これはゾンビですか? ~いいえ、彼は問題児です   作:白ウサギ@FGO

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第六話 ユーの秘密

 今日は織戸と歩と共にボウリング場に行くことになっている。外が曇り空のお陰で、歩も昼間に外出できた。

 駅前で織戸と合流し、昼食を食べたあと、目的地のボウリング場についた。

 手続きを済ませ、ボウリングをしていると、

「おい相川と九十九、隣見てみろよ。すんげぇ可愛い子がいるぜ?」

 織戸がニヤニヤ顔で言う。そちらを見ると、

「だらっしゃあっ!」

 ハルナがいた。他にもユーやセラがいる。

「よし!やっぱあたしは天才だね。天才美少女悪魔男爵だ!」

 まさかあいつらも来てたとはな。すると、変な覆面を着けた歩がこちらに手招きする。何やってんだ?

「なんだ?」

「ハルナ達にばれないようにしてくれ。織戸に知り合いだってばれたくない」

「いや、無理だろ」

 俺たちがこそこそしゃべっていると、

「おい相川と九十九!見ろよあの子、すげえスタイルいいぞ……」

 織戸はセラの腰に見入っている。

「いきます。秘剣、燕返し!」

 セラもストライクか。

「ようし、相川と九十九!こっちも負けるなよ!」

 とりあえず俺の番なので投げる。よし、ストライク。

 その次は歩だが、スペアだった。

「へたくそ。集中力不足もいいところ」

「ようハルナ」

 俺がハルナに話しかけると、歩が「バカ!なに話しかけてんだ!」という表情でこちらを見てくる。……殴るぞ。

「こ、こんにちは……」

 織戸はいきなり声をかけられ、戸惑っている。

「えーっと、確か……夏侯惇、元嬢さんだっけ?」

「違うぞハルナ。こいつは織戸だ」

「オ……オーベルシュタイン?」

「ドライアイスの剣とかマニアックなものは控えろ。というか、あなたは誰ですかね?」

「は?何言ってんの?てか、なんでそんなの被ってんの?」

 やっぱりばれてるな。

「ハルナ。あなたの番ですよ」

 そう言うセラ。その言葉に歩は安心した表情になる。

「おい、九十九。お前さっき話しかけてたけど、あの子と知り合いなのか?」

「まあ知り合いだな」

「それなら俺に紹介してくれよ」

「……気が向いたらな」

 俺が織戸と話している間に、歩はセラと会話していた。

 

 ボウリングの結果だが、織戸が一一三、歩が一七〇で俺はパーフェクトだった。

「負けちまったな。九十九、何か欲しいものあるか?」

 確か漫画本一冊だったか?欲しいものもなかったので断る。

 すると、

「アユム、ヘッドホンの人!服買って!」

 声がした方を見ると、ハルナがアユムに抱きついていた。他の二人もいる。

「アユム、お前も知り合いだったのか。俺に紹介しろ」

 そう言って、織戸は歩ににこりと笑う。

 歩が三人の説明をしたあと、衣服売り場をうろつく。

「あー、あれ可愛い!見てアユム!」

 ハルナはそう言いながら色んな服を見て回っている。

「セラ、欲しいものがあったら言えよ?買ってやるから」

 俺が聞くと、「いいのですか?」と聞いてくる。

「ああ、問題ないぜ。金ならあるしな」

「ですが、下僕である私にそんなもの……」

「それなら命令だ。今日はわがままを言え。これならいいか?」

「その命令は卑怯です。ですが――」

「ありがとうございます」

 そう言って、セラは商品を吟味しだす。

 ちらりと歩を見ると、ユーに何か言いたそうにしている。

「セラ、ちょっと三人で話したいことがあるから離れるわ」

 俺はそう言って、歩とユーの手をつかみ、エレベーターに向かった。

 

 

 

