疲れたときに見たくない艦これ   作:chy

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四話   3日目 朝

 

 

 

 

 「もう朝か…」

 

 睡眠が何よりの贅沢と考えている自分としては朝早くから出勤する生活はしんどいが、通勤を気にせずともいいから。

 

 「…流石に誰もきてはいないか」

 

 昨日は秋津洲きていたのでもしかしたらと思ったが、流石に注意しといたからな。

 服を着替えて身だしなみを整え、朝食を取りに出る。仕事があるので朝食は遅れて取るようなことはできない。

 

 「あれ…どうしたの?」

 「あのー……あっ!」

 

 自室の扉の向かいの壁には秋津洲が寄りかかっていた。でも目は閉じていて明らかに寝ている。

 声をかけても揺さぶってみると体がぐらりと傾く。咄嗟に支えるがその体は冷えていた。

 

 「ぬ―…あったかい」

 

 秋津洲がベタなことを言って絡んでくる。春とはいえ早朝はまだまだ肌寒い季節だ。秋津洲のきているような腋を含めた露出の大目な服では冷えるだろう。

 

 「朝だぞ。寝るならちゃんと布団で寝なさい。うわ…」

 「ぅ~ん、提督…?あっ」

 

 ようやく目が覚めたようで声に張りが戻る。えらくよだれが垂れて私の襟元から秋津洲の口元まで橋をかけているが口に出さない。

 

 「いつからここにいたの?」

 「さっき…かも。勝手に中に入っちゃダメって言われたから待ってたの…」

 「部屋どこ?凄い体冷えてるじゃないか。連れてってあげるから」

 

 そういって冷えた秋津洲を抱えようとすると

 

 「…はっ!起きてるから!ほら提督、朝かも。人が寝てるかどうかもわからないなんて提督寝ぼけてるかも?」

 「…そうかい。じゃあ私は朝食を取りに行くから。秋津洲も早く食べに行くといい」

 

 朝早くから起きだしていたのだろうから早く食べに行かせてあげよう。そう思っていたのだが

 

 「えっ、なんで?あたしといっしょはいや…?」

 「いや、そういうつもりで言ったんじゃなくて…」

 「あたしね、意外と料理できるんだよ。食堂に行くのが嫌なら作ってあげるから一緒に食べよ?あっ、もしかして外に」

 「わかったわかった、私も一人で食べるのはさみしいからお願いするね」

 

 

 

 食堂につくと既に多くの席が埋まっており、騒がしい雰囲気に包まれていた。

 

 「ほら提督、こっちの席あいてるよ?早く座るかも!今からご飯とってくるからちゃんと待っててね。変な人に着いていっちゃダメかも!」

 「鎮守府内なのに変な人がいたらまずいでしょ…。ていうかご飯とりに行くなら私も一緒に行くよ」

 「一人で大丈夫だし席の確保をお願いしたいかも―」

 「そう?じゃあお願いするよ」

 「はぁい、じゃあ行ってくるね」

 

 席に残された私は手持ち無沙汰に周りを見渡していたが、こちらを見る目も多いことに気が付いた。まだ着任時に顔を見たぐらいの娘が多いのでまだ物珍しさがあるのだろう。

 だが一部の面々とは一切目が合わない。きっと無視しているのだろうけど、それはこちらとしても有り難く感じる。

 

 (はぁ、もしかしたらずっとこの険悪なままか…?息苦しい生活はヤだなぁ)

 

 一航戦との話では少なくとも滞在は許されているのだけれど、指示を聞いてくれるかもわからなそうだ。

 

 「あっアトミラルさ…提督ぅ!提督じゃないですかー!」

 「あっどうもー、おはようございます」

 「はい!おはようございます!お一人ですか?私もビスマルク姉さまがお寝坊しているので一人なんですよ!ご一緒させていただいてもよろしいですか?」

 

 顔は幼めだけど身長や体つきが育っている。恐らく海外の艦だ。金髪が眩しいし。

 

 「ああ私は構わないけどもう一人一緒に食べるつもりだけどいいかな?」

 「はいっ。では横失礼しますね」

 

 

 

 

 …おかしいかも。あたしがご飯とりに行っている間にプリンツが提督の横に座ってるんだけど…。

 あーーーっっちょっと提督に食べさせようとしてるぅぅ!!待ってよ今持っていくから~!

