例えばこんな篠ノ之箒   作:々々

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今回限りの名前無しモブが出てるので苦手な方は気を付けてください。


過去最長の一万字超えですので、それではどうぞ。


原作1巻 終

 IS学園の教室屋上に白夜が一人佇んでいる。髪と同じく、全ての光を吸収してしまいそうな黒の生地に彼岸花が描かれている着物を着ている。女性物であるそれは中性的な顔の彼には良く似合っていた。腰には左右に刀が一振りずつ存在しており、柄及び鞘も黒で統一されている。彼にはそんな雰囲気に合わないものが耳に付いている。

 

 

「こちらの準備は完了しました」

 

「りょーかい。こっちも配置についたから準備できたよー!でもでも流石の天才()でも数の暴力には勝てないからね」

 

「そちらは私の知り合いがきちんとカバーしてくれると思うので安心していいですよ。配置している所は完璧ですが、それ以外の所をどれだけ上手く対処出来るかが問題になりますね」

 

「そうだね。そこで白くんの出番だから、そこまで気にしてないんだけどね」

 

「それは嬉しいことです。流石の私でも千里眼そのものは持ってませんので誘導はお願いしますよ。もしそっちが狙われた時は対処を優先してもらって構いませんが」

 

「『千里眼そのものは持ってない』って似たものは持ってるのか……。うんわかった、何かあったらそっちを優先するね。まぁ、それでも白くんとの通信は特別製だから通信できるから、場所だけは伝えられるよ。それじゃ一旦通信切るね」

 

 

 白夜側の戦力は全員を含め10人ばかり。半分が戦闘班、もう半数が通信班となっている。人数は少ないながらも練度は並ではない、手練達である。

 

 

「出来れば何も起こらなければ良いのですが、そうなること事はありませんかね……」

 

 

 白夜の呟きは風に掻き消され、そして白夜の姿も消えた。

 

 

 既に一夏vs鈴の試合は始まっていた。箒はセシリアと共に管制室に連れて行かれ、そこで試合を見ていた。クラスメイトと観たかったが、千冬に直接来いと言われて断るわけにはいかなかった。更に、一緒に来たセシリアはモニター越しながらも一夏の戦いを近くで見れて興奮している。

 

 一夏は雪片弐型一本で鈴の双天牙月二振りによる攻撃を的確に捌いている。セシリアとの決闘で見た剣よりも格段にレベルが違っており、真耶のみでならず千冬も感嘆の声を出した。

 

 

「凄いですね織斑くん。前より剣筋が良くなってますよ!」

 

「そうだな。何の為に剣を振るっているかが伝わってくる。篠ノ之、アイツに何を教えた」

 

「何をと言われましたら『剣を』としか言いようが有りませんが。どの様なと言われたら『護る剣』を教えました」

 

 

 そう言われ一夏の剣を見ると確かに、攻めていると言うよりは受けている。箒は言葉を続ける。

 

 

「セシリアとの戦いの前まで、剣を思い出すためだけに教えていたのですが、その際の宣言に基づいて方向性を与えました。みんなを護る為の『決して折れない剣』、逃げるのに十分な時間を稼ぐ為の『受ける剣』を。それによって、攻撃の機会が減りますが」

 

 

 一夏が双天牙月を受け続け鈴が体制を崩したその瞬間を狙って零落白夜を放つ。それは見事に鈴に当たり、シールドエネルギーを大きく減らす。

 

 

「こんな風に予め決めた攻撃に合わせて零落白夜を発動させられるというメリットも有りますからね。後は一夏が忍耐力を付ければこの戦闘スタイルは完成します」

 

 

「なるほどな。それは白夜の教えか?」

 

 

「そうなりますね。私自身も考えるようになって更に良くなったので一夏にも、と思いまして。まあ私は攻めて攻めて『相手を倒す』ことを念頭に置いてるので、指導は白夜から一度聞いたものを教える感じでしたが」

 

 

 その時だ、突然アリーナと客席の間にあるシールドが音を立てて砕け、一夏と鈴の間に何かが落ち、土埃が生じる。真耶や他の教師や生徒が端末を使い観客を避難させようとするが全てエラーとなる。

