますか!」

 

 そういうわけで私たちは提督に夕立との逢瀬の内容を聞きに行くことにした。夕立も連れて行って二人同時に聞いてみようかな。

 

 「ふぁ~…じゃあそろそろ寝よっか、もういい時間だし」

 「ちゃんと歯を磨いて寝るんだよ」

 「当たり前じゃない。乙女としても当然の嗜みよ」

 「でも村雨、この前お菓子食べながら寝てたじゃん。ベットの周りお菓子だらけよね」

 「それはそれ、これはこれですぅ~。白露もお腹出して寝ないようにね!お・や・す・み」

 「出さないし!んもぉー、じゃあ時雨、おやすみー」

 「うんおやすみ」

 

 こうして姉妹会議は終わり、僕は夕立との相部屋に戻り寝床に入った。

 

 

 

 

 羨ましかった。正直ただの嫉妬だ。でも僕は昼間に初めて会った時から提督の匂いに魅了されていた。本人自体の匂いもさることながら冷たい海の香りがしないのが特にいい。そして人の上に立てない目をしていた。あの人は僕に何も押し付けようとしなかった。

 この際提督の人間性なんかどうでもいいから手元にあの人を置いておきたい、好きな時に好きなように求めたいという欲望が出てきている。そんな匂いを染み込ませて素知らぬふりをしていた夕立に黒い感情を抱いてしまう。

 よくない感情だけどどうしようもない。まずはあの人と相部屋とかになれたらいいのに…

 

 

 

 

 

 

 




長いしくどいね
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