例えばこんな篠ノ之箒 作:々々
男性はそれを優しく受け止めるべし。
それが聖夜の掟なのだから。
私は先ほどのラウラとのやり取りでの異様なテンションを恥ずかしく思いながら、最後のプレゼントを届けるべく廊下を歩いている。
最後は確か簪と本音の部屋だったかを楯無さんからは『生徒会のメンバーだからサンタの事知ってるから起きててもそのまま入って』と言われているので、コソコソせずに部屋に入るとしよう。
特に何が起こるでもなく無事に部屋の前までたどり着く。扉に耳を当てると中では二人して何やら楽しそうに話しているのが聞こえるので、素直に部屋をノックする。
「あいてるよー」
友達同士の会話としては普通なのだが、サンタとしてこれでいいのかと思うが、今思うと私は別にこの企画に乗り気だったわけでもなく、そして時間も迫っているという事もあってそのまま部屋に入る。
「おつかれしののん」
「箒さんお疲れ様でした」
中では二人してゲームをしていた。私は肩に担いでいた袋を下ろす。プレゼント自体は量子化されているため重さはないのだが、量子化する為の機械のせいでそこそこの重さがあるため結構きついのだ。
「二人は寝なくていいのか?」
「うんっ!この後お嬢様とお姉ちゃんが来るからそれまで待ってるの」
「お姉ちゃんお菓子持ってくるって」
「そうか。それなら私も早く食堂に戻ってサンタの仕事を終わらせなければな。そうしなければ、ここでのパーティーが遅れてしまう」
2人の手紙を見ようとしたところ、簪があることに気が付いて私に訊いて来た。
「ラウラさんはどうしたんですか?」
「ラウラか……。私をここまで連れてくるまでに犠牲になってしまった……」
おそらく今頃はシャルロットと一緒に寝ているのだろうか。楯無さんの言った『無事にまた会う』というのが達成できなくなったので、私は何を言われるのだろうか。
「あらら。らうっち脱落しちゃったのかー」
その言い方はどうかと思うのだが、事実であるため何とも言えない。
「さて情趣に欠けるが時間がない為直接的にはなるが、プレゼントは何が欲しい?」
簪と本音はニコニコしながら手紙の入った靴下を私に渡してきた。私は心の中で、直接欲しい物が書かれた手紙を渡されるというのは中々に可笑しい、笑いながら書かれている内容を見る。
簪の手紙には『アニメのフィギュア』、そして本音の手紙には『美味しいものたくさん』と書かれている。今日、これまで見てきた手紙の中で最も直接的な手紙だ。
ラウラから預かったプレゼントを含め、2人それぞれに2つずつプレゼントを渡す。簪には楯無さんから予め伝えられていた簪の好きなアニメのフィギュアを、本音には食堂で使えるお食事券をそれぞれ2人分渡す。
「はい。プレゼントだ」
「わぁい」
「ありがとうございます」
これまでは寝ている相手にプレゼントを渡していたのだが、こうやって面と向かって渡しそのままお礼を言われるというのも嬉しいものだ。
ふと時計に目をやると3時になるまであと少しとなっていた。もう少し2人と話を続けたいところなのだが、待ち合わせの時間までには食堂に行かなければならないためそろそろ部屋を出なくてはならない。
「少し時間が無いようなので私はここでお居間させてもらう」
袋を担ぎ上げ部屋をさろうとした時だった。後ろから楯無さんの声がした。
「大丈夫よサンタ4。貴女はここで終わりよ」
「えっ!」
何を悪役のような事を言っているのだ。そのようなツッコミをする間もなく首筋に手刀が落とされたようで、私の意識は闇に落ちていく。
