しばらく歩くと、小洒落たレストランが見えてきた。
「コチラでランチをお楽しみ下サイ」
そう言ってエセ係員が案内したのはパーティー会場のような広間だった。そこら中に丸テーブルが設置されており、前方にはステージとテーブルが用意されている。あれ? この雰囲気、レストランというより――――
「クイズ会場だろここ」
「そんなことはどうでもよかろう」
そう。一応丸テーブルの上には豪華な料理が用意されているが、TVでよく観るクイズ会場のような雰囲気になっていた。大丈夫かこれ。私は一抹の不安を覚えた。そしてデザートも食べ終え、特に何のイベントもないのか、と安堵しかけたその時。
『皆様、本日は如月グランドパークのプレオープンイベントにご参加いただき、誠にありがとうございます!』
会場に大きくアナウンスの声が響き渡った。多分、普通にスタッフだな。
『なんと、本日ですが、この会場には結婚を前提としてお付き合いを始めようとしている高校生のカップルがいらっしゃっているのです!』
飲んでいたコップを置いて逃亡の準備をしようとしたが、ギルガメッシュに阻まれた。ちょ、待てコノヤロ。ついでに言うならこいつは高校生って面はしてない。
『そこで、当如月グループとしてはそんなお二人を応援する為の催しを企画させて頂きました! 題して、【如月グランドパークウエディング体験】プレゼントクイズ!』
出入口を封鎖する重々しい音が聞こえてくる。げ、退路まで断たれた。どこまで用意周到なんだよこの企業。
『本企画の内容は至ってシンプル。こちらの出題するクイズに答えて頂き、見事五問正解したら弊社が提供する最高級のウエディングプランを体験して頂けるというものです! もちろん、ご本人様の希望によってはそのまま入籍ということでも問題ありませんが』
根本的に色々とおかしいぞ。
『それでは、ギルガメッシュさん&聖花楠さん!前方のステージへとお進み下さい』
ご丁寧にも司会が私たちの席を示してくれたおかげで、レストランにいる観客が一斉にこちらへと目を向けた。うわぁ……本当にどうしろと。
「まあ、よい。一つ戯れに参加してやるとするか」
「……私に拒否権は」
「無かろう」
「そうですよねー……何でうっかりここに来たんだ私は」
ただの体験だと自分に言い聞かせ、渋々と壇上に上がる。スタッフの誘導の下、私と英雄王は解答者席へと案内された。本当にテレビで見るような代物。どれだけ金掛けてる?
『それでは【如月グランドパークウエディング】プレゼントクイズを始めます!』
私とギルガメッシュの間には大きなボタンが1つ設置されている。コレを押してから解答するというオーソドックスなシステムのようだ。とことんまでクイズ形式かい。正解したらプレゼント、ということは、間違え続けたら無効になるのだろう。ならば……
『では、第一問!』
ボタンに手を伸ばす用意をし、問題を待つ。さて、どんな問題が来るんだ?
『ギルガメッシュさんと花楠の結婚記念日はいつでしょうかっ?』
……おかしい。問題文の意味がわからない。私の思考回路が一瞬停止した。
―――ピンポン
その軽快な音でハッと意識が戻る。手元を見てみれば、うっかりボタンを押していた。
『はい、花楠さん どうぞ!』
「え、あ……そもそも結婚してないから結婚記念日は無い」
うん、それは間違えようもない事実だ。
『はい、正解です! ご結婚なさる時にはぜひ我が如月グループの結婚式場で!!』
……うっかり
『第二問!お二人の結婚式はどちらで挙げられるでしょうか』
だからツッコミが色々と。
―――ピンポン
軽快な音が隣からした。見ればギルガメッシュがボタンを押している。あれ?
