ネコさま大王国で引きこもってネコを愛でたい   作:清瀬

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08話

ミネルバとの交渉の報告がされた皇帝執務室では重い空気が漂っていた。

 

「第6位階を操る魔獣を筆頭に第5位階、第4位階を操る魔獣などの帝国を滅ぼせる魔獣の軍団。

 しかも、隠している魔獣がまだいる」

 

その重い空気の中、部屋の主ジルクニフは笑みを浮かべながら確認する。

 

「魔法技術を教えろと言えば、馬鹿に教えるのは面倒といい、第6位階の巻物(スクロール)を渡し、鑑定できないことを示す。

 なかなか趣味がいいようだな。

 確認だが、その巻物(スクロール)は、呪いが解けるとは言ってないんだな?」

 

「はい。病気や怪我を直すとは言っていましたが、呪いについては触れられていません。

 しかし、あれは素晴らしいものです。

 あの魔力の流れは……」

 

魔法の探求欲を巻物(スクロール)により存分に刺激されたフールーダは、キラキラというより、ギラギラとした目で語り始めようとした。

 

「ああ、じい。そこまでにしてくれ。

 ……次回の交渉の際、レイナースを連れていくか。

 第6位階の信仰系の巻物(スクロール)があるなら、あるいは顔の呪いも解けるかもしれん。」

 

「しかし、ミネルバに借りを作ることになりますが……」

 

借りが交渉に悪影響を及ぼすことを懸念した文官が意見した。

 

「仕方あるまい。

 レイナースが巻物(スクロール)の件を知ったら一人でミネルバを訪ねるだろうしな。

 呪いを解くのに協力することもレイナースとの取引のうちだ。

 あのひねくれ者のミネルバが、素直に治すかどうかはわからんがな」

 

やれやれといった表情で皇帝は言った。

 

「しかし、ミネルバは少し性格の悪いところはありますが、原因不明の転移というのが本当らしく、こちらを攻める意志は弱いというのが救いですね」

 

重い空気をかえようと別の文官が発言する。

ただ、効果のほどは薄く、空気は重いままだ。

技術面・武力面では完全に負けているのだ。

強力な魔法を使える魔獣が複数いる相手では、人海戦術も効果が薄いだろう。

好戦的でないというのは帝国にとってはたしかにありがたいが、相手の気分次第では滅びかねないことには変わらない。

 

「さて、彼らの要求について検討しよう」

 

押しつぶされそうな空気の中、皇帝の声がよく通る。

 

「まず、あの土地の彼らの管理するものとするのはいい。

 もともとそのつもりだったしな」

 

「税の形をとってのマジックアイテムの徴収については釘を差されましたし、諦めたほうがいいでしょう。

 通常の税に関しては、細かい部分は相談が要りますが、人頭税をはじめとした一般的な税は要らないと考えます。

 彼らから求めるのは知識や力ですから」

 

「ただ税に関しては、徴税官として城の3階に入る理由ができるからな。

 2階すべてが3階へ行かせないための施設となっているなら、相当重要なモノがあると考えるべきだろう。

 これは通しておきたい」

 

「戦争に関わらないというのは別に構わないだろう。

 力を貸してくれれば楽にはなるが、現状の戦力でも王国を併合する分には問題ない。

 単純に敵地で暴れさせるならともかく、部隊として魔獣を動かせるかと言われると、不安が残る部分もある」

 

「情報の提供については、望むところだろう。

 こちらが情報という手札を持てる項目でもある。

 強者の情報も警戒のため必要としているが、本命は他の転移の例を調べることだろう。

 魔法技術を得る前に転移原因を突き止め帰られるのは困るが、情報を対価に多くのマジックアイテムを手に入れることを考えるべきだ」

 

「最後に物資・金銭の要求か。

 具体的な金額は出ていないが、使用する通貨が異なるようだからな。

 『物資が必要』と言った点から、城の修繕費や食料などと思われるが……。

 マジックアイテムを買い取る形で金や物資を渡すのが落としどころになるか」

 

「ただ、サンプルとして提供された第6位階の巻物(スクロール)も決まった値段などなく恐ろしい高値が付くことは間違いありません。

 値段交渉はかなり難しいものになるかと思います」

 

「値段交渉については、今回とは別の交渉になるだろうしひとまず置いておこう。

 税をとること、物資についてはそのたびに対価を求めること、というのが落としどころか」

 

「向こうの条件も吹っかけただけだろうし、ミネルバもそのあたりを想定しているのではないか?

