例えばこんな篠ノ之箒   作:々々

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書き直しました。何故かはあとがきで。

初見の方は気にせずお楽しみください。










◆ 原作前

 IS(インフィニット・ストラトス)

 

 それはとある少女の日常生活を大きく変えた、憎んでも憎みきれない対象であった。

 それまでずっと一緒だった彼女の家族とも離れ離れになる原因であり、さらに初めて恋をした男の子(一夏)からも離れる原因ともなった。

 彼女の姉(篠ノ乃束)がISを開発したせいで世界は混沌の波に飲まれ、世界のトップ達は時代に飲まれぬよう死力を尽くしている。

 そんな大惨事を引き起こした(天災)に憤りを感じるなか、自分ではどうしようもできないことを悟った少女は、政府の命令によって暮らしていた所から遠く離れた田舎へとやって来た。

 

 

 電車に揺られながら外の景色を見る。外には森林や田んぼが多く存在する。きっと今のような状況でなければ、随分とリラックス効果があるはずだろう。彼女、篠ノ之箒は政府の人に渡されたどこにでも売られているような地図と父が書いた手描き地図の2つを見る。駅のある商店街からしばらく遠く離れたところにある所にどちらの地図においても、そこには大きな丸が付けられている。そこにこれからお世話になる家があると教えられていた。

 仮宿泊していたホテルから新幹線と電車で移動すること半日。遂に彼女がやってきた村は、小中学校が同じ建物にあり、さらに高校に行くのにも遠く離れた街まで電車で長時間移動しなければならないような所だった。今まで住んでいた所との違いを感じつつも、地図に示された所へと歩き始める。

 そうして数十分歩いた末にようやく目的地に辿り着く。季節は春から夏に移り変わる頃であるため、恋心を抱いていた少年から貰ったリボンで髪を結い首元を晒し、持ち物は最低限の物しか持ってないが、それでも道中の山を歩いているうちに汗をかいた。

 辿り着いた先にあったのは大きな屋敷だった。美しい庭が存在し、庭の一角には立派で趣のある道場が建ててある。しばらくの間、目を奪われていた箒であったが自分の目的がまずここに住む人と話をすることだったと思い出し、門をくぐって中に入って行く。

 綺麗に整えられた庭を抜け、大きな玄関扉までやって来る。呼び鈴が無いか探すものの見当たらないため、扉を叩く。

 

「どなたかいらっしゃいませんか」

 

 大きな声で人を呼んだものの、少し待っても返事が帰って来ない。人が居るか分からないほど、この屋敷全体が静かすぎる。箒はこれから大丈夫かと心配になり始める。更に待って人が来る様子はない。長時間の移動と長めの歩きによって心身ともに疲れた彼女にとって今の事態は辛いものであった。箒の目尻に涙が溜まっていく。

 もう一度呼び掛けて、それでも人が出て来なければ、商店街まで戻りここに住む人について尋ねるか何処かに一泊させてもらおう。そう思い再び扉を叩こうとすると、家の中から慌ててこちらにやってくる足音がした後、渋い音を立てて扉が開かれた。

 そこから現れたのは真っ黒な着流しを着た男だった。髪は濡羽色、そして黒曜石のような瞳。その真っ黒な瞳に箒は吸い込まれる様な感覚を覚える。

 

「すみません。準備をしていて、呼び出しに応じるのが遅くなってしまいました」

 

 男はうっすら首元に汗をかいていて、その言葉に嘘はないようだ。また男は、箒の目が潤んでいることに気が付き言葉を続ける。

 

「出るのが遅くて不安にさせてしまい申し訳ありません。ここまでの道のりで汗をかきましたよね?冷たい麦茶を用意してあるので、色々なことを話したいとは思いますが、一先ず中に入ってください」

 

 

 

 箒は男に連れて来られた居間に座る。その男の言葉の通り程よく冷えた麦茶が出される。一口飲んでみると彼が作ったものなのか市販のものとは違う深みがあり、乾いていた喉が潤いを求めて更に一口。コップに入っている麦茶がなくなる頃箒の向かい側に男が座る。その際に、空になったコップに麦茶を注ぎ足す。