 

 

「織斑先生!!!」

 

「落ち着け山田先生」

 

「落ち着いてなんかいられません!現に織斑くんと凰さんが!」

 

 

 ドンドンと扉が強く叩かれる音がする。生徒達は何者かがここまで来たと考え慌てふためく。

 

 

「やは……きま……んか。人も……ようですし、斬ってしまいますか」

 

 

 次の瞬間強固な扉の外枠が斬られ、大きな音と共に倒れる。悲鳴を出して驚く者もいたが入って来た白夜の見たことも無い覇気にあてられ静かになる。

 

 

「千冬さん、これをお願いします」

 

 

 ジャックの付いた小さな黒い装置を千冬に投げ渡す。それを受け取ると、やはり彼女の親友作の物だとわかりメインコンピューターに刺す。すると、先程までエラーしか吐き出さなかった個々のパソコンが正常に使えるようになる。パソコンは生徒が触れるまでもなく、遠隔操作によりハッキングに対応している。

 

 

「やっほーーー!みんな元気かな?」

 

 

 場違いな声がスピーカーからみんなの耳に届く。

 

 

「現状はどうなっている」

 

「挨拶もないなんてちーちゃんつれないなー。非常事態だから仕方ないけどね。うーんとね、IS学園のネットワーク系は全て掌握されたよ」

 

 

 前半のおちゃらけた感じが無くなり、室内に緊張が生じる。

 

 

「扉のシステムを奪われるどころか、学園のコア管理システムまで乗っ取られるし。専用機持ちはISの起動どころかオープンチャンネルさえ使えない。その例外として別枠で管理されてたいっくんと本登録されてなかったチャイナは無事なんだけどね」

 

「大丈夫なんだろうな?」

 

「流石の(天才)でも数の暴力には勝てないね。十倍を相手にするのがここまで難しかったとは。何処からか見ててほくそ笑んでる奴には悪いけど、こっちが後手に回るのもここまでなんだから!とりあえずオープンチャンネルは使えるようになったから、いっくんと連絡は取れるはずだよちーちゃん」

 

 千冬は急いでマイクを付け二人に声をかける。

 

「聞こえるか!?一夏!凰!」

 

「千冬ねぇ!!聞こえてるぜ!」

 

 

 一夏の無事を確認できた千冬は真耶や生徒の前であるが安堵の息を漏らす。

 

 

「こっちは鈴も含めて無事だ。突然やって来た奴も全然攻撃して来ないし」

 

「ふふふ、それについては私がせつめいしよー」

 

「えっ!束さん!?」

 

 

 ここにいるはずも無い束に驚くが彼女は言葉を続ける。

 

 

「悪の組織(仮)から送られてきたそれに用いられてる技術は、私の物を100%転用した物だからちゃちゃっとものの数秒で掌握出来てしまうのだ!いっくんの所に落ちた瞬間自由を奪ったから、滅多滅多のぐっしゃぐっしゃにしていいんだよー」

 

「でもこれ人が乗って」

 

「それは無人機だからやっていいのだよ。んじゃよろしくね!」

 

 

 一夏の声がフェードアウトしていく。

 

 

「さてと、次は生徒の避難だったけかな。こんな時にまとめて講堂で待機させるのもどうかと思うけどね。ちーちゃん、オープンチャンネルを使って連絡はついた?」

「事前に決めていたとおり扉の前に待機させたが、システムの奪還は終わってない今何も出来ないぞ」

 

 

 学園長や千冬、束と白夜等で事前に手筈を決めた時はここまで攻撃が激しくない元で作られていた。しかし現状はアリーナの扉を開けられないほどシステムが侵されている。

 

 

「そこで白くんの出番だよ」

 

「しかし白夜にはアレ(迎撃)があるだろうが」

 

「ねえ白くんどれくらいかかる?」

 

「そうですね。ここからですと一分ですかね」

 

 

 ここからアリーナへの距離を知っている者はあまりの短さに驚きの声をあげる。

 

