これはゾンビですか? ~いいえ、彼は問題児です 作:白ウサギ@FGO
次の日の金曜日、すべてのテストが終わった。
最終日は天気が曇りだったこともあり、歩が外を歩いても問題ないので、俺たちは今家に帰ってきているんだが……
「なんだありゃあ……」
歩がそう言ったのも無理はないだろう。俺も、少し驚いたしな。
「どう見ても笹だな……。ハルナが用意したんじゃねえか?」
何故かベランダの床を突き破っていて、飾り付けられた笹があった。
今日って何かあったか?……ああ、七夕か。
「とりあえず、ハルナにでも聞いてみたらいいんじゃないか?」
「それだ!」
歩はそう言って駆け足で二階へと上がっていく。
ハルナのことだから、七夕とクリスマスを混同したんだろ。
その後、歩にハルナがどうして笹を用意して、飾り付けしたのかを聞いたところ、俺の予想した通り七夕とクリスマスを混同してたみたいだ。
ポニーテールじゃないと願いを叶えてくれないらしいので、みんな髪を結っている。
「歩、よく似合ってますよ」
セラはそう言いながら、フンと鼻で笑っている。
まあ、俺と歩は髪が少ないからな。しょうがないと思うぞ。
……さて、俺は何を書くかな。
「よし!これなら!」
ハルナの方を見ると、短冊を掲げていたが納得できなかったのか、くしゃくしゃにしてゴミ箱に捨てていた。
歩が気になったのか、一つ拾って開けている。
俺も気になったので見に行くと、ユーも気になったのか、歩が持っている短冊を覗き込んだ。
『甲子園の魔物殺し(大剣)』
ハルナはそんなもの手に入れてどうするんだ?
「あ!こら!見んなよなっ!他人に見られたら無効なんだぞ」
そんなルールがあったのか。
「変なものは願うなよ。せめてこの世界にあるものを「“トントン”」頼んでくれ」
ユーが机を叩いたので、メモに目を落とす。
『甲子園の魔物を殺して どうするの?』
「根暗マンサーはしらないのか?甲子園に住むモンスターを倒せば、コウカが流れ出るんだぞ?……それよりっ!あたしのはいいからっ!ほら、アユムとカンナも早く書けよな!今二人待ち状態なんだぞ!」
残りは俺と歩だけか。そうだな……。
『ずっとこんな日常が続きますように』
これでいいだろ。
『神無の願いはなに?』
俺の願いが気になったのか、ユーが俺に聞いてくる。
「内緒だ。ハルナも言ってただろ?『他人に見られたら無効』だって」
さて、書き終わったしさっさと風呂にはいるか。
「こらアユム!まだ儀式が始まってないの!」
俺がそんなことを考えていると、ハルナが大声を出す。
ハルナの世界では七夕で儀式なんてあるのか?
「おいハルナ、いったいどんな儀式なんだ?」
「え……っと」
俺が気になったことをハルナに聞くと、ハルナはセラの顔を窺う。
十中八九、セラが教えたことをハルナが混同させたんだろうな。
「セラ、お前ハルナに変なことを教えるな」
「変なことは教えてません。教えたことをハルナが勝手に改変、混同しているだけです」
やっぱりそうか……。
「やってる途中で違ってるって教えてやれよ」
「いいじゃないですか。同じ行事を繰り返すより、少し変化を付けた方が」
「あのな、完成されたものには手を加えない方がいいんだよ。イチゴのショートケーキがスイカだったらイヤだろ?お好み焼きの具がミカンだけとか」
「……ハルナがしているのは、そんな戦争にまで発展しそうなことと同義ですか?恐ろしいですね」
「俺はそんなことで戦争に発展させようとするお前の思考が恐ろしいよ」
「よし、出来た!さあ儀式を始めるぞ!」
歩たちが漫才じみたことをしている間に準備が終わったのか、俺たちの短冊を裏向きのまま集める。
ハルナは指の間にロウソクを挟み、胸の前で腕を交差させて呪文を唱える。
「カイザード、アルザード、キ・スク・ハンセ、グロス・シルク。灰塵と化せ冥界の――「ちょっと待て!呪文はパクリかよ!そのネタ使うならハロウィンのときだろ?ってか、そんなもん撃てんのか!」」
歩が何やら慌てている。何をそんなに慌ててるんだ?
