アニメ二期が始まれば連載するかも。
雨はそんなに嫌いじゃない。少し憂鬱な気分にはなるかもしれないが、寧ろ好きだとすら言えるだろう。
それは何故かって? 答えは簡単だ。
『ア゙ア゙ア゙ア゙』
コイツらの顔を見なくていいから。
腐敗臭の漂うコイツらは、生前の記憶が残っているのか雨に濡れるのを嫌がる性質があり、雨の日は外に出たときの危険がいつもより少なくなる。
だけれども残念ながら、今日は雨じゃない。少なくとも、買い物帰りに会いたい相手では無いのだが……等とビニール袋片手に考えていると不意に、対面している相手の顔に見覚えがある気がして、俺は微かに眉を動かす。
「いやはや、誰かと思いきゃ元同サークルの加藤先輩じゃないっすか。どうっす? 最近は」
『ア゙ア゙ア゙』
マトモに返事が返ってくるなんて思っていない。ただの俺の一人語り。向こうの噛みつきを体を軽く反らして回避し――
「こっちは実に最悪ですよ」
足を掛けて張り倒す。
「いや、何て言いますか? もういっそ貴方達と一緒になった方が面白いかもとすら思い込む始末ですよ。ハッ、笑っちゃいますよね」
倒れたソイツを足で踏みつけ、身動き出来なくしてから
「ま、最近はゲームとか出来るようになってきたし、彼女持ちの身なんでまだそっちに逝くつもりは無いですが……」
頭に向かって、懐から取り出した電動ドライバーを突き刺した。
引き金を引くと駆動音が小さく鳴り、ゴリゴリと硬質なものに刺さる感触がした。
「取り合えず、お疲れ様でした。ゆっくり休んでください」
力無く倒れ伏した彼に頭を下げると、俺はクルリと踵を返した。
向かうのは聖イシドロス大学。こうなった世界での、俺にとって唯一心安らげる場所だ。
校門を登り、大学へと入る。ふんふんと適当なゲームの主題歌を口ずさみながら、リノリウム製の床を歩いていく。一歩毎に乾いた音が鳴り、誰も居ない廊下を反響した。
暫く歩いていくとやがて1つの部屋に着き、俺はその部屋の扉の前で足を止めた。部屋に掛かる看板に書いてある名は、桐子。俺が所属している、サークルのリーダーだ。
2度扉をノックし「入るぞー」とだけ声を掛けると、答えを待たずに部屋へと入る。
部屋のなかでは、一人の少女が座ってテレビの画面と向かい合っていた。桐子――トーコは案の定、ピコピコと一人でゲームをしていた。いや、ポーズ画面になっているところを見ると一応声を聞いて止めてくれたらしい。
そして問題の当人は、入ってきたのが俺と見るや否や瞳を輝かせ、かなりの剣幕で身を乗り出してきた。
「良いゲームあった!?」
「ま、上々って所だな」
俺は左手に握ったビニール袋を軽く上げて見せた。この中に入っているのはゲームのカセット他諸々である。
こんな状態になっても人間は暇と電気さえあればゲームをやりたがるようだ。軽く笑うと、俺は持って帰って来たゲームの中から、特におすすめの対戦ゲームを取り出した。
何時が始まりだったかは忘れたが、ある日パンデミックが起こった。突然他の学生の様子がおかしくなったと思ったら、いつの間にか辺りは安モンのホラー映画に有りがちな大惨事になっていたのである。噛まれれば移り、そして噛まれた奴が新しい生者を噛む。次々と増えていくアイツらの事が的確に当てはまる言葉を1つ、探すとしたら――ゾンビ。これ以外は有り得ないだろう。
最初は少数だった感染人数も、瞬く間に広がった。このままでは、生者は全滅するのでは無いかとすら思われたこともあった。
しかし、そこに現れたのが『武闘派』というグループである。彼らは規律第一にして感染者達を片付けていき、大学の中に安全圏を作り出したのだ。だが、その規律が余りにも堅苦しいため、そこから分裂したまったりグループがある。それが、俺が現在所属しているサークル――と言うわけだ。
太陽光電池も、地下の食料庫も見付かり、何とか俺たちは必要最低限な物資は補給することが出来た。
するとある程度は余裕が出来るわけで――
サークルのメンバー(の一部)がゲームを始めるのに、そんなに時間は掛からなかった。
「ハッ、甘いなトーコ! そのコンボは既に見切った!」
「何っ!? ……とでも言うと思ったのかな?」
「そんな派生があっただとぅ!? つかそれハメだろ! 無しだろそれ!」
画面内では俺の操作キャラがトーコのキャラにボッコボコにやられていた。やめてあげて! もう彼のライフはとっくにゼロよ!
「あー、くそ。今度こそ勝てると思ったんだがなぁ」
「ふふん」
「何こいつムカつく」
自慢気に笑うトーコを軽く睨む。
……と、その時。部屋のドアが開き、一人の少女がトーコの部屋に入ってきた。
「あ、ユウタ帰ってきてたんだ。で、シャンプーあった?」
「ん? ああ、アキが望んでるのがどれか分かんなかったから有ったの適当に選んで持ってきた」
「ありがと。そろそろ切れかけてたから助かる」
光里 晶――アキが申し訳なさそうに笑う。
「いつもごめんね? アタシたちのためにわざわざ」
「いや、最近はアイツらに見付からないような小道も見っけたから余裕余裕。武闘派除けば男子は俺一人なんだし、バンバン頼ってくれて良いんだぜ?」
「ま、男子のなかでは一番頼りにさせて貰ってるよ」
アキは俺の背中を軽く叩き、微笑んだ。
俺も笑い返し――
「はいはいまたボクの勝ちー」
「おいこらそれは無しだろ今話してただろ!」
トーコのキャラにボコられる俺のキャラを見て、その笑みはすぐに消え失せたのであった。
結局、30戦ほどして全敗した俺は、諦めてコントローラーを床に置いた。そのまま、部屋にあるふわふわのクッションに力無く倒れ込む。
「はぁ……。このゲームでも全然勝てないのか……」
「ボクに勝とうなんて100年早いよ」
「いつか目に物見せてやるからな……っと、あれ? ヒカは?」
アキに視線を向ける。すると、ずっと傍らでゲームの試合を見ていた彼女は分からないと言うように肩を竦めた。
「知らない。また何か修理してたりするんじゃないかな。それよりさ、一度アタシもやっていい?」
「ん? ほら」
体を起こし、先程置いたコントローラーを手に取るとそれをアキに渡す。
「じゃ、俺はヒカんとこ行ってくるわ」
座りっぱなしは肩が凝る。俺は軽く自分の肩を揉みながら立ち上がり、自分の交際相手であるヒカを探しに部屋を出た。