 税に関しては本当に無税にして徴税官も排除するつもりかもしれんが」

 

「そのあたりは、皇帝たる私が直々の交渉に出向くのだ。

 どうにか通してみせよう」

 

人好きのする笑顔で皇帝は宣言した。

 

「問題は、彼らを周囲にどう示すということだな。

 技術提供をもって下位貴族に据えるのは、彼らが貴族位を嫌がるから無理になった。

 どうしたものか……」

 

「フールーダ様と突然転移でやってきた彼らは仲良くなった。

 フールーダ様の嘆願もあり異国からの客として迎え入れることになった。

 という、筋書は如何でしょうか?

 仲の良さを内外へアピールするため、フールーダ様は今後も継続的にあの城を訪れる必要がありますが、あの城とのつながりができます。

 失礼ですが、フールーダ様はあまり貴族の社交界へのつながりは薄い方。

 彼らもそういった目で見られるかと思います。

 それでも、彼らには少々の好奇の目を向けられるでしょうが、転移してきた時点で避けられないことです。

 もちろん、前提として、彼らが友人関係を受け入れできるということがあります」

 

「ふむ。継続的に訪れることができるということは、技術面でのメリットが大きいか。

 じいが珍しくわがままを言ったというような悪評が立つが……」

 

ジルクニフは珍しく迷うようなそぶりを見せる。

普段、どんな時も笑みを浮かべている彼にしては珍しい表情だ。

 

「ジル、その程度は悪評のうちにも入らんよ。

 それにわしも、彼らとつながりが欲しい。

 基礎もわかっとらんと言われたが、それでも、魔法の深淵への道標だからのう。

 そうそう、諦めきれん」

 

フールーダは口調を崩し、そして笑う。

ずっと欲していた、自身より魔術の知識が深き者。

なんとしても教えを乞い、魔法の深淵に一歩でも近づく。

フールーダはそんな思いを抱いていた。

 

「わかった。その方向で交渉しよう」

 

ジルクニフは意識的に浮かべるものではなく、ひさびさに自然な笑顔を浮かべることができた。

 

◆◆◆

 

フールーダが去ってから、管理人3人はネコカフェに集められ、いつものように情報共有が行われた。

 

「帝国魔法省最高責任者がわざわざ来るとは、こちらが想定していたよりも高く評価してもらえたようですわね」

 

ヒメは嬉しそうに笑みをこぼしている。

 

「こ、交渉がうまくいきそうで、よ、よかったです」

 

ハカセも控えめに同意する。

 

「ただ、庭のペットが思ったより怖がられていましたね」

 

シノブは自身の管理エリアの子が怖がられたのが残念だったのか、

ネコ耳がペタッと伏せられている。

 

「大型のネコは恰好よさと可愛さが同居して素晴らしいものがあるけど、やっぱり初めての人には敷居が高い。

 ネコカフェ、オープンの道のりは遠そう」

 

ミネルバは相変わらずの無表情で、ちっとも残念そうには見えない。

 

「……交渉に話を戻すと、向こうの要求したアイテムや技術をどうするかが問題」

 

「蘇生魔法は間違いなく面倒ごとになりそうですわ。

 あまり、オススメできませんわね」

 

「《大治癒(ヒール)》の巻物(スクロール)も良くなかった?」

 

「あれは、問題ないのではないかと。

 相手が鑑定できないことにより、こちらとの力の差を示せました」

 

「同量のHPを回復するだけなら、下位の治癒魔法を重ね掛けすれば可能でしょう。

 《病気治癒(キュア・ディジーズ)》は教会でも行っていると聞いておりますわ」

 

「そ、そうです。巻物ですし、問題ありませんよ」

 

管理人3人が必死にフォローを行う。

ミネルバにわずかに苦笑したように言う。

 

「別に無理にフォローしなくてもいいよ?

