ネコさま大王国で引きこもってネコを愛でたい   作:清瀬

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06話

わしゃわしゃわしゃ……

ネコを撫でまわす。甘えて、ゴロゴロと喉を鳴らす。

ミネルバにとって、至福の時間である。

ユグドラシルのネコAIの性能も素晴らしいものがあったが、こちらに来てからやはりAIだったなとミネルバは思ってしまう。

ネコと戯れるたび新しい発見がある。

動きが、表情が、鳴き声が、毛並みが、温かさが、すべてが愛おしい。

ネコは至高の存在である。

皆、ネコを愛でれば争いなんてなくなるんじゃないかと思う。

シノブが報告した隠れて城を見張っている者たちにもネコの素晴らしさを布教すべきか。

しかし、なんだって、帝国の兵隊らしきものたちに、城を見張られなきゃならないのか。

城が転移してきたのは不可抗力だし、転移後の振る舞いも友好的にだったはずだ。

いや、いきなり帝都の傍に城ができたら監視くらいするだろうけど。

………ネコかわいい。

そんな感じで現実逃避をしつつ、ミネルバが過ごしていた時、シノブから声がかかった。

 

「ミネルバ様、フールーダ・パラダインと名乗るものが会談を希望しております」

 

「わかった。すぐ向かう」

 

ミネルバは帝国関係者が来るとは思っていたが、想像以上の大物に内心驚いていた。

魔法局のトップの登場でこちらの想像以上に警戒されている、とミネルバは意識した。

指輪を宝物庫にあった探知防御の指輪に変えていることを確認して、ネコに後ろ髪引かれつつ、いつもの城壁外の家に向かった。

家の中には、白いローブに白い髪に白いひげの絵に描いたような魔法使いの老人と、お供と思われる男性が二人いた。

 

「私がこの城の代表、ミネルバ。

 城内に、応接室のような人を招くのにふさわしい部屋がない。

 こんな場所での会談になってすまない」

 

なんどか行ったように自己紹介をした後、部屋について謝る。

メンバーの私室がないのだ、応接室なんてあるわけがない。

大体、人を招く時はネコカフェだったし、ギルドメンバーの会議は1階の大部屋でネコを愛でながら行っていた。

ネコさま大王国というギルド名も、名乗ったらふざけてるのかと怒られそうで、転移して以降は名乗ってはいない。

 

「この家も素晴らしい場所と思うよ。

 わしはフールーダ・パラダイン、バハルス帝国、主席宮廷魔法使いをやっておる。

 ほかの二人はわしの弟子だ。まぁ、気にせんでくれ」

 

ミネルバは、好々爺といった印象を受けたが、最高の魔法使いがただの好々爺というわけでもあるまいと思いなおした。

 

「さて、今回、わしがここに来たのは、突然この城を建てた目的を問うため、そして、帝国がこの城をどう扱うか、その判断情報を得るためだ」

 

「原因不明の転移により、城ごとこちらに来た。

 元に戻る方法はわからない」

 

ミネルバは無表情のまま、端的に答えた。

 

「本当だとすれば実に興味深い……。

 しかし、はいそうですかと信じるわけにはいかん」

 

「どうすれば信じてくれる?」

 

ミネルバは、信じてもらうのは難しそうだなと思いつつ、質問を投げかけた。

実際、ミネルバも逆の立場なら、頭おかしいんじゃないかと思うだろう。

 

「城の中を調べさせてもらっても構わんか?」

 

ネコカフェを一般公開するには、庭や1階は少なくとも公開する必要がある。

フールーダは帝国でも上位の人物、案内するには十分だろう。

ミネルバとしては、中を案内することに異存はない。

見せて困る部屋は宝物庫や生産系が集中した3階くらいなものだ。

回復魔法が使えるNPCは、庭や1階に配置されていたが、こちらに来てからは、来客時は3階に移動するように指示を出している。

 

「いくつか確認しておきたい。

 見せられない部屋もある。具体的には、3階はダメ」

 

「どんな部屋があるのか聞いてもよろしいかな?」

 

「私の私室とか」

 

「なるほど、それは見るわけにはいかんな」

 

あとは、ネコさま大王国として、聞いておかねばならないことがある。

 

「うちの城には沢山のネコがいる。

 ネコが嫌いとかいうなら、オススメできない」

 

「ああ、別にかまわないとも」

 

鷹揚にフールーダが頷いた。

 

◆◆◆

 

先ほどの家、たしかに奇妙に部屋の中が広かった。広すぎた。

あれが、空間拡張の力なのだろう。

しかし、どういう理論で成り立っているのかは、糸口さえつかめなかった。

この城の観察でせめて糸口でもつかみたいものだ。

フールーダ・パラダインは気持ちを切り替え、目の前を歩く少女を観察する。

彼の生まれついての異能(タレント)、魔力を見ることができる能力でも、目の前の少女の魔力がないように見える。

探知妨害を使っているのか。

また、その表情からは感情が読み取れない。

ジルクニフが意識的に自信溢れる笑みを浮かべ、笑顔を本心を悟らせないため防壁としているように、ミネルバも意識的に感情を排しているのだろう。

フールーダがそんなことを考えていると、ミネルバが振り返った。

 

「庭にはネコ型モンスターがいる。

 どの子もテイムされてるから、手を出さないようお願い」

 

「ああ、わかったとも」

 

帝国でも、八足馬(スレイプニール)を調教するテイマーなどがいる。

フールーダは馬車馬の代わりにネコ型モンスターを用いてるのかもしれないと推測した。

城門を越え、城に入ると、フールーダは驚愕した。

体長2mほど、緑色と茶色の縞模様、牙を持つ魔獣が鋭い眼光をこちらに向けてくる。

それだけならまだいい。

なんと、あの魔獣は第5位階を扱える魔力を持つのだ。

フールーダの背筋に冷たいものが走る。

 

