これはゾンビですか? ~いいえ、彼は問題児です 作:白ウサギ@FGO
あの後、ウサギは俺の発言になにか危険を感じ取ったのか逃げていってしまった。
少し残念だが……まあ、いいか。
そのあと俺たちは、ようやく帰路についた。
UFOキャッチャーでとったぬいぐるみは全て、俺のギフトカードに入れておいた。本当に便利だな、ギフトカード。
信号が青に変わり、俺たちは横断歩道を進む。
ふと、目に入ったユーを見ると、高校生くらいの長身の男がユーに顔を寄せていた。ナンパか?
歩がユーに声をかけようとしたところで、ユーがいつも使っているボールペンを取り出す。
それを振りかぶると、ボールペンは巨大な鎌に変わった。
へぇ、あのボールペンって武器だったんだな。
それを見た一般人は、慌てて俺たちから離れていく。そんな周りの様子などお構いなしに、ユーは鎌を降り下ろした。
それを避けもせずに、肩で受け止めた男は笑顔で声を出す。
「いいのかい?そんなに興奮して」
そう言って、含み笑いを見せる男。
あの声……京子の時のやつか?
「何をしに現れたって言いたげな目をしているな。ユークリウッド」
男がそう言うと、ユーは強く頷く。ユーの足下から青い光が巻き上がり、銀髪がふわりと広がった。
「偶然だ。そう、たまたまここを歩いていた。――ユークリウッド、君のせいだろう?」
なぜ偶然がユーのせいになるんだ?
「ぬいぐるみをたくさん持ってるね。さぞ楽しかったんだろう?それが悪い。いつだってお前が原因なんだ。――ユークリウッド」
ユーの体から、澄んだ青色のオーラが出ている。……あれがユーの魔力か。
「皆さん!あれは抱き枕です!慌てないでください!抱き枕ですからーっ!」
歩は歩で何を口走ってるんだ?お前が一番慌ててるだろ。
ユーが鎌を引き抜き、もう一度振るうと男は後ろへと跳んだ。
「楽しいという感情で揺れ動いたときは、一番会いたくないやつが現れる。そんなに会いたくなかったのか?ユークリウッド」
「あぁぁあ!」
ユーが声をあげ、鎌を大きく振りかぶって特攻する。
男はやれやれと首をふったあと一瞬で距離を縮め、ユーの懐に入る。
男がユーの顔面を殴ろうとしたところで、俺は男を横から蹴り飛ばした。
あまり手応えがないな。ギリギリでかわされたか?
男が吹っ飛んでいった場所を見ると、霧のようなものが漂っていた。
あれは……京子を連れていったときの霧か?
その霧が晴れるとそこに男はおらず、その代わりにメガロの大群がいた。
……つーか多すぎだろ、めんどくせえな。
ユーの方を見れば、鎌を手放して瞳に絶望の色を浮かべていた。
「ユー……大丈夫か?」
歩がユーの肩に手をやると、ユーが顔をあげる。ユーの体は小刻みに震えていた。
少ししてユーは鎌をボールペンに変えると、無表情に戻ってメガロの大群がいる道路に目をやった。
『私の せい』
歩はそれを見てなにも言わずに黙っている。かくいう俺も、その言葉を見てなにも言えなかった。
「歩、神無――」
「逃げるぞ」
「いや。それよりも結界で囲った方が早い」
そう言うと同時に、俺は先程現れたすべてのメガロと自分だけを結界で包む。
さすがに全部は無理だったが半数はできただろう。
俺は結界を維持しながら、ギフトカードから
「これなら結界内のやつらを全滅できるだろう」
少しやり過ぎかもしれないがそんなに時間はかけられないしな。
俺はメガロの大群に向かって槍を投擲した。
それと同時に結界への魔力を増やして強度をあげる。
槍は結界に刺さり、周りのメガロを雷で焼き尽くした。
思ったよりもこっちの負担が……
すべてのメガロを全滅させると同時に、俺の意識はブラックアウトした。
歩side
結界がなくなるのと同時に立ち込めていた煙が晴れる。
煙の先には半数以上が減ったメガロと神無が倒れていた。
……倒れていた?