「ほえ?撃てるよ?魔法だしな。頑張って練習したもん」
「いやいや、だったら余計に困る。やめてください」
「歩。何をそんなに慌ててるのか知らないが、たぶん大丈夫だと思うぞ?ハルナはまだ魔力が戻ってないから、心配しなくても大丈夫だろ」
『神無の言う通り ハルナには魔力が全然ない』
俺とユーの言葉に安心したのか、ほっと息をつく歩。
「あ、あるに決まってるだろっ!結構戻ったもん!やって見なきゃわかんないだろ!」
「だからやめてくださいと言ってるだろ?」
「それで結局、何の儀式なんだ?」
「そうだ。何の――「こういうイベントをしていると、まるで家族のようですね」」
俺の言葉に便乗して、歩が何かを言おうとしたところでセラが含み笑いをして言う。
確かにそうだな。歩も同じことを考えたのか、セラに合わせて微笑んでいる。
ユーもその意見に賛成のようで、こくりと一つ頷く。
ハルナの方を見ると、むすっとした顔で歩を睨み付けていた。
「ハルナ?」
「な、なんだよ!こっち見んなよっ!」
「ハルナ、お前」
「もうっ!あっち向け――」
「その髪型も可愛いな」
「んなふっ!」
へえ……。歩もなかなかやるな。まあ、無自覚なんだろうが。
「歩、なかなかやるな」
「は?何が?」
「アユムの髪型は可愛くないっ!何でそんな髪型してんだよっ!バーカっ!」
そう言ってハルナは、歩にローリングソバットを仕掛けている。
ハルナなりの照れ隠しなんだろ。
「神無、私に何か用がありませんか?」
ん?……ああ、そういうことか。
「いつも通り美人だぞ」
「……そうですか」
そう言って少し嬉しそうに居間に戻っていくセラ。
儀式も終わったことだし、風呂にはいるか。
三日後の月曜日。いつものように教室に来ると、眼鏡をかけた歩と歩を睨んでいる織戸が目に入った。
「……なにやってんだ、織戸。それと、歩はいつの間に眼鏡なんて買ったんだ?」
「…………」
俺の声に気づき、こちらを見て動かなくなる歩。
「歩?」
「……神無って、いい身体してるよな……」
こいつ、急に何を言い出した?今の言葉で鳥肌がたったんだが。
少し前からそっちの気があるんじゃないかと思っていたが、まさか本当にそうだとは。
「悪いが、俺にそっちの気はない」
「……相川、お前……」
「違うんだ、神無!これは誤解なんだ!」
歩が何か騒いでるが、無視して席につく。
まあ、歩に何かされたとしても撃退できる自信はあるが……。
今日はテストが帰ってくる日なのだが、予想通り点数はかなりの高得点だった。
そして昼休み。織戸に無理矢理連れられ、繋げた席に座る。
「神無、さっきのは本当に誤解なんだ」
「……本当か?俺は前々からお前にそっちの気があるんじゃないかと思っていたんだが」
「本当だ!俺はいたってノーマルだ!」
それならいいんだが……いまいち信用できないな。
とりあえず歩のことはいいとして、さっさと昼飯食べるか。
「ほー、今日は豪勢だな」
歩の弁当を見て、織戸がそう言う。
俺も気になったので、ハルナが作った歩の弁当を見る。
今日はいつもと違って普通だな。まあ、汁物が入ってる時点で普通じゃないが。
「そうだ、相川と九十九。お前らに渡しておきたいモノがあるんだよ」
俺らに渡すもの?
織戸が手提げのビニール袋を手渡す。
「なんだこれ。雑誌か?」
そう言って歩が開けようとしたところで、
「バカかっ!相川っ!こんなところで開けんなよ。――死ぬぜ?」
死ぬってなんだよ。もしかして、公共の場に出せないようなものか?
織戸のことだし、エロ本とかか?
「はははは!なんだよ、その気持ちわりぃ弁当――」
ガタガタガタッ!――ゴン!
