エイプリルフール用にブログに書いたものです。内容は読んでからのお楽しみと言う事で。 ※こちらは自ブログの『陳情の先を行く部屋』でも出しているものです。

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読むときは口に飲み物を含んでからお読みください。責任は取りません。


最終決戦

「私の名前はロート・シュピーネです。シュピーネとおよびください」

 

 針金の様に細いからだ。病的にまで白い肌。目の下にはクマができている。そして髪までも白い。なのにこの男から感じられるイメージはひとつ、蜘蛛だ。獲物を捕らえたら逃がさない。そんな蜘蛛をこの男は連想させる。

 

「いけませんねぇ、実にいけません」

 

 両手からワイヤーを伸ばしながらシュピーネは宣言する。

 

「その在り方は実に許されざるものなのですよ!」

 

「―――あぁん? なんだテメェ」

 

 そうやって、言葉を返すのは極大の邪気だった。邪気。吐き気。悪意。その存在を掲揚するのであればそういう類の言葉しか存在しない。いや、それでもまだ足りない。これは”そういう存在”だと認識しておかないといけない。そもそも、こいつは他人という存在を認識すらしていない。独り言だ。痒いから掻き、そして痒いと言葉を零す。そういうリアクションと何ら変わりはない。この邪神は会話ではなく独り言によって完結しているのだ。

 

 だからこそ許せない。

 

「エレガントではありませんねぇ」

 

 そう言ったシュピーネが波旬を睨む。

 

 シュピーネは自他認める懐の大きい男だ。その大きさで言えば宇宙ですら形容の出来ない程だ。そのシュピーネがエレガントではないと、そういうレベルにまで怒っている。それは誰もが見た事のない、まさに未知と言えてしまう程の事態であった。誰が予測できたであろうか、この結末を、この瞬間を、この対峙を。本来ならそれこそ絶対ありえない構図だ。シュピーネという男は波旬の前に立つ可能性は存在しなかった、存在しなかったのだ。

 

 なのに、今、運命を乗り越えて波旬を向かい合うシュピーネの姿がある。

 

「シュピーネさん……!」

 

 仲間からの声援がシュピーネの心を震わせる。逃げ出したい心を支える。そう、シュピーネは孤独ではない、決して一人で戦っているわけではないのだ。

 

「シュピーネさんよ、私は卿のおかげで既知感を突破できたのだ」

 

 黄金はシュピーネさんのおかげで既知感に打ち勝てた。

 

「俺も、シュピーネさんのおかげで時を進める大切さに気付けたよ」

 

 刹那はシュピーネさんのおかげで時を進める重みを知った。

 

「シュピーネさんのおかげでインポが治りました」

 

 最悪の存在からちゃっかり救われた奴もいる。

 

 そう、この状況は常に臆病だったシュピーネが導き出した最適解なのだ。シュピーネが血反吐を吐きだしながら生み出した最善の未来、それがこれなのだ。

 

「あぁ、怖い……怖いですねぇ……ここにいるだけで私は震えてしまう。恐怖に身がすくんでしまう。こんな所には一瞬たりともいたくはないのですがねぇ、えぇ、しかし私はロート・シュピーネ。栄光ある聖槍騎士団黒円卓の者なのですよ―――最低限貴方をどうにかしなければ私は恥ずかしくて名乗る事すら許されないのです。ですから、えぇ……勝たせていただきましょう」

 

 シュピーネの言葉を受けて邪神は独り言を零す。

 

「あぁ、臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭いんだよぉ……なんだなんなんだよてめぇら。俺は一人になりたいだけなのに。誰だってそうだろ? 放っておいてほしい。一人になりたい。なんで当たり前の願いが許されないんだ。あぁ。鬱陶しいぞ貴様ら。邪魔だ。早く消えてなくなれよ糞がぁ……」

 

 漏れ出す言葉は呪詛だ。それだけで世界は震えて砕け、いくつもの宇宙が滅ぶ。それを正面から受け止めるシュピーネも例外ではない。その体も砕けそうになり、

 

「時よ止まれ―――」

 

 時が止まり、時の鎧がシュピーネを守る。刹那とはいえ、格上の時すら止める事の出来る刹那の時間停止。それは対波旬においては最強の防具となる。そしてこの瞬間こそがシュピーネにとって最大のチャンスとなる。

 

 如何なる攻撃を受け付けない波旬が時間を停止され、動けないほぼゼロ秒のこの時間。

 

「私は臆病でした。怖いのですよ。ハイドリヒ卿やツァラトゥストラ、副首領閣下の存在がなによりも。できる事なら出会いたくなかった。一生逃げ続けたかった。才能あふれる化け物たちと出会う時点で私の人生はめちゃくちゃになり望んだ平穏から離れてしまうから。故に私は臆病にも恐れ続けるのです。彼らが決して悪ではないと知りながらも、その才能だけで恐れてしまうのです。故に―――」

 

 世界の中心はここだ。

 

「―――アティルト―――」

 

 シュピーネの理が流出する。宇宙へと流れ出す。黄昏の抱擁が覇道の共存を許し、全てを隠す。そう、シュピーネの願いは平穏と逃走。逃げたい。逃げ続けたい。見つかりたくない。一生見つかることなく平穏に過ごしたかった。故にシュピーネの覇道に染まった存在は隠れる。それは現在からではなく過去へと、生まれる前へとさかのぼるほどの運命改変の能力。

 

 初めからであったと言う事実さえなくなるほどの隠密能力。

 

 それで波旬と畸形以外の全存在が隠される。

 

「お、おぉ、おぉおおおおおお―――!!!!」

 

 波旬が歓喜に吠える。初めてだ。不愉快なものが体から消えてゆく。波旬が波旬という存在に純化されて行く。孤独になればなるほど波旬は強化されて行く。一瞬で時の鎧は砕け散って波旬は自由になる。しかし吠えるのは歓喜の咆哮であり、それでさえ全てを滅ぼし尽くす。

 

 だが、ついに波旬から全てが消える。

 

 そして覇道が消える。

 

 波旬を波旬として、最強最悪の下種の神としているのはその性質故。その願い故。

 

 誰かが触れているのは不快だ。消えてくれないのなら消すしかない。そういう発想で生まれてしまった。

 

 そして今、全ての出会いがなかったことになった。

 

「これでチェックメイトです―――!」

 

 波旬は最強の覇道神から並の覇道神程度の実力まで落ちる。求道神としてこの実力はやはり頭のおかしいと評価の出来るレベルだ。しかし、今のこいつには勝機がある。いや、今しかない。並の覇道神となれば、もはやラインハルトやツァラトゥストラの敵ではない。覇道の神としては最高峰のスペックを持つ彼らを相手に並では絶対に勝てない。

 

「いくぞぉ―――!!!」

 

 覇道神達の勝利を祝福する咆哮が響く。そして、

 

 

 

「なんだこれ」

 

 

 宇宙の中心で呆然としながらカール・クラフト=メルクリウスが呟く。

 

「私はこんな展開知らぬぞ」

 

 知りたくもなかった。

 

「あぁ、断じて認めんこんな結末」

 

 そう、

 

 

「こんなものが私の未知であってたまるか」

 

 

 迷うことなく波旬が倒れた瞬間、メルクリウスは時間の逆行を開始した。そう、こんな結末を生み出したなんてあなた疲れてるのよカール等とつぶやきながら、

 

 次のループからはシュピーネをかませにしよう。そうしようと誓った。

 

 完




深夜から俺は何を書いてたのだろうか。

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