ネコさま大王国で引きこもってネコを愛でたい   作:清瀬

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04話

ミネルバが目覚めると知らない天井が見えた。

 

「ああ……そっか……転移したんだっけ」

 

アイテムボックスから無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)をとり、喉を潤す。

 

「結局、服はそのまま寝ちゃったけど、寝間着変わりの服とか用意すべき?」

 

今のところ、服にシワや汚れなどはない。

ユグドラシルなら、耐久力さえ回復させれば、ずっと同じ服を着続けることもできる。

だが、表情が動かないユグドラシルで、汚れといった変化は当然なかった。

こちらに転移したことで清潔に保つ効果も追加されたのかも知れない、いや、追加されるべき。

魔法効果付きの装備は、体のサイズに関係なくオートでサイズを調整する機能があるのだ。

そのくらいの機能があってもおかしくないはず。

転移後の世界、がんばれ、などとミネルバは寝ぼけた頭で考えた。

ただ、ロクに洗濯もしてない服をずっと着るというのも、一応、人間としてどうなのだという思いがミネルバにもあった。

ミネルバは二重の影(ドッペルゲンガー)でそもそも人間ではないわけだが、ミネルバ自身としては、自分は人間であるという意識が強い。

あるいは、二重の影(ドッペルゲンガー)であるため、人間で小市民でネコ好きであるプレイヤー、ミネルバという人格を演じているのか。

ミネルバは軽く頭を振って、意識を切り替える。

 

「上に立つものが着た切り雀というのもね……」

 

ギルドNPCには、私室にクローゼットをセットし、大した能力はないものの服を入れていた。

ギルドメンバーの私室は作らなかったものの、今回、家を新たに作ったのだ。

クローゼットにいくつか服を入れておくのもいいかもしれない。

幸い、たいていのユグドラシルプレイヤーは、好きな外装に、データクリスタルを埋め込めるという仕様上、ロクに着もしないのに、沢山の外装を所持している。

ミネルバも宝物庫に外装を多数預けている。

 

「普段使い用の服として下位のデータクリスタルを埋め込むべき?」

 

そんなことを考えているとお腹の音がなった。

 

「朝ごはん食べよ」

 

身だしなみを整えるため鏡を見ると、無表情なミネルバがいた。

ユグドラシルでは、表情まで変わらない技術的な限界に加えて、抑揚のない声と感情アイコンをめったに使わないことなどと合わせて、ギルドメンバーからは親しみを込め『お人形さん』などと呼ばれていた。

ミネルバは、その呼び名も嫌いじゃなかったし、呼ばれるようになってからは意識的に演じていた部分がある。

たまに感情アイコンを使うと、とてもいいリアクションが返ってきたものだ。

今でも、無表情かつ平坦な声で感情が読み取られないように演じている節があると、ミネルバ自身も思っている。

これは、二重の影(ドッペルゲンガー)になった影響なのだろうか?

人間、誰しも大なり小なり演じているものだ、ミネルバはそう自分に言い聞かせて、家を出た。

 

「おはようございます!ミネルバ様!」

 

彼女が家を出てすぐ、大声が響く。

声の方向には、二足歩行をした人間の子供くらいの大きさのネコがいた。

お世話用のNPCとして設定したケットシーだ。

大き目のネコのぬいぐるみといえばいいのだろうか。とてもかわいい。

なお、お世話用のNPCは皆、テイマーを低レベルながら修得させている。

ネコのお世話するならある程度の知識があってほしい、と熱く語ったかつてのギルドメンバーのこだわりである。

もっとも、そう発言したギルドメンバーやミネルバ自身はテイマーを持っておらず、そもそもネコのお世話などは詳しくない。

 

「おはよう」

 

そういいつつ、ミネルバは無意識にケットシーを撫でていた。

 

「どうしてここに?」

 

「はい~。今日はミネルバ様の……

 付き人として傍にいるよう……

 ヒメ様に言われました……」

 