 

 

 

 

 

 「あれ、アトミラルさんご飯はどうしたんですか?」

 「ああ、もう一人の娘がご飯を取りに行って私が席を確保してるんだ」

 「そうですか…じゃあ私も待ちますね」

 「お腹すいてるだろうし先に食べてもいいんだよ。冷めないうちにどうぞ」

 「いえいえ、朝は食欲があまりないので待ちますよ」

 

 

 …ぐうぅぅぅ…

 

 「アトミラルさんお腹すいてるんですね?」

 「仕方ないだろう…何もしていなくてもお腹はすくんだよ」

 

 朝が得意でなくとも鳳翔さんの作る美味しそうな朝食の香りが胃を刺激する。

 

 「じゃあアトミラルさんがこれ食べます?私は後から来る提督の食べますから」

 「大丈夫。そんな子供じゃないんだから手間かけさせないよ」

 

 …ぐぅぅ……

 

 くっ、どうしようもないことだけどこの時ばかりは自分の腹を呪う。赤面せずにはいられない。

 

 「もう!そういう意地っ張りなところビスマルク姉さまと同じですね!はい、アトミラルさんあーん」

 「いや自分のがくるから…」

 「あーん」

 「朝食はちゃんととらないと体に悪いぞ」

 「あーーん」

 「…まあ、一口もらうよ」

 「はいっ!」

 

 押し問答にもならない申し出を諦めて受け入れ、差し出された卵焼きを食べる。

 

 「…うまっ」

 

 てっきりただの卵焼きかと思ったらこれはだし巻き卵だ。よく朝から一手間かけるものだ。

 

 「ねっ?これはですね、瑞鳳っていう娘が作ってるんですよ!あの娘は卵焼きが一番得意なんですけどね!アトミラルさん昨日の朝も食べたでしょ?」

 「いや、昨日の朝はここでとらなかったんだ」

 「そうですか。それはもったいないですねー、ビスマルク姉さまも大好きなんですよね」

 

 その度々出てくるビスマルク姉さまのこと全然知らないんだよなぁ。海外艦のビスマルクか。これだけ好かれているということはかなりの人格者に違いない。

 

 「ちなみにそのビスマルクさんはどういう人なの?」

 「…えーとですね、美しくて強くてかっこいいんです!」

 

 好きな気持ちは伝わるけど先走り過ぎててよくわからない。聞き直さないけど。

 

 「そっか、いい人だね」

 「はい!じゃあアトミラルさん、お次はご飯をどうぞ!」

 「いやもうすぐ戻ってくると思うし…」

 

 

 「ちょっと!」

 

 

 ちょうど秋津洲が返ってきたようだ。両手に二人分のお盆を持っている。

 

 「てーとくさん!なんで先に食べてるの!教えてほしいかも!あたしせっかく持ってきたのに!」

 「あーほんとごめん。でもまだほとんど食ってないから許して」

 「まあまあ、秋津洲も落ち着いて。私が食べさせただけだから」

 

 勢いよくテーブルにお盆置いた秋津洲がもっともな文句を言われたのに対し、隣の海外艦の娘が一緒に宥めてくれる。ちょっと味噌汁こぼれたよ。

 

 「むきー!それがずるいっていってるかも!そもそもプリンツは何で提督と一緒にいるの!」

 「今日はビスマルク姉さまが起きてこないから誰かと一緒させて貰いたかったんだけど、せっかく提督がいたからご一緒させてもらったの」 

 

 今さらながらこの子の名前プリンツっていうんだ。自分から名前を聞かないのは良くないし、提督になった以上は名前を聞かずに話を進めるのは止めなくては。

 

 「えぇ~っ…、提督がいいって言ったんですか?」

 「うん。これぐらい問題ないと思って」

 「…まあ、提督がいいって言ったならいいかも。でもあたしのこと待ってほしかったかも」

 

 まあ自分がご飯取りに行ったのにその間にご飯食われていたら不機嫌になるのも最もだ。

 

 「それについては本当に済まない」

 「ごめんね。提督のお腹が鳴ってたからつい」

 

