例えばこんな篠ノ之箒   作:々々

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閑話 例えばこんな夏休み

「では行ってくる」

 

 私、篠ノ之箒がここにやって来てから早くも一年が経った。慣れと言うのは恐ろしく、初めは中々話せなかった白夜とも普通に話せるようになった。

 

 今日は近々ある夏祭りの為の浴衣を少し離れた商店街に買いに行くつもりだ。本当なら二人で行くはずだったのだが、その前に白夜が知り合いに会いに行くと言ったため私だけが先に行くことになった。別に私が浴衣が楽しみでその言葉を聴き逃したり、白夜の用事が終わるまで待てないとかでは決して無いぞ!!

 

「日焼け止めはきちんと塗りましたか?」

 

「ちゃんと塗りました」

 

 その他にタオルや水筒を持ったかと聞いてくる彼は、私の親代わり兼師匠である雨宮白夜。中性的な顔に長髪で遠目に見れば女性と見間違えるほど綺麗で、いつも笑顔なのが特徴だ。一年経つが白夜から言われているように敬語を外す事が出来ない。もう少し距離を縮めたいと思っているが敬語のせいでどうも上手く行っていない。

 

 しかし最近になって漸く笑顔の違いが分かるようになってきた。これは笑ってるなとか、これは心配しているのだな、とか。そして今は心配している様である。確かにここ最近熱くなっており熱中症に気を付けるのは分かるがここまで来ると心配のし過ぎである。

 

「あっ、これを忘れてましたね。うん、似合ってますね」

 

 ポフッと私の頭に麦わら帽子を被せる。

 

「私は知り合いの処に寄ってから行きますから、それまでは商店街で時間を潰しているんですよ」

 

 玄関の扉を開け家を出ていく。少し行って後ろを振り返ると白夜が手を降っている。私もそれに振り返して歩みを進める。先ほど似合ってると言われた麦わら帽子を深くかぶる。顔が暑いのはきっとこの気温のせいであろう。

 

 

 家から商店街までは歩いて15分ほどだ。その内10分は山の中を歩くので倒れそうになる程暑いということはない。それに、山と言ってもきちんと道は舗装されているし途中にベンチがありそこで休憩も出来る為疲れることはない。商店街の近くに小学校と中学校が在るので私にとっては通学路である。

 

「……ん。ぷはぁ」

 

 ベンチに座って水筒の中の麦茶を飲む。初めて白夜の元に行って出された物と変わらない味だから、これを飲む度に初めての日のことを思い出す。

 

 おそらく事情を聞かずに私を育ててくれている白夜にはどれだけ感謝しても足りない。白夜は基本一人で何でも完璧にこなしてしまう。私も家事を教わりながら手伝ってい入るものの十分ではない。こんな事を今考えても仕方がないか……。今急いで返そうとしないで良いのだ、私が大人になった時に返せば良いのだ!あれ?その時白夜は何歳になっているのだろうか?

 

「よしっ!」

 

 そんな事は一先ず置いて商店街まで行こう!

 

 

 世間一般では商店街がシャッター街になる事が多いそうだがここの商店街は活気に溢れている。近くに大きなスーパーが無いのもその原因だろうが、それだけでは無いと私は思っている。

 

 夏休みのような長い休み以外は学校帰りの子供や買い物に来る主婦で賑やかになるのだが、今日は夏休みの最中で更にお昼を過ぎた頃なので買い物客は少ない。しかしだ、私がやってきた事を感じ取ったお店の人達(私はこの人達は絶対に人の気配を感じ取る何かがあると思っている)が店前でより一層客引きをする。

 

「おっ!箒ちゃんじゃねぇか」

 

 商店街の初めの方に位置する八百屋の店主が声を掛けてきた。白夜に教わったやり方で気配を消したのにどうしてバレたんだろう……。八百屋の店主の赤村さんは苦手だ。こちらのことを考えずズカズカ来る感じが特に。何だか会ったばかりの一夏に似ているな。やっぱり白夜の様に調度良い距離感で接してくれる人の方が私は好きだな。

 

「どうしたんだ嬢ちゃん?いきなり懐かしそうな顔をしたと思ったら少し顔を赤らめて下を向いて」

 

「……なんでもありません!」

 

「そんなこと言われたらおじさん気になっ!アダっ!!!」

 

