Baby Princess ~それぞれの日常~ 作:明棲木親池
妹たちの帰宅により、慌ただしくなった天使家のリビング。
けれど、そこにはいつもの光景が広がっていた。
「あー立夏ちゃん! ずるいよ!」
「へへーん! だってリッカが一番乗りだったんだもん!」
どちらがより多くのおやつを食べるかで揉める夕凪と立夏。
「ちょっと立夏ちゃん……」
「夕凪ちゃん危ないよ――」
その光景を後ろから心配そうに見ている小雨と星花。
ちなみに麗は、くだらないわ――と一蹴し黙々とおやつのどら焼きを食べていた。
もう見慣れた一面を視界に収めながら、陽太郎も待ちに待ったおやつを食べようとする。
「はい、王子様♡」
と春風が器を持ってきてくれる。
「ありがとう」
そう応えて、どら焼きを一つ口に運ぼうとした時――
「ん?」
なんだか背後から視線を感じる。それもだいぶ強くて、鋭い。体感的に氷柱に匹敵するのではないか――と思って、陽太郎は恐る恐る振り向く。
「ひぃ――っ!」
そこには虚ろな眼差しで陽太郎を――いや、陽太郎が手に持っているどら焼きを見つめる霙の姿があった。
「――ん? どうした? 気にせず続けてくれ」
「いや……」
そんなこと言っても――と心の中で呟くと、あることに気が付いた。
それは霙の前に置いてあったからっぽのお皿。
あぁ、なるほど……。
「もしかして、もう――どら焼き食べ終わって……」
「……いいから続けてくれ」
なぜだか辛そうに言う霙。
陽太郎は胸中で、あはは――と苦笑いをすると、空いているもう片方の手で自分の皿を持ち、霙の前に差し出した。
「もし、よければこれ――」
――食べる? と言い切る前に、陽太郎の手から皿が消えた。
「そうかそうか。オマエがそう言うなら仕方ないな。うん、そうだそうだ」
と言いながら、霙はどこか嬉しそうにどら焼きを口に運ぶ。
一瞬驚いた陽太郎だったが、なんだかおやつを取り合っている妹たちと変わらないその姿を見て自然と笑みを零した。
「あっ――! もう霙お姉ちゃん! 一人二つまでなんだから人の取っちゃだめでしょ!」
すると、春風の声が聞こえた。
霙は、
「違う、これはコイツが私に譲ったのだ」
と頑なに自分の無実を主張していた。
「ウソばっかり! もう――ごめんなさい王子様。いま、もう一つお持ちしますね」
あっさりと折れた春風は踵を返すと、すぐさま台所へと向かった。
それもまた慣れているようであった。
「ふふ――まったく困ったものだな」
誰が言うのか――と陽太郎が思っていると、
「まぁ、だが、オマエが譲ってくれたことに変わりはない」
くるりと霙は春風の背に向けていた視線を陽太郎へと向ける。
「そうだな――あとで私の部屋に来るといい」
「え?」
霙はそう言うと、空っぽのお皿を下げ、リビングを出て行く。
不意に振り返った彼女はいつものミステリアスに拍車を掛けるように、不敵に笑みを浮かべていた。