これはゾンビですか? ~いいえ、彼は問題児です 作:白ウサギ@FGO
三日後の月曜日、テスト当日。
アリエル先生は急いでるようたったし、すぐに預かりものが来ると思ったが、一向に送られて来なかった。
その間、俺は歩の勉強を見ていた。
あれだけ分かりやすく教えたんだ、八十点はいってほしいところだな。
俺が帰る準備をしていると、一人の男子生徒が大急ぎで入ってきて、教室に残っていた生徒をほぼ全員連れて廊下に出ていく。何かあったのか?
「騒がしいな」
歩の言葉に呼応して、織戸が席を立つ。
「俺も、ちょっと見てくるわ」
そう言って織戸が廊下に向かい、顔を出すとかなりの速さで俺達の席にやって来る。
「相川!九十九!」
うるせえな。ちょっとは落ち着いてから話せ。
「セラさんが来てるぞ!」
「は?」
「あ?」
「相川か九十九、お前らが呼んだのか?」
俺は呼んでないはずだが。歩の方も同じみたいだぞ。
ドアの方を見ると、セラがこちらに近づいてきていた。その手には弁当箱を持っている。
「歩、ハルナからこれを預かってきました」
ん?今日は弁当は要らなかったはずだけどな。
「お前が、わざわざ弁当を届けるために来てくれたのか?」
「いえ――ついででしたから」
「ついで?」
「この学校には、旧友が居るのですよ」
へえ、旧友ねえ。まあ、ゾンビや魔装少女がこの学校に居るくらいだ。吸血忍者が居てもおかしくないか。
「そうそう、ハルナから伝言です。『あたしの料理が食べれないって言うのか。死ね。気持ち悪い』……確かに伝えましたよ」
ああ、そういうことか。大方、歩が今日は弁当いらないからとか言って、ハルナが勘違いしたんだな。
「では、私はこれで――」
「そうだ、セラ。今日はもう授業がないし、一緒に帰らないか?」
俺の言葉に、セラは足を止めてこちらを見る。
「……歩、授業がないのに弁当を届けさせたのですか?」
「どうせハルナが勘違いしたんだろ。それで、どうする?」
俺の言葉にセラは少し考える仕草をし、
「わかりました。私もこれから帰ろうと思っていましたので」
そう答えた。
「じゃあ、俺も一緒に――」
「「来んな」」
「おいおい相川と九十九、卑怯だぞ!ちょっと一緒に住んでるからって――」
「な、なにいいいぃいぃぃぃぃーっ!」
「うるせえ」
俺がそう言いながら睨むと、教室は静かになる。
織戸が俺の肩をつかんで激しく揺らしながら、
「なあ九十九ぉ……セラさんもそうだが、ハルナちゃんもユウちゃんも、美少女ばかりとどうやって知り合っ――」
「てい」
とりあえずうざかったので俺は織戸の額にデコピンをした。
俺のデコピンを受けた織戸は額を押さえながら床の上を転がる。
すると、歩が俺とセラの手をつかみ、教室を出た。
「おい、待てよ相川っ!」
そう言った織戸は涙目だった。
「歩、そんなに急ぐ必要もないでしょう?」
「セラ、お前はいいのか?変な注目を浴びて。神無もそう思わないか?」
「俺は特にそうは思わないぜ。それに、今さら気にしても遅いと思うぞ?」
「ええ、私も同感です。それに、気にすればさらに注目を浴びますよ」
確かにセラは目立つからな……。俺も注目を浴びることがあるから分からないこともない。
そんなことを考えながら歩いていると、その横を駆け抜けたツンツン頭がいた。
「セラさん!お久しぶりっす!」
「……」
「いやあ、今日もお美しいっすねぇ!」
「……」
「あ、昨日のクイズ番組で――」
「五月の蠅ですね」
「ハエ?どこですか?叩き落としてやりますよ!」
織戸、もしかして気づいてないのか?……まあ、知らない方が幸せなこともあるしな。
下駄箱についたので、上靴を靴箱にいれて校舎から出ようとすると、歩が立ち尽くしていた。