 

「貴女が篠ノ之箒ちゃんですね」

「……はい」

 

 これから彼女は彼の家にお世話になる事を父親から言い渡され、その事を十分に理解はしていた。しかし、心のどこかにはそれを受け止めきれてない自分がいた。

 その為、図らずもその気持ちが返事に現れてしまい、ぶっきらぼうな返事になってしまう。謝ろうとするが何と言っていいか分からず閉口してしまう。

 

「大丈夫ですよ」

「え?」

「こんな小さい時に親から離れるのは大層大変なことです」

 

 箒の心中を察しているように男は話す。

 

「ここを自分の家だと思うように、なんて難しい事は言いません。ですが、それでも篠ノ之ちゃんにとって安らげる場所くらいには思って欲しい、と私は思っています。だからあまり気張らなくて良いのです」

 

 優しい口調で、そして柔らかな笑みを箒に向ける。

 箒は彼の事を父から少しは聞いていた。理由は分からないが、揺らめいていた箒の心は落ち着きを取り戻す。

 

「篠ノ之ちゃん付いてきて下さい。貴女の部屋に案内します」

「…きでいいです」

「はい?」

「箒で良いです。篠ノ之と呼ばれると気張ってしまいますから」

 

 別に心を許したわけではない。ただ、ここまで来て常に気を張っているのが嫌になったから。そんな軽い理由だった。

 

「分かりました。では箒ちゃん行きますよ」

 

 男は笑顔で箒の名を呼んだ。

 連れて行かれた部屋は箒が想像しているよりも広い部屋であった。それは箒の荷物がすべてダンボールに入っていることを含めても広い。

 

「この家には私しか住んでいないので部屋が余りまくっていてですね。気兼ねなく使ってくださいねり必要そうな家具は全て準備したつもりですが、足りないものがあったら言ってください」

 

 それでは、と晩御飯の準備のために台所に向かおうとする。箒はまだ聞いていないことがあり、彼の服を掴む。

 

「どうしたのですか?」

「名前を、名前を教えて下さい」

 

 父親からもそして本人からもまだ伝えられてなかった名前を尋ねる。

 

「私の名前は雨宮白夜です。箒ちゃんの好きなように呼んでくださいね」

 

 彼の名を一生彼女は忘れないだろう。例えどんなことが起ころうとも。

 

 

 箒が白夜のもとにやって来てから数週間が経っていた。学校の方は箒がこちらでの生活に慣れるまでは自主休校、具体的に言えば夏休み明けまでは休む事になった。これは白夜が箒と話し合いの結果決めたことである。

 ようやく新たな場所での生活に違和感を感じなくなり始めた箒は、ここに来るまでの日課であった朝の素振りを再開することにした。前日に白夜に伝えた際、道場を使うかと訊かれたが、そこまではいらないと断った。現在は居間から見える庭で竹刀を振るっている。白夜は縁側に座って箒を見ていた。

 

「はぁはぁ。立派な道場があるのですが、白夜さんは何か武道をやってるのですか?」

 

 一通りの鍛錬を終え、タオルで汗を拭いながら箒は白夜に尋ねる。屋敷内を案内された時に一度だけ、道場の中を見たのだが、使われてはいないが丁寧に掃除され整備されていることが分かっていた。

 

「私が武道なんてやっていたら、きっと武道の偉い人に怒られてしまいますよ」

 

 白夜は自嘲する様に笑う。

 

「あれはここの土地に屋敷を建ててくれた方が勝手に建てたものです。屋敷全体の雰囲気が有るか無いかで大きく変わるからと押し切られたのです。使わないとは言え、折角あるのに整備しないのも、と思い最低限のことはやってますよ」

「何もやっていないのですか……。でも、それにしては白哉さんの姿勢が美しすぎるような」

 

 白夜は草履を引っ掛け庭にやって来る。その顔には曖昧な笑みが浮かんでいる。白夜の基本の表情は笑顔であり、箒はここ最近になって少しずつ笑顔の違いが分かるようになってきていた。

 

「武道はやってないのですが、違うものをちょこっと。たしか、箒ちゃんの流派は苗字と同じ篠ノ之流でしたよね」

「そうですが」

「それなら教える事が出来ますよ。見ていてください」

 

