Baby Princess ~それぞれの日常~ 作:明棲木親池
陽太郎はどすんという音とお腹に走った衝撃によって目を覚ました。
「ダメだよ夕凪ちゃん!」
この声は星花だろうか?
未だ覚醒しきっていない脳みそで何とか声を聴き分ける。
「えーだって、お兄ちゃんと遊びに行くために夕凪、早く宿題終わらせたんだよ?」
「それはそうだけどさ……」
のしのしという動きを感じ、陽太郎はそこでようやく十一女――夕凪が自分のお腹の上に乗っていることに気が付いた。
「あ、あの……」
「あっ! お兄ちゃんおはよう!」
寝起き早々元気の良い挨拶が来る。
「も、もう夕凪ちゃん! それだとお兄ちゃんが起きられないよ!」
「え? あ、そっか――えへへ……」
夕凪とは違い、しっかりものである十女――星花が注意する。
陽太郎はそこで、昨日の約束を思い出した。
陽太郎はいつものようにリビングで妹たちの相手をしていた。
そこには十八女――青空と十七女――虹子がいた。
「ねぇねぇお兄ちゃん! みてみて――っ! そらね、お外で虫さんとってきたの!」
女の子なのに半袖短パンが似合う元気いっぱいの青空は、そう言うと手に持っているおもちゃのバッタをこちらに突き出してくる。
「そっか、青空はすごいね」
「うんっ! だからお兄ちゃんも一緒に虫さんとりしよ!」
青空はいまさっきまで嬉しそうに持っていたバッタのおもちゃをぷいっと投げ捨てると、今度は陽太郎の手を取る。
「えぇ!? いや、でも……」
陽太郎が困っていると、
「めっ! お兄ちゃんがこまってるでしょ! それにお兄ちゃんはにじとおままごとして遊ぶの!」
もう片方の手を虹子が取り、助け船どこから事態はさらに悪化する結果に。
そんな時であった。
「ほら、もうお昼寝の時間だぞ」
霙の声が聞こえた。
青空と虹子はイヤだイヤだと駄々をこねたが、もちろん霙には叶わず程無くしてリビングには陽太郎一人になってしまった。
「ふぅ……」
と一息、安堵の息を吐くのも束の間。
一難去って、また一難が陽太郎に降り注ぐ。
「あっ! お兄ちゃん見つけた!」
肩越しに振り返ると、そこには夕凪の姿があった。
その瞳はどこか偶然陽太郎を見つけたのではなく、何かしらの目的があるような――まるで何かに追われて陽太郎に助けを求めているかのような、そんな感じのものだった。
けれど、なんでなのかもちろん陽太郎には見当も付かない。
そんな陽太郎をよそに、夕凪は慌てて駆け寄り陽太郎の後ろに隠れた。
すると、
「あ! お兄ちゃん、ここに夕凪ちゃんが来ませんでしか?」
後を追う様にして星花の姿が見えて陽太郎も、何となく見当が付いてきた。
おそらく夕凪はまた、学校の宿題をサボったのだと。
陽太郎は、星花の問いに答えはしなかった。けれど、何となく目で合図だけは送った。
そして――
「あっ! 夕凪ちゃんいた!」
「もぉーお兄ちゃんなんで教えちゃうの!?」
陽太郎は、頬を掻きながらははっ……と空笑いをする。
「夕凪ちゃん? お兄ちゃんのせいにしないで早く宿題やるよ!」
あ、やっぱり……。
「だって――夕凪の占いでは今日は宿題はしなくていいって……」
逆にどんな占いなのか、陽太郎は少しだけ興味が湧いた。
「夕凪ちゃん前もそう言って宿題やらないで、氷柱おねえちゃんに怒られたの覚えてないの!」
「あ……で、でも別にそれは夕凪が悪いわけじゃないもん!」
収拾がつかない二人のやりとり。
いつの間にかそれは陽太郎を巻き込んでいく。
「お兄ちゃん夕凪ちゃんを説得してください!」「お兄ちゃん夕凪をたすけてっ!」
どうしたものか……。
陽太郎は少し思案したのち、なんとかこの場を収め、それでいて夕凪と星花の両方の意見を聞き入れるアイデアを思いつく。
「な、なら――宿題が終わったら、俺とどこか遊びに行こうか? もちろん夕凪と星花との三人で」
それを聞いた二人のキョトンとした顔が陽太郎の眼前には広がった。
あ、もしかしてこれって逆効果だったんじゃ……と二人の姿を見て、後悔の念を抱いていると――
「ほ、ホントに!?」
今までとは打って変わった元気いっぱいな夕凪の声が聞こえた。
……あれ?
「まぁ、夕凪が明日までに宿題をちゃんと終わらせられた、だけど……」
「あ、あのお兄ちゃん、その……わ、私も一緒に行っていいんですか?」
「え? もちろん。――あ、でも、星花も一応はちゃんと宿題終わらないと、だけど……」
すると、二人の表情はぱっと明るくなり、
「はい!わかりました!」「うん! 待っててお兄ちゃん! 夕凪がんばっちゃうよ!」
と言って、リビングを駆け出て行く。
陽太郎は、その姿を見てほっと胸を撫で下ろしたのであった。