Baby Princess ~それぞれの日常~   作:明棲木親池

3 / 21
ヒカル3

陽太郎はある声で目が覚める。

「今日は遅くなるから夜ご飯はいいや」

「うん。分かった。じゃあ、気をつけてね」

あれは……ヒカルと春風の声?

玄関からするそれを何とか寝ぼけた頭で記憶する。

外の景色は、もうすぐ夕暮れになろうとしていた。

 

「うぅー」

と伸びをした陽太郎は、不意に今日一日の自分の怠惰っぷりを思い起こす。

それが起因となったのか、ソファーから腰を上げると、リビングの扉を開けて、散歩に行こうと決めた。

「あれ? お出掛けですか?」

すると、玄関には春風の姿があった。

彼女の服装にどこか新鮮味を感じた陽太郎だったが、それがただエプロンを外しただけの姿だと気づく。

ははっ――寝すぎたかな……?

「あ、うん。ちょっと散歩に行ってくるよ」

だからこそ、気分転換と――

一日だらけていたら、それこそ氷柱にまた怒られてしまうかもしれない――。

という危機感も決して口には出せないが、少しはあった。

「そうでしたか――あっ、そうだ。今日は、明日に備えて少し早目に晩ご飯を食べますので、なるべく早く帰って来て下さいね」

「あ、うん――分かったよ」

なら、なおのことお腹を減らさないと――。

渾沌とする気持ちが陽太郎の足を動かした。

 

夕闇に差し掛かろうとしていた頃、陽太郎は河川敷へと訪れていた。

元々はお腹を減らす目的で、軽く散歩でも――と思っていたのだが、次第にそれが億劫に感じて一息入れることにした。

人気はあまりなく、水面を漂うカモの群れがあるぐらいである。

陽太郎はそのカモの群れをぼぉーっとみて、あれは家族なのかな? などとのんきに考えていると、

「お前、こんなところでなにしてるんだ?」

不意に声が聞こえた。

陽太郎は慌てて振り向く。

「えっ――あ、あれ? なんでここに――」

怪訝な顔を浮かべる先には、ヒカルの姿があった。

後に陽太郎は、彼女はトレーニングウェアとハーフパンツという涼しげな格好をしていることに気が付く。

「もしかして……ランニング、とか?」

「ん? あぁ――いや、ちょっと今日はジムの方に行っててな」

陽太郎の視線に気づいたヒカルは釣られる様にして、視線を落すとそう説明する。

「そっか。もう終わったの?」

どこか期待げに問う。

「いや、実は……これからまた練習なんだ。今はちょうど休憩がてらここに立ち寄っただけで」

ヒカルはどこかバツが悪そうにそう答えた。

「そっか――」

陽太郎は、自分がなぜか少し悲しい気持ちになっているのに気が付く。

だからだろうか。次の発言は彼の“意地”みたいなものが混じっていた。

「だったら、ヒカルが終わるまで待つよ」

「えっ!? あ、いや――でも後二時間は掛かるぞ?」

「それでも待つよ」

焦るヒカルを見て、陽太郎が次に口にした言葉には素直な本心が込められていた。

「……分かった。でも、何かあったら、別に無理して待ってなくてもいいからな」

観念したようにヒカルは告げた。

「まぁ、じゃあ――行ってくる」

「うん。行ってらっしゃい」

陽太郎はのんきにそう返すと、彼女の背をじっと眺めて河川敷へと視線を移す。

さて、どうやって時間を潰すか――。

夕焼けに染まった雲をぼんやりと眺めた陽太郎は、

「なら、また散歩に行くか」

と思い、河川敷沿いを歩くことにした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。