 突然声が大きくなった赤村さんを見ると頭を抱えてしゃがみこんでいた。そして後ろには丸めた新聞紙を振り終わった赤村さんの妻がいた。

 

「ごめんね〜ほうきちゃん。ウチの旦那が〜」

 

 どこかのほほんとした口調ではあるが、言いながらも何度も夫の頭を叩いている。

 

「いえ別に」

 

「余り小さい子に意地悪しちゃ、メッですよ」

 

「痛い痛い!もうやめてくれ!」

 

「そうですよ。私がいないからと言って箒ちゃんに意地悪してはいけませんよ」

 

「白夜!」

 

 後ろを向くといつもの着流しに羽織を着た白夜が立っていた。私は白夜のもとに駆けて行き赤村さん(夫)から身を隠すように白夜の後ろに周り着流しをギュッと握る。そんな私を見て白夜は、麦わら帽子を取り私の頭を撫でてくれた。

 

 ……はっ!こんな所を見られたらまた弄られてしまう。

 

「も、もういい」

 

「そうですか」

 

 白夜はそう言って頭から手を離してしまう。

 

「ふふふ仲が良くていいですね」

 

「そんな咲さんも旦那さんと仲が良いじゃないですか」

 

 咲さんというのは赤村さん(妻)の下の名前だ。しかし、知人を訪ねてからやって来ると言った割には早すぎる。

 

「これが仲がいいと言えるテメェの頭はおかしいんじゃねぇか?……まぁそんな事は言ったところで意味がねぇから良いんだが、商店街に来るのは遅れるんじゃなかったのか?」

 

「どうして私の外出予定が知られてるんですかね。別に構いませんが……。予め連絡しておいた筈なのですが家に居なくてですね、仕方ないと考えこちらに向かっていたのですが、その途中で何か嫌な予感がしたのですよ。それで急いで来たら案の定先ほどの様になっていたと言うわけです」

 

「やっぱし俺はツイてねぇな。唯一幸運なのは咲と結婚出来た事くらいかな」

 

 あらあらと言って咲さんは先程より強く肩を叩いている。ちょっと前に「仲が良くない」と言ってるとなると虹村さんはツンデレなのかもしれない。

 

「そんで、どこにいくんだ?」

 

「そこまでは知られていないのですね」

 

「知ろうと思ったんだけどー、出来なかったんだよねー」

 

 咲さんが爆弾発言をしたような気もするがきっと気のせいだろう。心なしか白夜が冷や汗を流しているのも気のせいだろう。

 

「箒ちゃんの浴衣を見に黒井沢さんのところまで」

 

「そりゃまた大層な事で」

 

「どうしてですか?」

 

 白夜の影から首だけだして赤村さんに尋ねる。浴衣を買いに行くだけでそこまで言われる理由が私には分からない。

 

「お祭りがあるなら浴衣を買う人がいるのではありませんか?」

 

 全員とは言わなくても小・中学生の女の子と言うのは夏祭りや花火大会に行くとなると良く浴衣を着ていたはずだ。

 

「あら、箒ちゃんは知らなかったのね。ここの町ではお祭りは無いのよ。と言っても夜店を出して夜まで騒ぐことはあるけど、それはお祭りというよりタダの馬鹿騒ぎだから少し違うわね」

 

「神社とか奉るものがねぇからな」

 

 ガハハと豪快に赤村さんが笑う。そこで私に一つの疑問が生じた。それなら何故白夜は()()()()()()()()浴衣を買いに行こうと言ったのか。そんな私の考えに気付いたのか、私が質問しなくとも白夜は言ってくれた。

 

「だって近々行く夏祭りは箒ちゃんの地元のお祭りですから」

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 少し腑抜けた声が出てしまったが、これは致し方無いだろう。そうであって欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて会話をしたのが数日前になった日。光の様に早く日々が過ぎていき、気が付いたら予定していた日付になっていた。戻ってくるのには電車や新幹線を乗り継いで結構な時間を掛けたが、私は殆ど寝ていたので長かったという感じはしなかった。

 ホテルに着くまでの道のりは一年前まで見慣れた場所が多かったにも関わらず、何年も前のように感じた。篠ノ之神社の祭りはそこそこ有名な為近くのホテルには私が思っていた以上の人がいた。人が多いためフロント前に列が出来ており、時間がかかる為私はロビーの椅子で白夜を待っていた。足をバタバタさせてみたり、上を見上げて綺麗なステンドグラスを見ていると白夜が戻って来た。

