まあまだ夜開けなくてよかったぁ
梨花は古手家の本家に着いた。
過去の出来事のせいであまり近づきたくはないこの家屋は、いつもならトラウマが蘇るところだが今回は違った。
異様な雰囲気だった。なぜかよく漫画などである魔王の居城を思い出させる、そんな佇まいだった。
引き戸に手を掛け、開ける。凄まじい瘴気が中から外へ溢れ出てきた………気がした。
中から声が聞こえてくる。
少女のような幼い声と、大人びた落ち着いた声。
何か話しているのだろう。
どうやら居間ではないようだ。
長い長い廊下を歩くとその声は風呂場から漏れ出ているようだ。
もしや………と思いながら風呂場の扉に手を掛ける。
そこには一糸纏わぬ羽入と本当に骨でできた身体を持ったアインズが会話をしているところだった。
「な、ななななな、何してるのーーーーー!!!」
顔を赤らめた梨花の絶叫が古手家の本家に響き渡った。
※※※※※※※※※※
「い、いや。他意はないんだ」
「そんな問題じゃないでしょ!そもそも羽入!なんで一緒に入ったの!?」
「あうあうぅ。おふろに入りたかったのですぅ」
「あとから入るとかあったでしょ!?」
羽入はいちおう女性なのだ。はるか昔、羽入が人だった時代があった。現在の外見からは想像できないが彼女は成人しており、また子供もいたのだ。
そんな彼女が男性───声からの判断だが───と伴侶でもないのに一緒にお風呂に入ることは決して良いことだとはいえない。
しかし羽入は梨花以外の人間からは見えない。もしかしたら寂しかったのかもしれないからキムチやアルコールなどの飲食の罰は止めることにする。
───問題が解決するまで、だが。
梨花は今抱えている問題をアインズに言うことにした。ある種弱みにも近いものを得たのだ。もしかしたら………という思いが芽生える。
「まあ、このことは不問にするわ。アインズ」
「そうか………。ありがとう」
「ただ、お願い事があるの」
ボ、ボクは………、とこちらを見つめてくる羽入は取り敢えずスルーした。
「お願いというのは、………あなたに殺して欲しい人がいるの」
「殺して欲しい人………?」
殺して欲しい。そんな物騒な言葉を気にも掛けないように言うアインズ。やはり死神か何かなのかと梨花は思う。
これは非人道的だ。非倫理的だ。梨花は分かっている。でも、沙都子を救うためだ。親友の沙都子を。
なりふり構ってはいられない。死神に命や、そして魂も懸けても厭わない。
「北条鉄平………。私の親友である沙都子の叔父を殺して欲しいの!」
「「………え?」」
アインズと羽入が息を呑むように驚く。
梨花の願いは続く。
「お願い!沙都子をこれ以上苦しませたくないの!沙都子のためだったら、命や魂でもなんでもあなたにあげてもかなわない!!」
「ふむ………。私にあまりメリットがあるようには見えないが?」
やはり赤坂衛や鷹野三四たちのように断るのか。沙都子が苦しみ、そして救われない世界なのか。
そう絶望しかけた梨花だったがしかしアインズの続く言葉は意外にも乗り気のようだった。
「───しかし、親友の沙都子………だったか。親友か。そして親友のためだったら命を懸けると言ったな?」
「………ええ」
梨花は唾を飲み込む。やはりアインズは命を、魂を欲する死神なのか。
しかし続く言葉は梨花の想像とは違っていた。
「たしかこうだったな。『人、その友のため命を捨てること、これより大いなる愛はない』───マルコの福音書の言葉だったかな」
アインズの言葉は続く。それは梨花の知らないアインズ自身のことだった。
「私が住んでいたギルドホーム───居城には、いくつものギミックが仕掛けられていた。そのうちのひとつにパスワードとしてこの言葉が当てられていた。私だって友の、仲間のためなら命を捨ててもかまわない。もしかしたらこの世界に来ている可能性もあるが、認めたくはないが現状その可能性は低いだろう」
アインズの言葉の節々に寂寥感があった。それはアインズの真に抱く気持ちというものだろう。
「話してくれないか?その親友の沙都子のことを。もしかしたら力になれるかもしれない」
梨花は希望の光を見えた気がした。もしかしたら沙都子を救えるかもしれないという希望の光が。
たとえ沙都子が救われても、昭和57年の綿流しの日に梨花は殺されるだろう。
そして次の世界でもまた叔父によって沙都子は苦しむかもしれない。
しかし梨花は親友の沙都子が泣き、苦しむところを見たくなかった。
梨花は沙都子の辛い過去のこと、傍若無人な北条鉄平のことを話すのだった。
アインズは話をずっと聞いていた。何も言わなかったのが少しだけ不安だったが───
「いいだろう。もし、私の友人が虐められ、そして虐げられたなら、私も同じことを考えるだろう。もしかしたらか殺すということも考えるかもしれない」
勿論アインズは人だった時代に流石にそのような犯罪的思考を考えることはなかった。例えば、ウルベルト・アレイン・オードルというギルド”アインズ・ウール・ゴウン”におけるアインズと同じ負け組───ふたりとも小学校は卒業していたので半負け組と言うべきか───がいた。ウルベルトは過去に親を亡くしており、その理由は過酷な労働状況による事故死だった。そして彼の家にはほんの少しの見舞金が支払われただけだったという。しかし鈴木悟の世界では珍しくない話だ。かく言うアインズも過労によって母を亡くし、そして父も亡くしたのだ。
虐待なんて言うものも珍しくなかったが、しかし多くの場合は泣き寝入りせざるを得なかった。
警察なんて言うものはまともに動かなかった。内部から腐っていた警察はただただ無関心を貫いた。
しかし鈴木悟の頃では考えられない人を殺すという思考。一体どこから来ているのか?