「?……ああ、そういうことか」
そういやあ、歩はゾンビだったな。
「悪いが、今日は傘を持ってきてないから引きずってくが問題ないか?」
「それでいいから運んでくれ」
俺は歩の襟首を掴み、歩を引きずって校舎を出た。俺が歩を引きずっているからか、周りから変な目で見られたけどな。
……明日はちゃんと傘を持ってくるか。
歩side
なんとか家に辿り着いたようで、目が覚めると、自分の部屋で寝転がっていた。
ちゃんと部屋に入れてくれるとは、流石神無。これがセラだったら玄関に放置するんだろうな。
気だるい体をなんとか起こし、大きく伸びをする。
ん~……さて、とりあえずカバンから教科書を出すか。
少し動くのもダルい。日光を浴びるとここまで気分が悪くなるものなのか。ゾンビの体ってのも、難儀なもんだ。
机に置かれていたカバンから教科書を取り出す。
……勉強はあとからやろう。今の状況じゃ無理だわ。さっと着替えを済ました俺は、愛用の弁当箱を取り出す。
ハルナの作る料理に不味いものはない。人にはそれぞれ味の好みがあるが、あいつはなぜか万人に愛される味を作り出せるんだ。
なので、せっかく用意してくれたんだし、とりあえず腹ごしらえをしようじゃないか。
今日のメニューは……えーっと……ヒジキ……のみ。
ヒジキのみかよ!こんにゃくとか五目にするとかあるだろ?ヒジキオンリーなんて初めて見た。真っ黒とか、食べる気が失せてくるな。――いや、まあ、食べるけどさ。
全く、少しは神無を見習ってほしい。神無なら、ちゃんと彩りも考えてるぞ。
くそ……やっぱり美味いじゃないか。ヒジキあんまり好きじゃなかったのに……。それでも、弁当箱一つ分はいらんな。
そうだ。抗議しにいこう。今は学校じゃない。部屋を出てすぐそこの部屋に、ハルナは居るはずだ。
勉強は、そのあとで。
俺はヒジキにまみれた弁当箱を持参して、ハルナの部屋の扉を勢いよく開けた。
「ハルナ!」
……あれ?
ハルナの部屋には誰も居なかった。飯時とか何か悪巧みを思いついたとき以外は、ずっと引きこもっているはずなんだが。――てことは、悪巧みをしているのだろうか?
もしかしたら、ユー達と一緒にテレビを見ているかもしれない。
弁当箱を持って居間に顔を出してみたら、ユーとセラが主婦のように昼ドラに夢中だった。その横では、神無が昼飯を食べていた。
こちらに顔を向けることなく、ユーはボールペンを持ち、机を二回叩く。机に目を向けると、いつもの切り離すタイプのメモ帳とは違うメモ帳が開いていた。
新しく買ってきたのだろうか。
『おかえりなさい』
俺はその文章を目にして驚いた。
なぜならば、一ヶ月ほど一緒に暮らしてきて初めて言われたからだ。やっぱりこういう挨拶があると嬉しいもんだな。
まるで……そうだ。
まるで家族みたいじゃないか。
思わず笑みが零れてしまった。挨拶っていいもんだな。
正座して俺を見上げるユー。いつもは瞬くことのないまぶたが、ゆっくりと下りる。そしてまた開かれた大きな青い目が俺を見つめていた。
返事を待っているのかもしれない。
「ただいま。ハルナを見なかったか?」
俺はあぐらをかいて弁当箱をテーブルに置き、ユーへ最高の笑顔を投げ掛けたが、ユーはいつもから想像も出来ない素早さで俺から顔を背けた。
あれ?なんで?
「ハルナなら出かけてますよ?」
正面に座るセラが小さく答えた。セラはちらりと俺の顔を見ると、人差し指を曲げて魅力的な唇に置く。
「どこへ?」
「存じません」セラはコホンと喉を整えた。「私が帰ったとき、すでに姿は――」コホンコホンと何かを隠すようにわざとらしく咳をする。
こいつ――なにを隠そうとしているんだ?
