例えばこんな篠ノ之箒 作:々々
口調とか性格が変わってます。
「失礼します」
無事にIS学園の試験に合格することのできた箒は、今日から入る事となっている寮の寮長に挨拶に行った。予め渡されていた紙には寮長室ではなく、職員室に来るように書いてあり箒と白夜は二人して首を傾げた。
ちなみに箒は白夜がIS学園に来る事を知らされていない。当然、箒が政府の命令でIS学園に行くことが決まった時は猛反発した。彼女の中では近くの高校に進学するか、もしくはこのまま白夜と一緒に畑を耕したり剣の腕を高め合うつもりだった。
しかしやはり政府からの命令には逆らうことができなかった。それでもIS学園に行く事を拒否した箒を白夜は何とか説得し、箒は嫌々ながらも行く事にした。家を出る時は「箒ちゃんが困った時には直ぐに助けに行きますから」と言われ、顔を染めたのを昨日の事のように思い出せる。まぁ、昨日の事の為思い出せて当然なのだが。
「一年篠ノ之箒です。一年寮の寮長に挨拶に伺いました。寮長さんはいらっしゃいますか?」
まだ春休みの為職員室には余り人が居らず、そこまで大きな声を出さなくても職員室全体に声が届いた。
「寮長さんならそちらの部屋にいますよ。指導室なんて名前ですが、ただの個室だから利用しているそうなのでそうビックリしないでください」
近くにいた緑の髪の胸の大きな女性が親切に教えてくれた。
「ありがとうございます」
きちんと礼をして感謝の言葉を述べる。これから長い付き合いになる人とは仲良くなる事が大切だと、繋がりを大切にする田舎生活で知っている箒だった。
教えてもらった扉の前でコンコンコン3回叩く。ふと初めて白夜の家に行った時に似ているなと感じた。どんな人が居るのか分からず、また中の雰囲気も分からなかった為である。
「一年篠ノ之箒です」
「入っていいぞ」
「失礼します」
何処かで聞いたことのある声だと思いつつ扉を開ける。そこには小さなテーブルと2つの椅子が対面で置かれており、手前の席は空いておりもう片方には寮長が座っていた。その寮長の姿を見て箒は「あっ」と声を漏らした。寮長は織斑千冬だった。姉の知り合いという事で良く交流もあり、彼女の弟とも仲良くしていた。
「お久しぶりです千冬さん」
「久しぶりだな篠ノ之。つもる話が有るだろうが、これからまだまだ挨拶に来るものがいるから取り敢えずは座れ。それと、ここでは織斑先生と呼ぶこと」
「分かりました織斑先生」
椅子に座り千冬の顔を見る。昔と変わらずキリッとした顔付きで、髪型も相俟って狼のようだと思った。
「お前も大変だったな。姉のせいで家族とも離れ、その次はIS学園か」
「確かに大変でしたが、私にはとても大切な経験となりました。ここでの生活もきっと私にとって糧となるでしょう」
「ふむ。剣道の大会で優勝したから慢心していると思ったが、どうやらそんなことは無いらしいな」
彼と出会う前の状態でもし優勝していたならば慢心していただろう。しかし、今の状態で慢心しようものならば確実に白夜にその天狗の鼻を折られている。
「顔付きも昔とは違うな」
「色々ありましたからね。家族と離れ離れになってから今まで一緒に暮らしていた人が、そんなことを許しませんでしたし」
その発言に千冬は眉を顰めた。
「ん?ずっと居たというのか?」
「はい。流石に学校の時まで一緒ということはありませんでしたが。何かおかしな点が?」
「私も昔は国家代表だったから、お世話になった篠ノ之家の情報はよく耳に入っていたのだが、篠ノ之の父と母は半年単位で場所を変えていたぞ。篠ノ之の情報は中々入って来なかったが、変わらず元気だと聞いていたが」
箒にとってその言葉は初めて聞くものだった。初めて政府の人にあった時もずっとその場所に居続けると云う事を聞かされていたからだ。
「そうだったんですか」
「時間も無いな。何か聞きたいことがあるなら1つだけ答えてやろう」
壁にかかった時計を見た千冬が言った。
「なら、一夏についての事なのですが」
「なんだ」
「私が居なくなった後も剣道を続けていましたか?彼の腕がきちんと伸びていれば全国に来ていても可笑しくは無かったのですが」
少しバツの悪そうな顔をして答える。
「アイツは中学校の時に辞めた」
「そう……ですか……」
「悲しそうな顔をしているな。アイツとの繋がりが無くなって悲しいのか?」
「そう言う事じゃありませんが。昔から一緒に剣道をやってきた物が剣を捨てるというのはやはり悲しいものですね。小学校や中学校の同級生も高校に進学すると同時に辞める者が多かったですし」
「てっきりアイツとの思い出が無くなって悲しんでると思ったのだがな」
「確かに一夏にはそのような感情を向けていました。でも離れて分かったんです。私のあの気持ちは只の憧憬だったのだと」
箒の目は凛々しく、力強いものだった。
「この数年で立派な成長を遂げられたみたいだな。時間だから自室に向かえ。既に同室のものがいるから仲良くな」
「わかりました織斑先生。では、失礼します」
礼をして退出していく箒を見送った。
「随分と成長したな」
自分しかいない指導室に独り言が木霊した。
ここIS学園では入学式の日から直ぐに授業が開始される。そして箒が所属する一年一組は静寂に包まれていた。その理由は単純で、世界で唯一男でありながらISを起動できる織斑一夏がいるからだ。彼の事でコソコソと話す女子もいた。そして箒は席に座って呆然としていた。
