[ウィーアー「ノット」ヒーローズ]VS[月の裏から狂気爛漫]
ものすごい速さで駆けて行った日暮はある程度距離をとれたと感じたところでようやく明久を下した。
「はぁはぁはぁ、あいつもう来ないよな」
「驚いたのはこっちなんだけど急にどうしたの?」
アーチャー云々のくだりは聞こえてはいたが、それがいったい何なのかを理解するよりも先に日暮に抱えられた挙句に全力疾走された明久は訳が分かっていなかった。
「……どこかで見覚えのある裸ジャケットがいた」
それは言い方としてあんまりではないだろうか?
「………裸ジャケットの時点でツッコミを入れるべきじゃない?」
普通に考えればそこがまずおかしい、明久のツッコミはもっともだ。
「なんであいつがいるんだよ。しかも一番トラウマ時期の!! 俺が会いたいのはあいつじゃなくってバカな幼馴染だった頃のあいつじゃぁぁぁぁぁ!!」
「とりあえず根本的にサーヴァントが14以上存在することへのツッコミを入れるべきかな。
全力で言い切った日暮に明久が少し呆れたような顔をして言う。すると日暮は明久のほうを向いてまくし立てた。
「てか当然だろ! ここ最近ウミは構ってくれねーし、お前とは学校以外接点ないし……寂しかったんだよ」
「そうか、だったら私の元に戻るがいいマスター」
いつの間にか後ろにいた裸ジャケットの青年が日暮を抱きしめる。あ、確かにこれはウチの弟のなれの果てそっくりだと明久は納得した。抱きつかれた日暮は奇声を上げる。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
「へぐはっ」
繰り出したアッパーカットは見事に彼の顎に命中、アーチャーは痛みで少しだけ力を緩めた。そこに容赦なく日暮が蹴りを叩き込む。
「……広夢、サーヴァント殴り飛ばせるだけの実力があるなら世の中どこでもやっていけるよ」
明久のつぶやきは誰にも聞こえなかった。そこにさらに誰かがやってきた。白の拘束具と花嫁衣装を合わせた謎の服装の少女と黒と黄色を基調としたゴスロリ服の少女だ。
「ようやく追いつきましたよ! ってなんですかこの状況?」
「おお、アーチャーが見事に吹き飛ばされているな」
「どうしろってんのさ、この状況」
もう、あいつら二人が飽きるまでほっておくしかないかな? 明久のつぶやきに初対面の彼女たちも同意した。
そして、しばらくしてギャーギャー騒いでいた二人だったが日暮が明久を盾にして後ろから言った。
「はぁはぁはぁ、あははははは、来るな来るなマジで来るなよ!!」
「あのさ、僕にしがみついて言っても威厳とかいろいろとロストしている気が」
元サーヴァント相手にいいの?と聞くけどそんなこと気にしている場合じゃない。
「威厳もへったくれもあるかぁぁぁぁ。マジで勘弁してくれよぉ」
この時期のこいつは俺苦手なんだよ。と日暮が明久に縋り付く。その様子を見ていたアーチャーが青筋立てて明久に詰め寄る。
「……小僧、私のマスターを返してもらおうか」
「……もう、どこまで拗らせてんのさ。この人……友人の精神面的安全のためお断りします」
明久は殺気にも怯えずきっぱり言い切った。アーチャーの青筋がさらにぴきっとなる。
「ほう? ならば」
夫婦剣を投影するアーチャー、それを見た明久が呆れた顔をした。
「丸腰相手に何やるつもりなのさ。まったく……」
明久が防衛系の礼装を取り出そうとしたその時だった。
「待った」
誰かの声がかかる。そこにいたのは茶色の髪に黒の学ランを着た何処にでも居そうな少年だった。
「あれ?」
「へ?」
「奏者?!」
「ウミ?!」
その場にいた全員が驚いた。それは元赤セイバーのマスターにして現一般ウィザードとなった日向海人だ。いったいなんでこんなところにいるのか? 全員の驚愕した顔をしり目に日向は右手を掲げた。何故かそこにはみかんが握られている。
「みかん一個使用して固有結界発動!『無限の道場』!!」
みかんがまぶしく光る。目を開けるとそこには………
「そんなわけで『ザビエル道場』!!」
「え、ええええええ?!」
道場が広がっていた。見覚えのある道場だ。特にアーチャーは冷や汗を垂らしていた。
全員の服装が剣道の服装に変わっている。
「そんなわけで視覚、聴覚、感覚ともにハッキング完了。まあ、ラニのプレイルームだと思ってくれ」
「親友ぅぅぅぅ!!」
日暮が日向に飛びついた。そんな彼女を抱きしめ返してから日向は言った。ちなみに彼のサーヴァントであった記憶のあるセイバーはその様子にすこしギリィとしている。
「間に合ってよかった。俺達の知っている時空のサーヴァントたちが偶然にも時空間の歪みでこっちに来たって知った時には驚いた。それにヒロのアーチャーに関してはいろいろとあったし」
