Baby Princess ~それぞれの日常~   作:明棲木親池

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小雨1

 いつも元気な声が響く。

 小雨は、それを聞くと、いつも笑ってしまう。だっておかしいんだもん。

 立夏ちゃんや夕凪ちゃん。それに、元気いっぱいのおチビちゃんたち。

 本から目を離し、ふと窓越しを見ると、いつも楽しそう。小雨はそれだけで――。

 

「小雨も、一緒に遊ばないの?」

 

 急に声がして、小雨はしおりを挟まないまま本を閉じてしまう。

「お、お兄ちゃん……?」

 振り返ると、そこには優しそうにこっちを見るお兄ちゃんの姿があった。

 一瞬、嬉しくなってしまう。けど、本当に一瞬だけ。

「わ、私はいいんです。こうして、立夏ちゃんたちを見てるだけで」

 どんくさいから。混ざったら多分、みんなの足を引っ張ってしまうから――。

 小雨は、続きがどこからなんて気にせず、閉じた本をぎゅっと抱きしめた。

 

 

 

 陽太郎は、学校からの帰り道、ふと昨日の出来事を思い出した。

 彼女の、あの表情。抱えていた本よりもか細い腕。そしてなにより、彼女が言った言葉。

 あの時、陽太郎は返す言葉を決めあぐねていた。

 いつもの陽太郎なら、「そっか」とか他人事のように言えたかもしれない。でも、なぜか言えなかった。

「でも、じゃあ他になんて言えば――」

 本当のお兄ちゃんなら、こういう時、なんて言うんだろう――。陽太郎には、それが分からなかった。

 一緒に遊ぼうよ、って誘えば――良かった……? うーん、でもな。

 人にはそれぞれ得手不得手がある。もっと言えば性格や個性がある。

 それは、あの十九人姉妹と一緒に暮らすようになって、陽太郎が一番痛感させられたことだった。

 だからこそ、小雨を無理やり連れ出すのはなんか違う気がする。

「でもな……」

 色々悩む中でも、陽太郎は確信していることがあった。

 小雨は絶対、みんなと遊びたいはず――。……根拠はないけど。

「うーん、どうしたもんか」

 気付けば家に着いていた。

「ただいまー」

 言ってから、陽太郎は違和感を覚える。

 あれ、いつもならチビたちが元気に迎えてくれるのに――。不思議の思ったのも一瞬だけ。

 いやいや、別にいつもじゃないだろ。なにうぬぼれてんだ。

 甘い考えの自分に嫌気が差した。かぶりを振って、リビングに向かおうとしたところで、

「あ」

 麗が扉の向こうから先に出てきた。彼女は陽太郎の顔を見るなり、途端に不機嫌そうな表情をする。

 ふんっ――とわざとらしく鼻をは鳴らして、陽太郎の横を通り過ぎようとした。

「あ、あの!」

 普段なら絶対にビビっているはずなのに――と声を掛けた本人が、内心そう思った。

「なに?」

 うわ、やっぱりこわ。それでも陽太郎は、臆さなかった。脳裏にちらつく、彼女――小雨の小さな後ろ姿が、陽太郎に力を与えた。

「えっと……あのさ。小雨が何かに悩んでいるって話、知らない?」

 小雨の名前が出たからか、麗の表情が少しだけ和らいだ。

「小雨ちゃんが……? 何かに悩んでるの?」

「あぁ、いやそうじゃなくて……ごめん、言葉足らずだった。小雨がさ、何か悩んでいるように見えてさ。だから、麗は何か知らないかなって――」

「そう。別に知らないわ。と言うか、もし知っていてもあなたには言わないわ」

 またいつもの辛辣な麗が姿を見せた。でも、彼女の話を聞いた陽太郎は、どこか嬉しそうだった。

「そっか。ならいいんだ。ごめん、急に話しかけちゃって」

「……別にいいわ。それに、同じ家にいるのに、そんなことで謝らないでよ。ばか」

「あ、うん。ごめん――あっ」

 言われたばっかなのに俺は……。

 麗は、ふんっと苛立ちながら、部屋に戻って行った。

 

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