※今日の0時に間に合わなかった言い訳です。
前半は零士とメアリのクリスマス。後半は零士と倉橋のクリスマスです。本来まだ付き合っていない2人ですがネタバレを控えつつ付き合わせています。
「レイ君、レーイー君」
「……んだよ、メアリ」
「遊びに行こうよー。行き降ってるんだよ。今行かなきゃいつ行くの?」
「い・や・だ!」
ここはヨーロッパのとある国。そこにある激安のボロ宿の一室。人数分の硬いベッドと質素な机が1つだけ。零士はその机にパソコンを置いて使っていた。
「今日は12月24日だよ。クリスマスイヴだよ! ね、遊ぼ!」
「そうか、クリスマスイヴか……」
「うんうん」
「ターゲットを殺すなら、明日の夜だな。クリスマス気分が抜けて、警戒を怠ったその隙を突こう」
メアリは零士のそんな答えにガッカリする。2人は殺し屋。遊びに来ているわけではないのだ。
「そうかもしれないけど、偶には殺しは忘れて……」
「無理だ。俺らは殺し屋。殺し以外に生きる術はない。別にやりたくないなら、お前はやんなくていい。それぐらい1人で出来る」
零士はパソコンを閉じ、立ち上がる。かけてある黒いコートを着て外出ようとする。
「ま、待ってよ。私も……」
「いいよ、別に。行きたくないならそれでも大丈夫」
結局零士は、メアリを置いて外に出た。
「せっかくのクリスマスなのに……。デートぐらいしてくれてもいいじゃん……」
メアリも殺し屋と言えど立派な乙女。彼氏である零士と恋人らしい事をしてみたいのだ。だが、零士という人間が硬派なのかウブなのかはメアリには分からないが、とにかく奥手なのだ。恋人らしい事なんて、告白をしたあの日のキスだけだ。
「レイ君……一緒にいたいよ……」
「あ、おかえり、レイ君」
「ん、ただいま」
零士は19時頃に帰って来た。お互い言葉は交わしたものの、気不味い雰囲気だ。
「なぁ、メアリ」
そんな中、先に口を開いたのは零士。
「外出ないか?」
「今から?」
「ああ。どうだ?」
「……いいけど」
服は普通の服をで、自分が殺し屋だとはバレない格好。とはいえ、癖でナイフと銃は忍ばせてしまうのは職業病だろう。
「わぁ、キレイ……。街中ピカピカだよ!」
「そうだな。すげぇチカチカする」
「もう! 何でレイ君はムードをぶち壊すような事言うかなぁ。行こうって言ったのレイ君だよ」
2人が歩くのは、クリスマスのために飾り付けられた街。街中がイルミネーションで溢れている。見渡す限り、カップルだらけで皆手を繋いでいる。繋いでいないのは零士達ぐらいだ。
「お前はさ、クリスマスって何やった?」
零士が尋ねたのは、クリスマスの思い出。それはつまり、殺し屋になる前であり、元の家族との輝かしい思い出。
「私はねー、家でパーティーをやったよ。いっぱいご飯とかあって、普段なペコペコしてる使用人の人達も一緒でね。それで……!」
メアリは明るくなる自分とは対照的に零士の表情が暗くなっていくのに気づいた。話すのをやめ、下を向く。
「なんか、ゴメンね。レイ君の家の事、分かってたのに」
「俺が聞いたんだからいいんだよ。俺も、一回行ってみてぇな」
「ゴメンね、レイ君」
「バーカ。謝んじゃねぇよ。俺さ、今日は悪い事したと思ってさ、少しでも楽しめればと思ってよ。でも、お前ん家のクリスマスナメてたわ」
不器用に笑いながらそう言った零士。それは、メアリが久々に見た零士の作り物ではない笑顔だった。
「ううん。私は今が一番楽しいよ。好きな人と、こんな素敵な所で並んで歩けるんだもん。後は、その人が勇気を出して、キスとかしてくれると嬉しいんだけどね」
それを聞いて顔を真っ赤に染める零士。メアリはこの時、零士は硬派ではなくウブなのだと理解した。
「……キスはその、あれだからさ、手を繋ぐで勘弁してくんね……///」
零士はポケットに突っ込んでいた手をメアリの方に出す。
「手袋、外して」
「寒いじゃん」
「いいから! じゃないとキスするよ」
「わ、分かったから。ていうか、そういう事普通に言うなよ……///」
零士は手袋を外してメアリと手を繋ぐ。しかし、メアリは不満そうな顔をやめない。
「な、何だよ?」
「……繋ぎ方」
頬を膨らませ、上目遣いで零士に対し訴えるメアリ。何を求めているか理解した零士は再び顔を赤らめる。
「…………これでいいのか?」
「うん……///」
零士はメアリの指に自分の指を絡めた所謂恋人つなぎをする。自分で求めて顔を赤くするメアリ。恋に積極的な乙女はまだまだ純粋な女の子だ。
「えへへ」
「何笑ってんだよ。……気持ち悪い……」
「すぐ言う! デリカシーないなー。そんなんじゃ、私と別れちゃったら、二度と彼女なんか出来ないよ!」
