Baby Princess ~それぞれの日常~   作:明棲木親池

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霙3

陽太郎はごくりと唾を飲んだ。

目の前にあるのはたった一枚の扉。

陽太郎もよく自分の部屋に入る度に目にする、どこにでもある木製の扉。

ただ、一つ違うとすれば、それはその奥で何が待っているのか分からない――ということだけ。

陽太郎は脳内で先ほどの霙の言葉を反芻する。

部屋に来い、って言ってたけど一体なにを……?

ただでさえ何を考えているのか分からない霙が、さらに訳の分からないことを言ってくる。

挙句の果て、陽太郎は多分、俺には到底想像もできないことなのだろう――と考えるのを諦め、仕方なくドアノブに手を添える。

――ドアノブがゆっくりと動いた。

だが……。

「――えっ?」

それは陽太郎によるものではなかった。

なら誰が――? と一瞬頭の中に混乱が生じるが、流石の陽太郎でもすぐに気が付いた。

ドアノブを捻ったのが、自分とは反対側にいる人物だということに――。

「どうした、さっきからぼけっと突っ立って。入るなら早く入ればいいじゃないか」

「あ、その――って、さっきから?」

「ん? なんだ?」

「いや、その――もしかして俺がここにいるって……」

「あぁ――およそ十分前ぐらいから気づいていたぞ。なぜ入って来ないかは知らないがな。まぁ、だが、そんなことは宇宙の塵よりも些末なことだ」

そういうと霙は背を向けると、肩越しに笑みを浮かべた。

やはり敵わないな――と陽太郎はさらに実感した。

 

 

「それでここに呼んだのは一体……?」

陽太郎はそう問うたのは、霙の部屋に入りお茶を振る舞われてからしばらくしてのことだった。

自分から呼んでおいて、一向に何かしらを話す素振りを見せない霙のペースに陽太郎は呑まれ、なんとか脱した折、問うたのである。

ぱたん。

霙が読んでいた本を閉じた。

陽太郎にはもうなぜここで本を読んでいるのか、と突っ込みを入れる気力はなかった。――いや、気力があったとしても言わなかっただろう。

「知りたいか?」

不敵に笑みを浮かべる霙。

その表情にどきっとしてしまう。

本来なら、知りたいもなにも――と憤慨を露わにしてもいいぐらいなのだが、どうも彼女相手では調子が狂ってしまう。

掌握されているような――。

ペースをつかまれているような――そんな感覚だ。

けれど、別に嫌じゃない。

それが陽太郎の渦巻く感情の中にある本心であった。

「は、はい」

気が付けば、陽太郎は首肯していた。

「そうかそうか――」

霙は嬉しそうに応じる。

「ところで、学校の方はどうだ?」

「え?」

唐突であった。陽太郎はもちろんこの流れは部屋に呼んだ理由を答えてくれるものばかりと――。

だから、思いもよらない霙の発言に大きく目を剥いた。

「まぁ、なんだ。私は一応、生徒会長だからな」

誇らしげに言う霙の姿を見て。

もしかしてこれが聞きたかった、とか……?

確かに霙は、長女――海晴の後を継いで生徒会長になった。

もしかしたらこれは学園に於いて、数少ない男子の意識調査と言ったところなのかもしれない。

陽太郎はようやく霙の意図が読めた! と自分の頭が冴え渡るのを感じる。

そして、気分が良くなったのか、霙の質問に素直に答えた。

「一応クラスには男子もいるし、それなりになんとかやっていってるかな。あ、でも、この前学校で蛍と氷柱に会った時は、一緒にいた女子生徒に実は家族だってバレそうになって――」

「確かに、氷柱はいいが、蛍はオマエ見ると飛んでいきそうだな。そう意味では立夏なんかは会った即バレてしまうな」

「そうなんだよ。だからなるべく中等部には近づかないようにしているんだけど……」

 

それからは最初の緊張はどこへ行ったのやら。

陽太郎は、学校のあれこれ――主に自身の苦労話を霙に吐露したのであった。

 

 

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