 歩side

 屋上につき、神無がベンチに腰を下ろす。その隣にユーと俺が座る。

「歩、ユーに何か言いたいことがあるんだろ?」

 神無の言葉に、俺は少し驚いた。まさか気づいていたとはな。

 二秒か三秒か、気の利いた言葉を探してみるが、何も出てこない。俺はユーの方へ体の向きを変えた。

「ユー、教えてくれ。お前がなんで感情を殺してるのか」

 俺は真剣な表情を作っていたが、ユーはいつものように無表情だった。神無も黙っている。そのまま見つめ合っていると、ユーは目を閉じて、スカート部分のポケットからメモ帳を取り出す。

『どうしても?』

「ああ、どうしても、だ」

 そのとき、初めてユーは溜息を吐いた。そのときの心情を、俺が知る由もない。面倒くさいと思っているのか、言いたくないと思っているのか。どう思っていようが、俺は無理にでも聞くつもりだ。知る権利はある。ないなら今すぐくれ。

 もう一度メモ帳を開いて俺達に見せる。そこには長い文章があった。

 

『運命の糸というのは ゆらゆらと横に揺れながら前へと進んでいる

 揺れあい重なった糸と糸は 出会いを生む

 そこに強い魔力の影響があると その揺れは大きく 激しくなる

 故に 強い魔力を持つものは それを抑えなくてはいけない

 私の魔力は 抑えることは不可能だった

 動揺 不安 心の動きで魔力がすぐに乱れてしまう

 だから私は 感情を出すことが許されない』

 

 思ったよりよくわからない。つまり……どういうことだ?

「……つまり感情が動くと、人の運命が変わる。そういうことか?」

 神無が助け船を出してくれた。

 その質問に、こくり。うな垂れるようにユーは頷いた。

『言葉を出せないのは 私の言葉には力が込められてしまうから

 私の言葉を聴いた者は その言葉通りになる なってしまう

 だから 私は声を出すことが許されない』

「言葉を聴いた者はその言葉通りになる……ぅ?」

 怪訝な表情を浮かべた俺に、ユーはメモを見せる。

『私が寒いと言えば 聴いた者は炎の中でも寒さを感じる』

「それ、すごすぎだろ!」

『そう 私の言葉は 重すぎる

 いつ どの言葉が力に変わるかわからない

 だから 一言も発することは許されない』

「いや、それはおかしいだろ?あーとかうーとかにゃーとか、声を出すくらいは別にいいんじゃないか?」

『出来ない 言葉が力に変わるとき 私の頭に激痛が走る あれは もう嫌』

 強い力を出すためには、強い代償がいる。って奴か?それほどすごい力の代償が痛みだとすると、とんでもない痛みなんだろうな。

「それだけの力があるから、命を狙われているのか?」

『まだある』

 まだあんのかよ。

『私の手には治す力 血液には不老の力があり 心臓は膨大な魔力を放出している』

 頭がどんどん混乱してきた。聴けばすっきりすると思っていたが、まさか逆効果とは。

「ガントレットとプレートアーマーを外さないのは、その力を封じるためってことか?」

『正解』

 神無の答えに、ガチガチとガントレットで拍手する。

「もっとこう、山を破壊したり、時を止めたり、無敵になったりとかないのか?」

『私の特異な力はそれだけ

 これらの力に 私の意思は関係ない

 私が死んでも 能力は発動することが出来るだろう

 だから 私を殺したがる 体を手に入れるために』

「お前を殺して血を絞り取れば、不老になるワインが出来上がるってか?」冗談でそう言ったのだが、

『出来る』

 ガチガチと、ガントレットが鳴る。出来るのかよ。――もしかして、吸血忍者はこいつが作ったんじゃないだろうな。

「お前は、誰に狙われているんだ?吸血忍者だけなのか?メガロか?」

『把握できていない 吸血忍者にも メガロにも 魔装少女にも 殺されそうになったことがある』

 ふう。一息吐き、俺は近くにあった自販機へと向かう。コーラを三本買ってきて、ユーと神無に一個ずつ渡した。しかし、ユーと神無はそれを飲もうとせず、ベンチに置いた。

「で、他に隠し事は?」

『全て話した 嫌いにな――』

 そこで、文章は終わっていた。ポタリ、ポタリと何かがメモ帳に落ちる。

『嫌いになったでしょう?』その字は、ひどく乱れていた。

 すると、途中から黙っていた神無が喋りだした。

「ユー、なぜ俺たちがお前を嫌いになったと思ったんだ?」

『私の感情が動くと 近くにいる神無と歩の運命が一番変わってしまう』

 なるほど。確かに、今まで無表情で感情を表さなかったユーが、最近になって涙を流したり色々感情が動いていた。それに合わせて、メガロとか吸血忍者とか魔装少女が突如として一気に現れた。