『はい、ギルガメッシュさん どうぞ!』
「この我が式を挙げるのだ。最高の部屋でなければならんぞ」
『正解です! お2人の挙式は当園にある如月グランドホテル・最高クラスの鳳凰の間で行われる予定です』
……相変わらずのギルガニズムっすね。英雄王、それはともかく、ここってホテルまであるんかい。
『どんどん行きましょう。第三問、お二人の出会いは?』
―――ピンポン
ここは荒唐無稽な答えをすれば。
『花楠さん』
「前世」
『おお、前世からの仲なんですね。羨ましい限りです。それでは第四問!』
……いや、普通疑えや。まあ、前世に関してはやや事実ですけど! やっぱこれ無理矢理感が半端ないのだが。
『花楠さんの指輪のサイズはいくつでしょうか?』
ちょい待て、私も知らない。
―――ピンポン
『はい、ギルガメッシュさん』
「八号であろう?」
『正解です!』
マジか
「よくお前分かったな」
「ふん、こんなもの見ればわかるわ」
なんだよ。その無駄な能力
『ちょっとおかしくな~い?アタシらも結婚する予定なのに、どうしてそんなコーコーセーだけがトクベツ扱いなワケ~?』
不愉快な口調のさらには鼻につくような声がした。その場の全員が声の主を探る。すると、そいつらは呼ばれてもいないのにステージのすぐ近くまで歩み寄ってきていた。
『あの、お客様。イベントの最中ですので、どうか――――』
『あぁっ!?グダグダとうるせーんだよ!オレたちはオキャクサマだぞコルァ!』
うわぁ、面倒な連中が来た。そんなんだと何処かの騎士王に「神は死んだ」とか言われるだろうが……おっと、メタ発言だった。
『アタシらもウエディング体験ってヤツ、やってみたいんだけど~?』
『で、ですが――――』
あ、司会の人困ってる。
『ゴチャゴチャ抜かすなってんだコルァ! オレたちもクイズに参加してやるって言ってんだボケがっ!』
『うんうんっ!じゃあ、こうしよーよ!アタシらがあの二人に問題出すから、答えられたらあの二人の勝ち、間違えたらアタシらの勝ちってコトで!』
慌てるスタッフをよそに、そのカップルはズカズカと壇上に上がり、設置してあるマイクの一つをひったくる。さて、ギルガメッシュの方を見てみれば見事に不機嫌そのものだった。これはいつバビロン撃ってもおかしくない。
『じゃあ、問題だ』
チンピラがわざわざ巻き舌の聞き取りにくい発音で言う。
『ヨーロッパの首都はどこだか答えろっ!』
「………」
言葉を、失った。
『オラ、答えろよ。わかんねぇのか?』
確かにわからないと言えばわからない。勉強しなくてもニュースとかを見てれば分かることだが、ヨーロッパは国というカテゴリーに属していたことは一度もないのだから。その首都を答えるなんて不可能だ。
『ギルガメッシュさん、花楠さん。おめでとうございます。【如月グランドパークウエディング体験】をプレゼントいたします』
『おい待てよ!こいつら答えられなかっただろ!? オレたちの勝ちじゃねぇかコルァ!』
『マジありえなくない!?この司会バカなんじゃないの!?』
バカップルがぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる。すると、ギルが解答用のマイクを手に取り告げる。
「阿呆は貴様らであろう。そんなものありはせん、幼子であろうともわかることがなぜわからん」
まさに正論だった。カップルが絶句する中、ステージの幕が下りてくる。ああ、バカって世の中探せばいるんだ。そう思い知った今日だった。
☆
無理やりメイク室に通された私は白を基調としたドレスに着替えさせられたわけだけど。
「ふむ、これ確実にサーヴァントが違う」
「? なにかおっしゃいましたか」
「いえ、何でもないです
」思わず本音が出てしまった。結い上げた髪を纏めるようなヴェールに肩は出すようなデザインの上の部分(初音ミクのアレ)にゴスロリかと疑うような袖口(キャスターの月の裏側での衣装みたいなの)、それからボリュームのあるスカート、靴も何故か足にぴったりだった。どこまで気合入ってるんだこれ。事前に下調べしなきゃ絶対に無理。
