例えばこんな篠ノ之箒 作:々々
あの暖かさに触れたのは何時ぶりだろうか。
真っ暗な小さな部屋の中で少女は一人、ぽつんと座り考える。『ラウラ・ボーデビィッヒ』少女に付けられた仮の名前。遺伝子強化人間として作り出された
元々は別の識別のされ方をしたのだが、彼女が生を受け薬物や教育によって物心をつくまで
薄暗く教えられた事しか知らず、言われた事しかしなかった彼女にとって初めて見る日の光はあまりに眩しすぎた。それでも彼女は見えない先に、何かを見た。
「ここが表立って活動している最後の施設ですね……。来るのが遅くなってしまいましたね。残っている子達も少なそうですし」
初めて見る服を着た、見たことも無い男の人が何やら刃物を持って立っている。明るい背景を背にする彼からは圧が発せられており、彼女を含め施設の子たちは皆震えている。
彼女の周りにいる研究員たちが一斉に発砲を始める。しかし聞きなれたその音だが、いつもとは違っていた。放たれた銃弾が肉を貫く鈍い音ではなく、何かに弾かれる鋭い音。
「そんな事をしてはいけませんよ。周りの子たちに被害が出てしまいますからね」
彼女の顔に赤くべっとりした何かが付着する。
男は屈み込み着ている服でそれを拭いとる。
「あ、あなたは」
「貴女がVですか……。ふむ、確かに似ていますね」
男も座り込み目線を合わせる。場違いなほどの笑顔が彼女の瞳に映り込む。それは暖かく、今まで感じたことの無いものだった。
他の研究員はその男が一人の研究員を殺すのを見て、皆一斉にこの部屋から立ち去る。男はそれを追う様子はなく、継続して少女の目を見て尋ねる。
「ここにいる人で全員ですか?」
少女は首を縦に振ることで肯定の意を伝える。男が部屋を見渡すと、同じくらいの女の子が6人いる。幸いなことに、栄養失調のようなものは見られるが四肢は揃っている。それだけで儲けものである。
「取り敢えず、この国で私が頼れるところに向かいます。皆さんがどうするかは任せますが、ここより人間らしく
彼女たちは彼の手を取った。その人が誰なのか、そんなことは関係がなかった。初めて感じる、教えられただけの家族というものを心のどこかで感じていたのだから。
「おにいちゃんっ!」
施設から連れだされた合計7人の子どもたちは男とその仲間によってドイツ軍まで連れて行かれた。それぞれが男によって名前をつけられた。一人を除いてつけられていたアルファベットから始まるものだったが、Vと名付けられた少女だけは違った。
男はなぜ彼女がVであるかを理解し、改めて彼女に
「どこかに行くのか?」
「えぇ、少々一つの所に長居してしまいました。尻尾が捕まらずにやることが無かったということもあるのですが……」
「もう会えないのか?」
「私に出来るのは貴女達を救い出すことでした。歩き方は教えました。これからどう歩いて行くかは貴方達次第です」
涙目になっているラウラの頭を撫でる。
「軍の中での生活となりますが、私の名前を使って色々なところに予め牽制しているので大変な目に会うことはないでしょう」
「いやだっ!」
しゃがむ彼に抱き着き、その場に止めようとする。しかしその行動も虚しく簡単に抱きかかえられてしまう。手足を精一杯動かし抜け出そうとするが出来ない。
「それが貴女達のため、と言い切るのは私のエゴなのかもしれません。それでも私はここを出なくてはなりません」
「ぐすんっ」
抱きかかえていたラウラをおろし、再び頭をなでる。
「これが最後ではありません。貴女の人生はこれからです。再び会うこともあります。それに、新たな出会いもあります。そんな悲しい顔をしないでください」
「ほんとうに?」
「本当にです。大事なのは笑顔でいることですよ。でも、私のようにいつも笑ってるのは良くありませんがね」
私にとって初めての太陽だったあの人はその後すぐに姿を消した。彼がどこに行ったのかを知る者はいなく、彼の事を細かに覚えてる者もいなくなった。私でさえ、顔や声を思い出せる程度であった。
それからもう一人彼の似た人と出会った。彼とは違う暖かさを持った教官は、私のあこがれの的となった。教官に弟がいると知って、羨ましく思い嫉妬はしたが、それと同時に弟とも会ってみたいとも思った。
「なにっ!?おにいちゃ……白夜がIS学園にいるだと」
「そうですが。どうかしましたか隊長?」
「いや。なんでもない」
時は経ち、ラウラが自ら道を切り開きシュヴァルツェア・ハーゼの隊長まで上り詰めた。
