これはゾンビですか? ~いいえ、彼は問題児です 作:白ウサギ@FGO
歩side
目が覚めると、すでに数学の授業は終わっており、次の授業が始まっていた。というより、その授業も終わりのようだ。
ふと左を見るとカーテンが風に揺れていて、暑いからなのか窓は開いている。さすが神無、ちゃんとカーテンを閉めといてくれたみたいだな。そんなことを考えていると、チャイムが鳴り始める。
次は――おう、昼時ではないか。弁当、弁当っと。
さっと取り出したるは手作り弁当だ。この弁当を作ったのは、何を隠そうあのハルナちゃん。そう、天才美少女悪魔男爵のあれだ。
「あたし、卵焼きには自信があるんだ!」
とか言いながら、意気揚々と料理してくれた。にんまり。最高のゾンビスマイルを浮かべてしまう俺に、
「なあ、歩。一緒に弁当食わないか?」
「ああ、いいぞ」
俺の隣に座っていた神無が話しかけてきた。癖っ毛の金髪に、首には猫耳ヘッドホンをかけている。
ちなみに、いつもは神無が弁当を作ってくれている。
「歩、なんか顔が気持……すごいことになってるぞ」
「いや、お前俺のこと気持ち悪いって言おうとしただろ」
「気のせいだ。それよりも早く食おうぜ」
そう言いながら、神無は弁当箱を開ける。それにつられて俺も弁当箱を開ける。だがすぐに俺の表情は困惑に満ちていった。
オチが用意されている。そんな予感はしたさ。
「勘弁してくれ」
頭を抱えて呟く。これならご飯がいい。白ご飯にふりかけのみの方がマシだ
俺の弁当箱は黄色一色だったんだ。
『あたし、卵焼きには自信があるんだ!』
それはよくわかった。が、自信ありすぎだろう。卵焼きのみかよ。
「面白い弁当だな」
そう言う神無の弁当は普通だ。なにこれ、俺だけなの?
そんな俺の視線に気づいたのか神無が、
「ちなみに俺は自分で作ったぜ。よかったら、交換してやろうか?」
「助かる」
そう言って俺は神無から適当なおかずをもらう。
「相川、九十九。一緒に弁当……」
そこに、一人の男が現れた。名前は織戸。茶髪でツンツン頭にメガネを掛けた、どこにでもいるただのウザいクラスメイトだ。
身長も体重も並で顔立ちもそこそこの、特徴がない男子生徒。自分でもそれを理解しているのか、唯一のトレードマークであるツンツン頭はいつも手入れしている。保育園の頃からの腐れ縁で、何かにつけて俺に付きまとう困った奴さ。
「うわあ……」
織戸は俺の弁当を見てマジで引いたようだ。
頼むから、その死に逝く動物を見るような哀れみの目はやめてくれ。
「さすがにそのボケは体張りすぎだろ?やりすぎは笑えねえ」
首を横に振りながら、織戸は前隣の席から椅子を引っ張ってきて、ごくごく普通の弁当箱を俺の机の上に広げた。
「俺、卵焼きが好きなんだ」
そう言い訳しながら、一口食べようとする――が、箸が付いてねえ。
おいおい、なんて凡ミスしてくれてんだ、あの悪魔男爵め。俺がコンビニマニアで割り箸のストックがいっぱいあったから良かったものの。
俺は教室の後ろにあるロッカーから割り箸を取ってきて、目の前に広がる黄色い悪魔と戦うことになった。
ちらりと神無の方を見ると、俺が交換した卵焼きを食べるところだった。
「…………」
卵焼きを食べた神無は無言だ。俺は余計に怖くなった。
俺は勇気を出して一口分を一気にいった。
「ふむうっ!」
思わず変な声が漏れた。
うまい!なんてうまさだ!口から宇宙とかが出てきそうになるくらいのうまさだった。
だから神無は食べたとき無言だったのか。
「おい、歩」
そんなことを考えていると、神無が話しかけてきた。
「なんだ?」
「あと二つほど交換してくれ」
「お前の米となら交換する。織戸も米と交換してくれ」
「はあ?だったら最初から飯入れてこいよ。変なボケをするから――」
なんだかんだ文句言いながら、ちゃんと交換に応じてくれた。
口の中に銀河が広がるほどのうまさを誇る卵焼きに、織戸は程なくして目を丸くした。
「おい!相川の卵焼きがすごいぞ!今なら白飯と交換してくれるそうだ!」
おいおい織戸君。大げさなことにしないでくれたまえ。ゾンビって結構、静かに暮らしたい小心者なんだぞ。
