という今回の話です。
「さぁ、殺せんせー、そろそろ見捨てた方がいいんじゃねぇか?」
零士は銃口を倉橋の方に向けながら殺せんせーに言う。
「そんな事するわけないじゃないですか! 倉橋さんは私の大事な生徒です! だから必ず守ります!
勿論、零士君、君も大事な生徒です。こんな事やめて、みんなで楽しく先生を殺しましょう。
「はははっ、アンタ、バカじゃねぇの? “楽しく殺す”? ふざけた事言ってんじゃねぇよ!」
零士は倉橋に銃口を向けたまま引き金を引き続ける。殺せんせーは触手で受ける事もあるが基本は避けている。しかし倉橋が縛り付けられた椅子を持っているのでその縄に触れてしまい、ジワジワと削られる。
「そろそろ終わりにするぜ、お別れの準備は出来たか、殺せんせー? 大事な生徒の目の前で…死ね!」
そう言って零士は再び引き金を引く。
しかしその弾は殺せんせーに届く前に何者かによって防がれた。
「……んだよ。アンタまで、俺の暗殺を邪魔するのかよ。テメェら防衛省が俺に暗殺を依頼したんだろうが! なぁ、烏間さん!」
烏間先生はその弾を片手でキャッチして零士の目の前に来る。
「悪いな、ゼロ。生徒を危ない目に遭わせる暗殺を見過ごす事はできない。今すぐ暗殺をやめろ」
「やだね。あのタコは俺が殺す。てか会議はどうした? アンタがいない時を狙ってたんだけど。」
「会議は途中で抜け出して来た。何か悪い予感がしたんでな」
「…あっそ。じゃあ早く戻りなよ。怒られるよ」
「彼女が怪我をしてからでは遅いからな。彼女が怪我をして、その事情を説明する方が大変だ」
そんな会話をしている2人はおそらくその場に立って話している様に思うだろう。しかし、実際には2人は戦いながらその会話をしている。
「スゲェ、黒羽が抑えられてる…」
「殺せんせーをあそこまで追い詰めたのに…」
生徒達もそんな烏間先生の人外っぷりに驚いている。
「チッ、強すぎるだろ…。仕方ねぇ、烏間さん、アンタを殺してでも俺は奴を殺す!」
すると零士は腰のホルスターから実弾入りの銃を取り出し、烏間先生に向かって放つ。
しかし、烏間先生はその弾を避け、零士を投げ飛ばす。そして床に思いっきり叩きつけられる。
「っ! …あれを避けんのかよ……烏間さん…」
「「「「「Σ烏間先生ハンパねぇー!」」」」」
みんなは零士の弾を軽く避けてみせた烏間先生の人外っぷりにツッコまざるを得なかった。
そして殺せんせーは零士に近づきながら言う。
「零士君。君の負けです。どうです? ここでみなさんと一緒に勉強しながら先生を殺してみては」
「ふざけんなよ。何で俺が、コイツらなんかと一緒に殺らねぇといけねぇんだ!コイツらは“エンドのE組”だ! どんなに訓練しようと関係ぇねぇ! 俺の足を引っ張るだけだ!」
「ゼロ、お前がこのクラスで暗殺を続けたいのならコイツの言う通りにしろ。でなければお前への依頼はなかった事にする。」
敗北によるショック、殺せんせーの言葉、そして烏間先生からの依頼取り消しの話。積もりに積もった零士のイライラを遂に頂点に達した。
「うるせぇ! だったら今ここで! すぐに! 殺すだけだ!」
零士はそう声を荒げて言い、縮地術で殺せんせーの後ろに回った。
「死ね!」
「ヌルフフフフ、遅いですねぇ零士君。あまりに遅いので手入れしておきました。そのホルスター、使い込んでいますね~。」
殺せんせーの顔は黄色と緑のしましまになっていた。完全にナメている。
零士はナイフを持っていた手を殺せんせーに抑えられ、ナイフを当てられない。しかも腰のホルスターは買ったばかりの新品並に輝いていた。
「…嘘だろ…縮地術を初見で防ぐのかよ……。あぁ! クソッ!」
バンッ
零士は悔しさのあまり床を殴りつける。
「…殺せんせー、殺せよ。俺はアンタを殺そうとして失敗した。殺されても文句は言わねぇ。さぁ、早く殺れよ」
「確かにそうかもしれませんねぇ。特にみなさんは倉橋さんを傷つけられて怒っていますしね」
いつの間にか教室に入って来ていたE組のみんなは床に座り込む零士を見下ろしていた。
「んだよ、その目は。お前らも俺の事、殺してぇのかよ。勝手にしろ。お前らに、殺れるもんならな」
こんな状況でも零士は挑発する様な言動をやめようとしない。おそらくこれが零士の基本スタイルなのだろう。
「ですが、先生は契約上、君を殺せません。まぁ、契約がなくても殺しませんが」
零士はその言葉に驚きを隠せない。それもそのはず。彼の生きてきた世界は“失敗=死”なのだから。
「君に何が足りなかったか分かりますか?」
殺せんせーが零士に問いかける。その問いに零士は答えない。
「それは仲間です。今回の暗殺もせめて倉橋さんだけでも協力者にしてれば結果は変わっていたかもしれません。1人で殺そうとしないでください」
