ネタ集   作:ラビ@その他大勢

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わすゆ 1-3

「おぉ、まるで電車ごっこみたいだ」

「⋯⋯本当にこれで行けるのかしら」

 

はしゃぐ銀と、心配そうに呟く須美。

私達4人は、園子の閃いた案のとおり電車ごっこのごとく縦1列に並んでいた。最前列が園子、続いて銀、私、須美である。

園子の作戦は、要約すると『何とかして火力のある私か銀を敵の元へと送り届ける』というもの。

 

「まあまあ、やってみるだけの価値はあるだろ?」

「確かにこのままじゃジリ貧だしねー」

「それはそうなのだけれど」

 

私達がそう言うと、むぅ、と須美は納得行かなげに唇を尖らせた。確かに、傍から見れば幼稚園児の遊びとも見えるほど滑稽なこれは、真面目な須美には理解できないのかもしれない。

因みに私にはこれが作戦として妥当かすら分かっていない。でも幼心に戻れるからこれはこれでありかなと。

 

「じゃあ、行くよ〜」

 

園子が槍を構える。私たちも各々の武器を握り直した。そして、すぐに走り出した園子の後へと続く。

当然、水球が私たちを迎撃するが、そもそも1列なので、私たちへと直撃するルートに入っている水球の量は少ない。そして、数少ないそれも華麗な園子の槍捌きと的確な須美の射撃によって見事に撃ち落とされていた。

 

「おぉ、鷲尾さん達やるぅ!」

 

銀が感心したように言う。私達のところには水球は一切来ず、先程と比べ随分楽な状態であった。

 

(このまま⋯⋯行ける!)

 

私がそう考えると同時、バーテックスもこのままでは近付かれ、攻撃を受けるだけだと考えたのだろう、別の行動を起こした。

 

「こっち来た!?」

 

傍らに付けている二つの大きな水球を、私達に押し付けようと突進してきたのである。園子の槍ではどうあっても捌けられるサイズではない。だが、接近戦ならば私と銀の土俵でもある。私は銀とアイコンタクトを取ると、下がった園子と入れ替わるように前へと大きく跳躍した。

 

「だぁぁぁぁあ!!!」

 

目の前へと突き出された水球を大槌で弾き飛ばし、そのままの勢いでバーテックスの側面を殴りつける。

大きく吹き飛ばされ、動きを止めたバーテックスへと、2丁の斧を構えた銀が駆ける。

 

咆哮と共に繰り出される乱舞。私達も後に続き、ひたすらバーテックスへと攻撃を重ねた。

土地神の力を宿した少女達4人の猛攻。

それを受けて敵は大きく後退するも、即座にダメージ部分が再生していく。

 

「うわぁキリがないけど⋯⋯負けない〜!」

「もう! さっさと出ていって!」

 

しかし4人は絶対にバーテックスを通すまいと、攻撃を続けていく。やがて──

 

その巨大な敵は、くるりと進行ルートを変え、来た道を引き返していった。

 

 

 

「やった────!!!!」

 

敵が視界から消え、結界の外へと出ていったのを確認した私たちは、思わず4人で抱き合った。

今までなすすべもなく敗北していた人間の歴史からすれば、とても大きな功績である。いつもは大人な須美も、無邪気にはしゃいでいた。

それぞれが不安をカミングアウトし、改めて勝利の余韻を噛み締めた。

 

 

 

 

 

戦闘終了後。すっかり元の姿を取り戻した学校の保健室で軽い検査を受け、異常なしと判断された私たちは校門までの道を歩きながら今日の戦いについて語り合っていた。

 

「みんな強くてビックリしたよ〜」

「それを言うなら園ちーだって。敵の遠距離攻撃も綺麗に捌いてたし」

「鷲尾さんの射撃も的確だったよなー」

「⋯⋯」

 

歩いている最中、相槌を打つばかりで自分からは一言も発していなかった須美が、不意に立ち止まった。どうしたのか、と私達も立ち止まり、俯いている須美を見つめる。

 

「ねぇ、みんな⋯⋯。よければ、その⋯⋯今日は、栄えあるお役目も果たせた事だし、祝勝会でもどうかしら⋯⋯?」

 