その言葉を聴き、何人かが俺の許へとやってくる。やれやれ仕方がない。卵焼きはアホほどあるのだ。分けてやろうではないか。
最初はそう思っていたが、気づいたときにはご飯だけとなっていた。
神無side
午後の授業も特に何もなかった。あったとしても、歩がカッサカサになったぐらいだな。
夕焼けに照らされたグラウンドに目をやると、陸上部がグラウンドを走り回っている。
今、教室には俺と歩と織戸しかいない。
織戸ももう帰るらしく、大きなあくびをしている。
「そういやお前ら、最近帰るの遅いな。学校で何やってるんだ?」
俺は少し考え、
「音楽を聞いてるな」
「ヘエ、相川は?」
「寝てる」
「あんだけ寝てたのにか?」
織戸はケラケラと笑いながら、歩の背中をベシベシ叩く。まあ歩のあれは寝ていたというより、太陽に倒されたって感じだがな。
「家が近いから、別に大丈夫だろうけどさ。最近、殺人事件が多いじゃん?気ぃつけろよ?」
「会ったとしても、返り討ちにしてやるよ」
「確かに、九十九ならできそうだよな」
そう言って織戸はケラケラと笑う。冗談だとでも思ってるんだろうな。
「まあ、俺は殺人犯に会いたいけどね」
「そうそう、忘れてた。会いたいと言えばな、相川。俺の妹の友達なんだけどな、その連続殺人事件に遭遇したらしいんだ。京子っていうんだが、知ってるか?」
生き残りだと?あの殺人事件には居なかったと思ったんだが。
……これは何かありそうだな。
「知らない名前だな。神無は知ってるか?」
「いや、俺も知らない。どんなやつなんだ?」
「歳は、妹と同じだから十四だな。中学生にしては少し背が高くて、でも童顔で、胸がデカかったな。俺の妹の数倍可愛い子だ」
「心当たりねえな」
「俺も同じく」
「ふむふむ、二人とも知らないが、京子は知っている。つまり、一目惚れと見た!」
にへら。と、バカのような笑顔を作る。おいおい、それだけで決めつけんなよ。
「それだけで決めつけるのは、どうかと思うが」
どうやら歩も同じに思ったみたいだな。
「どれだけお前らのことを聞かれたか……。絶対お前に恋してるって!両親をなくして可哀そうな中学生の女の子に、好きな男を会わせてやりたいこのダンディズム。わかんねぇかな~。ま、会うだけでいいから、頼むよ、な?」
まあ何か手ががりがあるかもしれないし、いってみた方がいいな。
「俺は問題ないぜ。歩はどうする?」
「俺も大丈夫だ」
「それじゃあ、明日の夕方にでも行くから」
「いくと言えば、最近相川達の家にいってねえな。昔はあんなに通いつめたのに」
来ていいとは言ってないんだが。
「久々に寄っていいか?」
それは困るな。今、家にはユーとハルナがいるからな。
「ダメだ。ほら、……色々大変なんだよ。一人暮らしってのは気楽なもんだが、忙しいんだよ」
「それは仕方ないな……」
織戸は悲しそうな瞳を窓の外に向けた。
「すまんな。そうだ、今度三人でボウリングでもいくか?」
「俺は別にいいぞ」
「よっしゃ!久々に漫画本一冊賭けて勝負だ!明後日いこうぜ!」
腕をぐりんぐりんと回して、織戸が口の端を吊り上げて笑う。
こうして俺達はその後も他愛ないお喋りを楽しんでから、織戸は一足先に退室した。
その後も、歩と他愛ない話をしていたら、
「ん?なんだあれ?」
キラリと何かが光り、窓を突き破って学ランを着たザリガニが教室に突っ込んできた。――確かメガロだったか?
「魔装少女の魔力を感じてきてみれば……」
ザリガニは学ランに降りかかった窓ガラスの破片をハサミで叩き落としながらキョロキョロと教室内を見回す。そして俺達の方に目を向け、
「魔装――少女……?」
人間味溢れる仕草で首を傾げるザリガニ。
「何者だ?男の魔装少女とは珍しい。それに、片方の魔力は大きいがもう片方はずいぶんと小さい魔力だ。貴様、本当に魔装少女か?」
後半は歩のことを言ってるみたいだな。
「否定したいんだが、一応魔装少女ということになっている」
「ちなみに俺は魔装少女じゃねえぞ」
「……まあいい、この辺りには複数の反応があるな。そちらに期待しよう」
複数だと?つまり、ハルナ以外にも魔装少女がいるってことか?