「か、神無!?」
神無が倒れてるところなんて初めて見たぞ。
俺は神無が倒れている場所に駆け寄っていく。
どうやら、意識を失っているだけのようでそこは安心する。
あとからやって来たユーが神無の様子を見てこちらにメモ帳を見せてきた。
『たぶん 魔力切れ
一気に大量の魔力を使ったから そのせいで 気絶したんだと思う』
そういえば神無には元々魔力があったんだったか。たぶん槍を使ったのも原因のひとつだろう。槍を使うと負担があるとか言ってたしな。
「とりあえず逃げるぞ。神無が半数以上を削ってくれたお陰で逃げやすくなったしな」
「ですが……」
「言い方を変えよう。――距離をとるぞ。あいつらは俺たちを狙ってくる。少なくとも、まだ残ってる一般人が巻き添えを食らわないようにしなきゃな」
「了承しました。……では、ヘルサイズ殿は私が。歩はハルナ神無をお願いします」
「わかった」
セラはユーをお姫様抱っこして、俺はハルナと神無を抱える。
「こら!へ、変なところ触んなっ!」
無理にしゃべんなよ。――あれ?
俺はハルナに腑に落ちないものを感じ、ハルナの方に顔を向けた。
「ハルナ、お前なんともないのか?」
「ほえ?なにが?」
あれだけのメガロが出現してるのに、ハルナの様子はいつもと変わらなかった。
どういうことだ?いつもなら「うきゅ」とか言ってガタガタ震えるのに。
『あれは メガロの偽者』
ユーがそんなメモを俺へ向けていた。
そうか――確かにいつもより狂暴で可愛らしさの欠片もないしな。ハルナが普通なのも偽者だからか?
ちょっと待て。あのメガロ、さっきの男が消えたとこにあらわれなかったか?
――このメガロは、あいつが作り出したものなんじゃないのか?
「ユー、さっきの男にメガロが作れるのか?」
『メガロには 死んだ人間と 同じく冥界に来る 魔装少女の魂が必要 彼には完成されたメガロは作れない だけど 人間の魂だけの偽者なら 作れるかもしれない』
ユーも俺と同じ意見だったようだ。なんのためにメガロもどきなんかを大量発生させたんだ?しかも、こんなはた迷惑なものを作る必要せいがどこに……
「歩、何を立ち止まっているのですか?」
考え込んでいたせいか、俺の足は止まっていた。
包囲されないようにセラが周りを確認し、逃げるためのルートを探る。
「ハルナ、お前安全な道がどこかわからないのか?」
「辺りにメガロの気配がありすぎてわかんない」
セラのあとに続いて走っていると、ぴょんぴょんと跳ねながらメガロが追いかけてきた。
「アユム、あれ!」
ハルナが追いかけてくるメガロに向かって叫ぶ。俺が振り向くとそこには、可愛い衣装に身を包んだ少女たちがいた。恐らく魔装少女だろう。
メガロ退治に来たのかと思えば、魔装少女までこっちにやって来る。
へ?何でこっちに来るんだよ。
その魔装少女はセラとユーの方へは向かっていないようだ。てことは――
全員俺狙いかっ!それか神無狙いかだな。
勘弁してくれよもう。なんで魔装少女まで俺の方へ来るんだよ。
逃げ惑う人混みにまぎれて俺たちは逃げていく。突如出現した化け物の大群に、パニックに陥った人々が蜘蛛の子を散らすとかそんな感じで逃げていく。
そんな中、果敢にもメガロの方を向く一団がいる。その中の一人を俺は知っていた。
「トモノリ!いや、ユキか?」
「今はメイルでいいだろうがっ!それよりも神無は大丈夫なのか!?」
そう言って神無を指差す。
「気絶してるだけだから心配するな。それよりも俺たちを助けてくれるのか?」
「当たり前だろ!それに、俺は神無の……嫁だし」
友紀はポリポリと鼻の頭をかいた。俺のとなりにいたセラが、何故か俺の脛を蹴ってくる。
しばらくして、セラの蹴りが止まる。
「どうかなさいましたか?ヘルサイズ殿?」
そう言って抱えているユーに視線を落とす。
「セラ、どうかしたのか?」
「いえ――別に」よく見れば、ユーがセラの服をぎゅっと強く掴んでいた。
「セラ、とにかく今は任せて退くぞ」
「……わかりました」
なにか言いたそうにしていたセラだが、ユーの寂しげな表情を見て戦うことを放棄したようだ。
「トモノリ、あとは頼んだ!」
「おう、泥の超ド級艦に乗った気分で早く行け!」
とんこつスープを持った少年のような少女は、とても頼もしく見えた。たとえ泥の船でもドレッドノート級の大きさなら頼もしいさ。
黒いマントを羽織った集団の中へ、ユーを抱えたセラが走る。吸血忍者たちは横に退いて道を開けてくれた。
「セラフィム、貸し一つだかんな」
「――感謝します」
敵対しているはずのセラと友紀がふふっと笑みを浮かべる。吸血忍者にとっては何よりも妖怪退治が優先なんだろう。
俺たちは友紀たちにメガロを任せ、この場から少しでも離れようとしたが――足を止めてしまう。
ビルの屋上にひとつの影を発見したからだ。
「京子……か」
京子はひとっ飛びでこちらへやって来ると、行く手を遮るように両手を広げた。
「お久しぶりです相川さん、九十九さん。お元気そうで残念です……九十九さんはそうでもないようですが」
京子も俺たちを狙ってるのか?
