Baby Princess ~それぞれの日常~ 作:明棲木親池
「できたっ!」
蛍は、仕上がった燕尾服を目の前で広げると、これを着たお兄ちゃんを想像した。
ふふ――なんだか、ホタが並んじゃうとお店みたい。
二人仲良く店を切り盛りしている姿が目に浮かぶ。
もちろんオーナーは陽太郎。
「お兄ちゃん喜んでくれるかな――」
ぎゅっと燕尾服を抱きしめると、蛍は自分の今の気持ちを込めるようにそう呟いた。
*
陽太郎はリビングでチビたちと遊んでいた。
「お兄ちゃんおうまさんごっこしよ!」
青空が元気よく言う。
「青空がおうまさんね!」
ただ、元気が良すぎるのか、青空は膝と手を床に着き、馬の鳴きまねをして陽太郎を困らせる。
「ははっ……ちょっとお兄ちゃんが乗るには厳しいかな?」
頬をかき、苦笑いする陽太郎。
すると、服の袖を引っ張られる。
振り向くとそこには十六女の――さくらがいた。
「あ、あのねおにいちゃん。さくらのおにんぎょうさんがどこかに行っちゃったの……」
「そっか、なら、一緒に探しに行こうか?」
「いいの!?」
「うん、もちろん。あ、そうだ。なら、このおうまさんも一緒でいいかな?」
そう言うと、陽太郎は青空の脇に手やり、抱き上げる。
青空は嬉しそうにまた、馬の鳴きまねをした。
*
「お兄ちゃん出来ましたよ!」
蛍は勢い良く扉を開けた。
「凄い勢いだな」
すると、椅子に腰かけ、本片手にコーヒーを飲んでいる次女――霙がそう言った。
「あれ? お兄ちゃんは?」
けれど、蛍は気にすることなく、必死に陽太郎の姿を探す。
「あぁ……あいつらならさっきここを出て行ったぞ」
「らってことはお兄ちゃんの他にも誰かいたの?」
「確か、さくらと青空が一緒にいたな。おおかた、また断り切れずに何かやらされているのだろうな」
ふっ――と鼻であしらうと、霙は視線を本へと向けた。
だが、蛍はそれどころではなかった。
お兄ちゃんどこにいってしまったの――っ!?
いち早く完成した服を着て欲しい蛍は、着た時同様にリビングを出ようとした時、
「あ、そうだ」
背後から霙が何かを思い出したように呟いた。
それが陽太郎の情報かもしれないと思い、蛍は瞬時に振り向く。
「どうしての霙お姉ちゃん?」
「いや、あいつを見つけたら必然的“これが”を渡す機会があると思ってな」
それは陽太郎の情報ではなく――――。
*
「ここら辺かな?」
「うん。さくら、ここで起きたの」
陽太郎は、さくらと青空を連れてチビたち専用の寝室へと来ていた。
ここでは年長の真璃から下の妹たちが寝ている。
「うわぁーい! そら、ねんねする!」
青空は敷いてある布団にダイブすると、ごろごろと転がり始めた。
「あぁ、ちょっと青空――」
それは別に寝るために敷いたのではない。
もちろん初めはちゃんと押し入れにしまわれていたのだが、さくらのお人形が布団の中に紛れ込んでいるかもしれないからと、陽太郎が布団を押し入れから出したのだ。
この光景を氷柱にでも見られたらなんと言われることか――。
想像しただけでも恐ろしい。でも、理由を言えば許してくれるかな?
そんな危機感を覚えながらも、陽太郎はさくらのお人形探しを続けた。
――そういえば、蛍の衣装はまだなのかな?
「どうしたのお兄ちゃん?」
「あ、うんん。なんでもないよ。多分、この中にあると思うから一緒に探そうか?」
「うん! さくらお兄ちゃんのおてつだいする!」
まだ大丈夫だよね、きっと――。