ロトムっ娘 作:吟遊詩人(トルバドゥール)
「ドッキー、アララギ博士の研究所ってどこ?」
『そのまま左に曲がって、まっすぐ進んだ先にあるロ』
赤いフォルムの図鑑を手にし、その案内に従いながらカノコタウンを歩いていく。
少女———ユイに音声で道案内をするのは、ユイが手に持つ赤いフォルムのポケモン図鑑。ロトムとポケモン図鑑が合体した、ロトム図鑑である。
このロトムは、ユイが生まれると同時にタマゴから孵され、それ以来ずっと仲良く暮らしてきた家族とも親友とも言える存在。ドッキーと名付けられたこのロトムは、ユイと冗談を交わしながら研究所へ向かう。
数分後、アララギ博士の研究所に到着した。ドッキーは、図鑑の姿のままふよふよと空中に浮いて、ユイの後をついていく。
「あのぉ、誰かいらっしゃいますか……?」
「ああ! ユイちゃん! 久しぶりねぇ、入ってちょうだい!」
すぐに奥から声が聞こえ、ユイはほっとしたような表情を浮かべて中へ足を踏み入れる。
アララギ博士とは、親の関係で幼少期からの付き合いであり、数年前にサンヨウシティからソウリュウシティに引っ越したユイは、久しぶりの対面となる。
「あらあら、ドッキーも久しぶりね」
『久しぶりロ!』
アララギ博士はニコニコと笑いながら、冷たい麦茶を奥の部屋から持ってくる。
「ユイちゃん、頼まれていた子よ」
「ありがとうございます」
「いつもお母さんにお世話になっていて、やっと恩返しが始められた気分なのよ。そこまで恐縮しないで」
地面に頭をつけるほど下げているのを見て、アララギ博士は苦笑する。ユイも笑い返しながら、アララギ博士の差し出すモンスターボールを受け取った。
『ツタージャ。くさヘビポケモン。知能が高く、とても冷静。太陽の光をたっぷりと浴びると、動きが鋭くなるロ!』
すぐにドッキーが図鑑の説明を読み上げる。それに頷きながら、モンスターボールを開くことをせずにカバンの中へしまう。
「あら、会ってから行かないの?」
「自然に囲まれた場所で挨拶するのが一番だと思うので」
「昔から変な信念ばかり掲げてるわよねぇ」
「変じゃないです!」
「変よ」
しばらくそのやりとりを続けてから、2人は同時に噴き出し、ユイは礼を言って立ち上がった。
「あら、もう行くの?」
「ツタージャとご対面したいので」
「じゃあここでしていけばいいのに」
言いながらもその気は無いらしく、アララギ博士も立ち上がって玄関先へと向かう。
「じゃあ、また来ます」
「いつでも来ていいのよ?」
『連絡するロ!』
「はい、いってらっしゃい」
アララギ博士の言葉に見送られながら、ユイはドッキーを見る。
「じゃ、ドッキー、お願いね」
『わかったロ!』
ユイはドッキーを一度モンスターボールに戻し、すぐに繰り出す。すると、ドッキーはカットロトムになっていた。
「あら、どんな仕組みになっているの?」
「ああ、電子機器のモーターに入り込むと、その機械も含めてロトムとなるじゃないですか。つまりは、電子機器もモンスターボールに入るのではないかと」
「論文に出したら凄いことになりそうね。で、それは成功したのね?」
「はい。で、今はカットロトムにフォルムチェンジしてもらったので……」
カットロトム———芝刈り機のようなフォルムのドッキーには、ちょうど座れるようなところがある。そこに腰掛け、ユイは博士にドヤ顔をしてみせた。
「ああ、移動手段にもなるのね」
「冷凍食品もチンしてもらえるし、冷蔵庫にもなってもらえる。他にも、洗濯もやってもらっています」
「あまりロトムは人気じゃないけど、色々と馴染んでいるわね」
「やればデータのハッキングも出来るんじゃないかなって」
「そうね。今度頼もうかしら」
「毎度あり〜」
「あら、お金とるのね」
「商売です。道中サポーターを今までやっていたので」
今までトレーナーになれなかったユイは、アルバイトとしてトレーナーの旅をサポートする“道中サポーター”というものをやっていた。雇い主の洗濯をしたり、食事を用意したり、テントを張ったり、情報の整理をしたり……。色々と生計を立ててきたおかげで、そこらへんのイメージトレーニングというより実際に見てきているわけである。
「まあ、そういうことでさよなら。ドッキー号、しゅっぱーつ!」
『出発ロ!』
ドッキーがモーターを勢いよく動かし、それに比例してスピードが速くなっていく。
アララギ博士が見えなくなる頃、ずっと手を振っていたユイは、前に向き直って帽子をかぶり、ゴールドスプレーを掛け、ライブキャスターをタップして音楽をかける。
『あと30分後にカラクサタウンにつく予定ロ!』
「OK。残り10分のとこで止めて」
「了解だロ!」
快適に一番道路の景色を楽しみ、カラクサタウンへの道のりを稼いでいく。
『ここらへんだロ!』
「ありがとドッキー。同じ草タイプのフォルムだから、大丈夫だよね」
言いながらドッキーから降り、リュックサックに入れたモンスターボールを展開する。
「……ツタージャッ」
『警戒されてるロ』
「まあ、そうだよねー。ドッキー、ちょっとお願い」
ユイが、取り出した図鑑を投げると、するりと芝刈り機から抜け出したドッキーが図鑑に入り込む。
『たいあたり、にらみつける、つるのムチ……。性格は、おくびょうだロ!』
「あ、臆病なのね」
言いながら、ユイはツタージャに向かって優しく手を伸ばす。
「あのね、私達、ポケモンリーグを目指しているの。だからさ、私達と一緒にてっぺんとりたいと思うなら、私が出来る限りで育ててあげる。そこらへんの技術はエリートにも劣らないから。……ただ、それが嫌だと言うなら、アララギ博士のところに帰ってもらうしかないかな。私の信念や何やらに合わない子を育てて面倒を見る余裕はないから。それは、あなたの自由。どうする?」
ツタージャは、臆病そうにユイを見上げている。しかし、何かを思ったのか、決意を込めた表情でユイの手をとった。
「———OK。じゃあ、早速強化と行こうか。君の名前は……エリフね。はい、よろしく。通訳して欲しいならドッキーに頼んでね。じゃあ、ちょっくらカラクサタウン寄ってから、テレポーター雇ってR9に行こう。とりあえずドーピングから入って、努力値しっかり固定してから実践。いいね?」
「ツ……ツタ!」
「はい、いい返事。ドッキー———」
『予約完了ロ! 迎えに来てくれるロ!』
いつの間にかライブキャスターに滑り込んでいたドッキーが予約を終える。
次の瞬間、フーディンがテレポートで現れた。
「じゃあ、R9までで」
———そういえば、ユイは転生者である。
次の瞬間、目の前がブラックになった。
・解説
「ドッキー」
色違いロトム。地味に6Vだったりする。
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