『こんなバケモノみたいな奴が傍にいる それを知ったら 嫌いになるでしょう?』

「ハッ、嫌いになる?何言ってやがる。歩はどうか知らんが、俺は感謝してるんだぜ?」

『感謝?』

「ああ。ユーに会えたおかげでハルナ達に会えたんだ。それに、メガロやセラとの戦いは楽しかったしな」

 楽しかったって……命がけだったと思うんだが。

「それとも、ユーは俺達やハルナ達に会わない方がよかったか?」

『よくない』

「ならそんなことこれからは言うんじゃないぞ」

『私 一緒に居てもいいの?』

「ああ、当たり前だろ。歩はどうだ?」

「ああ、好きにしてくれ……」

 捻くれた言い方をした自分に、なぜか無性に腹が立った。「はあ」と肺の中に溜まっていた空気を吐き出す。

「ユー、笑いたいときは笑え。運命なんか俺たちが何とかしてやる。――だから、ずっと俺達のところにいろ」

 ユーの涙は止まらなかった。その間、神無は優しげな表情でユーの頭を撫でていた。

 

 

 

 神無side

 買い物を終え、俺達は家に帰っていた。別れ際に織戸が歩に、次のボウリングには是非彼女らを呼ぶようにと言ってたな

「は~疲れた。なかなかこの世界もいいじゃんか!捨てたもんじゃないって奴だな!」

 ハルナは戻るなり俺に渡された服を持って、階段を飛ぶように上がっていった。

「待ったハルナ!これを付けてくれ!出来れば裸、いやメイド服で!」

 歩がハルナを追いかけつつ、そんなことを叫んでいる。そしてハルナに吹っ飛ばされていた。

「暴れないで下さい!邪魔です」

 セラにそう言われて気分を害したのか、ずかずかと乱暴に階段を上がっていった。歩はユーと共に居間に入っていく。俺も行くか。

 そう思い、居間に行こうとしたところでセラを見ると、

「………………にゃー」

 猫耳ヘアバンドを頭につけ、ポーズをとっていた。

 セラにもあんな可愛いところがあったんだな。

 そんな俺の視線に気づいたのか、セラがこちらを見る。

「……もしかして、見ましたか?」

「ああ、バッチリな。セラにもあんな可愛いところがあったんだな」

「忘れてください」

「いやいや、そんな簡単に忘れられるわけないだろ」

 セラの意外な一面が見れて、俺としては満足だぜ。

「それに、似合ってたしな」

「なっ!」

 おっ、セラの顔が真っ赤になったな。

「な、何を言ってるんですか!」

 セラの言葉に、俺は笑いながらその場を後にした。

 

 

 

「やったーあ~っ!」

 そう言いながら大はしゃぎするハルナ。目の前にはピザがテーブル狭しと並んでいる。

「アルフレッドガンナーソンLなんて久しぶりだなぁ。いただきま~す」

 ってかアルフレッドガンナーソンLってなんだ。もしかしてハルナがいた世界の食べ物か?