 

「一分か、着いてから扉を斬り、そこから現場に向かうと更に時間がかかって本来の仕事が出来なくなる。危険だがアリーナに居てもらったほうがまだ安全だな」

 

「何言ってるのちーちゃん」

 

「そうですよ千冬さん。ここからあれこれして現場に着くのが一分ですよ」

 

「っと、そろそろ到着しそうだから白くんはもう行動始めちゃって」

 

「分かりました」

 

 

 白夜は返事をすると共に姿を消した。

 

 

「もう行ってしまったか……。お前らも避難を開始しろ、ここから講堂までと距離は長いからすぐに行動を始めろ!」

 

 

 千冬の命令に箒達生徒は返事をし避難を始める。

 

 

「束さん、敵さんが来るまでどれくらいですか?」

 

「あと五秒!急がないとやばいかもかも」

 

 奥歯からガリっと音がする程強く歯を噛み締め強く()()を踏みしめ、空間を跳ぶ。一秒が何分にんにも感じられるほど意識を集中させる。耳には束のカウントダウンが聞こえる。

 

 

「…2、1、0!」

 

「なんとか間に合いましたね」

 

 

 IS学園全体を囲むように防衛を築いていたが、ただ一箇所だけ見ただけでは分からなく第二陣だけが穴だと分かる場所を作っていた。

 

 敵も馬鹿ではなく、発見の報告が無かった白夜が来るのを防ぐ為に、白夜が遅れるためIS学園に送ったスパイを使った。しかし、その目的は達成されなかった。

 

 

「ちっ、やっぱり化物ね」

 

 

 白夜の前には数人の人と、アリーナにやって来た無人機が三体いる。それぞれが武器を構えて臨戦態勢になっている。

 

 

「こんな化物を作ったのは貴方達なのですがね。それにしても、ここにこれだけの戦力が来るとは思っていませんでしたね。もう少しばかし、他の所に行くと思ってたのですが」

 

 

 話をする白夜に無人機が斉射する。レーザー系統ではなく実弾だ。IS武器であるそれは普通なら人間をミンチにしてしまう程の威力がある。しかし、相手が普通ではなかった。それた弾丸による土煙が晴れると全てを飲み込むような漆黒の柄にそれとは逆の全てを拒絶するような純白の刀身を抜いた白夜が傷一つ無い状態で立っていた。

 

 

「いきなり撃ってくるなんて酷いじゃないですか?」

 

 そんな事を言いながらも彼は笑みを浮かべる。それだけで見ている人にとっては不気味である。白夜は再び刀をしまう。

 

「それよりもここで時間を使っていいのかしら。他にも潜入しようとしているところもあるのに、貴方が行かなくて大丈夫なのかしらね」

 

「随分私を高く買っている様ですね。……別にそこまでの力は有りませんよ?それに、私以外の人たちの方が強いですし。ましてや学園内にはもっとですしね」

 

「戯言もいい加減にしてくれないかしら。各国の軍を圧倒した貴方が言っても嫌味にしか聞こえないわよ」

 

「それは私と貴方の強さの基準が違うからですよ。ふむ、私が居なくなった間に随分と考え方が変わったようですね。私の強さの基準は貴方達から教わったものですし。それだけの月日が流れたという事ですかね」

 

 今まで白夜と会話をしていた女のもとに「各防衛を突破した」という連絡が入った。女はニヤリと笑う。

 

「お仲間さんはやられてしまったそうよ」

 

「らしいですね。私の方にも連絡が来なくなってしまいました」

 

「それじゃ、私達もそれに続くとしましょう!」

 

 

 その一言が戦いの火蓋を開けた。IS3機の内2機が左右から白夜を挟み込み切り込んでくる。体制を低くする事でそれらを躱すが、そこに残り1機がビームを撃ちこんでくる。低い姿勢のまま前に進みビームを避け、砲身を蹴り上げる。その最中、残りの者が銃を撃つが全て刀によって切り落とされる。

 

 

「チッ。もっと火力を高めなさい!」

 

 