「…ねぇ篠ノ之さん、大丈夫?」
後ろの席に座っている同室の鷹月が心配そうに尋ねた。
「あぁ、大丈夫だ」
呆然としていた理由は、一夏が同じクラスだからと云う訳では無い。その前の入学式に原因があった。
入学式の後の新任紹介の時に、暫く会えないと思っていた彼、白夜が現れたのだ。何時もと変わらない笑みを浮かべていたが、箒からしたら只の愛想笑いにしか見えなかった。彼は正式な服装ではあったが、相変わらずの和服であった。去り際に箒を見つけると、柔らかい笑みを浮かべて、彼女に手を振っていた。
時計を見るとHRまで残り少しとなっていたため、気持ちを切り替える。焦っているであろう一夏に目線を向けると、丁度彼もこちらを見ていた。もう少し時間があれば声を掛けれただろうが、時間は無い。取り敢えず親指を立て頑張れと伝えてみる。
HRと自己紹介が終わり、千冬の登場ですっかり疲れきった一夏の元へと箒は向かって行った。
「久しぶりだな、一夏。元気だったか?」
机に突っ伏していた一夏が顔を上げる。
「おう、久しぶり!やっぱり箒だったか。いきなりサムズアップをするから、他人の空似かと思ったぜ」
「昔の私ならしなかった事だろうからな。余計困惑させてしまったか」
「でも、そのお陰で少しリラックス出来たから助かった」
「ふふふ、そうか。しかし私も一夏もIS学園に来る事になるなんて、何処かの天災の陰謀のようだな。お互い大変だ」
「それを言うなら箒の方が大変だったんじゃないか?いきなり家族とも離れて暮らすことになってさ」
「確かに昔は憤りを感じたが、今からすればそのお陰で今の私がいるからな。そう言えば一夏、まだ剣道は続けているか?」
「いやぁ、その……」
「何てな。その事は既に織斑先生から聞いている。大方、家計のためとか言ってアルバイトをしていたのだろう」
「何で分かるんだよ」
「その事についてもまた後で話してやろう。今は時間が無いから、晩御飯の時にでもな」
「あぁ、じゃあな」
一夏に手を振り自分の席に戻る。
「ねぇねぇ、篠ノ之さんって織斑くんとどんな関係なの?」
後ろから肩を叩いて鷹月が聞いてきた。
「只の幼馴染さ。それ以上でもそれ以下でもない」
「でもでも、しののんは恋愛感情とかないのー?」
近くの席にいた布仏が便乗してきた。数週間前から寮で生活しているため、布仏からのあだ名呼びにも慣れていた。
「昔はあったが、過去の話だ」
「そうだよね。篠ノ之さんの意中の相手はあの人だもんね」
「もしかして新しく来た用務員の人?一目惚れってやつ?」
「それが違うのよ本音。新しい用務員の人とは昔から知り合いなんだよ。だよね篠ノ之さん?」
「なっ、何を言っている!?」
「だって篠ノ之さん、毎晩私にお休みを言った後に彼との写真に向かっても言ってるし、毎朝その写真を見て…ムグっ」
「ちょっと黙れ。もう少しで授業が始まる、ほら準備をしろ」
「ぷはぁ、この事は後で根掘り葉掘り聞かせてもらうからね」
はぁ、どうやら初日から大変な事に成りそうだなと溜息を漏らさずにはいられなかった。
箒と鷹月の寮の部屋の扉のインターホンが鳴った。相手が誰かを聞かずに扉を開けた鷹月が固まり、一向に戻ってこない彼女を疑問に思った箒も向かった。
「って事は小学生の時から一緒に暮らしていたって事ですか?」
「そう言う事に成りますね。あの、質問に答えたので部屋に入れてもらってもいいですか?」
「ハイハイどうぞっ。あっ、篠ノ之さん!彼が来たよ!!」
視線の先には彼の姿があった。
「久しぶりだね箒ちゃん。こんなに会わなかったのは初めてじゃないかな。修学旅行の時も引率の先生の代わりに付いて行きましたしね」
突然の訪問に箒は焦る。既にシャワーを浴びており、ラフな格好をしていたからだ。家にいた時には感じなかった羞恥心が襲ってきた。
「それは私が卒業記念であげた寝間着じゃないですか。着てもらっているようで嬉しいですね」
「これって雨宮さんが選んだんですか?」
「何かあげられるものをと思いましてね。今日は進学祝いを持ってきましたよ」
差し出されたのは竹刀の入れ物だった。入れ物だけな訳もなく、竹刀も中に入っていた。
「すごい」
鷹月が言葉を漏らした。あまり剣道を知らない鷹月にでもわかるほど、その竹刀は美しかった。
「箒ちゃん用に作った竹刀ですよ。ちゃんと二刀流もできるようになってますし、何より今まで振るってきた竹刀の中で一番手に馴染むはずですよ」
箒は竹刀を振るわなくても、握っただけで分かった。これまでに無い程自分に合う。
「ありがとうございます」
「可愛い弟子のためですからね。さてと、私はここらへんでお暇しましょうか。まだ食事もまだでしょうからね。鷹月さん、箒ちゃんの事をよろしくお願いします」
「任されました!」
どこまでも自分を思ってくれた彼の事を考えつつ、彼がくれた竹刀をぎゅっと抱きしめた。
それをニヤニヤした顔のルームメイトに見られ、顔を赤くしたのはまた別の話。
乙女な箒ちゃん可愛い。そう思いませんか?
家事も出来て、胸も大きくて、大和撫子。そんな彼女に死角はない。
二人を邪魔するのはきっと何も無いはず。
そう信じたい。