「お前たちは、メガロの偽者なんか大量に作って何をするつもりだ?」
俺の問いかけに、京子は目を見開いた。
「あるものを探すためですよ」
「あるもの?」
京子が何を探しているのかわからず、俺は首をかしげる。
俺の様子を注意深く見たあと、ひとり納得した様子で頷く京子。
「なるほど。相川さんではないとしたら九十九さんが持っているんですかね?」
結局どういうことなんだ?
京子になんのことか聞こうとしたところで、神無がもぞりと動いた。
「うっ……」
「神無、起きたか。大丈夫か?」
俺はそう言って神無を地面に下ろすと、神無は頭を振りながら立ち上がった。
「九十九さん、アリエル先生から何か預かってますよね?」
どこか核心的な様子で神無に聞く京子。
「…………なんのことだ」
神無が無表情でそう答えると、京子はクスクスと笑いだした。
「そんなこと言われたら『私が持ってます』としか聞こえないですよ。
確かに、あの兵器は魔装少女には渡せませんもんねー?なるほどなるほど、いつまでたっても思い通りにいかない訳です」
――兵器?あまり聞きたくない言葉が俺の足を止めた。
「大先生は、そんなものを神無に――?」
「カンナ、何か預かってんの?あたし、そんなの聞いてないっ!」
抱えていたハルナが耳元で大声を出したので、俺は首を傾けて眉を寄せる。
「お前は兵器なんて手に入れて、どうするつもりなんだよ!」
京子はご機嫌なのか、鼻歌でも歌いそうな軽快な声色を出す。
「アリエル先生の魔装兵器さえあれば、この世界をあの方が望むようなハチャメチャなものに出きるんです。メガロを大量発生させれば使わざるを得ないと考えたんですけど、全然発動してくれなくて困ってたんですよー」
そんなことのためだけにメガロを大量発生させたのか。――あ、なんかイライラしてきた。
「私の……せい」
ユーの小さな呟きが耳に届いた。頭を抱えて苦しい表情を浮かべているのは、言葉を出してしまった代償なのか、それとも何かを後悔しているのか。
――楽しいと感じたせいで、一番会いたくないやつが現れてしまう。ユーにとってはあの男だった。ハルナにとってはメガロの大群。いや、一般人にとっても会いたくない存在だろう。そして、俺にとって会いたくない人物が、今現れた。
ばかばかしい。ただの偶然がすべてユーのせいなんて。それにまだ神無はそんな人物に会ってないしな。
「歩、神無!」
セラの切羽詰まった声が聞こえてちらりと振り向いたとき、何か黒いものが飛んできたので俺はとっさに横へとんだ。神無はそこから動かず、その黒いものを受け止める。
何かの攻撃かと思ったが、それは吸血忍者だった。
「――メイル?」
「なんだよあいつら!めちゃくちゃ強ええぞ?」
「当然です。あなたはとても弱そうですし」
にっこりと京子が笑う。可愛らしいガッツポーズに、俺は憎さが百倍だった。
可愛いことはいいことだが、だからってなんでも許される訳じゃない。
俺は恐らく、一生死ぬまでこいつを恨み続けるだろう。
――もう死んでるけど。
「あ?お前どこ中だよ!」
むすっとした表情の友紀が神無から離れて京子の肩をつかむ。
「メイル・シュトローム!/メイル!」
セラと神無が同時に友紀の名を呼んだ。その言葉の真意は「バカかお前!そいつには触れんな!」だろう。俺も同意見だ。
友紀を包み込むように、竜巻が発生する。以前見た竜巻に比べてとんでもなく巨大な竜巻。風で粉塵が巻き上がり、激しい風に俺は顔を背けた。ハルナを抱えていたから、顔を背けるしかなかったんだ。
ほんの数秒でその竜巻は消える。そこにはキョトンとした表情の友紀が無事な姿で立っていた。
その様子を、信じられない表情で見る京子。
「なんで無事なんですか、あなた……ああ、そういうことですか」
そう言って神無の方を見る京子。俺も京子に倣って神無の方を見ると、肩で息をする神無が立っていた。
「神無!?」
「私の竜巻を結界で防いだんですね。ですが……二回目はさすがに無理でしょう?」
そう言うと同時に、もう一度友紀を竜巻が包み込む。
さすがに二回は無理だったのか、神無が悔しそうに京子を睨み付けた。
竜巻が消えると、ボロボロになった友紀が膝から崩れるようにしてその場に倒れた。
「メイル!おい!ユキ!トモノリ!」
どの名で呼んでも起きる気配はない。死んじまったのか?