 インカム越しに後ろにいる操縦部隊に指示し、ISによる被害を受けないように後ろに下がる。戦いは激化する。元々白夜達が敵を誘い込むように空けていた場所は木も少なく芝生があるだけの平らな土地であったが、既に芝生の殆どが消えていた。

 

 マシンガンの様に3機から止めどなく銃弾が襲いかかってくるが、その殆どを躱し幾つかを刀で切り落とす。人ひとり簡単に潰せる威力を持つ腕力から繰り出される剣を受け止め後ろに流す。攻撃が激しくなっても白夜には傷一つ付いていない。

 

 しかし、時間が経つにつれて不利になるのは白夜である。人の身である白夜と違いISには擬似ながらもコアがついており、白夜が先にスタミナ切れになる恐れがある。更にはまだ一度も白夜は攻撃をしていない。振るわれた刀は攻撃を受ける為だけであった。

 

 ここにいる亡国機業からすれば中に入れないのは焦れったいが、他に潜入した者達の時間を稼いでいる為それ程苦ではない。更に彼ら自身は何もしていないので気持ちは楽なのである。

 

 

「そろそろヤバイんじゃないかしら。あなたもそうだけど、後ろのIS学園の中とかは更に」

 

「そんなことはないですよ!」

 

 

 返事をして防御が遅れた白夜は、まだ抜いていない方の刀を後ろに投擲する。だが、それは後ろからやって来るISには当たらなかった。しかし避ける為に白夜に至るまでのルートを変えた為白夜に迫るまでの時間が少し増えた。その僅かな時間を用いて、白夜は土を踏みして跳躍しISを避ける。

 

 どちらにも軍配が上がらない状況の中変化が生じる。それは全く別の所からだった。彼女のインカムから、最も危険な者からの声が聞こえる。

 

 

「はろはろー、聞こえるかな亡国機業のみなさーん」

 

 

 インカムから束の声が聞こえる。他の者にも同じく聞こえているらしく困惑の表情を浮かべる。白夜とISの戦闘は尚も続いている。

 

 

「きっと皆は『どうしてコイツが我々の通信に割り込めるんだ?彼女が何も出来ないように抑えていた筈では』と。だめだめ、ただの凡人が私に勝とう何て何万年早いんだよって話だよ。そんなのパパっと終わらせたけど、アンタらを誘い込む為に梃子摺ってる様に見せたの。それに、さっきの防衛が破られたって連絡も嘘だよ!その嘘にだまされたそれぞれの所で今一生懸命戦ってるけど、誰一人として中には入れて無いんだよね。それなのに、IS学園に入り込んでるスパイはここぞとばかりに姿を表してるけど、無駄なのにね〜。それがこっちの目的だったからこっちとしては万々歳なんだけど。さてと、私の役目はここまでかな、皆も終わらせちゃっていいよ」

 

 

 ブツンと通信が切れるとともに、大きな物が倒れる音がする。音源に目向けると白夜が刀をちょうど納めていた。

 

 

「という事でこれでこの茶番は終わりです。なかなかいい訓練には成りました。どうぞ、帰っても良いのですよ?」

 

 

 何事も無かったような顔が更に彼らを苛立たせる。結局は掌の上で踊らされていたと気づいた時何かがキレた。武器を取り出し白夜へと向かう。ある者は銃を撃ち、ある者はナイフで襲いかかる。それも虚しく、全て白夜に防がれる。

 

 

「私としては貴方達の上司、つまりはスコールちゃんが命の勘定すら出来ないかと思うと悲しいですね」

 

「何よそれ。つまり、私達の命よりもアンタの方が重いってことなのかしら!」

 

「そういう事ではありませんよ。むしろ逆です。こんな私に貴方達分の命の価値はありませんよ」

 

 

 それぞれが声を上げ武器も持たずに最後の特攻を仕掛ける。これに応えるはただ一つの音だけ。鞘に刀をしまう音と同時に彼らの首が落ちた。

 

 

「さてと、これで一段落ですかね」

 

 

