Baby Princess ~それぞれの日常~ 作:明棲木親池
「フェルゼン? ほら、さっさと起きなさい」
可愛く自分? を呼ぶ声が聞こえた。
「まったくフェルゼンは仕方ないんだから――」
ついでになんだか呆れられている。
陽太郎は自分をフェルゼンと呼ぶ声が――十四女真璃だと気づく。
寝ぼけた声でなんとか返事を返す。
「あ、うん……おはよう、真璃」
「やっと起きたのねフェルゼン! もう――っ! お寝坊さんなんだから」
真璃は得意げにそう言うと、小さな腕組みをする。
「ほら! 起きて起きて。お休みの日でも、怠けるのは許されないわよ」
まるで世話焼き女房のような真璃の発言。けれど、見た目はまだまだ可愛いお子様。
そのギャップが、寝起きの陽太郎を徐々に覚醒させる。
「そうだね、そろそろ起きようか」
ふと陽太郎は、机の上の電子時計を見る。
時刻は六時。
――学校がある日よりも、三十分も早かった。
そこで陽太郎は、時刻を確認してから言えば良かった――と思うのであった。
陽太郎を起こしに来た真璃に限らず、幼稚園に通うおチビ組の朝は早い。
対照に、小学生組と中学生組の朝は――いや、それは夕凪と立夏だけかもしれない。
それ以外の基本的な天使家の朝は早かった。
朝ごはんの準備をする蛍と春風はもちろんのこと、朝のランニングに出掛けたヒカルや早朝の報道番組でお天気お姉さんとして活躍している海晴もそうだ。
霙は――いつも優雅にコーヒーを飲み、読書に耽っていることが多い。
この家に来てから約半年が過ぎ、陽太郎もこの朝の光景には慣れてきた。
「あっ! おはようございます王子様」
「あ、う、うん。おはよう」
まだこの呼び名には慣れないけど……。
「春風おねえさま。フェルゼンを起こしてきたのはマリーなんですから、今日は一日マリーのモノですわよ」
えっ――いつからそんなことに。
陽太郎が視線を落すと、そこには先ほども見た真璃の得意げな表情と、その顔の下に添えられた手の甲がどこか気品さを放っていた。
「うふふ――そうね、マリーちゃん。じゃあ、王子様――じゃなくて、お兄ちゃんをお席まで連れて行ってくれるかしら?」
「あら? 春風おねえさまったら、それはフェルゼンの役割ではなくて? ね? フェルゼン?」
「へ? あ、うん。じゃあ、行こっか」
そういうと、陽太郎は小さな真璃の手を握る。
「ふふっ――フェルゼンにエスコートされるのも悪くないわね」
「そっか、それはよかった」
そこで陽太郎は、以前氷柱にお人好しだと言われたことを思い出した。
でも、まぁいっか。
手を引いたお姫様の笑顔を見ると、自分がお人好しでも構わない――そう思えるのであった。