「アユム!来てる来てる!」
ハルナの声で振り向くと、口から紫色の吐息をはくゴリラのメガロが壁に張り付いていた。
メガロもどきに追い付かれた?いよいよもって不味い。戦うしかないか。
魔装錬器もなしに?無茶に決まってる。せめて神無が万全なら大丈夫なんだが……
そのとき、妙な寒気が襲った。それは恐怖から来るものではなく、本当に凍えるような寒さだ。
みるみるうちに凍りつく道路。壁や建物もすべて凍っていく。
なんだ?京子の仕業か?
「あはっ……やっぱり持ってるじゃないですか――アリエル先生の魔装兵器をっ!」
驚きの声をあげたのは京子だった。京子の足元にも霜が降りている。無差別攻撃か。
セラは咄嗟に屋根へと飛び上がり、京子もそのあとに続くように屋根へ。俺は冷たい地面がどんどん冷たくなっていくのを感じながら、どうすればいいのかあたふたしていた。
靴が凍りそうになったところで、神無が俺を屋根へと投げ飛ばす。
助かったが……もう少し優しくしてくれよ。
神無の方は俺を投げると同時に離れたからか、無事なようだ。
そういえば友紀は?
目を落とせば、地面に倒れる友紀の体の周辺はすでに凍りついていた。
このままじゃ、友紀も氷漬けのマンモスみたいになっちまうな。
俺が神無にハルナを任せて友紀のところに行こうとしたところで――
「――逃げてっ!」
その声は、透き通っていた。
気がつくと、俺たちは我が家の玄関へたどり着いていた。
「あれ?あたし――」
キョロキョロと辺りを見回すハルナ。何かを考えている様子のセラと神無。そして、いつもと変わらないユー。
あのとき、何があったのか。俺たちは全然覚えていない。
「ユー、お前が何かしたのか?」
俺の質問にユーが答える前に、神無が答える。
「ユーの声を聞いて、お前ら全員逃げ帰ったんだよ」
神無の言葉にこくりと頷くユー。
なるほど、ユーの声が聞こえたらその通りになるんだったな。あれ?だったらなんで――
「神無はその事を知ってるんだ?」
「あ?そんなの、ユーの言葉が俺には聞かないからに決まってるだろ」
「は?」
何をいってるんだ?
「そういえば言ってなかったな。俺はそういうのが効かない体質なんだよ。ま、例外はいくつかあるが」
マジかよ。本格的にチートだな、神無って。
「歩、とりあえず中へ入りませんか?」
「だなっ!あたし、お腹すいたんだけど?」
ハルナが力強く頷いたあと、「そうだ!」と声をあげて俺の鞄を漁る。――なにしてんだよお前は。
「さっきメダルコーナーでお菓子をいっぱいいっぱい取ってきたんだっ!」
そう言ってハイテンションで鞄の中身を出す。――家の中でいいだろ?今すんなよ。
「歩、それはなんですか?」
セラが発見したのはひとつのビニール袋。それは織戸から預かったものだ。
「ん?なんだこれ?」
「ハルナ!お前何を勝手に――」
ハルナは織戸から預かったビニール袋から勢いよく中身を取り出した。
そこから出てきたのは、セクシーな若い女性が笑顔を見せている一冊の本。
――裸の。
エロ本かよ!まあ、学校で開ければ死ぬっちゃあ死ぬな。
「アユム……あんた本当に最っ低っ!」
口から火を吹かんばかりの勢いでアルゼンチンバックブリーカーを仕掛けるハルナ。
「待てハルナ!男ならエロ本の一つや二つ持っててもおかしくは――」
「確かに、その通りです。ですが――問題はそれを持ち歩いているということです」
たしかに。
「いや、これには訳が」
「軽蔑します」
軽蔑されない日は訪れないのか!