 箒は白夜に持っていた竹刀を渡し距離を取る。白夜は箒が離れたのを確認すると、竹刀を構える。白夜の身に纏っていた雰囲気が変わる。それはまるで洗練された刀のように鋭い。そして白夜は篠ノ之流の一連の型を始めるする。

 彼女の家が管理していた篠ノ之神社では、毎年盆と正月に祭りを催していた。そこでは「剣の巫女」と呼ばれる巫女が神楽舞を披露し、現世に帰った霊魂とそれを送る神様とに捧げる舞として成立していた。それから元々は古武術であった『篠ノ之流』を剣術へと昇華させた。

 故に篠ノ之流の最終極点に達するとその動きは舞に等しくなり、見る者の視線を釘付けにし感動をもたらす。

 そして箒もまた白夜の演舞に魅せられた。何十もの型を終えた白夜に疲れはなく、舞を終えた姿は美しくさえ感じている。

 

「剣道はやっていないものの、昔とある伝手で教わったのです。その代の人にはお墨付きを頂いたのですがどうでしたか?まぁ、代も変わってるので少し違うところもあったりしたかもしれませんがね」

 

 ありがとうございました、と言って白夜は箒に。刀を返す。箒は未だ白夜の舞に見惚れていた。そしてあることを思いつく。

 この人に教えてもらおう。例えそれが険しい道のりになろうとも構わない。私が望むものはそのにある気がするのだから。

 この時から彼女の剣は大きく変わることとなる。小さな少女が焦がれた剣はほど遠く、容易に近づくことさえ不可能なもの。しかし少女はその輝きを求め続ける。

 

 

「うぅ」

 

 熱の篭った道場の床の上で箒は突っ伏してる。夏休みはそろそろ終わりを迎え、学校が始まろうとしている。今までは勉強と白夜の剣の鍛錬、そして家事の手伝いだけであった。しかし、学校が始まってしまえば白夜との鍛錬の時間が大幅に少なくなってしまう。そのため箒はいつも以上に鍛錬に力を注いでいた。

 因みに、勉強に関しては白夜が箒に休んでいた間は教え、休みの宿題を学校から貰って来ていた為に問題はない。

 

「どうぞ箒ちゃん」

 

 箒に教えたばかりだと言うのに白夜はいつもの調子で冷たいタオルと程よい温度の飲み物を箒に渡す。箒は白夜に礼を言って受け取り、汗を拭き水分補給を行う。

 現在、白夜が箒に教えているのは剣術の基礎の部分だった。白夜は剣道ではなく剣術に傾倒しており、篠ノ乃流を教えるにあたり先ずは白夜が身につけている剣術について教えることとした。そこに関しては箒もきちんと理解しており、基礎が終わり次第篠ノ之流、そしてそれと並行して剣術を教わることになっている。

 

「随分と動きが良くなってきましたね。この調子なら幾分早く篠ノ之流の鍛錬の方に移せそうです」

 

 白夜は嬉しそうに笑う。

 

「ここは小学校と中学校が一緒になってますから、部活も一緒に活動することになります。ここまでの腕があるならば中学生にも負けないとは思います。ですが、慢心はいけませんからね。相手の自分より優れている点を見出し、それを吸収し自分のものにする。私達武人は常に成長し続けなければならないのです」

 

 礼を持って試合に臨み、例え相手が自分より弱いとしても全力を尽くす。そのように箒は白夜の言葉を理解した。

 

「ですが、その前に自分の実力が分からなければいけないですけどね」

 

 白夜は箒の頭を撫でた。初めの頃は子供扱いされているようで嫌だったが、彼なりの不器用なスキンシップだと分かり受け入れているうちにいつの間にか嫌という気持ちはなくなり、むしろ嬉しさすら感じている。

 

「汗も引いて来たみたいですし、昼ごはんにしましょうか」

 

 そう言って頭から手を話す際、箒は小さな声で「あっ」と小さな声で言ってしまう。白夜には聞こえていないようで、そのまま道場を出て行くのを見て少し安心する。

 