「それで、その情報は確かなのか?」
「はい。ドイツからIS学園に行った者によれば、噂通りのいつも笑顔な男、つまり雨宮白夜がいたと」
ドイツ軍からも男性操縦士とコンタクトを取るため一人送るための人員を出すよう頼まれている。とすると、私が言っても良いのではないか。
表では部下にむけて凛々しい顔をしているが、見えないように小さくガッツポーズをし心ではあまり見せた事のない笑みを浮かべている。
「それならば私自らIS学園に赴くとするか」
「隊長が自らなどいけませんっ!」
「くっ!離せクラリッサ!止めるでないっ!」
「例えドイツ軍が友好的にしていても雨宮白夜に接触するのはいけませんっ!」
「兄様が、兄様が待っているんだっ!」
その一言にクラリッサの動きが止まる。
「なっ!つまりは、隊長がいつも言っている白兄様や白おにいちゃんとは雨宮白夜のことだとっ!?」
「言っていなかったか。すまん」
「スマンじゃないですよっ!離れ離れになった兄を思う可愛らしい妹、萌えの対象である隊長の兄が……」
「そう言えば上層部は知っているが、お前たちには言ってなかったな」
「なんて軽い……」
「私は誰にも止められないっ!ふははははっ!!クラリッサ私は行くぞっ!!」
クラリッサの制止も聞かずラウラは昔からよく知る人にその旨を伝えに行った。そこで知ったのが篠ノ之箒という存在。校内ではよく二人でいる所を目撃されていると伝えられた。
再び会えるという喜びと兄を取られた悲しさや嫉妬の両方を抱えながら、隊に与えられた部屋に戻る。先ほどとは違うラウラの様子にクラリッサは何があったか尋ねる。
「兄様といつもいっしょに居る女がいるらしい」
「きっとそれは妻でしょう」
ノータイム、なんの疑いもなくクラリッサはラウラに返答する。
「私が集めた雑誌にありました。日本の妻は夫を支え、常に側に控えていると」
「なんだと!?」
「つまり、その方は隊長にとっては
「わ、私は認めないぞっ!私がこの目できちんと見るまでっっ!!!!」
かくしてラウラのIS学園行きが決まった。
「んっ」
そんな今までの事を思い出す夢を見た。どうして私はこのような夢を見たのだろう。夢などここしばらく見てなかったのに。
ラウラはまだ覚醒しきっていない頭であれこれ考える。しかし答えは簡単なところにあった。それはラウラの左手に繋がれている暖かい手。
私が握り返すと相手も握り返してくれる。しかしその感触は数年前のものと少し違う。細い指で柔らかい感触だが、どこかふんわりとしている。その理由は目を開く、誰の手かをかくにんするとわかった。
「ほう…き……」
「ようやく目が覚めたかラウラ」
ふっ、これでは私が認めぬわけにはいかないか。おにいちゃんと同じ暖かさを持った箒をおねえちゃんと認めぬわけには、な。
「大変すまなかった!!私のせいで危険に晒してしまってっ!!」
千冬がやって来てアレコレと何があったかを説明したあと、VTシステムの影響を見るため今日は保健室に泊まることとなった。その中、箒も去ろうとしたのだがラウラが手を離そうとしないため保健室から出ることができなかった。
千冬が去ると、ラウラはいきなり土下座をして謝りだした。
「顔を上げてくれ。あれはラウラが意図してやったものではないのだろう。それならラウラが謝る必要はない」
「しかしそれではおにい……兄様に顔向けが出来ないのだ」
どうしても土下座の体制を崩そうとしないラウラに箒はどうしようか悩む。そもそも今回の件は不慮の事故であり、既にVTシステムについて知っていたため被害もそれほど無い。何だか申し訳ない、と。
しかしこうして続けていれば結果として、謝らせ続ける事になる。ここは私が折れるしかないのか。
「ラウラの言いぶんはわかった。だから、顔を上げてくれ」
「しかし、それだけでは……」
「ならっ!私の質問に答えてくれ、それでこの件は終わりだ」
「ぐぬぬ。箒がそれでいいなら……」
渋々と言ったラウラにほっと一息をつく。
「何を聞きたいのだ?」
「なぜ私にあんなにも絡んできたかとか、ラウラの言う兄様とは誰なのかとかなのだが。ふむ、どれにしよう」
「それは同じような質問だ」
「えっ」
「兄様は白兄様、日本では雨宮白夜と言ったか」
「ラウラが白夜の妹?」
という事は白夜はあのような身なりをして少なくともハーフということか。いや、その前に私と同い年の妹がいるにも関わらずドイツにおいてきたというのか!?
