Baby Princess ~それぞれの日常~ 作:明棲木親池
一通りの朝の身支度を済ませると、次に待っていたのは寝ぼけた頭と鼻腔をくすぐる香ばしい朝食であった。
「よし、ならこの朝食を食べてからな」
陽太郎はそう言うと、虹子を席へとつかせる。
「それならにじ、ごはんいらない! おにいちゃんそうだんにのって!」
「えぇ――!?」
だが、そう上手くもいかず。陽太郎はどうしたら――と慌てふためいていると、
「こら、兄じゃを困らせるではないぞ虹子」
「そうよ、にじちゃん? レディーなら男の人のエスコートは微笑んで優雅にこなすものなのよ?」
助け船を出してくれたのは、観月と真璃であった。
「それに――ほら、せっかく春風姉じゃと蛍姉じゃが作ってくれたのだ。無下にするとそれこそ罰が当たるというものであろう」
観月は両手の手首ををだらんと下げると、まるでお化けのようなポーズをとる。
「やだやだ! にじ、おばけやだ!」
「ほほぉ――なら、ちゃんと朝ご飯を食べることじゃのぉ」
観月はそう言って、自分の席へとつく。ついでに真璃も。
陽太郎はしばしばその光景に見とけていると――
「おにいちゃん、にじ、ちゃんとごはん食べるから、おばけこないようにしててね」
ぎゅっと服を掴み、涙目ながらに上目遣いでこちらを見ている虹子の姿があった。
「うん――大丈夫だよ」
陽太郎は優しくそっと頭を撫でた。
「それで虹子の相談って?」
朝食を無事に済ませ、リビングで少し休んだのち、陽太郎は訊いた。
「んーとね――あれ、なんだっけ?」
「へ?」
虹子は難しい顔をするが、一向に答えは出なさそうであった。
一体、俺に何を……?
陽太郎はそこで少し思案する。
ここまで勿体ぶっておいて、もしこれで思い出したことが突拍子もないようなことだったら――と考えたのだ。
兄として精一杯のことはするつもりの陽太郎ではあるが、それでも限度がある。
しかも相手はまだ幼稚園に通っていない虹子。何を言い出すか分からない。
必死に思い出そうと、人差指を下唇に添えている虹子とは裏腹に、陽太郎はその姿を固唾を呑んで見守っていた。
すると、背後からどすんという衝撃が陽太郎を襲う。
何事かと――振り返ってみると、
「えへへ――みてみておにいちゃん! そら、はだかんぼっ!」
そこには生まれたままの姿の青空の姿があった。
「えっ――青空、なんで……?」
混乱する陽太郎。しかし、青空はそんなのお構いなしに再びにんまりと笑みを浮かべる。
「これ! おにいちゃん、きせて!」
「きせて?」
目の前に差し出されたのは、青空がよく来ている白を基調として少し丈が短い、元気が有り余る青空にはピッタリのワンピースであった。
陽太郎はそこで理解した。
あぁ、そうか。俺が着せればいいのか――。
納得がいくと、勝手に手がそのワンピースを受け取っていた。
「えへへ――ばんざい!」
受け取ったのも束の間、青空はその場で勢いよく両手を上げる。
陽太郎はワンピースを捲ると、青空の頭からすっぽりと着せた。
はぁ、虹子の相談もこれくらい楽ならなぁ……。
そう思っていると――。
あれ、そういえば……。
陽太郎はあることに気が付いた。
ぷわっ――と青空が顔を出すのと同時に、陽太郎は虹子の姿を見る。
やっぱり――と確かめた。虹子がまだパジャマ姿だったことを。
「よし、なら、青空はこれで大丈夫だね」
「うんっ! ありがと――おにいちゃん!」
そう言うと、すぐさま走って庭へと駆けて行った。
「じゃあ、次は虹子の番、だね」
「にじのばん?」
未だに難しい顔をする虹子が陽太郎を見る。
「うん。だって、ほら――まだ虹子、パジャマ着てるし」
その言葉を受けて自分の姿を見る虹子。
すると、
「あ――――っ!」
予想以上に大きな声が返ってきた。
「え、どうしたの?」
陽太郎は目を丸くして訊ねる。
だが、虹子は対照に今までの謎が解消され、満面の笑みを浮かべていた。
「おにいちゃんすごい! なんでにじが、おようふくえらんでいるのにきがついたの!?」
「へ?」
きょとんとする陽太郎。虹子は畳みかける。
「そうだよ、にじ、おにいちゃんにおようふくのそうだんしようとおもってたの!」
「あ、あぁ――! なるほど、そういうことね」
そこでようやく陽太郎も理解する。
彼女の先ほど発言を。そして、最初に言ってきた相談とやらの内容も。
「なら、虹子の部屋に行こうか」
「うんっ!」
陽太郎は、ほっと胸を撫で下ろすと虹子の手を握る。
どうやらなんとか自分でも出来そうなことだ――と思った。けど――――
「おにいちゃん、にじににあうかわいいおようふくえらんでね」
これはこれで兄が試されそうだ――とも思う陽太郎なのであった。 (完)