「お似合いですよ」
「……ありがとうございます」
こっちとしてはあんまり嬉しくないけど褒めてくれるのは普通に嬉しいし、一応お礼は言っておこう。
「ギルガメッシュ様がお待ちですよ」
「あ、ども」
はぁ、どーせあいつの事だし貧相だのなんだの言うんでしょうね。ま、いいけど
待機をしていると、大声のうるさい声が聞こえてきた。
『……他のお客様のご迷惑になりますので、大声での私語はご遠慮頂けるようお願い致します』
司会の人がんばれ。たまにいるよな、ああいう迷惑な客。
『コレ、アタシらのこと言ってんの~?』
『違ぇだろ。オレらはなんたってオキャクサマだぜ?』
『だよね~っ』
『ま、俺たちのことだとしても気にすんなよ。要は俺たちの気分がいいか悪いかってのが問題だろ?これ重要じゃない?』
『うんうん!リョータ、イイコト言うね!』
それで世界が構成できたら、多分世の中終わるだろうな。てか、終わったことは事実だから確実だ。調子に乗った下卑な笑い声が一層大きく響きわたってきた。主催側のイベントの邪魔になる要因は排除したいだろうに――――やっぱりあれだけ騒ぐ連中だと手を出せないだろうな。宣伝目的でやっているのに悪評を流されたら意味がないから仕方ないな。
『――――それでは、いよいよ新婦のご登場です!』
心なしか音量が上がったBGMとアナウンスが流れ、同時に会場の電気が全て消えた。シモークが足元に立ちこめ、否応なしに雰囲気が盛り上がった。……これで出ていくのは面倒この上ない、ついでに言うならギルが色々と煩そうで怖い。
『本イベントの主役、聖花楠さんです!』
しょうがない。出るか 会場の中へと入る。心なしか会場が静まった気がするがそこは気にしないことにしよう。ギルの方へ一直線に進む。そこには嫌味なくらいに白のタキシードが似合うギルの姿があった。月の裏側に居た頃と同じ調子でギルはにやっと笑みを浮かべる。
「ほう、そこそこ見れたものだな」
「ん? 意外、そこまで褒めてくれるとは」
本当に意外だ。普通に貶されると思ったのに、ちょっとうれしくて頬が緩んだ。
「……」
じろっとギルが私を見つめた。あー、頬を緩ませるなってことですか。そうですか。ちょっと真面目な顔に戻ってから、ギルに告げた。
「……ギル、私今凄く幸せだって感じる」
「そうか」
ギルがそれだけ言った。思わず言葉を続ける。
「前の時は結婚も何もなかったから、素直に嬉しい」
「そうか」
「―――ギル、ま「あーあ、つまんなーい!」
湿っぽい気分は無駄にむかつく声によってかき消された。顔が無駄に悪役顔ですよ、英雄王。その後も無駄に鼻につく声が言葉を続ける。
「マジつまんないこのイベントぉ~。人のノロケなんてどうでもいいからぁ、早く演出とか見せてくれな~い?」
「だよな~。お前らのことなんてどうでもいいっての」
ええ、私としてもお前らなんてどうでもいいよ。それからギル、人を殺せそうな笑み浮かべないで、せっかくの美青年が台無しだぞ。
「ってか、お嫁さんが夢です、って。オマエいくつだよ?なに?キャラづくり?ここのスタッフの脚本?バカみてぇ。ぶっちゃけキモいんだよ!」
んなこと言った覚えねーぞ。ゴラァ
「純愛ごっごでもやってんの?そんなもん観る為に貴重な時間裂いてるんじゃないんだけケドぉ~。あのオンナ、マジでアタマおかしいんじゃない?ギャグにしか思えないんだケドぉ」
「そっか!コレってコントじゃねぇ?あんなキモい夢、ずっと持ってるヤツなんていねぇもんな!」
お前らの方がよっぽどコントだぞ。
「え~っ!?コレってコントなのぉ?だとしたら、超ウケるんだケドぉ~!」
……幼稚だが頭に来た。ついでに言うならどこにそんな単語があった。夢とか一言も語った覚えなんてない。
「あ、お姉さん。少しマイク貸してください」
「え? あ、はい」
私は驚く司会のお姉さんにマイクを貰った。マイクで喋る前にギルガメッシュに視線を送ればしたり顔で頷いてくれた。それから息を吸い込む。一瞬だけ会場が静寂に包まれた。