 プリンツと一緒になってひたすら謝る。

 

 「ふーん…もういいからご飯食べよ?お腹すいちゃったかも」

 「そうだな。じゃあいただきます」

 

 どうにか秋津洲からお許しをいただき朝食にありつく。

 

 「あれ、そういえばレーベとかは?一緒に食べてなかったっけ?」

 「ん~なんだか最近あんまり部屋から出ないんだよね。朝起きるのも遅いし」

 「へぇー、マックスも出てこないの?あの娘はそういうのしっかりしてそうだけど」

 

 同僚トークが始まったようで、面子がわからないので話についていけない私は黙って聞き手に徹する。どうやらプリンツさんの友達が不調のようだ。

 

 「マックスも同じ感じで部屋レーベと何かしてるみたい。ビスマルク姉さまは何か知っているみたいだけど」

 「ふーん。もしかしたら何か病気とかかも?見た感じしんどそうにしてたりしてない?」

 「そんなことはないんだけど…」

 

 そういうのって…

 

 「なにかサプライズの準備とかだったりしない?」

 「あーたしかにそれっぽいかも!あたしもそのセンを押すかも!」

 

 話を聞いてありそうだと思ったことを言ってみる。誰かの為に祝い事の準備をしているのではと思ったのだ。

 

 「んー、だったら私にも言ってくれていいと思うんですよね。姉さまはなんだか私に気を使っている感じで」

 「んー、提督は他に思い当たらない?」

 

 んー…。レーベさんらのことよく知らないし、面識のある秋津洲のほうが分かるんじゃないのか。

 でも年長者としてわからないで切り捨てるのもなぁ。

 

 「あっちがプリンツさんのこと気にしてそうしているのなら、あんまり詮索しないであげたらいいんじゃないか。困っているのを見かけた時にまた聞いてみるのが一番だと思う」

 

 うまい考えが浮かばず、今は様子見と提案する。

 

 「その娘らは友達でいい子なんでしょ?だったらいつもどうりにしていればいいよ、きっと。」

 

 言ってみてまるで大したこと言っていないし、ちょっとクサい発言だった気がして恥ずかしくなる。

 

 「おおー、アトミラルさん凄いです!確かにそうですね!レーベもマックスもいい子ですから心配するようなことはないです!」

 「流石提督!なんだかすごく大人っぽく見えるみえるかも!」

 

 こんな助言でも満足してくれたようで、私を褒め称えてくれる。自分には過ぎた言葉で居心地が悪い。

 

 「大したこと言ってない。いつものレーベさん達を知らないから的外れなこと言っているかもしれないし」

 「いえーなんだかすっきりしました。今日はアトミラルさんと一緒に朝食をとってよかったです」

 「こっちも話せてよかった。じゃあ次はレーベさんとかのことも聞いていい?」

 

 こうして私たちはプリンツの話を聞きながら朝食を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 「ちなみにドイツ艦には誕生日が近い人とかいなかった?まさにプリンツとか」

 

 後で話を聞いてプリンツらがドイツ出身でビスマルクたちはの同郷の仲間だと分かった。失礼ながらプリンツはどこか抜けてそうだから自分の誕生日を気づいていないかもしれない。

 

 「そもそもわたしたちは誕生日がどうとかあまりしないからわからないかも。人の言うところの誕生日は艦娘の竣工日か進水日であやふやかも」

 「一応軍の履歴書の欄には進水日が書いてあるらしいぞ。」

 「じゃあドイツ艦にはいないかも。もしかしたら提督の着任祝いかも?」

 

 食後に執務室に戻る最中秋津洲に聞いてみたがそういうわけでないようだ。

 

 「それはないな。まあ首を突っ込む必要はないか。何かあったらいうか周りに言うか、自分らでどうにかするでしょ」

 「…提督、あまり期待しすぎない方がいいかも」

 「なにを?」

 「あんまり提督基準でみんな動くとは限らないかも。たぶん世間と私たちじゃズレているところがあるし」

 

 秋津洲が真面目な顔で助言するので、唐突に不安感に囚われる。

 