「神無は聞いてないか?参ったな。言いたいときに言わないと、また忘れそうだ」
神無はこちらをちらりと見ると、口を手で押さえ顔を背けた。
「いや、聞いてない」
神無は俺に背を向けたままそう答えた。
俺はやれやれと首を横に振りながら、
「あのバカ、どこへ消えたんだ。全く――」
ハルナの噂をしていたからだろう。玄関の扉が開く音が聞こえ、続けて階段を駆け上がる音、そして階段を駆け下りる音がする。
「アユム帰ってるだろっ!こんのバカ!変態!」
居間へやってきての第一声からこれだった。
俺がもたれかかるように首だけを向けると、そこにはチェック柄の短いスカートを履いたハルナが居たんだ。
スカートなんか珍しいな。学校の制服か何かだろうか?
いいところに帰ってきたな。俺はヒジキの入った弁当箱をハルナに見せるようにして、声を掛ける。
「ハルナ――」
「やっぱり!あんた、あたしの部屋に入ったろ!」
あー、そう言えば戸を閉め忘れたな。
ハルナは俺を見下ろして硬直した。
俺は少しからかい気味に、
「ハルナ、パンツ見えそうだぞ」
こう言うと、ハルナは顔を紅潮させて、いつもみたいに「うきゅー」とかアザラシのような声を出すと思ったのだが、
「あはっははは、あはははは!」
なぜかの大爆笑。腹を抱えてアホ毛をぴょこぴょこさせている。それにつられたのか、神無も腹を抱えて笑っている。
「なんだよ……その顔……ヤバッ!にゃは、はははははは!」
「顔?」
「鏡見てこいよ!もう、ダメ……あははははは!」
「ちなみに、私ではありません。あのハリネズミのような男がやったことです」
「ちなみに、俺でもないぞ。俺は止めようとしたんだが。……というか早く顔をどうにかしてくれ」
『てっきり 笑わせようとしているのかと』
鏡……ハリネズミのような男……笑う。
これらのキーワードが指すものは一つしかない。
ユーがそっぽを向いていたのも、セラがわざとらしく咳をして何かを隠そうとしていたのも、神無が口を手で押さえていたのも、そのためか!
急いで洗面所にいき、鏡を見る。
俺の顔には、中学生の教科書のような、程度の低い落書きがされていた。
額には『无』の文字、口の端からは赤いペンで吐血した感じを出している。目の周りやこめかみ、隅々まで歌舞伎役者を参考にしたような落書きがされていた。
頬には吹き出し風に『いえいえ、滅相もありませんよ』
額への落書きは『肉』だろ、普通。
セラが買ってきたであろう、『炭の成分で毛穴の頑固な汚れまで落とす洗顔フォーム』を使って顔を洗う。
明日、絶対織戸を殴ろう。いや、それだけじゃ気が済まん。拷問に掛けてから完膚なきまでに粉砕し、釜茹でにしてやろう。――メガネをなっ!
すっきりした俺が居間へ戻ると、ヒジキしか入っていない弁当をセラと神無に食われていたので、俺は口を薄く開けた状態で一瞬固まった。
まさか二人が盗み食いをするなんて。
「セラと神無、それ俺のなんだけど」
「お気になさらず。私はヒジキが好きなので」
「ハルナが新しく作った料理が気になってな。つい」
そうか。それはよかったな。――もう我が手には帰ってこないことを確信し、俺はタオルを首に巻いたままあぐらをかく。まるでおっさんのようだと自分で思ってしまった。
「なあなあ葉っぱの人、美味い?」
ハルナは是非ともヒジキの感想を聞きたいようだ。いや、褒めてほしいのだろう。頬杖をついたままに幸せそうな笑顔でゆっくりアホ毛だけを揺らし、セラを眺めている。
「……それなりに」
捻くれた表現だった。セラはハルナの料理が出来る部分に嫉妬してるからな。認めるが褒めたくはないんだろう。
「じゃあ、カンナはどうだ?」
ハルナはその表現では満足できないようで、次は神無に感想を聞くようだ。
「かなり美味いぞ。どうやったらこんなに美味く作れるんだ?」
神無の感想を聞いて嬉しいのか、ハルナのアホ毛がぴょこぴょこ動いている。
「ほら、根暗マンサーも食べていいんだからな?しゃーなしだぞ?」
あれ?俺のじゃなかったのか?