俺は唯一事情を知ってる神無に助けを求める。
俺の表情で察したのか、ため息をつきながらもセラたちに説明し出した。
「歩の持ってたそれは今日、織戸から受け取ったやつなんだ。だから歩がいつもエロ本を持ち歩いているわけではない……と思う」
そこは言い切ってくれ!
「はあ……またあの男ですか」
ハルナとセラが呆れた表情をしながらため息をつく。そんな中、ユーだけが寂しそうな顔をしていた。
こいつは、あの夜の王が出てくると簡単に感情を爆発させていたな。過去に何があったのか俺にはわからないが。
――なんて寂しそうな瞳なんだ。くそっ!俺はなにもしてやれないのか?
ガントレットに包まれた手を胸部のアーマーに当てる。何かに思い耽るように。
あの出来事がすべて自分のせいだと、自責しているのだろう。
「ユー」俺はかける言葉もわからずにユーの名前を呼んだ。
『私は ボンキュッボンじゃない』
あ、そっち?
神無side
次の日の夜、俺は居間でくつろいでいた。廊下ではハルナが騒いでいる。
すると携帯電話から電話がかかってきた。
「もしもし」
「カンナさんですね?マテライズ魔法学校、エルスと申します。アリエル先生の代理でお電話差し上げました。今お時間大丈夫でしょうか?」
「ああ、問題ない」
「電話が遅くなってすみません。ちょっとバタバタしてまして。それでですね。まず、えーっとですね。例のものはちゃんと届いてますよね?」
「…………」
そういえば何ももらってなかったな。
「あの、もしかしてまだ届いてませんか?」
「ああ。まだ届いてない」
「困りましたね……とりあえず、二十一時頃に取りに行くとのことなので、アリエル先生に説明してきてください」
二十一時か。……ん?二十一時?
「今、二十二時なんだが?」
「あ、あはははは」
さすがにこれはダメだろ。
「で、場所は?」
「場所は確か――ポチだったかな?」
ああ。
「墓地のことか」
「はい。たぶんそれであってると思います」
「じゃ、今すぐ向かう」
「お願いします。本日は誠に申し訳ございませんでした。――ではでは」
俺は電話を切り、廊下に出る。もしかしたら歩の手に渡っている可能性もあるからな。
丁度歩がトイレから出てくる。
「おい歩。何かもらってるものとかあるか?もしかしたらアリエル先生からの届け物かもしれない」
俺がそう聞くと歩は少し考えたあと自室に戻り、しばらくして色々と持ってきた。
歩の手には、
・くろぶち眼鏡
・みかん
・鉛筆
・封筒
・エロ本
の五つだった。
「…………。とりあえず全部持ってくか」
たぶんどれもハズレだろう。たぶん、友紀が持ってる可能性が一番高い。俺に会いに来たとか言ってたしな。
「今からどこか行くのか?」
「アリエル先生に届け物をな。今こっちに来てるらしいんだ。……歩も来るか?」
俺がそう聞くとしばらく考えたあと、こくりと頷く。
とりあえず居間にいるユーとセラに一声かけ、廊下に出ると丁度ハルナがトイレから出てくるところだった。
「ほえ?どこ行くの?」
「大先生に届け物」
歩が簡潔に答えると、ハルナが少し焦ったような表情を見せた。
「――あ、あたしもいく」
「そうかい」
「早くしろよ。アリエル先生を待たせてるからな」
俺がハルナにそう言うと、ハルナが自分の部屋に向かいながら「わかってる!」と答えた。
数分後、着替えを終えたハルナが二階から降りてくる。
「それじゃ、行くか」
「ああ」「OK」
歩が手にビニール袋を持ち、ハルナはチェーンソーを持って家から出る。
そんなに距離もないしすぐにつくだろ。
やや早足で歩いていると、途中でハルナがいないことに気づいた。
「おい歩。ハルナは?」
「――まさか」
少し道を戻ると、ゆっくりと歩くハルナが目にはいる。
「大丈夫か?」
「ア、ユム」
ハルナの様子に、もしやと思い訊ねる。
「もしかして、メガロの気配でもするのか?」