そんなメアリの言葉に零士は笑って答える。
「へぇ、そうか。でも、要するに俺がお前と別れなきゃいいんだろ。それとも、メアリは俺の事嫌いか?」
「……そんなわけないじゃん。ていうか! レイ君こそ、ホントに他の女の子、好きにならないの?」
「……バーカ。俺は一途なんだ。お前以外の女になんか惚れるかよ。つぅか、こんないい女、手放さないし」
零士はサラリとキザな事を言う。これが平常運転だ。
「ほら、色々見て回ろうぜ。依頼の報酬で金なら結構あるから」
「……台無しだよ、レイ君」
2人は、今夜だけは殺し屋である事を忘れて楽しんだ。好きな物を食べたり、飲んだりして腹を満たした。職業柄、世界中を旅しているため、大きな物は買えないので、ちょっとした小物を買ったらもした。
「ところで、依頼の方は?」
「下見だけ済ませて来た。こんだけ派手なイベントだ。祭り好きな標的がはしゃがないわけがねぇ。その隙に屋敷に侵入して、経路だけ頭に叩き込んで来た」
「流石ゼロ君、頼りになるー。仕事がはやーい」
メアリはここぞとばかりに零士を煽てる。
「褒めても何も出ないからな。それに……」
「それに?」
「やっぱ、せっかくのクリスマスだからな。自由になってから、初めてゆっくり出来たし、こういうのもいいかな、って思ってさ」
これには言われたメアリも本人も羞恥心で互いの顔を直視出来なくなる。
「あ、あそこ行こ! カップルの人達、みんな行ってるよ!」
「お、おう」
この高台はこの国でも有数のデートスポット。ここからの眺めはとにかく素晴らしいと評判らしい。しかも、クリスマスのため飾りつけがされ、普段以上にぼっちは近づけない雰囲気。
「わぁっ、すごーい!」
「綺麗だな、本当に」
そこからは、近くにある他の街が一望出来る。現在の時刻は21時。より綺麗な夜景が楽しめる。
「あっ、雪だ……」
「わぁっ、本当だ!」
雪が降り始めた。夜景に雪が合わさり、幻想的な風景を見せる。他のカップル達も談笑をやめ、景色に見入る。
「レイ君レイ君。こういうのって、ホワイトクリスマスって言うんだよね。なんかロマンチック!」
「こんなに俺らに似合わない1日ってあるのな」
「偶には、こういう1日もいいでしょ」
「かもな」
しばらくはまた、沈黙する。だが、そこに気不味い雰囲気はなく、他のカップルとは変わらない、いや、それ以上に甘い空気が流れる。
「……ねぇ、キスして」
「…………おう」
零士はメアリを抱き寄せ、唇を重ねる。キス自体はまだまだ子供な触れ合うだけのキス。だが、2人に不満はなかった。重ねた時間は短くても、交わされた想いは誰よりも熱く、幸せだった。
「ふぅん。それが黒羽のクリスマスの思い出ねぇ。よくもまぁ、彼女の前でそんな話が出来たわね。優希、ブラックコーヒーおかわり」
「あんまり飲むと、今夜眠れなくなるぞ。でもまぁ、凛香の言う事も分かる」
そして、時は巡り現在。東京の椚ヶ丘市にある商店街。そこにある“Assassin’s cafe”の奥に彼らはいた。本来はこの店の本当のオーナー神田龍牙や彼の娘の舞、ルリや剣を含めた殺し屋たちは今はいない。
「お前らがクリスマスの思い出を話そう、とか言ったんだろ。俺にはこれぐらいしかねぇんだよ」
「寂しい男ね」
「余計なお世話だよ」
零士と同じ殺し屋の白河優希にその彼女の速水凛香がコーヒー片手に会話する。だが、この店にいるのは彼らだけではない。
「なぁ、陽菜乃。何でそんなハムスターみてぇに頬膨らませてんだよ。……まぁ、そんな所も可愛いけどさ」
零士の今の彼女、倉橋陽菜乃だ。彼女は今、零士の正面に座っているが、楽しそうにはしていない。
「……別に。メアリちゃんと楽しそうだな、とか、メアリちゃん羨ましいな、なんて思ってないから」
目の前で彼氏から元カノとの思い出話を聞かされて気分のいい彼女はいないだろう。倉橋は大変ご立腹である。
「零士最低」
「女の敵」
「優希、速水、てめぇらなぁ……。なぁ、陽菜乃。悪かったって。悪気はなかったんだよ。ただ、こいつらが話せって言うから……」
「うわぁ、そうやって俺らのせいに」
「責任転嫁」
「オイコラ、てめぇらそろそろ怒るぞ」
未だに倉橋はイライラしている。何とか機嫌を治そうと奮闘する零士だが、普段は喧嘩ばかりのはずなカップルによってからかわれる始末。
「陽菜乃、機嫌治してくれよ。せっかくのクリスマスだぜ。まだイヴではあるけどさ」
「いやだ。そうやってメアリちゃんとの思い出を振り返ってればいいんだ。手繋いだり、夜景みたり、キスしたり、その後ベッド上であんな事やこんな事……。この変態」