「白夜さん待ってください」 

 

 とてとて。白夜の後を追って走る箒の表情は笑顔であった。

 

 

 時が流れるのは早く、箒は中学三年生になった。学校の部活そして家での白夜との鍛錬で、剣の腕はみるみるうちに成長していった。

 とある伝手で昔お世話になった人の下の代が困っていると聞きつけ、自ら申し出てみたものの上手く出来るかは白夜自身も不安であった。実際蓋を開けてみれば箒は楽しそうに日々を暮らしている。

 箒は名前を雨宮箒と名乗り、白夜の遠い親戚ということで知られている。白夜との生活で元よりも性格が柔らかくなったため、仲のいい友だちも出来た。最近は定期テストや受験勉強のため雨宮家でよく勉強をしていた。

 

 

 その日、白夜は今日の献立をどうしようかと考えながら家から商店街へ続く道を歩いていた。近い内に箒の中学生最後の大会があるため、その事を考慮に入れなければならない。

 しばらく道なりに進む。白夜は後ろで3人が足音を殺して付いて来ているのを把握する。道には白夜とその3人の男以外の人影はない。白夜は相手が仕掛けてくるのを待つ。

 そして発砲音が一つ。放たれた銃弾は、軽く首を傾けることによって簡単に避ける。白夜は静かに振り返りいつもの笑みを浮かべる。 

 

「中々やって来ないと思っていたら、いきなり発砲ですか。上の者の教育がなっていないのではありませんか?」

「ちっ。外したか!噂通りの化物め」

「酷い言われようですね」

 

 白夜は何時でも仕掛けられるように、腰を落とし姿勢を低くする。

 

「私を化物と一緒にしては化物の方が可哀想じゃありせんか」

 

 手に持っていた財布を素早く一人に投擲する。ソレはかなりの速度になるが、何とか躱すことができた。でも、それだけでは足りなかった。躱した先には、まるでそこに避けるかを予測してた様に白夜が待っていた。

 

「まずは1人です」

 

 白夜の手刀は滑らかに男の首を斬り落とす。その行動は如何にも普通のことをしたかの様に、まるで人を殺すのを何とも思っていないかのように、白夜は自然体だ。

 残り二人の体が強張る。――聞いていた話と全く異なる。ここまで恐ろしいとはキイテイナイ。何だアレハ。殺される、コロされる。シニタクナイ。

 

「ここ数年、箒ちゃんの側にいたので腕が鈍っていると思っていたのですが、そのような事は無かったですね。寧ろ格段に調子がいい」

 

 ――ただ殺すだけよりも何かを護るために戦う方が力が出る。胸の中で考えつつ、首を斬った手を振るい血を落とす。

 

「さて、貴方達はどうしましょうか。きっと貴方達は私を箒ちゃんの元へ行かせないようにする足止め係、と言ったところでしょう。箒ちゃんの居場所も知らないのでしょう」

 

 ゆっくりと一人の方へと足を向ける。只それだけなのに、只歩くと行く行為をしているだけなのにどうして震えが止まらない。ハッキリとした殺意が鎖のように男をその場に繋ぎ止める。そして、もう一人の男も同様に動く事が出来ないでいる。

 

「それなら殺してしまいましょうか?」

 

 男達はその一言で自分が殺されるビジョンがありありと頭に浮かぶ。先程の男のように、簡単に首を斬り落とされてしまう。想像している内に2人共気を失ってしまう。

 

「ふむ。噂に聞いていたよりも随分弱い。敵意の無いものを殺しても意味がないので、貴方達を殺すつもりはなかったのですが」

 

 殺気を仕舞い込み、昂ぶっていた気持ちを抑える。戦いではなく、箒を救うことが第一優先である。目を閉じて、周りの音にのみ集中する。

 そして聞こえる微かな機械音。日頃耳にするモノよりも繊細なその音は近くの山から聞こえている。きっとそこに箒がいると予測を立て、移動を開始する。

 

 

 白夜は最高速度で音のする場所へ駆ける。木々を飛び越え、しゃがみ回避する。途中に敵の姿はなく、あっさりと目的地に着く。しかし距離があったので、出発してから既に5分経っていた。

