Baby Princess ~それぞれの日常~   作:明棲木親池

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蛍1

「お兄ちゃん、こっちに来てもらってもいいですか?」

薄暗い部屋の中で陽太郎は呼ばれた。

辺りには無数の衣装が並んでいる。

全て蛍が手作りしたものだろうか?

まっすぐに進む脚とは別に、視線は辺りへと目まぐるしく動いていた。

「蛍?」

陽太郎は蛍のシルエットを視界に捉えた。ただ、それが彼女の後ろ側だっため声を掛けた。

すると、蛍はくるりと身を翻す。

陽太郎は、それを見て薄暗いこの部屋が一気に明るくなる感覚に襲われる。

蛍はコスプレをしていた。しかも、メイド服。

振り返った勢いで、ふわりと蕾のように膨らむスカートを両手で押さえた蛍は、恥ずかしそうに陽太郎から視線を外す。

「どうですか……お兄ちゃん?」

「えっ――あ、その……」

ごくり、と思わず唾を飲み込む。

陽太郎は、暗いため蛍の微細な表情は見えない。けれど、彼女の視線、そしてどこか遠慮気味に問うてきた声音で、それが恥ずかしさによるものだと感じた。

そう思ったら最後、なぜだか無性に陽太郎も恥ずかしくなってきた。

そして、陽太郎はふとこんな状況で、自分がなぜこうなったのかを想起した。

 

 

「お兄ちゃん、ちょっと付き合ってもらってもいいですか?」

それは陽太郎が朝食を終え、少しゆっくりしていた頃だった。

「何かあったの?」

「あっ、いえ――別にそういう訳じゃないんですけど……」

蛍はどこか申し訳なさそうに視線を外す。

「……その、衣装を作るのに生地を買いに行きたくて――」

「あぁ――」

――そういうことか。

陽太郎はそこで初めて蛍の意図が分かった。

ようするに自分が荷物持ちをすればいいのか。

「そういうことなら喜んで行くよ」

「ほ、ホントですか――っ!?」

「うん」

蛍は余程買い込むつもりだったのだろうか、と陽太郎は珍しく取り乱している蛍の姿を見てそう思った。

 

十時頃。セミの鳴き声が、季節と暑さを感じさせる。

陽太郎は蛍と二人で商店街へと向かっていた。

そう言えば蛍とこうして二人で買い物ってあんまりないような……。

「どうかしましたか、お兄ちゃん?」

「え? あぁ――いや」

不意に訊ねられ、陽太郎は誤魔化すのも気が引けると思い、考えていたことを口に出した。

「こうして蛍と二人で買い物ってあんまりないなって」

「そういえば――そうかも、しれませんね。学校か――あとは学校帰りにお夕飯の材料を買いに行く時ぐらい、でしょうか?」

「そうだね。でも、なぜかその時って決まって氷柱がいるんだよね」

「ふふっ――そうですね、氷柱ちゃんったら、お兄ちゃんと二人っきりだと不安だとか言って。ホタは全然そんなことないのに……」

すると、蛍の声のトーンと視線が不自然に下がるのを陽太郎は感じた。

「お兄ちゃんもホタと二人だと不安だと思いますか……?」

陽太郎は蛍の質問の意図がつかめなかった。だが、彼女がどこか不安げにそれを言っているのだけは分かった。

だからこそ、お兄ちゃんとしてはっきりと答えた。

「全然そんなことないよ。氷柱はいつもその――なんだ、考え過ぎなところがあるからね」

「あ、ありがとうございます! ホタなんだか今日は一杯買い物しちゃう気がします!」

あれ……元々そのつもりなんじゃ……?

「ふふ――お兄ちゃん、早く行きますよ!」

蛍は先ほどまでとは一変、明るい笑顔を見せると、陽太郎の手を取った。

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