「最後のはやってねぇから! 頼むからそれはやめて! 俺は変態じゃない!」
危うく、変態になりかけた零士。そして、それを聞きながら必死に笑いを堪えるスナイパーカップル。
「くくくっ……お前ら最高……じゃなくて。零士、陽菜乃ちゃんの事、送って帰りなよ。そろそろ時間ヤバイだろ」
「もうそんな時間なのね。優希、店の片付け、手伝わせてよ」
「ありがとよ」
「了解。陽菜乃、帰ろうぜ」
「……別に1人で帰れるもん」
そう言って、倉橋は先に店を出る。零士はそれを追って外に向かう。
「悪い、優希。バタバタしちまって。じゃあ先に帰るわ!」
「ねぇ、黒羽帰り道、オオカミになっちゃだめよ」
「それやったらシャレになんねぇからΣ!」
「零士。最後に少しいいか?」
優希が真面目な顔で言う。速水も似たような顔だったため、零士は嫌な予感しかしない。
「何だよ優希。急いでくれよ」
「R18な展開とかやめろよ。需要はあるかもだけど、まだお前らは本編じゃあ付き合ってねぇんだからな」
「メタいわΣ!」
取り敢えず、2人をほっといて零士はコートを着て外に出る。
「待てよ、陽菜乃!」
「……うるさい」
「待てって」
「いや!」
「陽菜乃」
「…………」
零士はその優れた身体能力であっという間に追いつく。
「……零士君。私の事、嫌いじゃないんだよね。メアリちゃんの方が好きとかないよね。私の事、見てくれてるよね」
「陽菜乃…………」
倉橋はただ不安だったのだ。零士が本当に自分の事が好きなのか。一緒にいてくれるのかどうかが。
「当たり前だろ。今の俺が好きなのはお前だ。言ったはずだろ。殺し屋の俺はもう一生恋愛なんて無理だと思ったって。なのに、俺はお前に惚れたんだよ。それこそ、一生大事にするし、ずっと一緒にいるよ」
零士は倉橋の背に手を回し抱きしめる。
「……そっか。私の事、好きなんだ。えへへ……///」
倉橋も零士に抱きつく。そして、零士の胸に頬ずりをする。
「お、おい。そういうの反則だろ……///」
恥ずかしがってはいるが、満更でもない様子の零士。倉橋はもう一度零士の方を見て「えへへ」と笑い、頬ずりをやめる。
「じゃ、帰ろっか。零士君、手繋ごう」
「……分かりましたよ、お姫様」
零士は今回はちゃんと恋人つなぎをする。
「零士君、やっぱりキザだよね」
「これが素なんだよ」
「そういう所もカッコいいんだけど」
「どっちだよ」
そんな感じで軽い言い争いをしながら帰る。先ほどまでの険悪ムードはすっかり息を潜め、良い雰囲気だ。
「今度はどんな所に行こうか……って、あ!」
「どうした?」
「雪! 雪だよ雪! ホワイトクリスマスだね」
「ああ、そうだな」
倉橋は自分で言ってから、もう一度頬を膨らませる。おそらく、零士の思い出話と情景が被ったからだろう。
「なッ……///。お、おい、陽菜乃……///?」
「いいでしょ、寒いんだし。こっちの方が暖かいでしょ」
倉橋は零士の左腕に抱きつく。すると当然、女子特有の2つの膨らみの感触が零士の腕に伝わるわけで、
「陽菜乃、胸……当たってんだけど……///」
「メアリちゃんのは直接触ったんでしょ。服越しなんだしいいじゃん」
「そんな事ヤってねぇからΣ! ていうかまだそれ引きずるのかよΣ!」
結局、零士は倉橋の事を直視出来ないまま、家まで着いてしまった。
「着いちゃったね」
「ああ」
「何でコッチ見てくれないの?」
「いつまで、抱きついてるんですか? そろそろ放してくれると嬉しいんですが……」
倉橋は「仕方ないなぁ」と言いながら離れる。だが、「じゃあ……」と言った。零士は嫌な予感しかしない。
「キスして」
特大の爆弾が投下された。
「……マジ?」
「マジマジ」
やらないと自分の家の敷地はまたがないという感じの倉橋。零士も、彼女をこんな雪が降り寒い中に立たせているほど鬼ではない。
「分かったよ」
雪降る聖夜の下、2人の影は重なった。零士はキスした後、すぐに離れようとした。しかし、倉橋が零士に抱きつき、そのままキスを続ける。ビッチ先生仕込みのキステクを発揮する。
「ひなの……」
「えへへ。
零士君、また来年も楽しもうね、クリスマス! 今度は何しようかなぁ」
少しずつ正気を取り戻した零士は笑顔で言う。
「俺も今から楽しみだよ。そのためにも、殺せんせーを必ず」
「うん! そうだね」
「じゃあおやすみ、陽菜乃」
「おやすみ、零士君」
いかがでしたか。どちらとも、零士らしいと思って書いたのですが。そして、零士がイチャイチャラブラブしています。羨ましい……。爆ぜろリア充!
必ず、零士と倉橋がこんな関係にします。それまでお待ちください!