俺は夢枕に立たない   作:くれなゐ

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第一話 夢現

 

 睡眠は素晴らしいことだと思う。

 今から寝れるとなった時の気分は最高だ。

 目を瞑り、静かで落ち着いた空気の中では全てを忘れることができる。

 嫌な思い出、嫌いな人、現実から逃げたくなったら布団に入り目を瞑るだけでいい。

 勿論ずっと寝ている事はできず、大抵が1日の半分にも満たない。

 

 俺は物心ついた時から努力していた。

 暇があれば眠り、暇ではなくても眠り。授業中には教科書を立てバレないようにして眠った、体育の時間は体操座りをした状態で顔を伏せて眠ったし、休み時間は保健室の布団を借りて眠った。

 家に帰っても遊びに行く事はなかったしゲームもしなかった、寝るほうが楽しいからだ。

 夢を見たときなんて、どれ程テンションが上がる事か。現実で起こりえない事が夢では起こる、俺には最高の一時だった。

 中学生になってからは夢日記を書くようになった、それは今でも続いている。

 そもそもなぜ俺がこれほどまでに睡眠を愛しているのか。それには俺の心の器よりも広く、俺の心の傷よりも深いであろう理由がある。

 

 

 

 

 〜 第一話 夢現 〜〜

 

 

 

 

 滅多に人が通らないこの廊下は俺の決めた心安らぐ場所ベスト10の7位にランキングしている。

 窓からは日差しが差し込み、外からは小鳥のさえずりが聞こえ、布団があったら寝れること間違い無しだが生憎今持っているのは枕だけなので寝ようとはしない。

 因みに布団がないと寝ない理由は、肩をこるとか体が冷えるからとかだ。寝て起きたら体の調子が悪かったです、とか話しにならない。だからこそ緊急の時以外は床で寝ないように意識している。

 何時もならこの時間帯は保健室で布団を借りて寝ている俺だが、今日は運悪く保健室が開いていなかった。

 前に鍵を取りに行った事はあるが、教師の許可がなくては保健室を使ってはいけないとのこと。

 

 学校が終わり、いつもの道を通って家へ帰る。

 勿論、部活なんて入っていない。安眠部とか言うのがあれば入部するか迷っていたかもしれないが残念ながらそんな部活はどこにいっても無いだろう。

 

 家に帰っても親はいないから「ただいま」を言う必要はない。いたとしても寝ているだろうから尚更ただいまとは言わないだろう。

 リビングにある机の上にはメモ用紙とラップで包まれた晩御飯が置かれてあった。

 

『蓮へ、今日の晩御飯はオムライス、喜べ。母より』

 

 毎度ながら何とも言い難い……

 時間がなかったのか、それとも書くのが面倒だったのか。十中八九、後者だろう。

 因みに"喜べ"とか書いてあるから俺の好物はオムライスなのかな? と思う人がいるかも知れないがそんな事はない。特に好きな訳ではないし嫌いでもない食べ物だ。

 俺はそれを電子レンジで温めて食べ始めた。

 不味いわけではないが……少し甘いな。

 それとどうでもいいが俺はケチャップで顔を描く派だったりする。

 食べ終わり、食器を下げると急いで階段へと向かった。早く部屋に行かないと睡眠時間が少なくなってしまうからだ。

 いや、まぁオムライスに顔を描いていた奴が言う台詞ではないが……

 イルカや渡り鳥のように俺も半球睡眠ができたら便利なんだろうけどなぁ。

 

 ガチャ っとドアを開けて部屋へ入り、真っ先に布団へと向かった。

 部屋には布団と机くらいしか置いていない、と言っても机は飾りみたいな物だけど……

 電子機器は音楽プレイヤーなら持っている。周りが騒がしい時は安眠できない。そこで音楽プレイヤーで環境音とか流すと余分な雑音は消えて自分の世界へ入っていけるのだ。

 

 いざ布団へと入り、後は眠るだけ。

 瞼は少しずつ重くなり、意識は朦朧としてくる。それと同時に心地の良いオーラにつつまれた俺は安眠できる事を確信した。

 

 

 ――しかし、目を瞑りきったその時

 

 

『あ、きたきたー☆』

 

 寝転んでいる俺の足元あたりで少女らしき声がした。まぁきっと気のせいだろう。なんせこの家には今俺しかいないはずだ。

 仮にそれが気のせいではなくて実際に少女が発した声だとしても部屋の中でってことはない。

 

 ……気にしたら負けってやつか

 …………………………………

 ……………………………

 

 

『どうやら寝てますね、夢の中でも寝るとは流石……』

 

 幻聴が聞こえる。疲れがたまっているのだろう、早く寝て脳を癒やしてあげなければ。

 だがもしかしたら母親という可能性も……

 

『どーしますか? 起こしたほうがいいでしょうか?』

『起こさないと駄目っしょ。王様が待ってるだろうし』

 

 王様ってなんだよ……俺は気が付かない間にどっかの国へでもワープしたのか? 勿論、冗談だが。 もしかすると従姉妹だったり、そんな子は知らないが十分にありえる……よな?

