Baby Princess ~それぞれの日常~ 作:明棲木親池
「ちょっと蛍待って……」
陽太郎は両手いっぱいに紙袋を持ち、なんとか蛍に付いていっていた。
もちろんその紙袋の中には、衣装を作る為に生地や糸が入っている。単体では軽くても、蛍はかなりの量を買い込んだため、結構な重さとなった。
ただ、当の本人はご満悦の様子でいた。
「お兄ちゃん、早く早く!」
どこか無邪気なその姿は、陽太郎の知っているいつもの落ち着きがある少し大人びた蛍とは違っていた。
無邪気でいて、そして――年相応なわがままさが伺えた。
そう思うと、氷柱と一歳差であることも頷ける。
陽太郎は、
「――よし、待ってよ蛍!」
そんな姿を見て、蛍の荷物持ちを悪くないな、と思えた。
――陽太郎は、そこで思考を遮った。
そうだ。確か蛍に荷物持ちのお礼がしたいって言われて……。
ただ、そう考えると蛍はこの状況でどう自分にお礼をしてくれるのだろうか?
薄暗い部屋、メイド服を着た蛍――――いやいやっ! ま、待て俺! 相手は妹だぞ!
陽太郎は勢いよくかぶりを振るい、自らの悪しき煩悩を打ち払う。
「ど、どうかしましたかお兄ちゃん?」
「――あ、だ、大丈夫だから」
なんだから申し訳なくて蛍の顔を直視できない……。
視界を遮る部屋の明かりに陽太郎は多少なり助けられたと思った。
「そ、それでなんですけど……」
もじもじと蛍は恥ずかしそうにスカートの前で指を合わせる。
「ここに呼んだのはお兄ちゃんにホタのこの恰好を見せたかった……というものあるんですけど……」
「……も?」
「はい。本当の目的――いえ、お礼と言うのは、その、お兄ちゃんにですね――燕尾服を作ってあげたかったんです!」
「え、燕尾服……?」
――というと、つまり……
「なら、今日買ってきたやつで――」
「はいっ! ホタのこのメイド服と燕尾服を着たお兄ちゃんとで一緒に並んでみたいなって思ったんです」
「そっか――」
陽太郎は今一度自分の胸中の中で自分を戒めた。
くそ、俺はなんてことを……。
「あの……嫌、でしたか……?」
「えっ――?」
陽太郎はそこで自分の顔に心の内の感情が出ていたことに気が付いた。
「すみません、急にこんな話をしてしまって……」
「あぁ――いやいや! 全然平気だよ、うん。むしろ俺、その――燕尾服? 着てみたいよ」
「ほ、ホントですか――っ!?」
「う、うん」
陽太郎は罪滅ぼしのつもりでそう言った。
「じゃあ、早速衣装を作りますね! お兄ちゃんは下のリビングで待っていてください!」
「そんな早くできるの?」
「ふふ――実はホタ、こんな質問しておいてなんですけどほぼ出来上がっているんです! だから後は最後の仕上げをするだけで」
「そうなんだ」
「だから、少しだけ待っていてくださいね」
「うん、分かったよ――あ、そうだ」
うきうきで作業に取り掛かろうとする蛍に――
「そのメイド服、蛍に凄く似合っていると思うよ」
陽太郎は不出来であったとしても、そんな自分を慕ってくれる“兄”を精一杯頑張るつもりでそう言ったのであった。