「あれ?」

 一口頬張ったハルナは、首を傾げている。

「これ、アルフレッドガンナーソンLじゃないっ!」

「おい、ハルナ。お前の言うアルフレッドガンナーソンLってなんだ?」

「え?薄く伸ばしたアルフレッドにガンナーソンをふんだんに載せ、とろけるLをパラパラ~っと――あっ!この世界の食べ物じゃなかったっけ?」

「恐らく、違うと思う」

「そっか、そうだよな。こんなクソみたいな世界にアルフレッドもガンナーソンもある訳がないか……あ、でもおいしい。これでいっか」

 いいのか。

 それにしても、ハルナがいる世界には一度行ってみたいな。

「神無……『今日はわがままを言え』という命令は、まだ有効なのですか?」

「別に大丈夫だが。……どうかしたのか?」

「私は、和食以外を口にしたことがありません。このような料理など……恥ずかしながら少々怖いのです。味噌汁を頂けますか?」

「作ってやってもいいが、一応食べてみろ。それにこれからは和食以外も食べることがあるかもしれないだろ?」

「分かりました。……吸血忍者たるもの、如何なる敵が現れようとも臆することなく戦うべし」

 そう言いながら、一気にぱくり。

「素晴らしいですね。これほどとは……」

「食べてみて正解だっただろ?」

「はい、とてもおいしいです」

 どうやらお気に召したみたいだな。あっという間にピザがなくなったぜ。

「ふい~、ピザってのも、なかなかやるじゃん。ヘッドホンの人、ケイタイ貸して」

「ああ、いいぞ」

 携帯電話を手渡すと、ハルナはその場で電話をかけた。

「あ、大先生ですか?――え?あ、そうですか。でしたら、リフレイン年ライジング組の出席番号六三四五二六三九七のハルナから電話があったことだけ、お伝えください」

「留守……だったのか?」

「なんか、研究材料を探しに別世界にいってるって言われた」

 うだーっとテーブルに体を投げ出してそのまま目を閉じる。

「はあ……アーティファクトも見つかんないし、魔装少女にもなれないし、大先生に電話繋がらないし、もう最悪~だあっ」

「……ところでハルナ。そのアーティファクトっていうのは一体なんだ?俺も探せたら探しとくが」

「はん。あんたなんかに見つけられる訳ないじゃんか」

「でも、もしかしたら俺達が知っているものかもしれないぞ?なんて名前だ?」

「――うん、そうだな。確かにその通りだと思う。えっとね……名前は、キョウドウ……ううん。キョウフ……うん。恐怖という名のものだ」

「それはどんな形なんだ?」

「こう、四角くて柔らかくて」

 大きさはそんなに大きくないみたいだな。四角くて柔らかいものか……さっきのハルナの発言を鑑みるに……

「もしかして、京豆腐か?」

「そう、それだ」

 ふむ、京豆腐か。ネットで取り寄せるか?

「神無、よく分かったな」

「さっきハルナが途中まで言ってたからな」

 俺達がそんな会話をしていると、

 ピンポーン。

 玄関のチャイムが鳴った。歩はそれに返事をして、居間を出ていった。

 少しして大きな音がなり、歩が戻ってきた。

「おい歩。すごい音がしたんだが何か……」

「ユーっ!すまん。いきなりだが、治してくれ!」

 なぜか歩の肩が抉られていた。いったいこの短時間に何があった。

「往生際が悪いですよ相川さん。早く死んで下さいよ。ちゃんと――」

 声がした方を見ると、トレンチコートを着た犬が立っていた。

 こいつ、今喋ってたな。もしかしてメガロか?

 とりあえず、いつでも動けるようにしておくか。

「おや?最近見ないと思っていたら、こんなところにいらっしゃったんですか。ヘルサイズ様。――なるほど。あなたの仕業ですね?そうですよ、ね。ただの一般人が冥界から戻ってこれる訳ないですもん、ね。もう、早く言ってくださいよ」

 どうやらユーの知り合いみたいだな。

『忘れてた』

「困りますよ全く、無駄足を踏まされました。一言言ってから魂を呼び戻してくださいよ。あなたの仕業だとわかっていたら、こんなところに来なかったのに」

 やれやれと犬が首をふる。

「もう、俺と戦わないのか?」

「はい。ヘルサイズ様がしたことなのでしょう?彼女は、どんなことをしても許されるんですよ。冥界の王たちもヘルサイズ様に会ったら土下座ですよ。もう……ね。なんていうか……ね。すごいんですよ」

「ユーはそんなにすごいのか?」

「そうですね。『全ての中心である』と冥界の王たちは言います」

 すごい人物だったんだな。まあユーが何者だろうが関係ないが。

「それより、気になったんですけど、ね。先ほどの肩の傷、重症のはずですよ、ね?もしかして――いえ、違ったらすいませんが、もしかしてヘルサイズ様に能力を使わせたのですか?」

『大丈夫 耐えられる痛み』

 そういやあ能力の代償は痛みだったか?