零士はそれにも反応しない。
「その為にも君はここから生き返り、みんなと仲良くしなければなりません。まずは倉橋さんに言うべき事を言ってください」
そう言いながら殺せんせーは烏間先生に解放してもらったばかりの倉橋を零士の前に行かせる。まだ倉橋の目には涙の跡があり、この時までどんな心境だったのかが分かる。
「言わないといけない事か……だよな…。倉橋……俺…お前に酷い事したよな。本当に……ゴメン……。
なぁんて言うと思ったかよ、バーカ! はははっ、何その顔っ! ウケるわ! はははっ、ヤベェ、腹痛ぇ!」
零士は文字通り腹を抱えて笑う。そんな様子を見て倉橋は呆然とする。そしてそれを見ていた他のみんなも…
「オイ! どういうつもりだよ!」
「ちゃんと謝れ!」
「自分が何したのか考えろ!」
「陽菜ちゃんの気持ちも考えて!」
あちこちから怒号が聞こえる。
零士はそんなのは痛くも痒くもないといった様子で立ち上がり、鞄を持つ。
「お前らさ、調子乗んなよ。弱い者は強い者に喰われる。これ、常識だぜ。倉橋は弱い、だから俺に捕まって人質にされた、ただそれだけだ。
それと、コイツらと協力? バカ言うなよ。俺とコイツらじゃ実力が違い過ぎる。足手纏いになるだけだ」
「零士君!」
殺せんせーが何かを言おうと叫ぶ。
「黙れターゲット。この教室の奴等は分かってるはずだ。自分は弱者であり、強者には逆らえないと。それがこの学校のルールだ。とはいえ俺もこのタコに負けた弱者だ。大人しくこの教室を去るとするよ」
零士は誰にも謝る事なく、教室を出て行った。
ー渚sideー
「何なんだよ、アイツ!」
前原君が納得いかないといった様子で机を殴る。
「陽菜ちゃん、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。実際、縛られただけで何もされてないから。」
矢田さんが倉橋さんに心配そうに話しかけるが倉橋さんは笑って返す。
「殺せんせー、烏間先生、ビッチ先生。零士君って何者なんですか?」
僕は雰囲気を変える意味も含めて聞く。
「彼は中学3年生、君達と同い年で既に一流の殺し屋だ。イリーナとはスタイルが真逆の真正面からの殺しを得意とするタイプだ。
それと今回の事はすまなかった。俺の人選ミスだ。彼がこんな事をするとは…」
烏間先生が珍しく頭を下げる。それだけ今回の事を重く受け止めているのだろう。
「いえ、烏間先生、そんな事はないですよ。やり方は間違っていましたが彼は一番先生を追い詰めました。みなさんにとって、彼が仲間に加われば心強いでしょう」
確かにその通りだ。みんな分かってる。でも…、
「俺は嫌だ。あんな奴と一緒だなんてな」
「私も」「俺も」「本校舎の奴等よりも最悪ー」
前原君の言葉を引き金に次々と不満のの声が漏れる。
「待ってよ、みんな!」
そんな中で彼女がそれを言うとは誰も思っていなかった。
「確かに黒羽君は…私を人質に取ったし、殺されるかと思って怖かったけど…、そんな悪い人じゃないよ!」
倉橋さんは必死に零士が悪い奴ではないと主張する。
「倉橋、アイツに言わされてんならやめろよ。本当はお前も嫌なんだろアイツ」
「そんな事ない! だって初めて黒羽君に会った時、私を助けてくれたんだよ! 黒羽君は本当は優しいんだよ! ただ、ちょっと不器用でプライドが高いだけなんだよ、きっと」
大声で言い切った倉橋さんの頭に触手を置きながら殺せんせーが話し始める。
「倉橋さんの言う通りです。君達は彼が本当はどういう人なのか、分かっていません。同時に彼も君達の事を分かっていません。他人の事を理解できない暗殺者ではいけません」
「じゃあ、どうすればいいんですか、殺せんせー?」
僕は殺せんせーに尋ねる。殺せんせーはその質問を待っていましたと言わんばかりの顔で答える。
「明日の修学旅行、先生が何としても零士君を連れて来ます。そういうイベントなら普段は聞けない様な本音や意外な一面が見られるはずです。みなさん、彼のやった事は許される事ではありません。ですが、道を間違えていたら正しい道に戻してあげる、それが仲間だと思いますよ。そして君達は全員、それが出来る生徒です」
そう言うと殺せんせーは“零士君の所に行って来ます!”と言って授業を烏間先生とビッチ先生に任せて行ってしまった。
僕達は彼との関わり方を考えながら明日の修学旅行に向けて準備を進めた。
最初の暗殺は失敗に終わりました。そしてこの2話でE組の中で零士の評価はドン底まで落ち、落ちるとこまで落ちました。
次回からは修学旅行編です。零士はE組に馴染む事が出来るのか?
三人称だけだと書きづらい。だけど一人称だけもつらい。不自然にならない程度に混ぜて書ければなぁ。