「ん?一つはここに向かっておるな……好都合だ。魔装少女を三人も殺せるとはな」
どうやら俺もその三人の枠に入ってるみたいだな。
そのとき、カーテンの横にTシャツにパンツ一枚で、手にはチェーンソウという格好のハルナが現れた。
「アユム、ヘッドホンの人!何やってんの!早くメガネをけちょんけちょんにしろ!」
ちなみに、ハルナが言ったヘッドホンの人は俺のことだ。それにしても変わった格好で来たな、ハルナ。
「ふぉっふぉっ!これはこれは!またハズレだったか!残りに期待させてもらうとしよう……貴様らを殺してな!」
ザリガニはハサミをガチガチと動かしながら軽快に笑う。
「二人とも、早くやっちゃえ!って、こらっ!こっち見るなっ!」
あからさまに苛立ちを見せるハルナに言われ、歩はザリガニに相対する。
「おい、ハルナ」
「なんだよ、ヘッドホンの人」
「この教室が壊れたら、直せるか?」
「はん。そんなの歩が直せる。なんたって魔装少女なんだからな!」
「それなら安心だ。それであのザリガニは?」
「そう、あいつこそダブルA級メガロ、魔法使いザリー」
あいつ、魔法使いなのか。全然そうには見えんが。
「違った。極悪非道のザリーだったかな?」
どこをどう間違えたらそうなるんだ。
「ふぉっふぉっふぉ!さあ、始めようかっ!」
突如、ザリガニを中心にぶわっと生暖かい風が吹いた。
すると、ハルナが「うくっ」と低く声を出し、体を抱く。
「何、これ……嘘」
「どうかしたのか?」
「ヘッドホンの、人……何このゾクゾクした感じ……」
ザリガニが一歩こちらに近づく。ハルナが目を閉じ、ビクリと肩を上げた。……もしかして、怖いのか?
「お前、もしかして怖いのか?」
歩も同じことを思ったみたいだな。
「ふ、ふざけんな!あたしが、メガロに恐怖するなんて……そんな――」
そこでハルナの言葉が途切れ、座り込んでしまう。
……はあ、しょうがねえな。
「よっと」
「な、何すんだ」
「こんなとこに座り込まれたら危ないだろ。それに歩の邪魔になるしな」
「……わかった」
ハルナも納得したようで、何も言わない。
ちらりと歩の方を見ると、右手の手首が床に落ちている。どうやらあのザリガニのスピード、かなり早いみたいだな。
「アユム!」
ハルナが心配して、声をあげる。ハルナが心配するのも無理はないだろう。死なないとはいえ、歩の攻撃力は下がったからな。
「アユム!さっさと魔装少女になれよな!」
そう言って、いきなりチェーンソウを投げ渡す。普通、今渡すか?
案の定、歩はハサミの先で腹を貫かれている。
「呪文を唱えろ!」
ハルナの命令が聞こえたようで、歩は呪文を唱え始めた。
「ノモブヨ、ヲシ、ハシタワ、ドケダ、グンミーチャ、デー、リブラ!」
すると、歩の制服が弾けとび、光が集まり始める。
光が一つに集まり、歩の体をハルナが着ていたコスプレ衣装が包む。
……はっきりいって、かなり気持ち悪い。鳥肌が立つ。
「歩……かなり気持ち悪いぞ」
「神無、それは言わないでくれ……」
「だが、事実だろ?絶対十人中十人が気持ち悪いって言うぞ」
「くそっ……」
「こらアユム!早く……早く行けよなっ!」
ハルナにそう言われ、歩はザリガニを殴り、蹴りをお見舞いする。その時にザリガニは廊下に吹っ飛ばされた。
俺も廊下に出ると、歩がチェーンソウを降り下ろしていたが、防御される。
「ふぉっふぉっ。打たれ強い奴だな。私はこれまで六人の魔装少女を殺したが、貴様が一番厄介だ。それに……奇怪だ」
「それはどうも。奇怪なのはお互い様だろ?」
歩がそう言った後、ザリガニが右手をつき出す。そしてそのハサミが飛んだ。
「「うわっつ!」」
まさか飛ぶとはな。それよりもやべえぞ。後ろに織戸がいる。
まあこんなすごい音がしているんだ。何かあったと思って戻ってくるだろうな。
そんなことを考えているうちに、歩は吹き飛ばされる。
「おい神無!織戸がいる!頼む!」
「分かってる。とりあえず、ハルナはここにいろ」
「わかった」