 後に大事になるほうが問題だし」

 

ヒメが言いにくそう言葉を発した。

 

「……補助魔法の巻物(スクロール)なら、さらに良かったというところですわ。

 攻撃魔法はこちらに向けてくる可能性がある。

 回復魔法は面倒ごとに巻き込まれる。

 情報魔法はこちらの情報を抜かれる」

 

「その点、補助魔法、特に単純に能力を上げる魔法なら、使ったところでこちらの能力のほうが上。

 その気になれば、消すことも可能。

 厄介なことになりにくいということ?」

 

「ええ、そのように考えておりますわ」

 

ミネルバは目をつぶり少し考えたようなそぶりを見せた後、数度頷いた。

 

「うん。いい意見だと思う。

 これからも、何かあれば意見が欲しい」

 

「はい!」

 

管理人3人が声をそろえて返事した。

 

「話を元に戻そう。

 蘇生関連のアイテムの提供は行わない。

 次、空間拡張に関するアイテムの提供について。

 シークレットハウス系はまだけっこう残ってるから1つ提供しようと思ってる」

 

「非常に、て、手に入れにくいものだと思いますが、だ、大丈夫でしょうか」

 

「そもそも、必要になる機会が少ないのでは?

 ミネルバ様なら《転移門(ゲート)》を使えば、外で拠点が必要になるような事態ならないでしょうし」

 

「そうだね。もう手に入らないかもしれないけど、1個くらい上げる分には構わない。

 最後に、第7位階の魔法技術。

 これは、第7位階の補助魔法を込めた巻物(スクロール)を渡そうと思っている」

 

巻物(スクロール)の材料は、このあたりでは入手が難しいのでは?」

 

「転移前だとドラゴン狩りに勤しめたけど、この世界だと簡単に絶滅しそう」

 

「汎用性が高いので悩みどころかもしれませんわ。

 シノブも使用者制限をごまかして使えますから……」

 

シノブには回復系などの巻物を持たせている。

今後、補充不可能なことを考えると、あまり使いたくないというのもミネルバにも理解できる。

 

「貴重なのはわかるが、代わりにどうしろというのです。

 ミネルバ様の魔法の情報を隠せているようなのに、ミネルバ様に魔法の実演をお願いするのですか?」

 

シノブがやれやれといった体で、言葉を発する。

 

「ええ、ミネルバ様さえよろしければ、そうするのがいいかと」

 

ヒメの言葉に、シノブの耳と尻尾が大きく動く。

 

「《伝言(メッセージ)》の魔法を使われたとのことですし、ミネルバ様自身が教えることが難しいと仰られた点などから、あちらはミネルバ様が高位階の魔法を使えるとあたりをつけていると思われますわ」

 

「あ……」

 

ミネルバがめずらしく、口を大きく開けて驚いた表情をしている。

ミネルバ本人としては、探知妨害の指輪をして、それで魔法を使えることを隠していたつもりだったのだ。

 

「どの位階まで使えるとはわかってないはずです。

 巻物(スクロール)でもいいかと思います」

 

ネコ耳と尻尾の力の入った暴れっぷりをみせながら、シノブがフォローを行う。

 

「相手は交渉が終わった後も、何かにつけて接触を図ると思われますわ。

 相手の信用を維持するためにも、定期的に利益を与えるのが無難かと。

 その際に、数に限りのあるマジックアイテムよりは、魔法実演のほうがいいかと思いますわ。

 重ねていいますが、ミネルバ様がお嫌ならば、お気持ちを優先させていただいてもいいかと思います」

 

「理論を尋ねられた場合は?」

 

「あちらは教えを受ける身、見て盗み取れと突き放すなどの、傲慢な振る舞いでいいかと思いますわ」

 

「……わかった。

 第7位階の魔法を実演することで、彼らの要求に答えるとする」

 

諦めた表情で、ミネルバが口にする。

やはり、ただの一般人が交渉を行うというのは避けたほうがよかったのか、などと思いつつも今更遅い。

 

「あ、あちらの研究所に赴くということですか?」

 

「転移魔法で移動されてもいいですし、教えてほしいなら訪ねてこいという姿勢でも構わないと思いますわ」

 

「……ここに来てもらおう。

 向こうに借りとなるようなことができたなら、あっちに転移することにして貸し借りなしとする」

 

「さすがミネルバ様ですわ。素晴らしいお考えです」

 

ヒメは大げさにミネルバを称える。

シノブとハカセもそれに続いた。

ミネルバは、彼女たちの忠誠への感謝と大げさな賞賛への気恥ずかしさに、なんとも言えない笑顔を浮かべるのであった。

 

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