 犬は「やっぱり」と嘆息し、歩を殴った。

「ヘルサイズ様の手には物を治す力があります。それは、触れている対象物が治したいと思っていた場所を治す能力です」

「ヘエ、案外すごいじゃん、何でも治せるの?」

 珍しいな、ハルナが興味を示すなんて。

「しかし、その代償として、治した痛みを請け負うことになるのです」

「てことは、今ユーは肩を抉られる痛みを受けてるのか?」

「そうです。あなたのせいでヘルサイズ様が苦しんでいるんですよ?私はヘルサイズ様がこの力でどれだけの苦痛を味わってきたかを知っています。だから殴らせて頂きました」

「ユー、すまなかった。ちゃんとデメリットも聞いておくべきだったよ」

『かまわない』

 その一文を見て犬は、目を丸くする。

「――そう、ですか……あ、そろそろ、おいとまさせて頂きます。この度はどうもお騒がせ致しまして……そうそう、この近くで人が殺されかけているので、その魂も連れて行こうかな」

「なに?それは本当か?」

 もしかして、歩を殺した犯人か?

「……あなたは?」

「そういやあ自己紹介してなかったな。俺は九十九神無だ」

「ふむ。人間の割には魔力がかなり高いです、ね。いったい何者ですか?」

「俺はただの人間だ。それよりも、さっき言ったことは本当か?」

「はい、本当です。それがどうかしましたか?」

「それなら俺もついて行っていいか?歩も行くだろ?」

「ああ。この近くで殺されかけているってのは聞き捨てならないからな」

「なぜです?あなたたちとはなんの関連もない殺人ですよ?まさか、助けたいなどと言うつもりですか?まさか……ね?」

「そんなんじゃねえよ。とにかく、俺達もついていくが問題ないか?」

「…………まあ、いいでしょう」

 こうして俺達はその場所に向かった。

 

 

 

「この辺りです、ね。まだ生きている者がいるようですが」

 俺達が着いたのは、これといった特徴のない普通の家だ。

 二階の窓を開けて中に侵入する。

「――やられました。魂はもうここにはいません」

「どういうことだ?死んだのか?」

「死んだ魂を冥界に送るためにここにきたのですが、どうやらもうなくなってしまいました。最近多いんですよ……ね。死んでも冥界にこない魂」

「つまり、他の誰かに取られたってことか?」

「はい、恐らくサクられたのでしょう」

「サクられた?」

「サクリファイスされた。の略です。聞いた話ですが、夜の王という人物に魂を生け贄として捧げると、とんでもない量の魔力を貰えるとか。最近多いんですよ、ね」

 俺達は部屋を出て、階段を降りていく。一階には血がびっしりだった。

「二人とも、警戒してください」

 先を行く犬がトレンチコートの袖で額を拭った。

 確かに、なかなか強そうな奴がこの先にいるな。しかも、魔力がどんどん上がってるみたいだし。

「おおー、魔力がどんどん上がっています、ね。いやはや人間界の者がこれほどの魔力を持てるわけが――そうか!そうですよ!」

 歩は魔力を感じ取れないようで、首を捻っている。

 暗がりのなかで、キラリと何かが光った。とりあえず手で受け止めようとしたら、犬が前に出て手を広げる。

「なんで俺を庇うんだよ!」

「別に俺は庇わなくてもいいぞ」

「……あなたたちに何かあれば、ヘルサイズ様が悲しむでしょう?」

「大丈夫だって。俺は――」

「ヘルサイズ様は、とても楽しそうな表情をしていました。……自分はそれを奪えない。早く逃げてください!奴は、この世界……」

 言い終わる前に犬と歩が切り裂かれる。俺の方にも来たが、俺に剣が触れた瞬間、弾かれた。

「!」

 剣が弾かれて動揺したのか、動きが止まる。とりあえず俺は、その相手に拳を叩き込んだ。

「ガッ」

 俺の拳を受け、相手は近くの壁に吹っ飛ぶ。……顔はあまり見えなかったな。

 しばらくして煙が晴れると、そこには誰もいなかった。

「チッ、逃げられたか」

 しばらくすると、上半身だけの歩が外から中に入ってきた。

「神無、さっきのやつは?」

「残念ながら逃げられた」

「そうか……」

 今回は運が悪かったと思うしかないな。

 