俺の言葉にハルナはこくりと頷いた。
やっぱりか。まあ予想通りといえば予想通りだ。
「――ちょっと待っててくれ」
そう言うと歩は俺にビニール袋を預け、ハルナからチェーンソーを受けとる。
「ノモブヨ、ヲシ、ハシタワ、ドケダ、グンミーチャ、デー、リブラ」
……いまだに歩の格好は慣れないな。見た目は完全に変態だし。
少し泣いてるような歩が車道に出る。それに続いて俺たちが出ると、丁度一匹のメガロが現れた。
「走るぞ。ハルナ、神無」
「……ああ」
「ほぇ?倒さないの?」
「数体なら、な……」
「さすがにあの数は構ってられない」
倒せないことはないがかなり面倒だ。さすがに奥の手を使うわけにもいかない。歩がハルナの手をとって走りだし、その後ろに俺は続く。
俺たちに気づいたメガロたちが雄叫びをあげながらこちらに向かってくる。
「アユム、カンナ!めっちゃ来てる!」
「「わかってる!」」
対向車線からやって来る車Uターンで戻っていく。まあこんな光景を見たら逃げたくもなるか。
ふと音が聞こえなくなり、ちらりと後ろを向けば丁度こちらにメガロたちが飛びかかるところだった。
「ちっ」
何体かを石を投げて打ち落とすが、全く減らない。
「うにゃっ!」声が聞こえ、そちらを見るとハルナが足をもつれさせていた。
まああれだけメガロがいればそうなるか。歩がハルナが転けないように胸元に抱き寄せる。
「あ――」「へえ……?」
歩、流石だな。
「二人ともどうした?」
「ううん……なんでもない」
少し動きを止めていたハルナだったが、すぐに足を動かした。
十字路を右折するとその先では吸血忍者とメガロが戦っていた。
このまま行くという手もあるにはあるがかなり面倒だな。このまま行っても道がない気がする。
「歩」
「なんだ?」
「このまま行ってもダメな気がする。――だから空からいこう。道は俺が作る」
俺だけなら突破は容易だからな。
「……わかった。頼んだぞ、神無」
歩はそう言うとハルナを抱えて空を飛ぶ。歩に襲いかかろうとしたメガロや吸血忍者たちを結界で弾く。
こちらに来た魔装少女たちは意思を投げて牽制する。
歩たちが墓地の近くに降りたのを見て、俺も急いで歩たちのもとに向かう。
道路が壊れたがあとで直せば問題ないだろう。
若干本気を出したお陰もあり、魔装少女やメガロに捕まることなく歩たちのもとまでたどり着いた。
なぜか止まっている歩たちの先を見れば、やはり京子がいた。
「こんばんは、相川さんに九十九さん。こんなところで何をしてるんです?」
「それはこっちのセリフだ」
ハルナは歩の背中に隠れ、俺と歩は辺りを見回す。京子以外には誰もいない。
「二人とも行くぞ」
「ほえ?お、OK!」「わかった」
歩の言葉に頷き、俺たちはそのまま進む。
「アリエル先生の秘密兵器、お持ちですね?この先にいるのも確認しましたし」
歩が目の前にいた京子にチェーンソーを降り下ろすが京子は横に避ける。その隙に俺とハルナが走り出した。
チッ、やっぱりこっちにメガロが来るか。ハルナの方は一体だけみたいだが……
一体一体に蹴りや拳を叩き込むが全然減らない。かなり面倒になってきたな。
いったん下がると、丁度ハルナも戻ってくるところだった。
「九十九さんには感謝してます」
そう言ってクスクス笑いながら竜巻を発生させる京子。
「この間、
その竜巻を京子は剣に変える。見た目は剣っぽくないが、持ち方は剣の持ち方だ。
京子が竜巻の剣を横薙ぎにする。嫌な予感がし、歩とハルナを引っ張ってその場から飛び退く。
少し遅かったせいか、お腹の辺りの服が破れた。延びるのか、あれ。
変則的な動きの竜巻を勘で避ける。さすがに全部は無理だったせいか、ところどころ服が破れていた。歩の方を見ると体の至るところが抉りとられていた。
「どうする歩。このままじゃ先に進めないぞ」
「わかってる」