『いいの?』=『お兄ちゃんのじゃないの?』
ハルナは俺に荒んだ目を向けてから、
「しゃーなしな」嫌みったらしい声を出した。
なんでそんな目で見るんだ?部屋に入ったのがそんなにイヤだったのか?
「そういやあ、ハルナはどこに行ってたんだ?」
丁度俺が聞きたかったことを、神無がハルナに質問する。
「学校」
「は?」
神無はその言葉で納得したのか、なにも言わない。
「なんだよ。あたし学生なんだけど?」
「いやいや……どこの学校だよ」
「どこって……マテライズ魔法学校に決まってるだろ?」
ハルナは普段、あまり履かない。どうやらこのチェックのスカートは魔法学校指定のものらしい。
「お前が授業をまともに受けるとは思えんが」
もしかしたら、俺が勉学に勤しんでいる姿に心打たれ、自分も授業へ出ようと思い立ったのではないかと思ったが、
「授業なんか二秒しか受けてない……ほんと、あんなの何が楽しいんだか」
どうやら違うらしい。
「じゃあ、何しにいったんだよ」
「ちょっとミーティングに呼ばれただけ。なんか、この地域にメガロが大量発生してるらしいからって。どうせ全部狩るんだし、ミーティングするまでもない話だけどな」
へー、そうなのか。
……って、この地域の話かよっ!勘弁してくれよ、もう。
「そうか。まあ、でもヴィリエに帰れるようになったんだな」
よかったよかった。と言葉を続ける前に、ハルナは怒りの形相を見せた。
「……帰れる訳ないだろ!早くあたしの魔力返せよな!」
ハルナの言葉にユーがびくりと反応した。
ハルナはどうやら、まだ俺が魔力を奪ったものだと考えているようだ。だが、奪ったのは俺じゃなくこのユーだろうと俺は推測する。
『ハルナ お菓子を作って欲しい』=『ねえねえ、ユーお腹空いちゃったよぉ』
だからユーはこの話題を変えたかったのだろう。
「私が「俺が作ろうか?」」
ヒジキを口に残したままセラが提案しようとしたところで、神無が口を挟む。
ナイスだ!神無。
セラは神無に遮られ、少し不満気にしていた。
神無の言葉にユーが頷く。
「それで、何が食べたい?」
『クリスチャン・ベール』=『え――――っとぉ』
おやつにしては、えらい豪華な俳優を選んだな。俺にはその名詞を脳内変換することが出来なかった。翻訳用の脳内ユーがしどろもどろになっている。
神無も分からないようで、表情がひきつっていた。
だが、
「シュークリーム?」とハルナが聞けば、ユーはこくりと頷いた。
お前は暗号解読のプロか?
「分かった。材料は大体あったから作れると思うぞ。ちょっと待ってろ」
そう言って、神無は台所に向かって歩いていった。
「そういえば、ハルナはいつもどこから食材を調達してるんだ?」
日頃の疑問をぶつけてみた。
「あんたバカでしょ?支給されるに決まってんじゃん」
どうやら、支給されることが決まっているようだ。「これだからバカは困る。少しはカンナを見習え」と、アホ毛が肩を落としているように見えた。
まあ、ハルナはバケモノ退治にこの世界へやってきて命を懸けている訳だし、それなりのものを用意してもらえるんだろうな。
ハルナの作る料理が妙に美味いのは『この世界の材料を使っていないから』なのかもしれない。
「でもな、メガロ退治の報酬がヒジキじゃ割に合わないだろ?」
「はあ?なんだよそれ。――仕事ってのは、食うためにやるんだろ。それ以外に何が必要な訳?なんだったら納得出来るんだよ。ダーツ投げて、パジェロでも当たれば満足すんの?」
「ヒジキよりはな」
「ですが歩、このヒジキはそこそこの味ですよ?恐らくパジェロよりも――」
セラは険しい表情でごくりと白い喉を鳴らした。
「お前、パジェロがなにかわかってないだろ?」
『黒人歌手のこと』
……パの部分はどこへ飛び立ったんだ?
神無side
三日後の木曜日。テストは順調に進んでいた。
今回のテストも問題なく終わり眠くなってきたので寝ようとしたところで窓の叩かれる音がした。いったいなんだ?