 彼は変わらず笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少し遡る。具体的には白夜がアリーナの扉を開けに行った後の事。管制室にいた生徒は3年生の先導の元講堂へと向かっていた。何度か訓練しているとは言え実際に起こるとなると訓練通りに出来るはずもなく、駆け足で足早に行動へ向かう。幸いだった事に、その場にいた1年生は代表候補生のセシリアとこの様な事では動じない箒だけであった。

 

 そんな二人はセシリアが転んでしまった事もあり、集団から少し離れた後方にいた。まだ集団が見え更に箒が避難経路を知っているという事で特に焦ることなく移動していた。前を行く集団が角を曲がり、少し遅れて同じく角を曲がると数メートル先に足を押さえ床に座っている人を見た。彼女も自分と同じく転び遅れたのだと考えたセシリアは彼女に駆け寄る。

 

 

「立てますかしら?」

 

 

 セシリアは彼女に手を差し伸べる。箒も近付くと、彼女の顔に何か黒い物を感じ取る。セシリアはそれに気づいていない。彼女の手がセシリアに触れるその瞬間、黒い何かが膨れ上がるのを感じ、差し伸べられた手と逆の手を掴み自分へと強く引っ張る。

 

 

「っ!」

 

 

 バランスを崩さないように抱き着かれたような体制になっているセシリアは、手があった場所に警棒が振り下ろされていた。当たっていたら骨折は免れなかっただろう。

 

 

「なにをするんですの?」

 

「なーんだ外れちゃったか」

 

 

 後ろに飛び二人から距離を取った彼女はイタズラが失敗したかのようにカラカラと笑う。

 

 

「イギリスの代表候補生とミス束の交渉材料、うふふ私嬉しいわぁ。こんな幸運がやって来て。でも両方同時だと私お腹いっぱいになっちゃうかも」

 

「何が言いたい」

 

「分かんないの?どっちか片方を見逃してやるっていってるの。あんたら二人が私と戦っても勝てないしね。それでもー、私達の味方が他にも沢山入ってるからここから逃げれたとしても安全だって保障は無いんだけど」

 

 

 警棒の先端が肩に当たるように軽く叩きながら提案を述べる。セシリアと箒は目を合わせる。

 

 

「ここはセシリアが戻れ」

 

「何を言ってるんですの?ここは二人して戦ったほうが」

 

「相手はなかなかの手練だ。連携の練習をしていない私達が二人がかりで言っても逆にお互いを危険に晒すことになる。それよりだったら私の方が戦える」

 

「ですがそれでは……」

 

「ねぇまだかしら?そろそろ飽きてきちゃったんだーけーどー」

 

 口調自体は砕けている怒気が見え隠れしている。

 

「いいから行けセシリア!」

 

「……分かりましたわ!必ず助けを連れてきますの!」

 

 

 セシリアがオープンチャンネルで千冬に助けを求めながら、講堂へと駆けていく。

 

 

「あら、あなたの方が残ったのね」

 

「不満があるのか?チラチラと私の方を見ていたから、私が目的だと思っていたのだが。とんだ自意識過剰だったらしいな」

 

「そーゆーワケじゃないの。アンタの方が優先度が高いから、あなたが目的だと言っても過言じゃないんだけどね。ただ、さっき君が逃がした娘は捕まえても殺しても良くて君は生きての捕獲が絶対だったから、それなら殺しても良い方が望ましかっただけ」

 

「その様な考え方は狂っている」

 

「それをアンタが言うか。私もこうやってスパイと潜入してたからこの願望を抑えてたんだけど、この間のアンタとアレの戦いを見たら体が疼いちゃってね。今回の襲撃の際に暴れる役に立候補しちゃったわ。こんな感じで前口上は良いかしらね、無手でどう殺し合うのか分からないけど」

 

 

 肩に担いでいた警棒を下ろし、体の前で構えて戦闘態勢を取る。

 

 

「私は殺しあうつもりはさらさら無いがな。武器に関しては使えるものはコレだけだが無いよりはマシだろう」

 

 

 そう言って髪を留めているリボンを解く。髪は重力に従い腰辺りまで垂れている。

 

 