 

「やっぱり雑兵じゃ足止めなんて無理だったのかしら」

 

 ISに乗った女性が愉しそうな声で話しかけてくる。

 

「スコールさん。その子を離してはくれませんかね?」

 

 スコールの乗ったISから伸びたアームは箒を縛り上げている。四肢は力なく、意識がないことが分かる。

 

「あら。随分とこの娘にご執心じゃない。アンタみたいなのでもその程度の感情は持てるのね」

「そのような事は今は関係ないでしょう。もう一度言います、その子を離しなさい」

「嫌だと言ったらどうするのかしら」

 

 スコールは箒をさらにキツく締め上げる。箒は苦しそうに更に顔を顰める。そして、白夜は笑顔をより深める。

 

「ふふふ。それならば実力行使しか無いですよ」

 

 スコールに捕まった際に落ちたと思われる箒の荷物のうち、竹刀入れを拾い上げる。そしてそこから竹刀を取り出す。それを構えると、スコールは嘲笑するように笑い出す。

 

「そんなちゃちなものでISに立ち向かおうなんて非常識よ」

「戦場では非常識な事ばかりですよ。それに私に今更何を言ってるのですか?」

 

 その声は前からではなく後ろなら聞こえた。ハイパーセンサーを持ってしても察知できなかった。既にその腕には箒が抱えられており、持っていた竹刀は完全に壊れている。

 女は先ほどまでの上機嫌な笑顔とは全く逆の、怒りに染まった顔をする。しかしそれは一瞬で、普段の表情に戻った。

 

「ちっ。これだから規格外は。やっぱりコレと対等に戦えるのはMしかいないか……」

「独り言を言っているようですが、まだ続けますか?貴女1人であれば、数分もあれば簡単に殺すことは出来てしまいますよ?」

「もういいわ。今回はこれでおしまい。ISとの戦闘時のデータも取れたし、おとなしく撤退させてもらうわ」

「そうですか。私も箒ちゃんを無事保護出来たので、これ以上の戦闘は出来るだけしたく無いので嬉しい限りです」

 

 女が空に飛び立って行くのを見送り、箒を一旦地面に下ろす。それからその場に散らかっている箒の荷物を集め、集め終わると箒を背負い帰路についた。

 

 

「白夜さん…」

 

 居間に敷かれた布団の中箒は目を覚ました。薄くぼやける中、部屋を見渡すとすぐ脇に白夜が座っていた。手元を見るとその手は箒の手を握っている。

 

「痛むところは無いですか箒ちゃん」

 

 手を握った彼が優しく語りかける。今はその優しさが箒にとって辛いものとなっている。

 

「強く縛り上げられたせいで少し跡が付いていますが、違和感はないと思いますが」

「はい、大丈夫です……」

「それは良かったです」

 

 白夜は箒の手を握っていない方の手で頭を優しく撫でる。すると、自然と箒の瞳から涙が溢れて来た。

 

「……すみません」

「どうして謝るのです?」

 

 いろいろ考え口から出てきた言葉だった。数年間育ててもらい、一緒に暮らした彼に迷惑をかけたことに後悔が生じた。

 

「もうここには、いれません。出て行きます……」

 

 上擦った声を絞り出す。

 もうここにはいれない。これ以上いたら更に迷惑をかけることになる。前もって政府の人間に「何か問題が起きたら場所を変えなければならない」と言われていた。それは確かに頭の片隅にはあった。寧ろ今日まで何も起こらなかった事の方がおかしかったのである。

 

「大丈夫ですよ箒」

 

 箒は白夜から初めて名前だけで呼ばれる。

 

「きっと貴方の事ですから、私に迷惑を掛けたくない。だからこの場を離れなくてはいけない。と考えている事でしょう」

 

 握られていた手が更に強く握られる。

 

「でもそれは要らぬ心配です」

「えっ?」

「私は貴女の師匠です。師匠が弟子を護れなくて、どうして自らを師匠と名乗ることで出来ましょう」

「ですが……」

「箒は私のことを信用出来ませんか?」

「そんな事は無いっ!!」

 

 白夜は放棄に微笑みかける。

 

