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とある人から、『茶熊学園の歩み』という文集を作るとのことで、一筆頼まれてしまった。
テーマは特になく、茶熊学園で起きた事件や、印象深い出来事でも良いし、自分の日記みたいなものでも良いらしい。
そこは学園らしく、自由な校風に沿った文集なのだろう。
なので、あたしは最近の出来事を書こうと思う。そのほうが書きやすいし。
あたし自身、文化祭が終わるまでは、凄く濃い毎日だったのだけど、これは皆には秘密だしね。
というわけで、作文はあまり得意ではないのだけれど……、書いていこうと思います。
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修学旅行が終わってから、あたしの生活は少し変わった。しばらくは実感がなかったのだけれど、1週間くらいたって、そういえば奴らの襲撃が全くないことに気付いた。
なので、結構暇になった。
生徒会の仕事も手伝っているけど、文化祭前のような忙しさではないし、最近は会長さんも真面目に仕事しているので、あたしの仕事はほとんどない。
なにか、部活動に入ろうと思って、文化部を一通り見学したけど、しっくりくる部活が無かった。あたしは体が弱いほうなので、運動部はもってのほかだ。
というのは建前で、実はお財布事情の関係で、あたしはバイトをすることにした。
第2期生が入学したあとに出来た新しい食堂、『銀鮭カフェテリア』。
茶熊学園に来てから一番衝撃的だったのは、この食堂だったかもしれない。
当時は、世界のグルメフェアをやっていて、ジョジョエンヌの特性ランチや、ゼメキア風のリゾット、クジョウの島の懐石定食なんかもあり、とても安くて、美味しかったのを覚えている。
つまり、この食堂が気に入ったのだ。
特にバイトの募集はしていなかったのだけれど、頼み込んだところ、快く雇ってくれた。したがって、あたしは放課後そこで働いている。
グルメフェアは終わってしまったけれど、もともとあるメニューも安くて美味しい。
あ、でも今度、とある島の特産品を仕入れるらしい。どんなものか楽しみだ。
働き始めて三日目の放課後。
日が完全に落ち、そろそろ寮のほうでは晩御飯の準備が行われているであろうころ、あたしは、お客さんがちらほらといる中、空いているテーブルを布巾で拭いていた。
「ハルカ、ちょっときてごらん」
店主のグリーズさんにカウンターから呼ばれ、あたしはキッチンに戻る。
「どうしました?」
「ようやく、アレが届いたんだ。明日から店に出すから、ちょっと味見してみるかい?」
アレ。とは新メニューのことだろう。あたしは一気にテンションが高くなり、是非! とお願いした。
「ハルカはまだ若いからね。一口だけだよ」
「え? どういうことですか?」
「いいから、飲んでみな」
「飲む?」
てっきり食べ物だと思っていたので驚いた。まあでも、美味しいに違いない! と思い、少しだけ液体が注がれたグラスを口に運ぶ。
「ぐ……」
しかし、想像していた味と全然違った。なんだこれは! もっとこう、甘いものか、スカっとするジュースの類だと思っていたのに……。凄く、苦い。吐き出したいくらいだ。水が飲みたい。正直、不味い……。
グラスにはまだ少し残っているけど、もう飲めそうにない。
「はっはっは! どうだい? それが『バルラエール』さ」
「エールですか……。初めて飲みましたけど、とても苦いです~、こ、こんなの売れるんですか?」
「ハルカももっと大きくなれば、その美味さがわかるさ」
『バルラエール』。バルラ城塞王国という国の名物らしい。バルラ城塞王国のことは知っている。行ったことはないけど、たしか、『闇』の勢力の混乱によって一時期王政が不安定になったが、飛行島からやってきた少年達と協力し、問題を解決。今ではめまぐるしく復興し、活気を取り戻しているという話だ。もしかして、バルラ出身の学生もいるのではないだろうか?