 いや、ただの不法侵入者だという可能性もある。

 

『蹴ればいいですよね☆』

『まぁ蹴っちゃえば起きるかもな』

 

 危険な単語が聞こえたので下手なプライドを捨てサッと起き上がる。

 目を開けて今の状況を判断しようとするが、俺の目に写ったのは見慣れた部屋ではなかった。

 

 俺から遠く離れた場所にある壁や天井と目の前に立つ2人の少女。

 

「あ、起きたっぽいぞ」

 

 そう言った少女は橙色をした服を着ていて、背中からは羽が生えていた。その隣に立つ、何故か満面の笑みをしている紅い服を着た少女も羽が生えている。

 

(あれ……確実に羽だよな、それも翼というよりは蝶に近い感じの……)

 

「ほんとだ。えぇと、おはよーございます…? 貴方は夢想家(ドリーマー)に選ばれました♪」

 

 ……テンプレ異世界トリップってやつですか?

 睡眠イコール人生、人生イコール睡眠な俺はそんなの読んでねぇし興味もねぇぞ。

 精々 隣の奴が話していたりして聞こえてくる程度。面倒臭い展開のなか、次から次へ湧いてくる疑問に瞼が重くなる。

 俺が予想するに夢の中だ。そうじゃないと説明がつかない。すると俺は今夢の中で意識があるということになる、つまり明晰夢だ。

 

「まずは自己紹介を、あたいはスエツミ♪ 熱狂の妖精です☆」

「で、あたしも妖精。名前はクリビアだ」

 

 わけわかめ状態になっているのに自己紹介されても困るのだが。というか妖精って……

 羽の生えた電波な子なのかな?

 まぁ取り敢えず名乗られたら名乗り返さないと話は進まないか。

 

「……柿花 蓮です」

「ではレン様、まだ困惑しているでしょうから取り敢えずは落ち着くことから♪ これからきちんと説明します☆」

 

 

 …………………………………

 …………………………

 …………………

 

 

 

 曰く、皆の見ている夢はちょっとした仕切があるだけで実は繋がっていて、さらに様々な膜にまで繋がっている。

 曰く、ここでいう膜とは複数ある世界を表した言葉で、膜を超えるというのは異世界へ行くということ。

 曰く、勿論そんな事をされたら世界やら何やらにズレが生じてしまう、だから異世界トリップってのが行われないように夢を管理&監視しなければならない。

 曰く、そこで夢を管理するものとして夢想家と呼ばれる役割ができたのだ。管理者は相応しい人が行うべきであり、その管理者を選んでいるのは世界自身。

 曰く、管理者が死んだら次を探さないといけない。そしてその、 "次" に選ばれたのが俺だ。

 

「って事でレン様にはこの世界を管理する義務があるのです☆」

「あ、はい。拒否で」

 

 なんだよその中二病のど真ん中を行く設定は?

 世界自身ってあれか、俗に言う神様の事か?

 てかそれ以前に今この状況自体まだ信じてねぇよ。いや、実際に夢世界ってのが存在しているのは身を持って知ったけど。

 

「まぁはっきり言っちゃうと拒否権なんてものはないんですよね♪ 世界が決めちゃったんですから☆」

「運命だと思って諦めな」

 

 そんな一言で運命とか言われましても。

 てか、なんで俺が選ばれたんだよ……

 

「それでは王様のもとへ付いてきてもらいますね☆」

「おいバカ。王様についてまだ何の説明もしていないぞ? 話しといた方がいいだろ」

「あっ、確かにそうですね♪」

 

 聞いた方がいいのだろうか……?

 やっぱ聞かないと駄目だよなぁ……

 

「この世界は現とあまり変わりません♪ 街はありますし住人もいます☆」

「あぁ……えぇとだな、夢想家が夢を管理するなら王様は夢を治めるって感じ」

 

 普通に王様してるって事だろ、それ。

 

「因みにあたしら妖精は王様や夢想家の側近みたいなものだな」

「命令があればその通りに働きます♪ まぁそういう訳なので、これからよろしくお願いしますね、レン様!」

「よし、説明終了。王様放置してるし流石に急いだ方がいいな」

「ここまで説明させといてあれだけど……行く気ないからね? そういう事だから、おやすみ」

 

 「ちょっ、おま」とか聞こえるが、俺はもう寝てるから反応できないかなぁ。

 いざ、完全なるノンレム睡眠へと。

 次に目を開けたら何時もの天井が見えることだろう。

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