ちらりとそちらを見るとハルナが張り付いていた。もしかしてメガロか?
「アユム、カンナ!メガロが出た!いくぞ!」
窓越しに大きな声を出す。おいおい、そんな大声出したら気づかれるぞ?
一応テスト問題の書かれた用紙に『ちょっと待ってろ』と書いて見せたとき、丁度チャイムが鳴り響いた。
テストを提出して窓の方を見ると、ハルナはいなくなっていた。
……もしかして先に行ったのか?
とりあえず歩にその事について聞くか。
「おい歩、ハルナは?」
「たぶん、先に行ったんだと思う」
マジかよ。
とりあえず窓から外を見るとハルナらしき影が走っていくのが見えた。
「歩、ハルナを見つけた。行くぞ」
そう言って俺は歩を担ぎ上げ、窓から飛び降りる。
「は?」
後ろから驚きの声が聞こえるが放置だ。
全く。ちょっと待ってろって言ったんだがな。
太陽の下だろうが関係なく進んだせいか、ハルナにはすぐに追い付いた。
……歩は干からびたが。
「ウマー」
そう言いながらハルナに攻撃しようとしたのは三メートルを越える巨大な馬。
俺はハルナに攻撃が当たらないよう、馬の蹄を弾く。
「アユ、ム……?」
「いや、俺は神無だ。それより歩はさっさと変身しろ。その状態じゃ足手まといだぞ?」
そう言いながらハルナの持っていたチェーンソーを投げ渡した。
「わかってるよ。……はあ。ノモブヨ、ヲシ、ハシタワ、ドケダ、グンミーチャ、デー、リブラ!」
変身シーンは省略する。ただ一つ言えるのは、俺のSAN値が削られただけだ。
俺が馬から眼を離した隙に、馬の蹄が俺に向かってくる。
それを片手で受け流し、回し蹴りを馬の顔面に当てる。
それをもろに食らった馬はマンションの壁に吹っ飛び、粒子となって消えた。
「……俺、要らなかったんじゃないか?」
「そんなわけないだろ。それに、こいつだけじゃねえぞ?」
「アユムっ!後ろっ!」
歩が何か言う前に背後から触手のようなものが歩の体を貫通する。
俺の方にも来たが、気配には気づいていたので触手を弾く。
攻撃してきたのは、何十匹ものクラゲだった。
ハルナを庇いながらだと、流石に少しきついか?
このクラゲをどうやって倒そうか考えていると、ふわりとマントが広がる。
セラか?いや、あの身長からしてセラじゃねえな。
「誰だ?」
「あなたに、会いに来た」
そう言った少年――いや、少女か?それにあの顔、どっかで見たような……
俺に会いに来たってことは、もしかしてアリエル先生関係か?
「あれ?オレ――」
きょろきょろと辺りを見回す少女。すると、片手に持っていたものをクラゲにぶっかける。あの臭いは……とんこつラーメン?
それがかかったメガロはのたうち回り、キラキラと粒子になって消える。
十中八九、あのメガロが特別で弱点はとんこつスープなんだろう。そうじゃなきゃ、魔装少女なんていらないからな。
そんなことを考えていると、セラがやって来て周りのメガロを切り伏せていく。
全てのメガロを倒したあと、少女がセラに笑顔で話しかけた。
「セラフィム!ひっさしぶりだなー。元気にしてたか?」
「近寄らないで下さい」
そう言ったセラは少女の足を払い、チキンウイングで腕を固めてから冷ややかに言った。
騒いでいる少女を無視して、俺は歩を立たせる。
「歩、大丈夫か?」
「ああ、一応な。それよりセラ、そいつは知り合いなのか?」
「ええ。まあ」
やっぱり知り合いか。それよりもこのままじゃ腕が折れそうだな。
「おい、セラ。離してやれ。このままじゃそいつの腕が折れるぞ」
「しょうがありませんね」
そう言ってセラは少女の腕を離した。
「お前のおかげで助かったぜ、ありがとな」
「気にするな」
俺達が話している間、ハルナを起こしにいっていた歩がセラに質問する。
「セラ、そいつは何者なんだ?」
「名はメイル・シュトローム。吸血忍者ですが、私とは敵対している派閥の人間ですよ」
そういやあ、吸血忍者同士で争ってたって言ってたな。
「現在、吸血忍者には二つの派閥が存在するのです。我々は保守派、メイルは革新派の吸血忍者です」
へえ。つまり、セラが来る前に来ていたやつらは革新派か。
「それよりもセラフィム!お前本気で腕折るつもりだったろ!」
「まあ、セラとくっつけたんだし、いいだろう?」
そう言いながら、歩がメイルの肩を組む。
あいつ、何やってんだ?もしかしてメイルが女って気づいてないのか?