 そうそう、白夜の服装にも触れておかねばなるまい。1年一緒にいて和服姿の白夜しか見たことがなかった私は、てっきりここにも和服で来るとかと思っていた。しかし私の予想に反して、普通に洋服を着て来た。それに今流行っているものを普段着ているかのようだ。外見だけなら20歳前後なのだが先代の師範も知り合いというのとだ、本当は何歳なんだろう。

 

「さてリトちゃん行きますか」

 

「わかりました黒陽」

 

 今回はお忍びの為二人共偽名を使っている。白夜は黒陽、│私《箒》はリトという名を使い、苗字は晴城だ。白夜の名前は殆どを逆にしただけなので特にひねりはない。私のリトというのも白夜が決めたのだが、何故なのか分からなく白夜に聞いたのだがはぐらかされてしまった。長距離の移動のせいか偽名の事や明日の事を考えている内に眠りについてしまった。

 

 

 

 昔から代々受け継がれているものがたった4人が離れ1年経った程度では大きな変化は見られなかった。相変わらず異様に人口密度が多くなり、閑散としている境内が一番の賑を見せる。

 離れてはいけないと白夜と手を繋ぎ店を見て回る。金魚すくいや綿飴、リンゴ飴など定番の物が多く立ち並んでいる光景はいつ見ても心躍る。

 

「びゃく……黒陽!リンゴ飴が食べたいです!」

 

 普段なら遠慮してこのような事は言わないが、言わなければ後々白夜が面倒になりそうな気がするため、欲しい物は欲しいのお願いする。

 数分並んで手に入れたリンゴ飴を片手に持ち、もう片方の手には白夜の手がある。なんて幸せなんだ。屋台を見て回っているといつの間にか演舞の時間が近づいていた。余裕を持って向かったため私の身長でも見えるほど近くに行くことができた。

 元々は舞であった篠ノ之流剣技をそのまま舞として披露する。演じるのは女性であるため、ここ最近見ている白夜の物とは少し違っている。しかし、美しさで言ったならば白夜のほうが美しいと思う。

 

「どうかしましたかリトちゃん?」

 

「この違和感は何かなと。美しいのは美しいのですが、黒陽の物とは何処か違うような」

 

 舞を見終わった私達は建物の近くのベンチに座っている。ラムネを一口口に含んだ後で、白夜が教えてくれる。

 

「それは目的が違うからだと思います」

 

「目的?」

 

「私の教えているものは剣技としての特徴をより強くしたものです。一振りをどれだけ疾く振れるか。型と型をどれだけ疾くそして丁寧に繋げるかを優先しています。しかし、先程のは神に捧げるために美しさ、刀の美しいの振り方や型をどれだせ滑らかに繋げられるかに重点が置かれています」

 

「それだけで同じ流派なのに、ここまで違いが」

 

「結局の所、剣も人も同じなのです。目的によってそれ自体の本質も見え方も変わってきます。箒ちゃんより早く見つかれば良いですね」

 

 私の事を箒と呼んでしまっているが、ここで指摘するのは些か空気を壊してしまう気がするので黙っておこうと思う。その後はもう一度屋台を見て回り、晩御飯となるものを買い、そして食べた。

 いつもは寝ている時間になると自然と瞼が重くなってきた。まだ人は多く、ゆっくり歩いていると迷惑になるため、何とか白夜に手を引かれて歩いて行く。どうやら少し道を抜け、人だかりの少ない方へやって来た。

 

「リトちゃん、もしかして眠くなりましたか?」

「……すこしだけ」

 

 素直に言うのがどこかもどかしくて、誤魔化してしまった。白夜はそんな私の心の中に気が付いて、優しく笑い私に背中を見せ背を低くした。

 

「人の少ないところを通ってホテルに戻りますが、それでも時間はかかりますので背中で眠ってても良いのですよ」

 

 眠気に勝てなかった私は白夜におぶられる。白夜の背中は暖かくて、大きくて、とても安心感があった。

 定期的に白夜は私に話しかけて来て、それが更に心地よくて気が付けば夢の世界へと飛び立ってしまった。

 

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