「――あたしに考えがある。アユムとカンナはあいつとメガロの気をひけよなっ」
「わかった。俺は京子をやる。だからメガロは歩に任せるぞ」
「わかった。――そういえばお前、怖くないのか?」
そう言って歩がハルナを見る。
「なんか、アレ――メガロっぽいけど……なんか違うと思う」
今更か。やっぱり興味ないことは覚えてないんだな、ハルナって。
話が終わり、俺は京子に特効を仕掛ける。メガロが邪魔してきたが、回し蹴りで吹き飛ばす。
俺がギフトカードから
背後からハルナがなにか投げつける。京子は反射的にそれを切り落とそうとした。
ふわりと宙を舞うみかん。
それを見た京子が口をポカンと開けて目を丸くする。
それと同時にみかんが爆発した。
あまり規模はでかくないな……これならそこまで怪我をしてないだろうな。
歩がハルナの手を引き、俺は立ちふさがっているメガロを疑似神格・梵釈槍を振り回して蹴散らす。そうやってようやくついた墓場はメガロだらけだった。――街灯に集まる虫みたいだな。
このままだとかなり時間がかかるので、俺は歩とハルナを腕で抱えて空に飛び上がった。さすがに空は飛べないのでメガロを踏み台にしながら進む。
しばらく進んでいると誰かとすれ違った。そちらを見ると、ボロボロとなった京子が俺からビニール袋を奪うところだった。さすがにもう来ないと思って油断してたせいか、あっさり取られてしまう。
「これですね。アリエル先生の切り札――では九十九さん、さようなら」
満足気な顔を浮かべて去っていく京子。
確かあの中身ってエロ本……だったよな?
「カンナ!あそこ」
そう言ってハルナが指差した先には、アリエル先生が踊るように戦っていた。
……すげえな。俺の場合基本力業だからな……
「すごいな……」
「当然だ。大先生だからな」
「アリエル先生!」
俺が呼び掛けるとアリエル先生はこちらに体を向けた。
「あら、カンナさんとアユムさんじゃないですか~。助太刀に来てくださったんですかぁ?」
そう言ってこちらに手を降りながらクスクス笑う。
「話の前にとりあえず」
「ごみ掃除だなっ!」
「ハルナ、いいところに来ましたねー。結界をお願いできますかぁ?面倒くさくなっちゃいました」
アリエル先生はクスクス笑いながら大きく剣を振る。アリエル先生の言葉にハルナが嬉しそうにしている。
「アレやるのかっ!ですねっ?やった!」
何をする気だ?
「アユムとカンナはあたしの後ろに居ろよな」
「えらい嬉しそうだな?」
「大先生の魔法は見てて楽しいもの!この世界で使うのは初めてなんじゃないかな」
魔法か……そういえば魔法なんてクリスのやつくらいしか見てないかもな、俺。
ハルナが両手を前に出し、結界を張る。
「ネヨ、ダシマガウホノカウゴ、ノクゴジャ、ジレコ、イサダクテッ、ナニミズ、シケガン、セマイダ、ゴケワシ、ウモニ、トコマヨ、モドノモカ、ロオノテ、ベスンゼンガ」
アリエル先生が歌うように呟いた。やけに呪文が長いな。
「焼尽せよぉ!ドラゴンクリムゾンっ!」
その瞬間、結界の中で炎が上がった。結界の中のメガロは燃やされてボロボロに崩れる。
ハルナが目を輝かせながら「きれー」と言っている。
俺もやろうと思えばやれるか……?
「……結界は、なんだったんだ?」
「周りに被害が出ないようにしたんだろ。結界を張りながら他の魔法は使えねえし」
俺の言葉に納得したように頷く歩。ハルナが隣でぴょんぴょんと跳び跳ねていた。
「さすがですっ!超先生になる勢いだなっ!ですねっ!」
「どうもどうもぉ」
「――ああ、そうだ。大先生、これで合ってますか?」
そう言って歩が変身を解除して眼鏡と封筒を取り出す。
「それが、なんですか?」
やっぱり違ったか……
「いや、預かってたものを渡しに来たんですけど……」
「どこですかぁ?どこにも居ないじゃないですかぁ。もう~」
居ない……?つまり生物ってことか?――もしかして友紀、か?