「あの子は、シュトルムティーガー。

 フールーダさんたちが初対面だから、少し緊張しているみたい。

 けど、本当は甘えんぼな子」

 

あの大魔獣を目の前にして、ミネルバが無表情で言い放つ。

その表情を見て、フールーダは少し冷静になる。

フールーダ・パラダインは、帝国最強の魔法使いである。

驚きなど見せてはならない。

 

「素晴らしい魔獣だ。

 しかし、帝国にいる以上、魔獣は登録してもらわないと困るな」

 

フールーダが弱みを見せないよう、表情と声に苦労しながらも、そう言い切った。

帝国に帰属しないというなら、全力を持って相手をしなければならない戦力だ。

相手の意志を確認しなければならない。

 

「登録については聞いた。

 けど、他にもたくさんいるけど、街に連れていって大丈夫?」

 

ミネルバが眉ひとつ動かさず言葉を発する。

こんな伝説に語られるべき魔獣の群が、テイマーの指示のもと、暴れまわる想像がフールーダの頭の中で展開される。

胃がキリキリと痛むようだ。

 

「この魔獣以外にもいるならば、大騒ぎになるな。

 後日、登録用の文官を連れてくることにしよう。

 ひとまず、今日のところはここにいる魔獣達を紹介願う」

 

最低限、相手の戦力は把握しなければならない。

目の前の魔獣が最強の魔獣であってほしい、とフールーダは願う。

 

「わかった。少し待って。《伝言(メッセージ)》」

 

ミネルバという少女は魔法を使って見せた。

やはり、探知妨害を使っているのか、または使っているフリというのもあり得るのか。

そうフールーダが考えていた時、周囲にモンスターが集まってくることに気が付いた。

見たことのない魔獣だらけである。

すべてが魔法を使えるわけではないようだが、第4位階を使えるものや、第5位階を使えるもの、果てはフールーダと同格の第6位階を使えるものまでいる。

数匹は翼が生えており、第6位階を使えるものも最悪なことに空を飛んでこちらに来た。

 

「あ、あああ……」

 

弟子がガタガタと震え、怯えている。

相手が魔法が使えない状況でも、これだけの魔獣に囲まれることは恐怖だろう。

フールーダは帝国の代表としての気持ちから震えこそしていないが、強い恐怖を感じていた。

人間の魔法詠唱者は戦士と比べ肉体的には脆い。

しかし、周りのものは魔獣であるため、十分な体力を持つ。

人間と比べ魔獣の使える魔法数は少ないものの、高位階の魔法を使う魔獣の群だ。

搦め手で攻めようにも、それに対策できるであろうテイマーがいる。

魔獣はみな、首輪を着けている。ただの首輪ではあるまい。

筋力強化や盲目耐性などの魔法効果をもった首輪であろう。

帝都でこれらの魔獣を暴れさせるだけで、間違いなく帝国は崩壊する。

飛行(フライ)》から《火球(ファイヤボール)》を使おうとも、空飛ぶ魔獣相手では意味がない。

 

「ヒメ、お疲れ様」

 

「いえ、寝ている子までは起こしていませんが、構いませんか」

 

「あれ?あの首輪装備してても眠るの?」

 

「あの首輪は睡眠不要であって、眠れなくなるものではありませんから。

 休息中の子は寝て過ごすことが多いですわね」

 

いつのまにか、フールーダの後ろに、シノブと同じく耳と尻尾の生えた女性が現れていた。

シノブとはまた違った雰囲気だが、かなりの美形であることは共通している。

腰にはムチをつけている。彼女がテイマーなのだろう。

 

「寝てる子を起こすのも可哀想。

 フールーダさん、寝てる子をここに連れてきたほうがいい?」

 

この上、まだ余剰戦力があるというのか。

周りの戦力だけで、正面切って帝国を滅ぼせるというのに。

フールーダは、舌打ちをしたい気分となった。

 

「ああ、構わんとも。

 恥ずかしながら、弟子も怯えているようだ。

 元の場所に戻るよう指示を出してもらえんかな」

 

フールーダ自身は微塵も怯えてませんよという表情と声音を作るのが非常に難しく感じた。

 

「ヒメ、お願い」

 

ミネルバが周りを見渡した後、残念そうな声音でつぶやく。

ミネルバが、初めてみせた感情がこの残念そうな声音だ。

フールーダ達を恐怖するのを観察して楽しんでいたが、それが終わるとなりわざとそういう声音を出したのだろう。

直接、帝都を滅ぼす気はないようだが、ミネルバという者はかなり性格が悪いとフールーダは考えた。

ヒメが魔獣たちに指示を飛ばし、周囲の魔獣が去っていく。

 

「どの魔獣も、このあたりの魔獣ではないな。

 転移してきたというのも、真実といっていいかもしれん」

 

フールーダがそう切り出した。

 

「転移の原因はわかりそう?」

 

「まだ、ほとんど見てないのでわからんな。

 ただ、判明する可能性はかなり低いだろう」

 

「そう。では、引き続き、案内を続ける」

 

これだけの魔獣を囲まれて、汗一つかかなかった城の主は、平坦な口調で案内を再開した。

 




・フールーダ
アルシェを犠牲にすることで、出会ってすぐの事案回避!
ミネルバはアインズ様ほどの魔力はないので、フールーダに見られたとしても、我が神ペロペロまではいかないという勝手な設定。
追記:弟子にはしてくれとはいいます。詳しくは次の回の最後で。

・庭の魔獣
大体、レベル40~60くらい
一番高いのは、魔法が使えないが特殊能力持ちのレベル75の課金ガチャ産のモンスター。
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