ケットシーは撫でる手に頭を押し付けるようにしつつ、うっとりとした表情を浮かべている。

 

「そう。ご飯食べた?」

 

「いえ……。ですが、維持の指輪(リング・オブ・サステナンス)があるので大丈夫です~」

 

「一緒に食べる?」

 

「いいんですか……。喜んで~」

 

ミネルバはふにゃっと力のぬけたケットシーを抱きかかえるようにして、ネコカフェへ向かった。

ケットシーはそこそこ重いが、Lv100のステータスをもってすれば抱きかかえるのは容易い。

ただ、抱きかかえた姿は、付き人と主人が逆転しているようにも見えた。

ネコカフェでケットシーと一緒に食べた朝ごはんは、ミネルバがリアルで食べたどの食事よりおいしいと感じた。

 

 

◆◆◆

 

「おい、これはどういうことだよ?」

 

驚きの表情を浮かべた金髪の男ヘッケランがそう言う。

 

「行きはただの草原だった場所にあんな大きな城が立ってるなんて、こっちが聞きたいわよ」

 

スラっとした体形の半森妖精(ハーフエルフ)イミーナはそう返す。

彼らは仕事を終え、現在バハルス帝国の帝都に戻る最中だ。

 

「幻覚の魔法……ってことはないですよね」

 

全身鎧をまとった神官、ロバーデイクが尋ねる

 

「……ええ、魔法的なものではないみたい。

 たしかにそこに城があるわ」

 

第三位階を扱う魔法詠唱者(マジックキャスター)、アルシェが答える。

彼らは『フォーサイト』、帝国ではそれなりに名の知れたワーカーだ。

そんなフォーサイトの面々は帝都への帰り道に突如現れた城に困惑していた。

 

「どこの誰が建てた城なんだよ?やっぱ皇帝様?」

 

「いくら鮮血帝サマといえど、数日で城を立てる技術はないでしょ?」

 

「そもそも、こんな所に城を立てる意味あるのでしょうか?

 他国との境界そばというわけでなく、周囲はただの草原ですよ?

 宿ならわからなくもないのですが」

 

「……なんか変だし迂回するのはどう?」

 

アルシェが恐々と提案する。

 

「危険はないと思う。

 道のそばに城を作っている以上、

 向こうも人に見られてどうこうってことはないと考えられる」

 

ヘッケランが答え、そして冗談めかしてさらに付け加える。

 

「個人的には、興味あるしちょっと城の建て方を聞きに行きたいんだが、

 さすがにそれはやめたほうがいいかな」

 

「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ。

 そんなの教えてくれるわけないでしょ」

 

「ふふ、……迂回せずとも大丈夫そうですね」

 

「じゃ、このまま道沿いに進もう。

 皆、一応警戒はしてくれ」

 

皆は同意の声をあげ、道沿いを進むこととなった。

城に近づくと、城門のそばに家が一軒建ってることに気付く。

 

「商人かなにかの家か?」

 

「建設中の仮住まいとかどう?

 城サイズで数日なら、家なら1時間でできるんじゃないの?」

 

「ははは、そんなに短期間であのような家が建てられるなら、

 このあたりに町ができるのも時間の問題ですね」

 

彼らが警戒しつつも軽口をたたいていると、城門が開き、一人の女性が出てきた。

非常に整った顔立ちの黒髪の女性だ。

ただ、頭にとがった三角形の耳が、腰には長い尻尾が生えている。

東方に動物の耳と尻尾が生えた種族がいるとヘッケランは聞いた覚えがあった。

細かに動いていることから作り物ではないようだ。

また非常に変わった服装をしている。

南方の服装とこのあたりの服装を合わせたというか、なんというかよくわからない格好だった。

 

「失礼します。私はシノブと申します。

 城の主、ミネルバ様があなたがたとの会談を希望しております。

 お時間をいただけますか?」

 

「えっと……何故、私たちとの会談を希望されるのでしょうか?」

 

警戒しながらもヘッケランは質問を行う。

 

「この城は、異なる場所より転移してきました。

 故に、この地域の地理も知りません。

 それらをお教え願いたいのです」

 

城ごとの転移、フォーサイトの常識からすれば、おとぎ話の大魔法である。

しかし、数日で城を建てたというのも、転移と同じく信じられないことではある。

 

「……少し、仲間と相談しても構いませんか?」

 

「ええ、どうぞご相談ください」

 

「どうする?