「髪が長いせいで動きづらいが、無手で戦うよりはマシだろう」

 

「り、リボンって。くくくく、笑いが止まらないんだけど」

 

 

 さっき取った体制を崩してまで腹を抱えて彼女は笑う。先程まで髪をくくっていたリボンはそれ程長さはない。本当に髪を結うためだけにある物だった。それ故に長さも必要最低限しかなく、何年も使っている為柔らかくなっている。

 

 

「あひゃひゃひゃ。いやー笑わせてもらったね。やっぱりアレの弟子だけあって、アレの性質は受け継がれているわけなのねー」

 

「先ほどから言ってるアレとは、もしかすると白夜のことか?」

 

「あーうん。そだね」

 

 ころころと口調や表情を変えていた彼女は突然無表情になる。

 

「そんな名前だったけかね。まぁいいさ、早く殺り合おうよ」

 

 何事も無かったように戦闘が始まる。彼女と箒の距離はさほど無く、数歩駆けるだけで攻撃範囲に入る。

 

「ふっ!」

 

 

 振り下ろされる警棒を危なげも無く躱す。それから何度も警棒を振るうが箒はその全てを避ける。相手の攻撃を見極めると素早く手首にリボンを巻きつけ手首から上を動かないようにする。

 

 

「何するのよっ!」

 

「っ!」

 

 

 リボンで警棒を無効化しそのままリボンごと相手を引き寄せ、鋭い蹴りを放つ。しかしもう片方の手で防がれてしまいダメージは最小限に抑えられてしまった。

 

 

「いいねいいね!こう来なくっちゃ!」

 

 

 恍惚の表情を浮かべる彼女に言いようのない恐怖を感じ半歩下がってしまう。その隙を見逃す彼女では無かった。体制を低くしてロケットの様に飛び出す。先程とは比べ物にならない速さで迫ってくるも完全に射程を見極めていた箒は余裕を持って避ける。いや、避けたつもりだった。

 

 

「だめだめ敵を前にしてるのにそんな、間合いを見切ったからって慢心しちゃ」

 

 

 彼女の癖なのであろう警棒で肩を叩く動作をする。そこで箒は気付く。彼女の肩に触れているのは警棒の先端ではなく腹の部分であり、警棒が伸びているという事に。箒が警棒の長さの違いに気付いたことに彼女が気付き言葉を並べる。

 

 

「これ凄いわよねー。私も良く仕組みは知らないんだけどナノデバイスを警棒に仕込み、私の体と波長をリンクさせるとかなんとかで無理やり伸ばせるようにしたらしいわ。まぁ使えれば良いのだけれど」

 

 

 彼女の言葉を聞きながら箒は怪我の具合を確認する。避け損なった際に警棒が当たってしまった左腕は折れてはいないものの動かすだけで痛みを生じ、使い物にはならない。

 

 同時に、リボンを用いての戦闘が継続不可能になった事を意味する。リボンでの戦闘は至近距離で相手の行動を見切り、素早くリボンを巻きつけ拘束する事で攻撃を可能にする。防御においても張ることで警棒の攻撃を防ぐ事が出来る。しかしそれは両手が使えるという条件下の元、手にした物を手先の延長の様に扱えるという時にしか出来ない。

 

 このまま戦闘を続けても箒の攻撃が相手の動きを止めることなしに当たることはなく、仮に当たっても警棒によるカウンターでこっちの方が痛手を負うことは容易に想像できる。だからと言って、避けることに専念した所で自由自在に長さを伸縮出来る警棒を毎回目視し全ての攻撃を避けるのは無理に等しい。どうする、戦闘経験の少ない箒は圧倒的不利な状況に焦りを覚える。

 

 

「あっるぇー?もしかして一発貰っちゃっただけで終わりですか?つっまんねー。不完全燃焼なのはしゃーねーが、さっさと意識を落として連れてくか」

 

 

 コツコツコツ、ゆっくりと箒へと近づく。動け動けと幾ら念じたところで足は動かず棒立ちのまま。自分の不甲斐なさと情けなさに視界が歪む。

 

「それじゃばいばーい」

 

 

 箒に至近距離から頭めがけて警棒を振り下ろされる。

 

 

 

 ドンッ!

