朝が来た。ジリリリと煩い目覚ましを止めて起き上がる。ぐぅと伸びをしてから。周りを見渡す。うん、今日も今日とていつも通りだよね。
「ふぁぁぁ、ねむ……」
そんなことを言いながら、ぼくは普段着用のカソックに着替えて廊下を歩く。あー、そういえばランサーさん居ない。そんなことを考えていると髑髏の仮面をつけた女の人が歩いてきた。ウチの親父のアサシンさんだ。
「あ、おはようございます」
「おはようございます。明乃様、朝食の用意が済んでいますよ」
仮面をつけてるのになんか笑っているのがわかるのは長年一緒に居るからかな。
「いつもありがとうございます。そういや、今日、ギル様来てるんだよね」
基本的に起こしに行く人いないし、なんかいつの間にか担当ぼくになってるしこれはぼくが起こさないといけないよね。そんなわけですっかりギル様専用になってしまった客間の扉を叩く。このせいでぼくとランサーさんの部屋一緒なんだよねー。まあ、いいけど。
「ギル様ー、起きてます?」
部屋に顔を覗かせると見慣れた金髪赤目の白シャツに黒のスラックスの男の人、ギル様と全然知らない茶色のウェービーな髪をポニーテールにしたのランニング姿の女の子だ。不機嫌そうにギル様に女の子が食って掛かってた。
「そうか、おい、ギル 私に何か用なのか? 今日は友達と服買いに行く予定だったのに」
「はっ、貴様は我の所有物であろう。お前の都合など知らんわ」
ギル様がドヤ顔で言えば、女の子が叫ぶ。
「だぁぁぁ、相変わらずのギルガニズムかよ。おい」
「……ギ」
思わず声が出てしまった。うわ、二人ともこっち見てきた。
「あ、え?」
「む?」
二人の視線に耐えきれなくなって思わず叫ぶ。
「ギル様がついに人拉致ってきたぁぁ?! うわぁぁぁ、カレン姉さーん!!」
カレン姉さんのところに思わずぼくは走って行った。背後では二人が会話しているのが聞こえる。
「……なあギルガメッシュ」
「なんだ、
「ついにってどういうこと?! あれか、どこかの誰かに迷惑かけてんの?! どこの誰か教えて、謝ってくるから!!」
それからギル様が宝具解放しようとしたり、カレン姉さんがギル様伸したり色々あってみんなで朝食を食べてから、花楠さん(後で名前聞いた)とギル様がでかけるそうで見送りに出た。
「はぁ、本当にうちの暴君がすみません」
これだけは言っておかないと不味いよね。そう思って軽く下げた頭を前に戻せば、花楠さんは苦笑していた。
「ううん、私のほうこそこれがいつも迷惑かけているようで……」
「これとはなんだ。これとは、まあいい行くぞ、花楠」
「はいはい、じゃあ、朝ごはんごちそうさま」
二人はすぐに居なくなった。まずギル様にあそこまで軽い口調で話せる人間が居るってことに驚いた。人間関係ってよくわからないものだよね。
「ふぅ、いきなりのことすぎてびっくりだったよ」
部屋に戻ってみれば、当然のことながら誰も居ない。ランサーさん何処に行ったのやら? 朝ごはんの時も居なかったし。あれかな、登山?? 意外と趣味だったはずだけど、でも何も言わないのはおかしいし。そんなことを考えながら外を見れば晴れてる。うん、平和だ。
「今日はこれといって予定はないし……そうだ」
勉強机の上に隠すように乗せていたパンフレットを取り出す。ちょうどいい休日だし、これどうにかしよう。
「よし、出かけるか」
流石にカソックは目立つから私服の方に着替えて、ぼくは出かけることにした。それで目的のお店に行ってみれば。
「あれ、凛?」
「あら、明乃じゃない」
意外な人物と出くわした。普通に同じ町に住んでるし出会うのは普通だけど、ここで会うっていうのが普通じゃないんだよね。
「どうしたのこんなところで会うなんて珍しい、家電とか好きじゃないのに」
ここ、家電量販店の前なんだけど。凛の家って驚くほど家電がないんだよね。最近になってようやく電話入れたんだよね、主な使用者は事情多々で出入りするぼくっていうあたりであの家の家電普及率の低さが丸わかりだよ。
「しょ、しょうがないでしょう……ケータイ爆発しちゃったんだから」
「また!? びっくりだね」
確かいつかのデート騒ぎの後に買い換えたよね? 指摘したら凛がふくれっ面になる。
「またって言わないでよ…………気にしてんだから」
「ごめんって、あ、もしかしてケータイ買いに来たの? 一緒だね」
なんか凛の目が希望を見つけたと言わんばかりにキラッと輝いた気がする。
「え、明乃も?」
「うん、いろいろとねー。さすがにゴールドは目に痛い」
金色のケータイは流石に使う気が起きないよ。
「ゴールド?」
「基本的にぼくのケータイ、ギル様のお下がりなんだよね。安上がりだし、たださ、次のお下がりになりそうなのが金一色なんだよ。目に痛い感じの」
黒に金とかはゴージャスな感じだけどまあ嫌いじゃないから使ってたんだけど、流石に金色は目に痛い、というか目立つし。
「そ、そうなの」
「だから自分用のケータイ買いに行くんだ」