 俺は別に構わないと思う。城の中を見る機会なんてそうそうない。

 正直、信じられない部分はあるが、興味はある」

 

ヘッケランがほかのメンバーに問う。

 

「あきらかに人間以外の種族だし、そのあたりも含めて話しておいたほうがいいんじゃないの?」

 

半森妖精(ハーフエルフ)のイミーナは、嫌な事を思い出してか不快そうにつぶやく。

 

「礼儀に関して大目に見てもらえる、という条件はいるかと思いますが、私も構わないのではないかと考えます」

 

ロバーデイクも続く。

 

「……私も構わない」

 

少し迷ってアルシェがつぶやいた。

ヘッケランが条件付きで会談に応じると伝えると城門前の小屋に案内された。

中に入ると、想像以上に広い。

 

「なんなのよ、この広さは……おかしいでしょ……」

 

イミーナが呆然とつぶやく。

外から見た小屋の高さと部屋の天井の高さを比べると、明らかに天井の高さのほうが高い。

部屋自体も異常に広く、いくつか他の部屋に続くだろう扉が見える。

 

「この家はミネルバ様の所有するマジックアイテムです。

 魔法で空間を拡張していると聞いております」

 

「家全体がマジックアイテムなんてあり得るの?」

 

アルシェが唖然とした表情で固まっている。

 

「では、こちらでお待ちください。ミネルバ様を呼んでまいります」

 

そう言い残し、シノブは家を後にした。

 

「しかし、武器を預けろと言われると思いましたが、何も言われないとは……」

 

ロバーデイクが意外そうな顔で言う。

 

「城内に入れないこともそうだけど、こっちが警戒してることを加味しての判断じゃないかしら?

 そもそもミネルバ様とやらの顔を知らないから、代役を立てるのは簡単だわ」

 

「たかが、場外の小屋でこのありさまだぜ。

 城の中はどうなってるのやら。

 壁も床も天井も金でできた部屋とかありそう」

 

「ははは……まさか……」

 

ロバーデイクの否定の言葉は尻すぼみになってかき消えた。

いきなり、こんなおとぎ話のような家が出てくるのである。

城の一室が金でできていても不思議ではない。

 

しばらくすると、トレイにポットとカップを乗せたシノブと、非常に仕立の良い濃い緑を基調としたローブを纏った10代後半の少女が家に入ってきた。

シノブが紅茶を配り終わり少女の後ろに控えた後、無表情のまま少女が話し始めた。

 

「私がこの城の代表、ミネルバ」

 

非常に整った顔立ちをしているものの、表情は動かず人形のような印象をうける。

指には魔法を込められたであろう指輪をいくつもの着け、着ているものだけでもかなりの財になるだろうとヘッケランにも読み取れた。

 

「私はヘッケラン・ターマイト、ワーカーチーム『フォーサイト』のリーダーをしております」

 

「イミーナ。弓兵をしてる」

 

「私はロバーデイク・ゴルトロンと申します」

 

「……」

 

アルシェの声が聞こえないため、ヘッケランは彼女に目を向けると、青い顔をして震えていた。

アルシェの豹変に焦りつつも、目の前の少女を不快にするのはよくないと、ヘッケランが代わりに名を告げる。

 

「失礼。彼女はアルシェ。

 第3位階を扱える優秀な魔法詠唱者(マジックキャスター)なのですが、少々緊張しているようです」

 

「別に構わない。体調が悪いように見える。

 席をはずしてもらってもいい」

 

表情を変えずにミネルバは告げる。

その姿からは心境が読み取れない。

 

