結局そのまま実家に帰らずじまいで次の日、僕は学校が終わるとすぐに実家へと向かった。
「ただいまぁ」
「あれ、兄さん おかえり」
ちょうど玄関のそばの廊下を通っていたらしき士郎が声をかけてきた。エプロン付けてるってことはもう夕飯の支度か、
「はぁ、疲れた」
どうにか削るだけ削って三万に収めたけどそれまでの計算とか材料の交渉とか色々と面倒だったなぁ。
「兄さん、大丈夫か?」
「なんでもないさ」
心配も掛けたくないのでそのまま士郎の横を抜けて、今に行くとじーさんが新聞を読んでいた。僕の気配に気が付いたらしく、顔を上げて笑う。
「あ、明久 おかえりなさい」
それと同時ににゃーと声がした。アーチャーはじーさんと一緒に居たらしい。
「ただいまー。昨日は迎えに来なくてごめんね」
頭を撫でればアーチャーは嬉しそうにゴロゴロと声を出した。そんなアーチャーに癒されていると、後ろから声がかかる。
「あら、アキヒサ おかえり」
「おかえり! アキヒサ」
「ただいま。アイリさん、イリア姉さん」
アイリさんと一緒にもう一人イリア姉も居間に入ってきた。二人に軽く挨拶をして、自分の部屋に続く廊下へと向かう。すると、反対からセイバーが歩いてきた。
「おかえりなさい。アキヒサ」
「セイバー、ただいま。ちょっと部屋行ってくるね」
一応こっちに戻ってきたのには理由があるし。
「わかりました。シロウにそう伝えておきますね」
☆
久々の自分の部屋に入るとちょうどよく長座布団があった。確か先週の休みに干して、回収してそのままだったんだっけ?
「疲れた」
ボスッとその長座布団にうつぶせになる。
「ふぁぁぁ」
いい具合に眠気に襲われてそのまま眠ってしまった。
☆
兄さんに話があってちょっと探していたんだが、それはセイバーの一言で無駄足になった。
「え、兄さん部屋行ったのか?」
「ええ、随分疲れた様子でしたし仮眠を取るのでは?」
そういえば、目にクマできてたな。何か魔術研究やってたのか?
「あー、なるほどな。帰ってきたんだし夕食のリクエスト聞こうかと思ったんだけど」
「しかし、アキヒサは基本的にシロウの好きなものでいいと言いますよ」
何時もそういうけど俺は兄さんに何食いたいのか聞いてるんだよ。
「だからだよ。てか、俺未だに兄さんの好物知らないんだけど」
「そういえばそうですね。アキヒサがこれといったリクエストするなんてことはあまりないですし」
そこに猫がにゃーと声を出した。見れば俺がちょっとほったらかしにしておいた料理雑誌のページを開いて、タシタシと叩いている。
「どうした? って、パエリア? なんでだ」
パエリアの特集ページだ。にゃーにゃーと猫に言われるけど兄さんみたいに猫語翻訳機とか持ってないから何言ってるのかわからん。
俺と猫が会話(?)をしているとセイバーが雑誌のページを見ながら真剣な表情で言った。
「シロウ! 今晩の夕食はこれにしましょう」
「待ってくれよ。材料とかいろいろ無いぞ!」
俺がセイバーにツッコミを入れてるとガラガラと大きな音がして、玄関から誰か来た。この音は……
『こんばんはー!』
やっぱり藤ねぇか、藤ねぇは時々ウチにやってきてはご飯をたかっている。それから兄さんとは喧嘩仲間? みたいな関係だ。たまに藤ねぇ相手に勝負を挑んでくる奴らを互いに口喧嘩しながら吹っ飛ばしているそう。
『あれ、大河ちゃんいらっしゃい』
『はい! 切嗣さん こんばんは、実は今日商店街で福引したんですよ』
『そうなのかい、何か当たった?』
ガサガサと音がして、ゴンと何かを取り出したっぽい。
『じゃーん! パエリア用の食材と調理器具一式!! なんであたったのかはよく知らないんですけど、これ見たら切嗣さんのおうちにお邪魔したくなりまして』
『ははっ、そうなのか』
爺さんと藤ねぇはのんきな会話をしているが、俺としては都合がよすぎる気がして驚いた。猫も同じような表情をしている。
「……なんでさ」
「シロウ、材料も調理器具もあることですし。パエリア食べたいです」
「あ、ああ」
幸運EXとかあったらどんなものだろうねー。とか兄さんが言っていたことを思い出した。多分、これが幸運EXなのだろう。
☆
「……んー」
ふと、目が覚める。目を擦りながら体を起こせばブランケットが掛けられていた。
「あ、寝てたか」
もう夕飯の時間だよね。そう思って廊下に出てみたら美味しそうな匂いがした。
「あれ、この匂いって……」
実家でこの匂いかぐことなんてないのになぁ、なんて首を傾げながら居間へと向かえばみんな揃っていた。
「おはよ?」
微妙に違う気がしながらもとりあえず挨拶する。
「あら、アキヒサ寝てたの?」
「おはようじゃなくってこんばんはかしら」
「アキヒサ、起きたのですね」
「あ、明久 おはよう。もうそろそろ夕食だよ」
みんな口々に挨拶を返してくれた。やっぱり夕飯時だったみたいだ。
「そうなんだ。今日の夕食は?」
「パエリアです」
その単語に思わず固まる。今なんて言った?
「ホントに?」
「はい、タイガがパエリアの食材と調理器具のセットを当てたので」
「……タイガーって無駄に運がいいよね」
幸運のステータス付けたらEXとかになりそうだ。藤村大河ことタイガーはまだ帰っていなかったのでボクの独り言に口を挟んでくる。
「こらー! タイガー言うな!!」
「喧嘩はそこまで! 騒ぐ奴にはご飯はなしだぞ」
「むむっ」
士郎がパエリアの入った大皿を持ってきた。中にあるのは普通のパエリアだ。でも、自分で作ってなくて後光の射さないパエリアは本当に久々だ。自分が作るよりもアーチャーの方が地味に美味しいんだよね。まあ、アーチャーが食べるたびに驚いてくれるのはやったって感じするけど。
「……美味しそう」
「あれ、兄さんが珍しいな」
士郎が驚いた顔をする。どうかしたの?
「そう?」
「ああ、なんて言うか目が輝いているって言うか」
「あ、パエリア好物なんだ」
「!」
士郎がさらに驚いた顔をした。何かあったのかな?
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
そこに、にゃーと猫の鳴き声がした。あ、アーチャーを忘れてた。
「そういえば、この子の分のごはんは?」
「あ、忘れてた」
士郎が慌てて台所へと向かった。
「ほい」
浅いお皿に盛られているのは明らかに冷えたご飯と鰹節にちょっとだけしょうゆをたらした日本における伝統的な猫のごはん、猫まんまだった。
「……」
中身がアーチャーなのかは不問にしておいても、地味にドンマイとか思った僕が居た。
衛宮家は幸せになってもいいはずだ。そんなコンセプトでお送りしてます。次点は間桐家。そして、タイガーがご都合主義の便利キャラになってしまったことを反省してます。
疲れ明久と猫ながらに頑張っているアーチャーの日常話です。