机の上にパンフ広げたままだったのはそのせい、ついでに色々あって慌てて隠したんだよね。ぼくがそう言ったら凛が黙りこくってる。
「……」
「凛はどういうの買うつもり? ぼくはちょうどいいしスマホに変えようかと思ってるんだけど」
「えっと、スマホ? なにそれ。アタシはほら、あのパカパカするやつ」
凛が手の動きを付ける。その動きを見てパカパカが何を示しているのかが分かった。
「ああ、折り畳み式のほうか。ガラケーとか?」
「ガラケー?」
「そこからスタートなんだ」
今時ガラケー知らない人がいるんかい。ツッコミを入れたくなったけどまあ、いるところにいるんだろうね。そんなわけでぼく主催「わかりやすいケータイ講座(笑)」が開講した。終わる頃には凛は轟沈した。
「うぅ、なんでそんな面倒なのよ。もっとシンプルでいいじゃない」
「あはは……凛的にはシンプルなほうが好きなんだ」
まあ、人間楽な方がいいよね。
「まあね」
「種類は結構あるし自分が好きなの選べばいいと思うよ? さて、着いたみたいだし、じゃあね」
凛に別れを告げて自分のケータイを見に行こうかなと思って足を勧めようとしたら服の袖を少し引っ張られた。
「凛?」
「お、おねがいだから一緒に来て」
「……しょうがない、一緒に行こっか」
普段ツンが多い分デレが脅威すぎるんだけど……って何ぼくはツンデレ語ってるんだ? あ、そうだ。アキにメール入れておこう。多分アサシンさんとかランサーさんとか探してるだろうし。
それからしばらく、ぼくは凛に付き合いながらケータイを見て回った。
「うーん、自分のはこれって決めてたからいいとして問題はこっちか」
探し物の一つは見つけたけどもう一つが見つからない。
「あの人のイメージって青だよねー、どうしたものか」
「明乃、これどうかしら」
凛がケータイのパンフの一か所を指さす。かれこれ三十分ぐらいこのやり取り続けてる気がするんだけど。あれだよね。あれ、小さい子供がはじめての物をどれにしようか迷う図、いちいち保護者にこれがいいかあれがいいか聞いてくる。はっ、まさかのぼく保護者?!
「ん? あー、いいんじゃないの? てか、凛が気に入ったのにすればいいと思うんだけど」
「だってしょうがないじゃない。この前は家に来てもらって店員に決めてもらったのよ」
流石お金持ち、やることが違うね。
「さすがお金持ち……まあ、そこは置いておいて。いっそのことアキと同じのにする? 凛って確か、×××のケータイだよね?」
「え、ええ」
流石に会社は覚えてたか、まあ、×××のケータイって有名だもんね。宣伝とか普通にするし。
「じゃあ、えっと、あった あった」
「ここ?」
ずらっとシンプルなケータイが並ぶ、アキって基本的に通話とかメールさえあれば大丈夫な人間だからこんなシンプルなのでいいんだろうなぁ。
「うん、確かアキのは黒に白のこれだよね。確か赤のもあったと思う……あ、あった」
「これ?」
「うん、色違いとかにしたら会話の話題にもできるんじゃない?」
まあ、その発想にいたることの方が少ないか。でも好きな人と同じものを持ちたいって結構常套手段なようなないような?
「……そうかしら」
「意外とアキって目ざといから気が付くと思うよ」
普段会話するのにも四苦八苦している凛にはちょうどいいよね。ついでに凛のケータイ操作技術の向上も兼ねて、爆発されないためにもね。
「……決めた。アタシこれにする」
「はぁ、凛は決まったかー。ぼくはどうしよう」
「あら、明乃が珍しいわね」
ぼくって基本即決するタイプだもんね。
「あはは、自分のは決まったんだけどねー。ランサーさんのやつが」
ぼくの言った言葉は意外だったらしく凛が目を丸くした。
「は、ランサー?」
「うん、ランサーさんの誕生日って夏至らしいんだよね。ちょっと過ぎちゃいそうだけど、まあいいかなって」
丁度今六月下旬だし。
「へぇ、誕生日なんてどうやって知ったの?」
「うーん、まだ推測の域を出ないんだよね。確認してないし」
なんか聞きづらいんだよねー。多分半年は主従やってるけど未だにお互いに踏み入れない部分って色々あるし。
「推測でよくプレゼント買おうなんてこと思いついたわね」
「まあ、ついでに言うならバイト先の連絡が家に来るからもだけど、それって色々不都合でしょ」
バイトに電話かけたら教会につながるとかバイト先の人にも迷惑だよね。
「まあ、それもそうね」
「そういうわけで、ランサーさんのケータイどうしよう」
「あー、あれとかいいんじゃない?」
凛が一点を指さした。そこにはシンプルだけどスポーティーな感じのケータイが並んでいる。うん、これデザイン的にもいいし、ケータイ会社、ぼくの使ってるのと一緒だし。これはいいね。
「あ、いいかも。こっちと同じ、○○○のケータイだし。凛ってやっぱりセンスいいよね」
「へっ? と、当然でしょ。アタシを誰だと思ってんのよ!」
凛がちょっと顔を赤くしてそっぽを向いた。あ、さては照れてる?