歩、動揺しすぎだろ。
メイルが来たことに動揺したのか、イスからころげ落ちそうになり、横に倒れて窓に頭をぶつける歩。
「お、お前!――何でこんなところに」
「落ち着けよ、歩。メイルの制服がここと同じなんだから、この学校の生徒だろ」
「た、確かに、神無の言う通りだな……」
俺の言葉に、ようやく落ち着く歩。
俺もメイルがここの生徒とは思わなかったが。
「おー、トモノリ。どうした?」
トモノリ?ずいぶん男っぽい名前だな、俺と違って。
「トモノリじゃねぇっつってんだろ!ユキだ!友紀!」
「織戸、知り合いなのか?」
「何言ってんだよ相川。陸上部のホープじゃねぇか。ほら、隣のクラスの――体育で会ってるだろ?知らないのかよ」
へえ、そうなのか。
「で、トモノリ。どうしたんだ?」
「その名で呼ぶなっつってんだろ!」
「その、トモノリってのは?」
「ああ、こいつのあだ名。『吉田 友紀』って名前なんだが、ユキって部分が友達の友に糸偏の紀。トモノリって読めるだろ?それに、男みたいな性格してるからな」
「だからトモノリか、納得した」
「トモノリって言うな!――えっと……」
そういやあ、自己紹介はまだしてなかったな。
「九十九神無だ」
「そうか、九十九か。な、なあ、九十九……す、好きな食材は?」
「特にこれといって好きなものはないが……強いて言うなら、魚だな。で、それがどうかしたか?」
「あーっとだ……まあ、アレだよアレ。あ、明日から……弁当を作ってやろうと」
カタンッ
音のした方を見ると、織戸が箸を落として固まっていた。
「トモノリ……九十九……お前ら、付き合ってたのか」
「付き合ってねえよ」
「じゃあ、なんで弁当なんかを……」
つーか、そんなことで泣くなよ。
「う、うっせーなっ!オレの夢は――『お嫁さん』になったんだよ!」
もしかして、あのときのことか?
「ちょっと待て。いまいち状況がつかめないんだが。あれは事故だし……無効だろ?」
さっきからずっと黙っていた歩が、ようやく声を出す。
「――オレたちにとって、あの行為ってのはな、そんなに軽いもんじゃないんだよ。どんな状況でも守れなかったオレが悪い……オレは覚悟を決めてからここに来た」
……吸血忍者って面倒くせえな。
「ところで、一つだけ気になんだが」
俺がそんなことを考えていると、歩がメイルに質問する。
「なんだ?」
「お前のことはなんて呼べばいいんだ?メイル?」
「そっちの呼び名はこの学校じゃおかしいだろ?頭悪ぃなお前」
「じゃあ――トモノリ?」
「せめて苗字で呼べよっ!」
ふむ……歩はトモノリって呼ぶのか。
「なら、俺は友紀って呼ぶかな」
「お、おう」
俺がそう言うと少し顔が赤くなる友紀。
「やっぱりお前ら、付き合ってるだろ!!」
「もう一度言うが、付き合ってねえからな」
学校帰り、俺は歩たちと一緒にゲーセンに来ていた。
俺と歩の他には、ユーやハルナもいる。
学校が終わったあと、寝てたせいでどうして行くことになったのかはわからないが。
学校にハルナがいたときは、メガロが出たのかと思ったぞ。
「何ここ!これ全部魔道具?ヤバ!アユムあんた!あたしを殺す気か!」
「心配すんな。ここにある魔道具とやらは、全部お前が遊ぶためにあるんだ」
「お、おおー。いい心がけだな!」
そう言って駆け出すハルナ。それを眺めていると、俺の服の裾が引っ張られた。
振り向くと、先に来ていたユーが俺の服をつかんでいた。
『神無 こんなところに何があるの?』
「いろいろなゲームがあるな。……そういやあ、セラはどうしたんだ?」
『用があるから 少しだけ遅れる』
「へえ」
俺たちはそんな会話をしながら、ゲームセンターの中を見て回る。
クレーンゲームコーナーにつくと、ユーはキョロキョロと辺りを見回した。
「なにか欲しいものでもあったのか?」
『全部』
「ユーって、こういうのが好きなのか?」
『メガロみたい 助けてあげないと』
俺は両替機で紙幣を両替して、ユーのところに戻ってくる。
「それじゃ、簡単に説明するぞ。
まず、ここに百円玉を入れる。次に、このボタンを押してアームを移動させ、欲しいものの辺りに持っていけば取れる。
とりあえず、やってみるから見ていてくれ」
ユーにそう言った俺は、目についた黒いウサギのぬいぐるみをクレーンゲームで取る。
「……とまあ、こんな感じだな」
そう言ってユーの方を振り替えると、いつのまにかイルカのぬいぐるみを持っていた。
『救出した
でも 手遅れだった』
そもそも、生きてないからな。
その後はセラも合流し、俺たちはいろいろなゲームを見て回った。
「なあ、アユム!あの箱何?」
ハルナがアホ毛で、ある一点を指した。
「プリクラですね」
「おー、あの噂に聞く……」
「噂に聞いてるんだ」
「あれだろ?一八八一年に即位したネパールの第七代国王の略称だろ?」
「……一応言っておくが、プリトゥビ・ビール・ビクラム・シャーのことじゃないからな?」
俺がそう言うと、歩が驚いた顔でこっちを見てきた。……知ってるのがそんなに意外か?