歩がメイルに何か耳打ちすると、メイルは体を震わせて肩をすくめる。
「うわぁあっ!み、耳元で喋るなーっ!」
「相川君、それ以上はセクハラになると思うのでやめた方がいいと思いますよ?」
「相川君!?それよりも神無、なんだその敬語は!というか、こいつは男だぞ?」
やっぱり女だって気づいてなかったか。敬語は悪ふざけだが。
「アユム……もうメガロも倒したんだし、帰ろ?」
そう言いながら、ハルナが歩の服をつかむ。
「なん、なんだ……こいつは……離れろよ。キショイんだよっ!お前どこ中だよっ!」
「歩、そいつからさっさと離れろ。そいつは――」
「もうっ!アユムのバカっ!あたしを無視するなよなっ!」
ハルナが歩の背中を押し、メイルは歩に押し出される感じで倒れてくる。――何故か俺の方に。
……これ、避けられないぞ。第一、メイルが腕を伸ばしてるから左右どちらにも移動できねえし。
「う、うわっ!うわああああ!」
次の瞬間、その場にいる全員に衝撃が走った。
体勢が悪かったのか、俺とメイルは唇を重ねてしまったようだ…
歩side
目の前の少年が神無を押し倒すように唇を重ねている。
俺はその後ろで倒れていた。
すまん、神無。
……まあ、男同士だしノーカンだよな。神無もそこまで気にしないだろ。
ん?セラは「うわあ」と言いたげな表情で引いてるし、ハルナは口を三角形にして顔を赤くしてる。なんだこの感じ。俺、何か取り返しがつかないことやっちゃったか?
「……悪い、ちょっとどいてくれ。歩と話がある」
「お、おう」
少年は顔を赤らめて、その場から離れる。
なんか、神無の後ろから怒気のようなものが――
「おい、歩」
「は、はい!」
「まず一つ、こいつは女だ。男じゃない」
「なん……だと」
「二つ目、後ろを見ろ」
「へ?」
「アユムの変態っ!ヤックデカルチャーがっ!」
「では、私もっ――」
「ついでに俺にも殴らせろ」
俺が背後を振り返った瞬間、ハルナとセラの蹴りが俺の首を刈った。
その後、神無の右ストレートを顔面にもらった。
神無side
歩の顔面に右ストレートを当てた後、ハルナは顔を赤くして逃げるように帰っていった。
今現在、俺達は屋根の上を足音も立てずに走っている。歩は足音を消していないが。
メイルが足を止め、指を指す。
「最近、妖怪の数が半端ないんだ。ほら、見てみなよ――」
そこにはくまのような巨大な生物――学ランを着てるからメガロだろうな。
だが、たぶんあれは今までのメガロと違うな。もう少し知性があったはずだ。
そのメガロを対処してるのは三人の吸血忍者。その手にはラーメンの鉢が握られている。
メガロの一瞬の隙をつき、とんこつラーメンをかけた。
それをかけられたメガロはもがき苦しんだ後、粒子になって消えた。
あのメガロもさっき戦ってたのと同じで、とんこつスープが弱点か。
「何をしたのですか?」
メイルの話を聞くと、俺の予想通りとんこつスープが有効とのこと。
「それでもやつらの強さはすげえよ。一発で倒せる手段を持ってても、今みたいに三人がかりじゃないと無理ゲーなんだぞ?」
「メイル、あなたの力でも?」
「オレを嘗めんなよ。オレなら一人でもやれるぜ。……そこで、オレたちは対策を練ったんだ。まあ、ついて来いよ」
再び走り出したメイルのあとを俺達は無言でついていった。
俺達が連れてこられたのは、廃ビルの中の一際大きな部屋。
そこには十三人ほどの吸血忍者がいた。
部屋の隅には貯水タンクのようなものが置かれている。
「セラ、あれが何か分かるか?」
「この装置は――天候を操ることの出来るものです」
「へえ。ってことは、とんこつスープの雨でも降らせるのか?」
「お前、よくわかったな!これが、オレたちの対抗手段さ。すげえだろ」
やっぱりそうか。まあ、これくらいは考えればわかると思うぞ?