「うん、ありがと。凛」
「あんた人の話聞いてる?」
凛は呆れた顔になった。なんでだろう? 普通にお礼言っただけなのに。
「とりあえずお礼言いたくなったからねー」
「はぁ、こういうときって明久君とそっくりだって実感するわ」
「そう?」
「ええ」
そんなわけでぼくらはケータイの契約やらなんやらを済ませて解散することにした。
「ただいまー」
「よー、嬢ちゃんおかえり」
部屋に帰ってみれば私服姿のランサーさんが出迎えてくれた。何故か頭に氷嚢を乗せて。
「あれ、ランサーさん、なんで頭に氷嚢なんて乗せてるの?」
「どうもこうもねーよ」
どうやらランサーさんと凛のアサシンさんがぼくと凛を探している最中に出くわしたらしい。それからいつの間にか張られていたらしい頭の悪い結界のせいで戦いになりかけて、アキがドロップキックをかましたのだそう。アキ、そんな体力あったんだね。それにしても
「ごめんなさい」
謝らないとね。連絡入れなかったこっちの責任だし。
「あ、いや 嬢ちゃんが謝ることじゃねーよ」
「あ、うん。ありがとう」
ガシガシと頭を撫でられた。なんて言うのかこう、よく頭撫でられている気が。
「んで? なんで急に出かけたんだ?」
「あー、はい」
プレゼント用の包装なんて気の利いたものを頼む余裕なんてなかったので、紙袋のままランサーさんに渡す。
「お? なんだこれ」
ランサーさんは普通に紙袋の中の箱からケータイを取り出した。ランサーさんって結構現世慣れしているよね。
「携帯電話?」
「ランサーさんのやつないでしょ。だから今日買ってきたんだ。確か、夏至が誕生日だよね?」
ぼくがそう言うとランサーさんはびっくりした顔をした。
「お、嬢ちゃんよく知ってるな。というか何で知ってんだ?」
「あー、ランサーさんの使う槍なんだけどさ。あれ、心臓に命中する性能とか付いてる?」
表現的に妙だったらしくランサーさんが固まる。それからどうにかフリーズが解けたらしく一言。
「……まあ、付いてるな」
「うん、そんなわけで、心臓を穿つ槍、ルーン魔術、それから夢で見た経験の端々から真名当ててみた」
ぼくが真面目な表情でランサーさんを見据えれば、ランサーさんはにやりと笑った。
「ほう、それじゃあ俺が何の英雄なのかわかるのか?」
「うん、ランサーさん、貴方の真名はケルトの大英雄、クー・フーリンでしょ」
僕もにやりと笑って返せば、ランサーさんは笑いだす。
「くっははは、正解だ」
「ま、正直槍の時点で分かったけど」
ランサーさんの笑いはピタリと止まった。
「そうか?」
「まあね、本人はともかく槍は有名すぎるし」
「ほう」
ランサーさんはぼくの言葉に目を細めた。
「そりゃ、日本で一番有名な槍じゃない? あーでも三国志とか中国系を鑑みたらもっと違うのかな?」
「そりゃどうも」
「本人有名かって言われると……いや、ペ○ソナとかで出てくるしゲームやってる人間は割と知ってる?」
ぐるぐると思考回路が回る。うーん、実はランサーさんって有名? あれ、でも知名度低いから本来の力出せないっていうし……??
「おーい、嬢ちゃん、帰ってこい」
こつりと頭を叩かれた。
「はっ、ごめんごめん。そういうわけでそれランサーさんの名義にしてるから好きに使ってよ。料金は魔術協会が出してくれてるし」
「お、おう?」
魔術教会も太っ腹だよねー。うん、今回はいい買い物をした!
そんなわけでして、ランサー誕生日おめでとう?
まあ、かなり過ぎてるけどね!!
えー、『水入れ使って、水出し麦茶』でした。
水入れ=特に深い意味は無し 水出し麦茶=明乃の髪色 という訳ワカメな話でした。
強いて言うならケータイを買いに行く話。それ以上もそれ以下もないです。
そういえば今日は土用の丑の日らしいね。ウナギ食べてないけど(あ