Baby Princess ~それぞれの日常~   作:明棲木親池

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霙1

ぐっと背伸びをして、寝起きの身体をほぐす。

一二回、まぶたを擦ると、そこには閑散とした自分の部屋があった。

しかし、今年で高三になり、そして生徒会長にまでなった霙にとってそれは心を落ち着かせる気持ちのいい朝の光景であった。

十九人の姉妹と一人のお兄ちゃんが住むこの家で自分の部屋を持っているのは、長女の海晴と次女の霙。それと――陽太郎だけであった。

春風とヒカルも一人部屋だったが、陽太郎が住むことになり、昔と同じく二人部屋になった。

春風は、またヒカルちゃんと一緒! だと喜んでいたが、霙は胸中で一人部屋であることに少し安堵する。

姉妹の中でも飛び抜けて冷静かつ思慮深い霙にとって、静かな時間、空間というのは性に合っており、なにより趣味の読書が捗る。

カーテンの脇から漏れ出す陽光を視界に収めながら、霙はベッドから起き上がる。

さて。

まるで覚悟でも決めるかのように、ドアノブに手を添える。

だが、実はそうではない。

それは、これからの静寂に終わりを告げると共に――自分が一番大好きな喧騒へと向かうための一歩であった。

ゆっくりとドアノブを下に捻ると、それに連動するみたいに霙の口元が少しだけ角度を上げる。

そして――――

 

「霙お姉ちゃん! おはようー!」

幾重にも入り交じった聞き慣れた声がした。

霙は、

「あぁ、おはよう」

微笑みを浮かべて返した。

 

 

陽太郎は自身のお腹が空腹を訴えてきたので、不意に時計を見た。

時刻は午後三時前。ちょうどおやつの時間であった。

春風に今日のおやつを――と聞きにいこうとした時、ふと陽太郎はまるで自分が催促しているのではないか、ということに気が付く。

自分が小腹を空かせ、そしておやつが何かと訊ねる。

もちろん春風は優しく笑顔で応えてくれるだろう。が、はたしてそれでいいのか――という葛藤が陽太郎の頭を渾沌とさせる。

こういう時はいつも立夏か夕凪が率先して行くのだが、あいにくと今日は二人共外に遊びに行っている。

けれど、おやつの頃には帰ってくると春風が言ってたのを思い出し、陽太郎は息を吐くと――まぁもう少し待つかという結論に至った。

すると、突然背後から声が聞こえた。

「……今日のおやつはどら焼きだな」

「えっ――?」

声の主は霙であった。しかもそれだけではない。陽太郎は霙が三時のおやつに一番に食いついたことにも驚かされる。

だが、春風はそんな陽太郎とは違い、慣れたように応える。

「ふふ――流石霙ちゃん。こういう時だけは鋭いんだから――」

春風は笑みを浮かべていたが、出すまで秘密にしていたかったことが霙にバレて少し悔しそうであった。

そんな霙は、一度笑ったかと思ったら、次にいつも通りの何を考えているか分からないクールな表情に戻り、読書に耽った。

あれ、すぐに食べるわけじゃないんだ……と陽太郎が思っていると、

「たっだいまーー!」

玄関から元気の良い声が木霊した。

どうやら遊んでいた妹たちが帰ってきたようであった。

 

 

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