もう飲めないので、残ったグラスをグリーズさんに渡すと、グイっと一気に飲んでしまった。
「エールは最高だね。その中でも特にこの『バルラエール』は格別だよ。おっと、お客さんだね。ハルカ、カウンターお願いね」
「あ、はい!」
お店の入口から生徒が二人、入ってきたので、あたしは仕事に戻った。
カウンターにつき、お客さんの注文を聞く。
「って、イサミさんに、副会長……」
なんか見たことあるなと思いきや、同じクラスの生徒だった。二人とも制服ではなく、シャツに着替えているので、わからなかった。
「これは、ハルカ殿。このような場で対面するとは驚きましたな」
「ハルカ君ではないか。ここで働いているのか?」
「そうよ。最近雇ってもらったの。イサミさんと副会長は部活終わったの?」
「ええ。ゲオルグとの稽古の後は、こうしてたまに、ここで休んでいるのです」
「なんだい? 友達かい?」
カウンター越しに話していると、奥からグリーズさんがやってきた。
「念のため聞くけど、あんたたち、いくつだい?」
グリーズさんはいきなり二人にそんなことを聞いた。
「む、年齢でしたら私は25でございます」
「自分は、27だ」
「そうか、なら大丈夫だ。ハルカに免じて、アレをサービスしてやろう。ハルカ、一杯ずつ出してやんな。注ぎ方教えてやるから」
「わかりました。イサミさんと副会長、注文は?」
二人とも、炭酸の飲み物だけを注文し、あたしが直ぐに作ってやると、二人は角の席について、歓談を始めた。
なんでも、副会長は訓練の一つとして、たまに道場に顔を出し、イサミと剣を交えているらしい。そして汗を流した後、このカフェテリアにくるのが日課だそうだ。
イサミさんと副会長。二人は物腰が良く似ていて、仲がいい。羨ましいと思う。あたしはあんなふうにつるんだりする友達はいないし、仮にいたとしたら、学園生活はもっと楽しくなると思うのだけど……。逆に仲が悪い人もいないけど。まあそれは普通か。
修学旅行ではマールと遊んだし、購買部でツキミのおだんご屋も手伝ったことがあるから、その時は楽しかった。
でも、謎の刺客とやりあってるときは、常に見張っていたし、緊張していて、そして心の奥ではちょっとだけ、孤独だった。
あたしは、エールの注ぎ方を教えてもらい、二つのジョッキを持って、二人の席へと向かう。
「ハルカ殿。それは?」
「バルラ王国の名物、バルラエールよ。明日から店に出すの。グリーズさんから、サービスだって」
「なんと、かたじけない」
「バルラエールか! 名前は聞いたことがあるが、実際に飲むのは初めてだ」
「私も初めてでございます。なんでも、ソウルが豊富に含まれているとか」
「自分は、心が充実している程、美味しく飲める。といううわさも聞いたことがあるぞ」
「へぇ。色々と云われがあるのね」
二人はそう言うと、一気に半分ほど飲んだ。信じられない。あんな苦いものをゴクゴクと……。あたしは、心が充実していないとでもいうのだろうか。確かに、最近はこう、暇を持て余してる感じがあるけど。
「はぁ、これは……! 想像以上に美味でございますな」
「鍛錬の後だと尚更だな」
「あたしは、苦くて全然飲めなかったわ」
「ハルカ殿には、まだ早かったかもしれませんね」
もっと歳を重ねれば美味しくなるのだろうか? エールとは不思議な飲み物だ。
一呼吸おいて、二人は残りの半分を飲み干してしまった。ジョッキはあっという間にカラになった。
「お、イサミ、いける口だな」
「ゲオルグこそ」
「なんだいあんたら、もう飲んじまったのかい」
奥からグリーズさんがやってきて、カラになっているグラスを見てにやりと笑っている。
「グリーズ殿。お心遣い、感謝致します」
「良いってことよ。おかわりするかい? さすがに2杯目からはタダじゃあないけどね。でも、今日だけ特別価格の200ゴールドにしといてやるよ」
「それでは、お言葉に甘えよう。いいな? イサミ」