「……ふむ、お前らの方がよっぽどコントだ。お笑いやるならステージとっとと貸すからやりやがれ。行くぞ、ギル」
ギルガメッシュと共にステージを飛び下りて駆け出す。閉じられていた教会の扉はギルが蹴っ飛ばして開けた。走る道すがら、ギルが笑う。
「ふっ、これが略奪結婚という奴か」
「それは違う。横入りして、花嫁かっさらうのが通例だ」
「まあよいではないか、貴様なんぞ嫁の貰い手も居なさそうだしな」
「そりゃどうも」
背後に『お客様?!』と言う単語を聞きながら、私たちは会場を後にした。
それからしばらく、イベント自体は中止に追い込まれた。ま、主役が居なくちゃ無理だよな。それから一応ということで記念撮影、それからドレスと靴を貰って解散ということになった。とりあえず出口を目指して歩いていく。
ちらっとギルの方を見てみれば、
「……」
実に不機嫌そうな顔をしていた。
「……ギルもしかして機嫌悪い?」
「見て分からんか?」
それだけ言うとまだ不機嫌そうな顔で黙っている。
「いや、見て分かったから聞いてるんだよ」
「あの有象無象共め、我の
嬉しいことにこいつは私がバカにされたことに激怒しているらしい。それにしてもまだマスターと呼んでくれるのかと心の中で感動した。転生してもなお、私はこいつのマスターらしい。
「ふふっ」
「ん? らしくない笑い方だな。それに頬がだらしなく緩んでいるぞ」
「あ、ごめん。そこまで言ってくれるのがうれしくてさ」
私はさらに頬が緩んだ。
「はぁ、行くぞ。花楠」
こいつにしては珍しく、手を差し伸べてくれた。その手を取ろうとしたその時。
「!」
視界の端に何かが写ったような気がして思わず避けようとするが、それよりも先に自分に
「?」
目を開ければ、石は足元に転がっているだけだった。
「ほぉ……たかが有象無象が我が所有物に手を出すとは大きく出たな」
ああ、ギルがキレている。目線を向けてみれば、そこにはあのうるさいカップルが居た。どうやら石を投げてきたのはあいつららしい。一瞬可哀そうに思ったけど、ここで同情してもしょうがない気がしたのでギルに一言告げた。
「証拠は残すな。騒がれても面倒」
「ははっ、当然だ」
他人を顧みず、己の欲のみで他でもない英雄王を傷つけようとした連中には裁定者の裁きが下ったってことで一つ、あ 別に死んでないぞ。死体出たら拙いし。帰り道にふと気になったことを聞いてみる。
「ギル、あの石何で落ちたんだ」
「ん? ああ、その首に巻いたそれであろう」
「これ?」
思わず手で触ってしまう。これにそんな効果が?
「当然であろう。我の宝物庫の品なのだからな」
「マジか?!」
これ、まさかの宝具か。
「てか、いいのか? 気前よく宝具とか」
「ん? 貴様は我の傍に居るのだからな、我が宝物を与えたのだ。当然であろう」
私の首のそれをなぞってにやりと笑うギルガメッシュ、ああ何となくオチが読めた。
「それには実は難点があってな。一度つけると外れん」
「……ああ、宝具を勝手に付けたって時点で読めてたよ。ギルガメッシュ、何でお前の宝具には大体欠点があるんだよ。バカァァァ」
日は沈んではいないが、もうそろそろ夕暮れ時の町に私の叫びが響いた。
☆
次の日、どうにかギルガメッシュを説得して家に帰してもらった私は学校へ来ることができた。席に座ると親友の弓塚さつきが声をかけてきた。
「カナちゃん、昨日なんだけど」
ああ、そのことか
「……ほんっとうにごめん」
「あ、いや。カナちゃん何かあったの?」
「本当にごめんなさい」
……もう、謝るしかなかった。それ以上にどうしろと、結局連絡入れられなかったし。
とりあえずしばらくあいつのところに行くのはよそう。一瞬でもあいつに感動した私がバカだった。
各一話にする予定でしたがうっかりとんでもない文字数になりました。
そんなわけで『鍋使って、煮出し麦茶』でした。
鍋=……うっかり鍋にしたけど、やかんの方がよかったか。ギルガメッシュの肩のあれ 煮出し麦茶=花楠さんの髪色 結構こじつけですよねー。
上げて落としてみた……落ちまくった感が半端ないけど。CCCのギル√感動でした。むしろギルデレが凄かった。