「でもさっきまで京子に狙われてたんですよ?俺たち。……まさか、本当にエロ本が兵器だったのか?」
「アユムさん。いやらしい本が兵器なんて、どう使うおつもりなんですか~?もう、アユムさんのエッチぃ」
クスクスと口にてを当てて笑う。歩は顔を赤くしながら慌てて言った。
「京子が兵器を狙ってたんです。そして、俺の持ってたエロ本をさっき奪われて」
歩がしどろもどろに説明すると、アリエル先生は真剣な表情になる。
「もしかしてぇ、偽メガロの大量発生は京子の仕業ですかぁ?」
「ああ」「大先生は偽物だって気づいてたんですか?」
「ええ。メガロはぁ、あんなに弱っちくないですもの~」
俺はあんまり本物と偽物の強さの違いがわからなかったが。
「ヴィリエではメガロ駆逐作戦が敵側にばれてしまったからだって言ってますけどねぇ。駆逐作戦を潰すためにただ暴れるだけなんてぇ、メガロっぽくないじゃないですかぁ」
とそこで、今まで大人しかったハルナが声をあげた。
「もう!なんの話だよっ!あたしにわかんない話は禁止だっ!」
「ハルナ、今大事な話を「うっさいっ!」」
「――ハル「うっさいって言ってるだろっ!」」
……小学生かよ。
「大先生は何であたしに黙ってカンナに任務なんて頼んだんだ!」
「ヴィリエの人間には、知ってほしくないからです」
「なんだよそれ!なんでカンナなんだっ!」
「カンナさんなら兵器だと知っても使わないでしょうしぃ、連絡もとりやすいですから。それに――カンナさんなら頼りになるかなーって」
「ぐぬぬっ」
アリエル先生の言葉に唸っているハルナだったが、次の瞬間、
「大先生のバカっ!天才バカっ!かっこよくてバカっ!強くてバカっ!すごいバカっ!」
「弱い犬ほどなんとかですね~」
ハルナが稲妻に打たれたように硬直する。それを見た歩が少し吹き出すように笑うと、ハルナは顔を真っ赤にした。
「では私はもう帰りますねぇ。アユムさんとカンナさんもご苦労様でしたー。最後にぃ、何かありますかぁ?」
「あー、ちょっとそこに立っててください」
そう言った歩は、持ってきていた眼鏡を何故か顔にかけた。
……あいつ、なにやってるんだ?
アリエル先生が帰ったあと、俺たちが家に帰るとユーが家の前で佇んでいた。帰りを待ってたって訳じゃなさそうだが……
「根暗マンサー、ここでなにしてんの?」
『夕飯が』
「夕飯がどうしたんだ?」
「ユー、もしかして待ちきれなかったのか?」
アユムの質問にユーは首を振り、メモを一枚見せた。
『待ちきれなかったのは 私じゃない』
その言葉で俺はなんとなく事情を察する。背中から流れる嫌な汗を感じながら俺たちは居間へと向かった。
……やっぱりな。
「やっと戻りましたか。冷めますよ」
テーブルの上にはすでに料理(?)が並べられていた。
俺たち三人ともいなくなれば、そりゃあ夕飯はセラが作ることになるだろうな……
「ここは俺に任せて、ハルナと神無はキッチンへ行ってくれ」
「お、OK」「わかった」
状況を把握し、俺とハルナがキッチンに向かおうとしたところでセラに腕を捕まれる。
「どこへ行くんですか?」
満面の笑顔で言うセラに、キッチンに行くとは言い出せなかった。
俺は覚悟を決めると、歩と共に席につく。
目の前には味噌汁と黒い塊。なんだこれ?
「セラ、この黒いのはなんだ?」
「唐揚げです。これぞ我が必殺の一品、ブラック唐揚げ。劣化ウランメッシュでアレンジしました」
ダメだこれ。さすがの俺でも死にかねない。歩の方を見れば顔が青ざめている。
「神無、歩。さあ食べてください」
セラにそう言われ、俺は覚悟を決めて唐揚げ(?)に手を伸ばす。
箸では掴めなかったので手でつまみ、口の中に入れる。そこで俺の意識はブラックアウトした。