私が完全に気絶するその直前「貴女にもぷれぜんとをあ・げ・る」と言う楯無さんの意地悪な声が聞こえたような気がした。
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随分と懐かしい匂いがする。とても気持ちが落ち着く。
私の意識はゆっくりと覚醒していく。それと共に小学生の頃良くしてもらっていたように頭を撫でられていることが分かる。数年ぶりにされるのだが何にも代えがたいほど気持ちがいい。ずっとこうしていたいと思ってしまう。
目は開けず頭を撫でられる感覚を堪能しながら、私の頭を撫でる白夜の手に触れる。いつも刀を振るっているにも関わらず、それほど固くなってない手の感触は昔と同じままだ。
白夜が近くにいるだけで安心する。聖夜のせいなのか疲れのせいなのか分からないが、今はただこの幸せな時間を満喫することにする。
「箒ちゃん起きてますよね」
白夜の優しい声が耳に届き鼓膜を震わせる。
「いや、寝ているぞ」
「そうですか。ならまだ続けましょうかね。箒ちゃんの髪は撫で心地が良いですから」
私は見え透いた嘘をついた。白夜はそれが嘘だとわかりながらも髪を撫で続ける。こっちに来てから、更には中学生になってから鍛錬の時以外は白夜とここまで触れ合う機会がなかった為とことん甘えてしまおう。
普段なら恥ずかしく行動に移す前に躊躇ってしまうのだが、今日は何故だが簡単に行動に移してしまえる。
暫く白夜に撫で続けられる事数分。目を瞑っているため時間の感覚はひどく曖昧である。そして私の耳に聞こえるのは頭を撫でられる音と白夜の呼吸のみ。
「なぁ白夜」
「どうかしましたか、箒ちゃん?」
「今何時くらいだ?」
楯無さんに気絶させられるてこの部屋に運び込まれてどれくらいだったのだろうか、そんな疑問が湧いたので白夜に訊く。
「箒ちゃんが連れて来られてから10分も経ってませんよ」
気絶させられてからはあまり時間が経っていないようだ。頭を撫でられた時間を考えると気絶していた時間は結構短いようだ。鍛錬の青果が出ていると考えると少し嬉しいが、今思うことではないのですぐ忘れることにする。
白夜の頭の撫で方や頭に伝わる感触、そして白夜の匂いがすることからおそらくは膝枕されているのであろうと予測する。
ふふふ、それならば少し意地悪をしてやろう。声のする方へ寝返りを打つ。丁度半周した時、つまり私の顔が白夜の顔の方を向いている時、私の顔は白夜のお腹に触れた。
前触れのない行動にびっくりしたのだろうか、白夜が驚いた声を上げる。私は白夜が驚くということの珍しいから少し笑ってしまった。しかし、私の顔は物凄く赤くなっていることだろう。顔が焼けるように暑い。
今日は
「白夜」
「なんですか?」
「私にプレゼントはないのか?」
白夜と出会ってからというもの、最初は子供扱いされているようで断っていたのだが、クリスマスには毎回白夜からプレゼントを貰っている。
今年は色々ありバタバタして、そのような余裕がないことは分かっているが、やはりないと少し寂しい。
「そう言えば忙しくて聞くのを忘れてしました。箒ちゃんは何が欲しいのですか?」
「……キス」
言ってから自分の発言にびっくりする。だが既に言ってしまった事を撤回するのは何だか嫌だ。
「分かりました」
「へ?」
まさかのOKが出ることに驚く。どうせ冗談だろうと思っていると、白夜は私に膝枕をした状態で腕を伸ばし近くのテーブルに置いてある何かを取ろうとしているのが分かる。
「それではこちらを向いてください」
「なななななっ!」
まさか本当になろうとは!