「ご厚意に感謝します。

 私とアルシェは席を外させていただきます。

 さぁ、アルシェ……」

 

ロバーデイクがアルシェを気遣いつつ、席を立つ。

 

「えーっと、申し訳ない」

 

ヘッケランはアルシェを心配しつつも、城の主に謝る。

神官のロバーデイクがついていれば、大丈夫だろうと自分に言い聞かす。

 

「構わない。それより、彼女は第3位階まで使える魔法詠唱者(マジックキャスター)とのことだけど、どのくらいすごい?」

 

ミネルバは食い気味に質問を行った。

ヘッケランは気を使って、この空気を払拭しようとしていると受け取った。

 

「そうですね。熟練した魔法詠唱者(マジックキャスター)がたどり着ける領域といいましょうか。

 第4位階以降は、それこそ一部の天才のみが扱える領域です」

 

「……彼女、ずいぶん若いみたいだし、

 その一部の天才になりえる魔法詠唱者(マジックキャスター)なのね」

 

さきほどの件を気にしていないとのアピールなのか、アルシェのことを持ち上げてくれる。

見た目こと喜怒哀楽がないようにみえるが、本当は心優しい人物なのかもしれない。

 

「そうですね。

 彼女は生まれ持った異能(タレント)を持っていて、見るだけで相手の魔力の量を知ることができ、使える位階なども推測できるのです。

 その力で何度も助けられました」

 

「……本当?」

 

相変わらずの無表情だが、明らかに声が硬くなった。

後ろに控えるシノブというお付きの耳が上下に動き、尻尾が膨らむ。

 

「ええ、本当ですが……」

 

ミネルバの表情がわずかに曇る。

 

「……まぁ、いいや。

 後で彼女に、驚かせてごめん、って伝えておいて。

 それと、できれば私の魔力については喋らないで欲しい」

 

「あなたは見るだけで顔が青くなるほど、

 桁違いに強力な魔法詠唱者(マジックキャスター)だというのですか……。

 わ、わかりました。絶対に話しません」

 

「助かる」

 

彼女は紅茶を飲み、一度大きな溜息を吐いた。

しかし、アルシェが青ざめるほどの魔力とはいかなるものか。

あるいは、最強の魔法詠唱者(マジックキャスター)、フールーダ・パラダインに匹敵するのかもしれない。

ヘッケランの中にはこの強い魔法の力は危険かもしれないという恐怖と、縁を結び今後に役立てたいという欲が沸き起こっていた。

 

「気を取り直して、まず、この城の周りに存在する国について教えてほしい」

 

そう切り出したミネルバは、何を考えているかわからないような無表情に戻っていた。

ヘッケランはとにかく正直に情報を伝えることにした。




・ミネルバの魔力
ミネルバの魔力は、LV100魔力系魔法詠唱者(マジックキャスター)の平均と比べて少な目。
当然、アインズ様と比べるとかなりの差があります。
明確に敵対していないこともあり、アルシェはちょっと顔が青くなる程度で済みました。

・感情抑制
プレイヤーが精神耐性を持っている場合に発動という独自設定。
アインズ様はアンデットの種族特徴として、ミネルバは装備で、それぞれ精神耐性を持っているので感情抑制が発動する感じです。

二重の影(ドッペルゲンガー)
プレイヤー転移後の特性として、コピー元を演じたがる傾向が強い独自設定。
結果として、かつてのメンバーからいわれた、人形のような無表情で淡々とした口調、小市民かつでネコ好きといった特徴をもったミネルバのプレイヤーが思うミネルバ像をなぞっています。

・シェイプシフター
体の一部を変化させ、力を得る職業。
ナザリックでは、デミウルゴスが所持してる職業。
ミネルバ目線では、ネコ耳生やしたり、ネコ尻尾生やしたり、ネコの手に変化させネコパンチしたりというお遊び用職業。

・ギルドNPC
記載のほかに、回復系を収めた信仰系NPC、料理人NPC、各生産施設専属のNPCがいる。
ただ、出番はないと思う。
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