俺はそう言って、教室を通り織戸のところに行く。
「おい、織戸。大丈夫か」
「あ、ああ。それよりも、いったい何が起きてるんだ」
「ああ、実はな……」
「九十九っ!後ろ!」
織戸に言われ、後ろを見るとすごいスピードでこちらにハサミが向かってきている。
「神無!」
歩のそんな声が聞こえる。
「――ハッ!しゃらくせえ!!」
そう言って、俺はハサミを殴り付けた。
「「…………はっ?」」
歩とハルナはポカーンとして固まっている。ちなみに織戸は気絶してるぜ。
「おい、ハルナ。とりあえず教室をどうにかするぞ」
「え、あ、うん」
ハルナはそう言いながら、織戸に近づき額を触る。すると織戸の体から力が抜けた。
「お、おい、何をしたんだ」
「記憶操作。この辺一帯は今のあたしじゃ無理だから、あんたがやれ」
「それは俺もできるか?」
「魔力があるからできると思う。何でそんなこと聞くんだ?」
「もしかしたら歩がいないところで戦うかもしれないだろ。だからだ」
「ふーん。とりあえず、さっさとやれ」
「へいへい」
ハルナにそう言われ、歩は魔法を使う。一応俺も聞いていたので、大体やり方はわかった。
ザリガニの襲撃から間もなく、俺達は家に帰った。
とりあえずギフトカードに入れていた服をハルナと歩に渡す。……ギフトカードに服を入れといてよかったぜ。
さて、今目の前にあるのが俺と歩が住んでいる家だ。五、六十坪の二階建て住宅だ。今この家に住んでるのはハルナを入れて四人だ。
歩の両親は新婚旅行という名目で、かれこれ五年ほど帰ってきていない。
先にハルナが入っていったので、俺も中に入る。
とりあえず制服から私服に着替え、居間に行く。
居間には、バラエティ番組を見ているユーがいる。
「今日は何もなかったか?」
するとユーは、ちらりとこちらを見て小さく頷いた。そして目を戻し、テレビをじっと見つめる。
俺の姿をもう一度目で確認し、ボールペンを取ってテーブルにあるメモを一枚切り離した。
メモの上にボールペンを置き、トントンと二回テーブルをノックする。
メモを見ろという合図なので、メモを見ると、
『飯の用意を』
「何が食べたい?」
『スティーブン・セガール』
それはさすがに無理だ。
俺がそんなことを考えている間に、歩とハルナがこちらにやってくる。
「ヘッドホンの人、ご飯まだ?お腹すいたんだけど?」
『肉がいい』
「歩は何がいい?」
俺が歩に聞くと、
「俺も肉かな」
ふむ、それなら豚キムチかな。ちょうど材料があったはずだしな。
「豚キムチでいいか?」
「ああ」
「うん。それでいい」
『素敵』
それじゃあさっさと作るか。
今で四角いテーブルを囲みながら、食事をする。テーブルの上には、ご飯と味噌汁、そしてかなり多めに作った豚キムチが並んでいる。
「ヘッドホンの人、おかわり!」
元気よくハルナが茶碗を渡す。ついでにユーもおかわりをする。
こいつら、ほんとよく食うな。
「そう言えば、今日の卵焼き、うまかったぞ」
「確かにあれはうまかったな」
「あ、当たり前だ。あたしを誰だと思ってんだよ」
歩は、いつのまにかニヤニヤと気持ち悪い笑みを見せている。
「何笑ってんだよ。気持ち悪い……死ね!バーカっ!」
パン。と乾いた音がして、俺は少し驚いた。
ユーが身を乗り出してハルナの頬を叩いた。歩達も唖然としている。
『軽々しくその言葉を使うな』
「ユー、気持ちはありがたいが、ハルナも本気で言ってる訳じゃないんだぞ」
「いや、本気で死ねよ。そっちの根暗マンサーも一緒に死ねっ!」
そう言って、ハルナはユーを叩く。
『死ぬのは つらい』
その一文を見て、ハルナと歩は言葉を失っている。俺も同じく無言だ。
すると、ハルナは沈黙を破るように「だああーっ!」と奇声を上げ、ご飯を口の中に掻き込む。ユーも澄まし顔で食事に戻る。
「ヘッドホンの人!おかわりだ!めっちゃおかわりだっ!」
「分かったから大声を出すな。近所迷惑だ」
「私は味噌汁を頂きたいのですが?」
「はいはい。味噌汁だな」
俺はそう言って味噌汁を渡した。