再び寝返りをうち上を向く。そこには久々見る白夜の顔がある。顔の近さは後ろから教えてもらう時と変わらないのに、膝枕されながら見上げるといつもと違って恥ずかしい。
真っ直ぐ白夜を見つめることが出来なくて目を逸らしてしまう。
「頬を染めて可愛らしいですね」
そう言って白夜は顔色変えずに私の頬に触れる。恥ずかしいことを言っているのに顔色を変えないのはずるい。
「リップを塗るので動かないでくださいね」
程よくぬるいリップが白夜の指で塗られていく。
「さて、これていいですかね」
「びゃ、白夜は塗らないのか?」
どれだけ冷静にしていようと思っても声が上ずってしまった。
「私は箒ちゃんに塗る前に塗り終えてますよ」
よく見てみると確かに白夜の唇にはすでに塗られていた。……もしかしてその指で私も塗られたのだろうかっ!しかし、これからキスをするというのに間接キス如きで動揺してられん。実際はしてるから、更に顔が暑くなっている。
「行きますよ箒ちゃん」
「う、うむ。かかって来い」
「力を抜いてください」
にっこりと優しく微笑む白夜が覆いかぶさるように私の顔に近づいてくる。私は目を強く瞑る。
優しくしっとりとした感触を唇に感じる。
白夜の長髪から白夜の香りがしてきて、キスの感触とともに私の頭をくらくらとさせる。
たった数秒の出来事なのに何分ものように思えるほど幸福な時間。出来るならばこの時が続いて欲しいと思うほどの幸せ。
キスを終え白夜が唇を話すとき、無意識に「あっ」と言ってしまった。
「満足しましたか?」
惚けている私の頭に白夜の声はよく響く。その言葉の内容を理解するのに、いつもの数倍の時間がかかってしまう。
「箒ちゃん?」
「まだだ。まだ、たりん」
恥ずかしいが思った素直に自分の気持ちを伝える。
「そうでしたか。それはすみませんでした」
再び白夜の顔が近くなる。今度は目を瞑らずに白夜の瞳をじっと見る。白夜の黒曜石のように真っ黒な瞳に吸い込まれるよう、私達は見つめ合ったままキスをする。
一度経験しているため、熱は先程までよりも少ない。しかしそれでも私の頭をとろけさせるには十分であった。一回目よりも長い時間唇を合わせる。そして白夜は唇を話した。
私はそれに少しばかりの物足りなさを感じた。
「まだだ」
滑舌が怪しかったが、きちんと意味の持つ言葉を言えた。離れゆく白夜の頭を包むようにして、再び近づける。
「箒?」
ここで「ちゃん」を外すのは狡すぎる。
「まだ。まだ足りない」
唇が触れるのを確かめたら白夜の口内に私の舌を忍ばせる。キスだけでは感じることのできない甘さが伝わってくる。互いの舌を交わらせて、吸ったり、口蓋を優しく撫でる。
私の息遣いも荒くなり、白夜の息遣いも荒くなる。
時間を忘れて、私は白夜とキスを続ける。先程までと違うのは、私が主体となって白夜が受身になっていること。
互いの息が苦しくなるのを自然に感じ、唇を離す。
「案外、気持ち良いな」
「箒は、本当に、初めてなのですか?」
深く呼吸をしながら、一言一言ゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「あぁ。私のファーストキスは、白夜のものだ」
少しばかり呼吸が収まり、目の前にある白夜の顔を見ると今まで見たことのないほど火照っている白夜が目に映る。白夜はひどく艶めかしく、普通の男性が醸し出す色気とは別の色気を醸し出している。
「そうでしたか。実を言うと私も初めてだったのですよ」
照れ臭そうに笑う白夜に見とれてしまう。
何だか、男女が逆な気もするがこの際気にならない。
「なぁ、白夜」
「はい」
「最後にもう一度したい」
「いいですよ」
白夜は私の頭と腰に手を当てて、私を優しく起き上がらせる。
「最後はゆっくりといきましょうね」
そう言うと白夜は腕を広げ、抱擁の体制を取る。私も覚悟を決めて白夜に体を近づけ腕を白夜の背中に回す。あの時と同じように、優しくも力強く私を抱きしめてくれる。
そうして暫くこの時間を楽しむと、少し近場を弱め顔を向かい合わせる。
「メリークリスマス、箒」
「あぁ。メリークリスマス」
ヒーローとヒロインが逆転した《後編》は如何でしたでしょうか?ようやく恋愛タグが仕事をしましたね。
《前編》がラウラとの青春モノ。《後編》が白夜との恋愛モノと言った感じです。
作品の雰囲気に合わせるため、擬音を用いずにキスを表現するのは難しかったのですがこんな感じでいいですよね。25日の夜に一人何してるんだという中での執筆だったのでとても虚しかったです。