「血液的には繋がっていないがな」
「なんだ……。ひとまず安心した」
「それでだな……私が箒にあのような事をしたのは、箒が羨ましかったのだ。箒は白夜の妻なのであろう、いつも一緒にいると言うのが羨ましかったので」
脈絡のない事に箒は訂正することも出来ず、ただ顔を赤らめて口をパクパクしている。ラウラもその様子に気が付くことなく言葉を続ける。
「たった数年だったが私は兄様といれて幸せだった。だから箒に嫉妬した。私だって兄様といつも一緒に居たかったもん。その事を部下に話したら『妹とは兄のお嫁と喧嘩して仲良くなるものなのです』と言われてた、それを実行したのだ」
箒は呆気にとられものも言えない。
「しかしだっ!それは私の間違いであった。一日にも満たない時間しか共に時間を過ごしていないが、兄様が箒のことを好む理由がわかった。だから私は箒を兄様の妻、そして私の義姉様として認めよう」
「ラウラ」
「なんだっ?」
「言っておくが、私は白夜の妻ではない……。将来はそうなりたいが」
「しかしいつもそばに居ると。日本ではそのような関係を夫婦と呼ぶのではないのか」
「いや、それは勘違いだラウラ」
「つまり私は騙されていたと」
「……」
沈黙が気まずい。
「し、しかしだ。そんな勘違いがあったからこそ私達はこうして仲良くなれたではないか。そうだろうラウラ」
すこし落ち込んでいたラウラの表情が明るくなる。
「うむ。何がともあれ、箒は私の義姉様だ」
「それはできれば遠慮させてもらいたいのだが……」
「ダメだったか」
ラウラの潤んだ声と涙目のダブルパンチが箒を襲う。
「だ、ダメではないぞ」
「つまりっ!箒は私の」
「あぁ、私は今日からラウラの姉だ!」
それと同時に保健室の扉が開き、千冬がやって来る。どちらも大きな声で言っていたので、間違いなく保健室の外まで声が漏れていた。そう思うと箒は恥ずかしくなり、駆け足で保健室を出て行った。
「なにがあったんだ?」
「二人の秘密です。教官」
そんな会話があったことを箒は知らない。
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恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。絶対聞こえた。次にどうやって千冬さんやラウラと会っていいか分からない。どうしよう、どうしよう。
保健室から離れるように、放課後の廊下を早足で歩いて行く。この気持ちを落ち着かせるために自室へと歩いて行く。放課後のため廊下ですれ違う人もたくさんいる。
その中、急いでいるにもかかわらず、ただ一人だけ箒の意識を無意識の内に奪いさった人がいた。ほんの一瞬だったため気にも止めないようにも思われたが、箒はその人を見るために振り返った。
様々な国からの人が集まるIS学園でも目立つような光沢のある真っ赤な髪。毛先が整えられ、肩より短めに切られたその髪から微かに見えたのは鋭い目。
箒はその人を見て動きを止めた。着ているものはスーツであり、以前見た時の制服とは違う。だが、その人が誰であるかはすぐに理解した。
見られていた女性もその目線に気が付いて振り返った。一瞬目を獣のように更に鋭くしたが、すぐにそれを収めニコニコと箒の方に手を振りながら近づいた。
「ハロハロ、お久しぶりね元気だった?」
「お前はっ!?」
「随分と元気がいいね。ふふふ、前にあった時はお世話になったな」
「どうしてここにいる」
その女の腕を引っ張って人気の少ない方へと歩みを進めながら尋ねる。
「アタシもアンタに倒されたあと死ぬのかなー、拷問されるのかなーとか思ってたんだけど、なんか役に立つから生かしておく。なんて言われちゃって。くはは、人生って何があるか分からないから面白いわね」
まっ、私は人間って行けるほど人間じゃ無いんだけど。と、箒からしたらよく分からないことを付け加える。
「私達に被害を加える心配はないと」
「うん。ウチが入っても信用されないと思うけど、わたくしはそんなことするつもりは無いよ。ほんとほんと」
あいもかわらず掴めない性格をしている。一人称も口調もコロコロと変わり、どれが本物なのか掴めない。
「本当か気になるなら、君の姉かここの理事長それか白さんに聞けばいいよ」
「なるほど。白さんとは誰だ?」
「そりゃ、ここにいる白さんと言ったら一人しかいないっしょ」
「やはりか。しかし、前は『アレ』と読んでいなかったか?」
「それはそれ、これはこれよ。私にだっていろいろとあるのよ。ととと、これから用事があるのに貴女と話しちゃったわ。取り敢えず、これからもよろしくね箒ちゃんっ!」
「イマイチ納得できんが、わかった。えーっと……」
「
「ビーだな。それではまた」
Bは周りを気にせずにフラフラと歩いて行った。
「しかし、
一人道を歩きながらそんな言葉をこぼした。
今日は箒にとって色んなことがある一日だった。朝イチで転校生に絡まれ、その後国家の陰謀に巻き込まれ。更には昔対峙した敵と再会を果たしたりと。
――今日はつかれた。久しぶりに大浴場に行って体を休めるかな。
箒の長い一日はこうして終わりを迎えた。
転校一日目これにて終了。
トーナメント戦までの話を一話挟んでの、トーナメント戦ですかね。
VTシステムは一回お手つきしてしまったので、しばらくは出番ありません。
故にトーナメントはがっちり戦いますよ。きっと。
次の更新は2巻分が書き終わってから、連日で投稿したいと思います。
一ヶ月以内を目処にして、閑話にクリスマス回を入れたいところですがどうなるんでしょうかね……。
クリスマス回だけの投稿になってしまうかもしれません。
引き続きこの作品をよろしくお願いします。
次回
ラウラ「おねえちゃん。初めてだから優しくして」
箒ちゃん「言われなくとも分かっているさ」
乙女たち「「「きゃーーーーっっっ!!!」」」
一夏くん「やめろぉぉぉっ!!!!」
おたのしみに