「なら私の事を信じて下さい。何があろうと私は貴女を護りますから」

 

 その言葉に箒は嬉し涙を流す。箒は白夜に縋り付く声を上げて泣く。きっとそれはこれ迄の辛さを含めた嘆きだったのだろう。

 

 

 その後箒は泣き疲れて眠ってしまった。白夜はが見える縁側に座りお酒を嗜んでいた。しばらく誰かがいる予感がして声を掛ける。

 

「そろそろ出てきたらどうですか?」

「ありゃりゃばれちゃったか」

 

 おとぎ話のアリスの服装を着て、更にうさ耳を付けた奇抜な女性が現れた。政府の人から事前に見せてもらった資料の中にあった人であるとすぐに白夜には分かった。

 

「確か箒ちゃんの姉の篠ノ之束ちゃんでしたっけ」

「そうそう、私が篠ノ之束。箒ちゃんのおねぇちゃんっ!」

「何か御用ですか?」

「うん。ちょっと昨日の事とこれからの事で話があってね」

「そうですか。立ち話もなんですから、座って下さい」

「それじゃ、お言葉に甘えて」

 

 白夜の言うとおり束は縁側に腰掛ける。

 しばらく沈黙がその場を埋める。

 

「どうして今日になってこちらに来たのですか?箒ちゃんが私の家に来てからずっと私達を見張っていたのに」

「なーんだ、やっぱり気づかれてたか」

 

 束は足をパタパタと動かす。

 

「本当は私の可愛い箒ちゃんが見知らぬ男の所に行くのは嫌だったから貴方達のこと見張ってたんだ。でも、すぐ箒ちゃんがあなたに懐いちゃって、まぁそれでも見張り続けていたんだけどね」

「そうだったのですか。貴方は箒ちゃんから聞いていた通りの人ですね」

「えへへ。今日も本当なら私がすぐに助けに行きたかったんだけどね。私の方もそれを邪魔されちゃって」

「そうだったのですか」

「そして今日は箒ちゃんを助けてもらったお礼と今後の事について話をしたいと思ったの」

 

 白夜はお酒を一口呑む。

 

「今日も含め、これまで箒ちゃんを助けてくれてありがとうございます」

「どういたしまして。まぁ、私はそれほど感謝されることをしたとはおもっていませんがね」

「それでもいいの。とっ、それでこれからの事なんだけどどね。箒ちゃんは高校はIS学園に行く必要があるの。私の妹って事もあるし、なによりあそこなら私がプログラムした防衛システムがあるから安心なの」

 

 むしろこれまでここに居るのがアイツらに知られなかったことが奇跡。そのように束は付け加える。

 

「分かりました――」

「なら良いの。貴方の仕事はこれでおしまい」

「――でも、私がそれに付いて行ってもいいですよね?」

「へぇ」

「箒ちゃんを護ると約束してしまいましたからね。IS学園に行っても、卒業後の安全は確実では無いのですよね?」

「それはそうだけど」

「ならば、私も付いて行って彼女に生き抜く術を教える。これで如何でしょうか?」

「その言葉を待っていたっ!!」

 

 束は笑顔で縁側から庭へと駆けて行き、ビシッと指を白夜に向ける。

 

「良かった良かった。貴方がIS学園に行く手筈はもう整えているからそう言ってくれてよかったよ」

「もし私が言わなかったから?」

「その時は……ね?」

「ふふふ、そうですよね」

 

 二人の笑い声が闇夜に静かに木霊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして運命は回り始める。

 箒は束から送られてくるISの知識に関するテキストで受験勉強をしながら、ISに乗った時のことを想定した剣術を白夜に教わる。

 白夜は箒に自分もIS学園に行くことを伝えず、何事もないかのように日々を暮らす。

 

 

 

 

 さて、原典から大きく逸した彼女はどんな物語を刻むのだろうか。

 

 

 




少し書き直すつもりが3,000字ほど増えてしまったので、改めて投稿させて頂きました。
今後も沢山の文字数が増えたら再投稿させて頂きます。

変更前とか気になる人いるんですかね?どうでしょうか。




これからもよろしくお願いします。
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