「メイル!どうしてセラフィムなんかを連れてきたんだ!奴は保守派だぞ!」
「ああああっ!敵対してたの忘れてたっ!」
おいおい、マジかよ。敵対してたの忘れるとかバカなのか?
「いや、お手柄だった。セラフィム、お前にお願いがある」
装置の横で座っていた男が口元を隠しながら、そう切り出した。セラは何も答えず、表情も変えない。とりあえず聞くって感じか。
その反応に満足したのか、ウェーブのかかった髪をした女性がにっこりと微笑み、
「セラフィム。妖怪が大量発生しているのはもう知ってますか?」
「ええ」
「じゃあ、その妖怪たちがとんこつラーメンに弱いことも?」
「あー、それもさっき聞いたわ。で、その装置は?」
「この装置は、さっきの彼が言った通り、とんこつスープの雨を降らせるものです」
そこからの話をまとめると、
・この装置を使ってメガロを一網打尽にする。
・この装置にはリスクがあり、生態系に影響する可能性がある。
だいたいこんな感じだな。
「もっと別の方法を考えろよ!」
「落ち着け歩。逆に聞くが、お前にはもっといい案があるのか?」
俺の言葉に歩は押し黙る。まあ、分からなくはないけどな。
「ここにいるのは、皆私と同等かそれ以上の力を持った者です。とりあえずここは引きましょう」
「くっ……分かったよ」
「意図は理解しました。成果を期待します。では――」
心にも思ってないといった感じでセラは言い放ち、部屋から出ようとした。
「待て、セラフィム。……実はな。何者かが、この装置を破壊しようとしている。って情報を得たんだ」
「それが何か?」
「誰が刺客だ?」
「知りません」
「そうか。お前じゃなくてよかったよ」
それだけで信じるのか。もっと深く追求すると思ったが。
「それだけでいいのか?」
歩も同じことを思ったのか、男に質問する。
「ああ。セラフィムって女は、バカ誠実だからな」
「でも、そこがセラフィムの良いところだよな」
メイルが笑顔のままそう言った。――それには俺も同感だぜ。
「――最後にセラフィム。お前、こっちの派に来ないか?」
「嫌です。――では」
流石だな、セラ。
俺達は吸血忍者たちと別れたあと、帰路についていた。
「それにしても、とんこつスープの雨なんか降ったら町中ぎとぎとになっちまうな」
確かにそうだな。
「心配しなくても良いですよ」
「そうなのか?」
「私の上司は、ちゃんと別の手段を考えてくれてます。内容はまだ知りえませんが、これはもう確実なのです。……あの装置に関しても、すでに手は打ってあるでしょう。歩がここで無茶なことをする必要はありません。……ところで、神無。あなたは軽薄すぎます」
「ん?」
なんのことだ?
「吸血忍者にとって、異性との接吻は婚儀の際に行うもの。いつ、どこであってもそれは変わりません。あの瞬間、婚儀は終了したのです。あなたはメイル・シュトロームを愛しているのですか?」
「いや」
「でしたら、どんなことをしてでも避けるべきだった。……まあ、歩が悪いのですが」
「本当にすまん」
「終わったことはしょうがねえだろ。それに、あれで婚儀が成立したとはメイルも考えてないと思うぞ?」
「そうですね。しかし、吸血忍者は自分の感情より掟を優先します」
面倒だな、吸血忍者って。
「じゃあ、もし――俺が今ここでセラにキスしたら、セラは俺と結婚するのか?」
歩が冗談混じりにそう言うと、セラは迷うことなく、
「ええ、あなたを愛すると誓います。――出来れば、の話ですが」