私たちは顔を見合わせると──

一斉に顔を輝かせた。

 

「うんっ、いこういこう!」

「まさか鷲尾さんから声掛けてくれるとは思わなかったなー」

「じゃあ、イネスいこうよイネス!」

 

イネス大好き人間の銀が両手を上げる。誰も反論することはなく、第1回勇者会議(ネーミング適当)の会場はイネスに決まったのだった。

 

 

 

 

「どう、どう? ここのジェラート、めっさ美味しいでしょ! イネスマニアのアタシ、イチオシだからね」

 

瞳を輝かせ熱く語る銀に、園子は目に涙を浮かべながら頷いていた。何やら話をしている銀と園子とは別に、難しい顔をしてジェラートを見つめる須美に、私はなるべく笑顔を心がけながら話しかける。

穏便に、穏便に⋯⋯。

 

「須美ちゃんにはジェラート合わなかった?」

「ううん、そんなことは無いの。合わないどころか⋯⋯とても美味しくて」

「宇治金時も美味しいよねー。私はもっぱらイチゴだけど」

 

そう呟いて、私は手に持ったイチゴ味のジェラートを齧った。口の中いっぱいに広がる冷たく甘い味を、余韻ごと味わう。

そんな私の隣では、園子が身を乗り出して須美の食べている宇治金時味のジェラートを見詰めていた。

 

「何だか、スミスケの食べっぷりを見たら宇治金時味も美味しそう⋯⋯」

「す、スミスケ⋯⋯?」

 

珍妙なあだ名で呼ばれた須美は、額に汗を流す。園子のあだ名のセンスは色々な意味で歪んでいる。だが、そんなことお構い無しに園子は大きく口を開けた。そう、それはまさに餌を待つ雛鳥のように。

 

「あーん」

「!? え、えーっと⋯⋯」

「だから、あーん」

 

初めての「あーん」に、しばし硬直していた須美だったが、やがて観念したのか、スプーンで掬ったジェラートを恐る恐る園子の口へと運んだ。

 

 

そんなこんなで初々しい恋人のようなやり取りを交わす2人を見守ったり冷やかしたりしていた銀だったが、ついに我慢しきれなくなったのだろう、自らの持つしょうゆ味のジェラートを高々と掲げる。

 

「ふふん、確かにイチゴ味も宇治金時もメロン味も全部超素敵な味だけど⋯⋯。でもねお二人さん、このフードコート最強は、アタシが食べてるしょうゆ味のジェラート。コレ。ガチでナンバー1」

 

私的にはしょうゆ味よりイチゴ味なのだけれど。

前食べさせてもらったジェラートの味を思い出し、軽く首を傾げる。あれは何というか⋯⋯わざわざジェラートにしてまで食べたいと思う程のものではないかと。

そんな私を置いて、銀はスプーンで掬ったジェラートを須美と園子の口の中にねじ込んだ。

 

──しかし、案の定2人からは不評であった。

 

「あっれぇー?」

 

 

***

 

 

大赦の訓練場で、須美は怒っていた。

理由は明白である。銀の遅刻だ。

 

「ごめんごめん、お待たせ!」

「銀。今日はどうして遅れたのかしら」

「ええと⋯⋯や、何を言おうが遅れたのは自分のミスだし⋯⋯ごめん、気を付けるよ!」

 

須美の説教タイムが始まった。

 

須美から銀への実に30分にも渡る長いお説教が終わり、尚更遅れてしまった訓練の後──須美はその事を「説教が長引いてしまってごめんなさい」とわざわざ私と園子に謝りに来ていた──私と銀は一緒に帰りながら今日の事について話していた。

 

「銀も何ていうか損な性格してるよね」

「ん?」

 

帰り道で買った缶ジュースに口を付けながら、二歩前を歩いていた銀は顔だけを振り向かせる。私は軽く肩を竦めると、

 

「いや、あのこと言えば須美ちゃんだって取り敢えず納得はしてくれそうなのに、と思ってさ」

「や、でも他人のせいにしてるみたいで何だかなって思ってさ」

「真面目というかなんというか⋯⋯」

 

私はガシガシと強く頭を掻いた。

──須美による銀の遅刻の真実を突き止めようと誘われたのは、その次の日の午後の事だった


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