 

 

 ブ~ブ~。

 あんなことがあり、俺達が家路についていると携帯がしんどうする。

 俺は歩に先に帰るように言い、電話に出る。

「もしもし?」

「あれ~?ハルナじゃーないようですね~」

「ハルナ?もしかして大先生か?」

「そうですぅ~。あなたは~?」

「ハルナの変わりに魔装少女やってる知り合いの手伝いをしてる、九十九神無だ」

「そうなんですかぁ~。ちなみに、魔装少女をやっているのは、誰なんですかぁ~?」

「相川歩って名前の男ですけど」

「って、その人少女じゃないじゃないですかぁ」

「俺もそう思うぜ。そういやあ大先生の名前って何て言うんだ?」

「アリエルって言いますぅ」

 アリエル?どこかで聞いたような……まあいいか。

「ところで、何か用があって電話したんじゃないのか?今近くにいないから、あとで伝えておくが」

「ん~。ではお願いしますねぇ。京豆腐はもういいですから~、魔力の回復に専念してくださ~いって伝えてもらえますかぁ?」

「わかった、伝えておこう。ついでに、京豆腐は俺が用意しようか?」

「あ、だったらお願いします。私、京都のお豆腐大好きなんですよ~」

「ふーん」

 俺はアリエル先生との電話を切り、家に向かうのだった。

 

 

 

 家に帰ると、セラが顔面蒼白だった。

「どうかしたのか?」

「血が足りません……今歩にハルナを呼んできてもらってます」

 聞けば、吸血忍者は定期的に血をとらないと死んでしまうとのこと。

「俺じゃ駄目なのか?」

「それは……無理です」

「……何か理由があるのか?」

「はい。血をもらうときは接吻をして、薬を注入しなくてはいけません。異性との接吻は婚儀の際に行うものですので」

 確かにそれは問題だな。

「キスなしは駄目なのか?」

「薬無しでの吸血は……激烈に痛いですよ?」

 俺達がそんな会話をしていると、歩が二階から降りてきた。

「やっぱり俺じゃダメなのか?」

 歩がそう言う。

「嫌です。絶っっっっっっっっ……っ対に嫌です」

 そこまで嫌なのか。

「やっぱり俺じゃ駄目か?キスなしでも俺は別にいいぞ。それに、仲間に死んではほしくないしな」

 俺の言葉にセラは諦めたようにため息をつく。

「はあ、分かりました。それではお言葉に甘えて」

 どうやら俺は問題ないみたいだな。セラは目を閉じて、俺の首筋にかぶりつく。

「うっ」

 確かにセラが言っていた通りかなり痛いな。しばらくして吸血が終わると、セラは俺に土下座してきた。

「誠に申し訳ございませんでした!」

「いや…………かなり痛かったが大丈夫だぞ。少しフラフラするけどな」

 俺はセラにそう言って部屋に戻り、携帯で京豆腐を注文した。明日には届くみたいだな。

 とりあえずその事をアリエル先生に言おうと、着信履歴の番号に掛け直す。

 プップップップップ……プルルルルル……プルルルルル……

「お電話ありがとうございます。マテライズ魔法学校、エルスと申します」

「アリエル先生って今いるか?」

「アリエル先生は現在、席を外しておりますので、よろしければ伝言を承りますが?」

「それじゃあ、例のものが明日手に入りそうです。って言っておいてくれ」

「かしこまりました。それではですね、お名前の方をお願いできますでしょうか?」

「九十九神無だ」

「ツクモカンナ様ですね?承りました。他に御用はございませんでしたか?」

「いや、特にない」

「そうですか。本日はお電話ありがとうございました。では失礼します」

 さて、電話も終わったしさっさと寝るか。

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