「えっと、つまり?」
完璧に状況を飲み込めない明久が日向に聞く。
「ま、この空間においての戦闘行為は不可この場では」
珍しくキリッとした日向が何やら花の絵が描かれた箱を手に宣言した。
「花札勝負をしてもらう」
「……なんでさ」
明久のツッコミはもっともである。
☆
[約束されし悪運EX]
その少し前、明乃がふらふらと魔力の濃いところを探して回っていた。そんな明乃に誰かが声をかける。
「あら、明乃じゃな……」
知っている声だと何も考えずに振り向けば。
「あ、キャスターさん……ってどう「あなたは何も見なかったいいわね!!」
「は、はいっ!」
そこには歳不相応の学生服に身を包んだキャスターの姿があった。キャスターの剣幕に明乃は思わず返事をする。そしてキャスターはそのまま去って行った。ちなみに犬は何かを言うようにワンと鳴いたがそれは誰にも理解されることはなかった。
「……あれは一体なんだったのかな、キャスターさんが制服って……普通に外見変える魔術でも使えばいいのに」
神代の魔術師なのだ。それくらいに秘術くらい使えるんじゃないのかなと明乃は考えた。それから犬に同意を求めるように首をかしげる。
「ねー?」
犬も同意するようにわんと鳴いた。
「それにしても一体どうしたものか」
とりあえずへっぽこはへっぽこなりに頑張ろうと明乃はまた街をふらふら歩きはじめた。
「とりあえず魔力の濃そうなところに来てみたんだけど………」
そこにはなんか私服姿の弟とクラスメイト二人と見覚えは一応ある面々が居る。ただし何かがおかしいのだ。とりあえず明乃は目の前の光景に絶句した。一緒にいる犬も同じのようだ。結構驚いている。
「何があったのさ」
明乃の呟きに答える人間はここにはいない。とりあえずちょっと落ち着いてから小さな声でツッコミを入れていく。
「何でアーチャーさんが変質者のような恰好を? それにセイバーさんも居る……けどカラーリングがおかしい気がするし、それにあの黒いゴス狐は誰だ?」
ツッコミどころが多すぎる組み合わせだ。あんな格好するなんてアーチャーもセイバーもどうしたのだろう? と明乃は内心首をかしげた。
しばらくしているといきなりカッと目の前が光った。
「うわっ」
「消えた?」
明乃は首をかしげる。そこには明久と日暮と日向の三人しかいなかった。そのまま彼らは明乃たちに気が付くこともなく去って行った。
声をかけようとした明乃はあー、とちょっと残念そうにしてから、そこを離れて公園へ向かいベンチに座る。
「今日は一日妙だよなー。家には誰も居ないし、ランサーさんにはパス繋がらないし」
そこが一番気になるのだ。試しにランサーを呼んでみる。
「ランサーさーん……来るわけないよねー」
明乃の呼びかけになぜか犬が反応した。その頭を撫でながら明乃はすこし寂しそうな顔をした。
「はいはい、別にわんちゃんのこと言ってるわけじゃないよ? ……はぁ、半人前にはこれが限度ってことかなぁ」
魔術師としての自分なんて他の面々には遠く及ばないことなんて知っている。それでも自分を助けてくれたランサーに対しては誠意を尽くしたいのだ。
「いつもながらに自分がマスターでよかったのかが分からないよ」
ふらっと見てみればそこに何やら出店のようなワゴンが来ていた。立ててある看板を見てあー、そういえばお腹減ったなぁと思いだす。
「ホットドックの出店……お腹減ったなぁ」
財布の中身を確認した明乃はそのワゴンの方へ向かった。
「すいませーん。チリとケチャップとマスタード抜いたの一つ」
店員は少し無茶な注文に驚いたものの、普通に対応してくれた。出来上がったものを持ってベンチへと戻る。そこには犬が大人しく待ってた。
「ふむ、美味い。わんちゃんも食べる?」
パンとソーセージだけのものを犬の近くに寄せれば犬はぷいっとそっぽを向いた。
「あ、嫌だった? ホットドック、しょうがないなぁ。はい」
パンの間からソーセージを抜いて中身を抜いた包装紙の上に載せて、犬の前に差し出す。
「ソーセージ、食べれる?」
すると犬は普通にソーセージを食べだした。
「まあ、パン食べるのって犬的にまずいのか」
明乃が犬と呟いた途端にガルガルと犬は声を立てた。
「おっと、犬って言っちゃだめだった?」
ごめんねーとか言いながら明乃は犬の頭を撫でた。犬はそれに満足そうに目を細める。
「はいはい、それにしてもどこに行ったんだか」
みんな何処に行ったんだろうなぁ。明乃のつぶやきが空へと消えた。
ランサーって本当にホットドックでもダメなんでしょうかね?
そんなわけで紅茶は絶賛残念街道突っ走ってるぜ。てか何でこういうキャラになったんだろうorz
『ザビエル道場』まさかの本編進出となりました。元々はネタでしかなかったんだけどなぁ