『プリクラッシュセーフシステムのこと?』
「それも違う。あれは、簡単に言えば写真を撮る機械だ。文字を書いたりもできるぞ」
「よし!撮り殺そう!」
そう言って、ハルナがプリクラの中に入っていったので、俺たちも中に入っていく。
そういやあ、前世でもプリクラはやったことなかったな。
俺がそう考えていると、ハルナがカメラに向かって歩を蹴飛ばしていた。
「……ハルナ。なんで歩を蹴飛ばしたんだ?」
「え?なんか飛び出してくるんじゃないの?」
「飛び出してこないぞ。あと、ついでに言えばプリクラは、じっとしているもの「どえぇぇい!」だ……」
俺が説明している途中で、もう一度歩を蹴飛ばすハルナ。
「ハルナ、お前な!動くなよっ!」
「ハルナ、神無と歩の言う通りですよ。これはじっとしているものなんです」
「え?……まあ、知ってるけどね」
そう言って、ようやくおとなしくなるハルナ。
「はい。笑顔を作って――」
俺はいつも通りの笑顔でプリクラを撮る。
セラが出てきた画像にペンタブでそれぞれの名前を書きながら、説明する。
「こうやって、撮った写真に落書きが出来るのですよ」
「どんな魔法使ってんの?」
「科学です」
「あ、ああ。あの魔法だな」
そういやあ、最初携帯を見たときも魔道具って言ってたな。
俺がそんなことを考えているうちに、プリクラをほとんど仕上げるハルナ。……いつの間にやったんだ?
そのあと俺たちは、出来上がったプリクラを五人で分けた。
たまにはこういうのもいいな。
そのあとゲームをセラとハルナが何個かやっていたのだが、
「少し休憩しましょう。喉が乾きました」
ハルナのテンションに疲れたのか、セラはハルナにそう提案した。
「えーっ……じゃ、次は根暗マンサーだなっ!」
セラの提案に不機嫌そうにしていたが、ハルナは満面の笑みでユーを連れていく。
かなりゲーセンが気に入ったみたいだな。
二人はエアホッケーを始めたが、力が互角で一点も動かない。
途中で俺はユーと交代したが、予想通り一点も動かない。
……やっぱりハルナは強いな。
最終的には、決着が着かずにゲームの時間切れになってしまった。
ユーの所に戻ると、俺にメモ用紙を見せてくる。
『また いつか 来たい』
「そうだな。また今度、来よう」
ユーも、楽しんでくれていたようでよかったな。
ゲーセンで存分に楽しんだ俺たちが外に出ると、俺たちの目の前にウサギのメガロが現れた。
ウサギのメガロは歩の顔を見るや否や、
「うさげっ!魔装少女っ!」
と叫んだ。
「ハルナ、お前、大丈夫なのか?」
「ほえ?何が?」
「メガロを前にすると、動けなくなってただろ?」
「ほえ?これメガロなの?どこが?全然強そうに見えないんだけど……あ、これウサギかっ!」
そう言ってハルナが近づくと、何故かウサギは俺の陰に隠れた。
「どうも、バケモノという感じはしませんね」
セラはそう言いながら、瞳を朱に染めていく。倒す気満々だな。
「た、助けてくれ」
そう言ってこちらを見てきたので、そのウサギを俺は腕に抱える。
おっ、さわり心地はかなりいいな。
「おや、何か持っていますよ?」
セラはそう言って、ウサギから一通の封筒を取り上げる。
「返せよーっ!うさぐぞコノヤローっ!」
そう言って取り返そうとするが、俺が抱えているからか、手が届かない。
「ハルナ、このメガロはどのくらいのランクなんだ?」
「ウサギのメガロは一番下のD級。あたしたち魔装少女は、ウサギ狩りから始めるんだ。多分根暗マンサーでも片手で倒せると思う」
それなら倒さなくても問題ないな。たまたま出会っただけっぽいし。
セラが封を開けていたので中に何が書いてあったのか聞いてみると、
「何も書かれていません」
そう言って俺に封筒の中身を見せてきた。
もしや、それもアリエル先生と何か関係があるのか?
「返せよもーっ!何て仕打ちだ!恩を仇で返すのかよ!」
俺が考えていると、抱えていたウサギが騒ぎだした。
だが、やはり俺が抱えているからか、封筒に手が届かない。
「……なあ、歩」
「ん?」
「このウサギ、家で飼おう」
「は!?」
俺の言葉に、すっとんきょうな声を上げる歩。
「……駄目か?」
もし駄目なら、それはそれで諦めるんだが……
「あー……まあ、いいんじゃないか?」
微妙な表情で許可を出す歩。まあ、メガロをペットにするなんて言ったら驚くわな。