「そうですな。明日は休みですし、今日は酒を楽しむとしましょう」
あたしは、カラになったジョッキを下げ、再びエールを注いだ。
その5分後。
なんとなく副会長達のそばを通りかかると、イサミさんと副会長はあたしを見ながら、ジョッキを掲げていた。
あれは、おかわりの合図だろう……。
「ハルカ殿、おかわりをお願い申し上げます」
「はいはい。明日からメニューにも乗るから、ちゃんと食券で注文するのよ」
「承知いたしました」
ジョッキを片づけて、エールを注ぐ。それを4回くらい繰り返したころには、店内にほとんどお客さんはいなくなっていた。
寮で晩御飯が用意されているはずなんだけど、あの二人は盛り上がっていて、なかなか切り上げようとしない。大丈夫なのだろうか? 今は副会長が、竜の国の事を熱心に語っている。でも8割が姫様とやらが絡んだ話をしている。イサミさんも砕けた口調で相槌を打っている。あれが酔っている、ということなんだろう。二人とも、頬が赤くなっている。
「ハルカ殿! エールのおかわりをお願い致す!」
「自分も、おかわりを!」
「はいはい! ちょっとまってなさい!」
声がでかい。そんなに叫ばなくても聞こえるよ……。
あたしはさらにエールを運ぶ。これで5杯目? だんだん数えるのが面倒になってきた……。別に数える必要はないんだけどね。
あれからさらに1時間が経過した。イサミさんと副会長はなおも盛り上がっている。寮の食堂はもう閉まっちゃったんじゃないか。
「あの二人、ちょっと飲みすぎじゃないかね? ハルカ、水だしてやんな」
「わ、わかりました」
あたしはイサミさん達のテーブルに水を二つ持っていく。生憎、白魔術で酔いは治せない。と思うので、(少なくともあたしは出来ない)水を飲んでもらうしかないようだ。
「お! 嬢ちゃん! 嬢ちゃんはもっと大きくなったら、べっぴんさんになるに違いねぇなぁ~!」
「ええっ!?」
あたしは、子供扱いされたことに一言もの申したいのだけど……。今だって、ルックスに関しては、その、悪くないとは思うし……。いや、それはそれとして。
これ、ほんとにイサミさん? イサミさんって二重人格だったっけ? と思うほど、キャラが崩壊しているんだけど……。
「イサミ! そんなこと言って、シズク殿に聞かれたらどうする!」
「はぁ~ん? そりゃ、どういう意味だぁ~? 大将。聞かれたってどうってこたぁねえんらよ! それより、大将もそう思うだろぉ~? なあ?」
「ハルカ殿の事か? そうだな。これからもっと鍛錬を積めば、いずれ、姫様のようになるに違いないぞ! はっはっは!」
「ちょ! 副会長まで! あんたたち、酔っ払いすぎよ! そろそろ寮に帰りなさいって!」
あたしの忠告は耳に入ってないかのように、二人は会話に夢中になっている。
これ、どうやって落ち着かせればいいんだろう。
「はっ……。 イサミ、貴様まさか修学旅行の時、姫様にあらぬことを言ってはいないだろうな?」
「あぁ~あんときかぁ? 直接、姫様とやらに聞きゃあいいじゃねえかぁ~。でも教えてくれねえと思うぜぇ? なんせ二人だけの秘密があるからなぁ! だっひゃひゃひゃひゃ!」
「なに!? 貴様! なにがあった! 言え! それと姫様のことを姫様と呼ぶな!」
副会長は立ち上がって、イサミさんに怒鳴り散らしている。非常にうるさい。
ここももうすぐ閉店だし、どうしたもんかと腕を組み、立ち尽くしている、その時だった。
ズン。と、テラスのほうで大きい音がして、足元が振動した。まるで大きな岩でも落ちてきたかのような衝撃だった。
あたしはびっくりして、テラスのほうに顔を向ける。
そこにはなんと、ガラス越しに赤く目を光らせたドラゴンがいた。
こちらを伺っている。
イサミさんと副会長はもちろんそんな異常には気付いていない。
鋭い眼光だ。じっとこちらを見ている。
