Baby Princess ~それぞれの日常~ 作:明棲木親池
陽太郎はある声で目が覚める。
「今日は遅くなるから夜ご飯はいいや」
「うん。分かった。じゃあ、気をつけてね」
あれは……ヒカルと春風の声?
玄関からするそれを何とか寝ぼけた頭で記憶する。
外の景色は、もうすぐ夕暮れになろうとしていた。
「うぅー」
と伸びをした陽太郎は、不意に今日一日の自分の怠惰っぷりを思い起こす。
それが起因となったのか、ソファーから腰を上げると、リビングの扉を開けて、散歩に行こうと決めた。
「あれ? お出掛けですか?」
すると、玄関には春風の姿があった。
彼女の服装にどこか新鮮味を感じた陽太郎だったが、それがただエプロンを外しただけの姿だと気づく。
ははっ――寝すぎたかな……?
「あ、うん。ちょっと散歩に行ってくるよ」
だからこそ、気分転換と――
一日だらけていたら、それこそ氷柱にまた怒られてしまうかもしれない――。
という危機感も決して口には出せないが、少しはあった。
「そうでしたか――あっ、そうだ。今日は、明日に備えて少し早目に晩ご飯を食べますので、なるべく早く帰って来て下さいね」
「あ、うん――分かったよ」
なら、なおのことお腹を減らさないと――。
渾沌とする気持ちが陽太郎の足を動かした。
夕闇に差し掛かろうとしていた頃、陽太郎は河川敷へと訪れていた。
元々はお腹を減らす目的で、軽く散歩でも――と思っていたのだが、次第にそれが億劫に感じて一息入れることにした。
人気はあまりなく、水面を漂うカモの群れがあるぐらいである。
陽太郎はそのカモの群れをぼぉーっとみて、あれは家族なのかな? などとのんきに考えていると、
「お前、こんなところでなにしてるんだ?」
不意に声が聞こえた。
陽太郎は慌てて振り向く。
「えっ――あ、あれ? なんでここに――」
怪訝な顔を浮かべる先には、ヒカルの姿があった。
後に陽太郎は、彼女はトレーニングウェアとハーフパンツという涼しげな格好をしていることに気が付く。
「もしかして……ランニング、とか?」
「ん? あぁ――いや、ちょっと今日はジムの方に行っててな」
陽太郎の視線に気づいたヒカルは釣られる様にして、視線を落すとそう説明する。
「そっか。もう終わったの?」
どこか期待げに問う。
「いや、実は……これからまた練習なんだ。今はちょうど休憩がてらここに立ち寄っただけで」
ヒカルはどこかバツが悪そうにそう答えた。
「そっか――」
陽太郎は、自分がなぜか少し悲しい気持ちになっているのに気が付く。
だからだろうか。次の発言は彼の“意地”みたいなものが混じっていた。
「だったら、ヒカルが終わるまで待つよ」
「えっ!? あ、いや――でも後二時間は掛かるぞ?」
「それでも待つよ」
焦るヒカルを見て、陽太郎が次に口にした言葉には素直な本心が込められていた。
「……分かった。でも、何かあったら、別に無理して待ってなくてもいいからな」
観念したようにヒカルは告げた。
「まぁ、じゃあ――行ってくる」
「うん。行ってらっしゃい」
陽太郎はのんきにそう返すと、彼女の背をじっと眺めて河川敷へと視線を移す。
さて、どうやって時間を潰すか――。
夕焼けに染まった雲をぼんやりと眺めた陽太郎は、
「なら、また散歩に行くか」
と思い、河川敷沿いを歩くことにした。