 「でもそういうのってどこの団体でも言えることだし。秋津洲は自分がどうずれてると思うんだ?」

 「んー、やっぱ服の迷彩かなぁ。あたしは好きなんだけど…」

 「個人的には好きだぞ」

 「んひひ、ありがと。でもね、どうとか聞かれても本人たちにはよくわかんないしその辺は気を付けてね!」

 

 そう言い残して秋津洲は駆けだす。

 

 「どこにいくんだ?」

 「ちょっとね!後で手伝いに行ってあげるかも!なんたってあたし秘書官だからね!」

 

 ……秘書官を名乗るなら始めから手伝ってくれてもいいじゃないか。

 小走りで離れていく秋津洲を眺めながら今日の書類や艦隊指示について考え出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンコン

 ドアをノックする音がする。きっと秋津洲が来たのだろう。

 

 「はーい、どうぞどうぞー」

 「お邪魔するかもー」

 「あ~秋津洲?どうしたの?」

 「ちょっとおしゃべりしにきたかも。それよりもポーラが朝から起きていることのほうが変な感じかも」

 「ポーラはさっきザラにたたき起こされてたよ。お酒も没収されてー、布団も取られたね」

 

 朝方までどこかで飲んでいたらしく飲みつぶれて帰ってきたのだがザラに布団の中に酒を隠していることがバレてしまい、傷心の内に横になっている。

 ちなみに私とポーラと相部屋なのはドイツ艦は酒にうるさくないこととポーラの部屋だと飲めないからポーラたっての希望である。

 

 「うぅ…ポーラは動けないので好きにしてください…あと出来ればお酒持ってきてください…」

 「後でお水持ってくるから大人しくしとくかも。それで話なんだけどプリンツは提督のことどう思った?」

 

 うなされるポーラを軽くあしらって本題を切り出される。

 

 「んー、第一印象はあんまり厳しいことはしなさそう…ぐらいかな。でもちゃんと話聞いてくれる男の人だし期待しちゃうよねぇ」

 「うんうん」

 「だってこの前までいた人も結局ここにいた時間なんて全部合わせて1時間もいなかったよね。ずっと外に泊まり込んでたし、まともに外部の人見たの久しぶりだもん」

 

 前の提督の座についていた人間から指示を出されたこともない。噂では文書で指示を出していたらしいが全部誰かが破棄していたとかしてないとか。問題なく海域防衛できているからどちらでもいいのだけど。

 そんなわけで久しぶりに見る人間は潮の香りがしない。なんだか嫌な海を忘れさせてくれる。

 

 「とにかく悪くない印象ってのはないのは分かったかも。でもプリンツ、初めて話したにしてはなんかベッタリしてなかった?あーんとか初対面でかも」

 「別にアトミラルさんがお腹空かしてたからやってただけだよ。よく姉さまにもやってるもん」

 

 指摘されるとちょっと気恥ずかしい。さもいつものことだというように弁明する。

 

 「ホントにぃ?まあわかったかも。じゃああたし提督のお手伝いに行ってくるね」

 「もう?お茶ぐらい飲んでいけばいいのに」

 「提督があたしのこと待ってるからねっ。じゃあ行ってくるかも!」

 

 いつの間にか秘書官なんて決まっていたのか。こんなウキウキな秋津洲はそう見たことがなかった。

 

 「はーい、viel Glück。頑張ってねー」

 「うん。あとポーラにお水飲ませてあげてね」

 

 

 

 

 

 

 

 秋津洲が出ていき水を飲んで落ち着いたのかポーラが寝た後、私はさっきの話を思い出していた。

 ホントに久しぶりに見慣れた艦娘以外の人と話した。それこそ私が建造した時以来じゃない?今日はアトミラルに対してはただの好奇心で話かけたに過ぎないけどね、案外話せる人で私としては満足のいく朝食の時間だったよ。

 でもなんで私、こんなに満たされたような気持ちなんだろ?んー、そんなに新しくやってきたのが嬉しかったのかな?自分では気づかなかったけど。話した相談も実際そこまで深刻なものでもなかったし。本気で答えてくれたのはうれしかったけど。

 …ま、いっか!気になるのならまた会いに行けばいいし。ビスマルク姉さまにも今度また会ってみてもらおうかな。ああそうだ、姉さまが起きた時に口に入れれるもの作っておこうかな。

 

 

 

 

 

 

 

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