ドラゴンは動かない。あたしはその目をじっと見たまま、固まってしまった。空いた口も塞がらない。あれは、敵? でも邪悪な感じはしない。
ほどなくして、ドラゴンの背から二人の人物が降りてきた。
テラス席から店内へと通じるドアを開けて、二人の人物が入ってくる。
あたしはその二人を見て、ほっと安堵のため息をついた。
「イサミ! なにをやっているのだお前は!」
「あぁ~? お! シ~ズクじゃねえか~お前も一杯ひっかけろ!」
「ひっかけろ! ではない! 帰るぞ。イサミ!」
「いったたた! 耳が! 耳がちぎれる! はなせぇ~!」
かんかんに怒っているシズクだ……。初めて見た。
「ゲオルグ! あなたって人は……」
「ひ、姫様……!」
姫様は呆れている。副会長はびくっとして固まった。
「ハルカ様。夜遅くまでご苦労様です。この度はイサミがご迷惑をお掛けし、大変申し訳ありません」
「あ、いいのいいの。もう遅いし、二人とも時間大丈夫かなとは思ったけど、楽しそうに話してたし」
まあ、色々変なことは言われたけど、そのことは黙っておこう……。
「イサミ! 早くこれを飲め!」
シズクはポケットから小瓶を取り出し、イサミさんに渡した。
イサミさんは嫌々ながら、瓶に口をつけ中身を飲み干した。しかし、イサミに特に変化はない。あの瓶は酔いを覚ますためのものなのだろうか?
「なぜだ! なぜ治らんのだ。イサミ! これは酒か! お前、普通に酔っぱらっているのか!」
「な~んらよシズク~、飲んだじゃねえかよぉ~」
シズクはどうやら、イサミさんに用があって男子寮を尋ねたところ、バイパーさんにまだ戻っていないと言われ、副会長も同じようにいないということから、今日は遅くまで副会長と鍛錬をしているのだと思い、道場まで足を運んだ。
ところが道場は鍵が閉まっており、中に人の気配がない。おかしいなと思い、少し心配になったシズクは一旦寮に戻り、姫様に事を伝える。
副会長は鍛錬の後、イサミさんとお茶をするときがあるとのことで、銀鮭カフェテリアに行ってみよう、ということになった。しかし、いなかった場合、探し回る可能性もあったのでカグヅチにも協力してもらったということだった。
姫様もこちらに向かって、申し訳なさそうに頭を下げる。
「では、エクセリア様、私は、イサミの酔いを覚ましつつ徒歩にて帰りますので。ご協力、感謝致します」
「分かりました。お気をつけて……。ゲオルグ! 行きますよ!」
「姫様……。自分は、その」
「もう、心配したんだから! カグヅチにも迷惑かけたんだから」
「ぐっ……、申し訳ありません。すまん。カグヅチ」
「フン。小僧。あまりハメを外しすぎるなよ」
シズクと姫様は、それぞれ、イサミさんと副会長の襟首をつかんでひきずっていった。
あたしは、テーブルに残ったジョッキを下げ、テーブルを拭く。
ふと顔をあげると、カグヅチが二人を乗せて、テラスからヴワッっと飛ぶところだった。姫様がまた頭を下げる。あたしは手を振って答えた。
カグヅチが飛び立ったところで、グリーズさんがやってきた。
「いったのかい?」
「はい。あんなふうになった二人は初めて見ました」
「はは。賑やかでいいじゃないか。ちょっと酔っ払いすぎだけどね。まあ、よほどエールがうまかったんだろう。さ、片づけて今日は帰るよ」
「はい! お疲れ様でした」
あたしはグリーズさんのその言葉を聞いて、ちょっとだけ悔しかった。なんだかあたしだけ仲間はずれになったような感じで……。
寮に帰り、グリーズさんが作ってくれたシチューを温めて食べ、簡単に夕食をすませる。その後に、お風呂に入って、部屋で魔術の復讐をし、ベッドに横になる。
バルラエール。いつかあたしも美味しく飲んでみたいな。あたしは最後にそんなことを思いながら、眠りについた。
明日は休日。でもあたしは明日も、お昼前には出勤することになっている。
バルラエールも明日からだし、これから忙しくなりそうだ。