アインズ・ウール・ゴウンは生あるものを憎むアンデッド。既に「人間という種族は仲間だ」という認識はほぼなかった。
アインズにとって人は虫といえるだろう。殺さなければ殺すし、殺す必要がなければ殺さない。もしかしたら殺すつもりはなかったが、間違って殺しても何も思わない。
だからこそ、現在の鈴木悟───アインズ・ウール・ゴウンは殺すという言葉も簡単に言える。
もし、今のアインズの仲間───ギルドメンバーを虐げるものがいたら何も考えずに殺すだろう。
いや、殺すと言うものは軽すぎる。場合によっては死ぬよりも苦痛なこと───生き地獄を相手に与えるだろう。
そして人間を殺すことに実はと言うとアインズにとってあるメリットがあった。しかしそれは言わなかった。
それを言ったら警戒されるだろう。だからこそ言わなかった。
「分かった。その親友を守るという愛を尊び、北条鉄平を殺してやろう」
「あ、ありがとう!」
これで沙都子が苦しむ姿を見ない!梨花は歓喜した。沙都子は救われるのだ。彼女はもしかしたらこの世界では昭和57年の綿流しの日に殺されるという呪いも打ち破れるかもしれない。
「しかし、こ───」
「いいのですか、梨花!」
アインズの言葉がこれまで黙って聞いていた羽入の叫び声で掻き消される。
「そんなことしたら梨花は罪悪感で苦しむだけですよ!」
「構わないわ。それを覚悟してのこと。例え私がそのことで苦しみに苛まれても、沙都子の笑顔できっと私も救われるわ」
「梨花がそう言うなら………ボクは何も言わないです」
「あの、続きを話していいか………?」
アインズが話に入ってきた。そういえば何か言いかけていた。
「コホン。ただしこちらも条件がある。殺す際は私一人で殺させてくれないか?私はあまり攻撃───人を殺す魔法はあまり他人には見られたくないのだ。その憎悪だと死ぬ瞬間が見たいかもしれないが流石にそれは困る。死んだとしたら家に帰ってこないからそれで分かるだろうし」
「ええ、いいわ。あいつが死んで沙都子が苦しまないのならばそれで満足よ。それで、私は何をあげればいいの?」
「いや、見返りはいらない」
「本当にそれでいいの………?」
「ああ、構わない。友のため、だからな」
アインズはそう言って不敵に笑った。
「それで、いつ、あいつを殺してくれるの?」
「そうだな………」
梨花はアインズの北条鉄平殺害計画を聞いた。
梨花はようやく安心できそうだ。憎き敵がいなくなるのだ。これは安心せずにはいられないだろう。
沙都子の笑顔を思い出す。
やっとあの子が救われる。例えこの世界だけだとしても、いやこの世界で梨花は殺されなければ綿流しの後の世界を生きれるだろう。梨花はこれまで以上に希望を抱いた。
梨花はそのときの顔は心から喜んでいる人だけが出来るであろう、そんな笑顔を浮かべていた。
「ありがとう、アインズ。私のわがままを聞いてくれて」
「良いとも」
「それでは私は帰るね。もう疲れて眠たいわ………」
「ああ、おやすみ。良い眠りを」
そして梨花は住む家に帰る。
梨花が後ろに向いたとき、アインズは一言、誰にも聞かせるつもりがないような声でこう言った。
「………やっと人を殺せる。これで私の力が人間にどれくらいの効果があるのかやっと調べられる」
楽しみだ。続くアインズの言葉は梨花の歩く足音に掻き消され、そして無音が訪れた。
梨花ちゃんダークサイドに落ちたなーって思ったけど割と原作通りな気がしないでもない
一度pc落ちてデータ吹っ飛んだ。。。
でも自動保存があったからなんとかなりました
よかったぁ。。。
1ヶ月間家空けて帰ってきたらよく落ちるようになりましたけど何が原因なんだろう。。。
家空ける前は落ちることほぼなかったけど。。。
同じ症状担った人やpc詳しい人情報くれたらうれしいです
追記:誤字直しました