 

 

 

 その音は箒の頭部から出た音ではない。二人の間に存在する、壁に刺さった()()()()()から出たものだ。彼女は警棒を振り下ろす最中に刀が()()()()()ことに気づき、後ろに飛ぶことで刀によるダメージを無くした。

 

 箒はその刀に見覚えがあった。管制室に来た白夜が腰につけていたものだ。彼女に勝てる僅かな可能性が生じたことによって箒の諦めかけていた心に再び炎が宿る。

 無事な右手と口を使ってリボンを左手に巻きつけ強く縛り固定する。それから右手で廊下の壁に深く刺さっている鞘から刀身を抜く。刀身は僅かに紅みを帯びていた。

 

 

「綺麗だ……」

 

 

 こんな状況でも自然と口から出てしまうほど美しい。刃は潰されているものの美しさを失ってはいなかった。

 

 

「この状況でこんな事が出来るのはアレだけか。でも、たかが剣1つで状況が変わるほど私は弱くないしね」

 

「確かに貴様は強い」

 

「何よいきなり。その剣を手にして勝てる気でもしてるわけ?さっきまであんなに弱ってたのに」

 

「この刀が私に戦う気力を与えてくれる。この刀とならば貴様には負けない!」

 

「熱い展開になってるわね。いいわアタシもそれに乗ってあげる。全力を持って殺しあいましょう」

 

 

 互いに武器を構える。鞘は無いが腰に刀を付け居合の構えを取る。痛む左手は攻撃の際のブレを抑えるため、実質右手一本で刀を振ることになる。

 

 合図もなしに同時に動き出す。互いに一歩踏み出す。彼女はその一歩を踏みしめ、先程と同じくロケットの様に飛び出す。対する箒は自然体にただ一歩踏み出す。

 

 

 

 その一瞬で二人の体が交差する。

 

 

 互いの武器がぶつかり合う音もなく、体に当たる音もない。

 

 

 ただ聞こえたのは箒の背後で人が倒れる音だけ。

 

 

「はぁはぁ」

 

 

 彼女が倒れるのが分かってから刀を杖のようにし体を支えた状態で呼吸をする。ある程度落ち着いてから聴覚からだけではなく視覚でも倒れているのを確認する。

 

 

「すまんな。私の剣は『殺す』のではなく『倒す』物だから貴様の願いは…叶えられなかった…な」

 

 

 緊張の糸が切れ箒は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「束さん、箒ちゃんはどのあたりですかね?」

 

「ちょっとまっててねー。いまちーちゃんから教えてもらった場所を確認するから。……えーと、次の廊下を右に曲がったところだよ」

 

「分かりました」

 

 

 戦闘を終えた白夜は束から箒が襲われている情報を聞き現場へ向かっていた。彼自身は直感で箒が襲われている事を悟り刀を箒のもとに投げたため、既に箒が勝利を収めて戦いが終わっていると思ってゆっくり行こうとしたが、監視カメラがないところでの戦闘のため箒の状況が分からない束は早く行くように急かした。

 

 

「おやこれは」

 

 

 指示通りに角を曲がると、廊下に倒れている二人の姿があった。スパイである方の意識が無いのを確認して、箒へと駆け寄る。こちらも気を失ってる事を確認して横抱きする。

 

 

「箒ちゃんは無事!?」

 

「気を失っていますが無事ですよ。左手にヒビがはいっていたり、全身の筋肉がダメージを受けていますが治療すれば後遺症もありませんよ」

 

「よかったー。じゃ、そこのヤツの回収に何人か行かせるね」

 

 

 束との通信が切られる。ゆっくりと出来るだけ箒に振動が行かないようにと保健室へと歩みを進める。

 

 

 

 

 

「遂に箒もここまで出来るようになりましたか。ふふふ、これからの成長が楽しみですね」

 

 

 

 

 笑顔で呟く彼の声は人のいない廊下に消えていった。

 

 

 

 

 

 

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