「もうそろそろか……」
神海さんと工藤さんの持ったカメラが件の場所に近づいていく。来ると分かっていても耐えがたい恐怖が周りを包んだ。何かすでに嫌だとか呟いてる人も居るなぁ。
『情報屋ちゃん。あの先だっけ?さっきの面白い人が待ってるのって』
『………準備はできている』
そんな教室の空気とは対照的に、目的地へ向かっている張本人たちは落ち着いているみたいだカメラを構えているのは工藤さんで、神海さんは何か別のものを抱えていた。ハゲの先輩対策の何かかな……あれって、
「やっぱりまた真っ暗になってるね」
画面に映った広場は最初と同じように暗闇に包まれていた。それを見て姉さんと悠里さんが話し始める。
「突然現れる効果があるだろうから。タイミングを見計らってスポットライトを入れるんでしょう」
闇の中でカメラがぼんやりと人影を映す。誰かののどがゴクリと鳴った。
「そろそろくるぞ」
「うん……」
僕や比奈丘さんなども衝撃映像に備えた。
すると、
バンッ!(スポットライトのスイッチが入る音)
ドンッ!(大きな鏡を置く音)
ケポケポケポッ!!(ハゲの先輩が嘔吐する音)
神海さんのこうげき、効果抜群だ!!
『て、てめぇ!何てものを見せやがる!思わず吐いちまったじゃねぇか!』
うわぁ、自分で言うのか。
『……吐いたことは恥じゃない。それは人として当然のこと』
『くそっ。想像を絶する気持ち悪さに自分で驚いたぜ……道理で着つけをやった連中が頑なに鏡を見せてくれねぇわけだ……』
きっとその人たちも吐き気に襲われただろうに………まずどうしてこんなアホな作戦を考えたのだろうか?
『情報屋ちゃん。この先輩、ちょっと面白いね。来世でなら知り合い程度になってあげてもいいかなって思っちゃうよ』
『ちょっと待てお前!俺の現世を全面否定してねぇか!? っていうか生まれ変わっても知り合いどまりかよ!』
『あ。ごめんなさい。悪気は無かったんです、ゲロ野郎』
『純粋な悪意しか見られねぇよ! って待てやコラ!てめぇ何人のこんな格好を撮ろうとしてやがるんだ!』
『…………海外のホンモノサイトにUPする』
うん、いいんじゃないかな。ここまで似合わない女装もそうないだろうけど。てか普通はもう少しギャグで済みそうなものなのに、なんでこんなに気持ち悪いものが出来上がったんだろう。
『じょ、冗談じゃねぇ!覚えてろっ!!』
ハゲの先輩はダッシュでその場から去っていった。これでCクラス最大の脅威は取り除かれたよね。
「それにしても工藤さんがあんなこというなんてね」
「……愛子は普段、あんなこと言わない」
「あ、そういえばさっきDクラスの清水に話聞きに行ってたわね」
ああ、あの罵倒って清水さんからなんだ。道理でえげつないわけだ。
『………先に進む』
『多分チェックポイントまであとちょっとだよね』
神海さんは工藤さんと一緒にハゲの先輩が向かっていった方向に歩き出す。 パーティションで作られた通路を少し歩くと、その先では三年生らしき人が二人待っていた。
予想通りさっきの仕掛けに場所を取り過ぎたようで、チェックポイントはすぐ傍にあったみたいだ。
「お? ここのチェックポイントはあの変態じゃないみたいだな」
「だね。あの先輩が待機してるって思ってたよ」
チェックポイントには変質者の姿はない。まあ、脱ぐの大変だろうしすぐのチェックポイントには居ないよね。
「別にそういう決まりは作っていないわよ」
「後のAクラスかBクラスにいるかもね」
「出てこないってことはないかしら」
「いやぁ、無理でしょ。あの人たちどう考えてもプライドの塊だろうし」
妙な理由でこっちに突っかかって来たし、姉さんが言っているプライドが高いは間違ってはいないだろうね。
「まぁ、後のことは後のことじゃ。まずは目先のことじゃな」
「そうだね」
モニターに視線を戻す。チェックポイントで対峙している四人はそれぞれ召喚獣を喚び出すところだった
『『『『
神海さんの召喚獣は吸血鬼で、工藤さんのはのっぺらぼうだった。後ろから見たらどちらも普通の人にしか見えない。
「悠里、工藤さんの召喚獣がのっぺらぼうなのはどうしてか分かる?」
「さぁ? 顔がない、つまり素顔を見せないところに何かがあるのかもしれないわね」
姉さんが真剣に悩んでいる。でもさ、それって結構無駄な気がするような。確かのっぺらぼうの尻目っていう奴があったはず。人に出くわすと全裸になる奴。
「向こうは向こうで分かり易いお化けだね……」
「そうね。おかげで敵の行動も予想しやすそうよ」
一方、三年生の方はミイラ男とフランケンというラインナップ。どちらもメジャーなお化けだから一目でそれと分かる。
保健体育
Aクラス 市原 両次郎 303点 & Aクラス 名波 健一 保健体育 301点
点数は300を超えていた。保健体育は受験の科目にないんだからもう少し手を抜いても良さそうなのに。やっぱりAクラスに入るだけあって真面目なんだろうか?
『情報屋ちゃん。先輩達の召喚獣、何だか強そうだね。召喚獣の操作だってボクたちより一年も長くやってるし、結構危ないかな?』
『………確かに、強い』
対するムッツリーニと工藤さんの点数が表示される。
保健体育
Aクラス 工藤 愛子 479点 & Fクラス 土屋 神海 保健体育 557点
相変わらずながらの高得点だね。
『………が、私と工藤の敵じゃない』
『確かに、ね』
瞬きすら許されないような刹那の後、ミイラ男とフランケンは敵と一度も組み合うことなく地に臥した。ついでにのっぺらぼうも痛そうに頭を抑えている。あまりに圧倒的な戦力差。保健体育という科目である以上、この二人には教師ですら敵わないか。
「何があったのじゃ」
「あれはちょっと………」
「……明久も見えたか」
広夢や比奈丘さんも呆れた顔してるってことは、見えてたんだ。ついでに言うならちょっと離れた場所にいた須川君が鼻を押さえている。
「神海さんの方は、一瞬で狼に変身してフランケンを切り裂いて、また人型に戻ったよね」
「ああ、のっぺらぼうの方は……」
「一瞬で全裸になってミイラ男をボコボコにして、また服を着ていた」
あ、やっぱりそうなんだね。いきなり脱ぎだすからなんなのかと……あ、のっぺらぼうの尻目か。さっき予測したとおりだったんだ。
「やっぱりか、ついでに言うなら。土屋の召喚獣がそのすぐ直後にハリセンで工藤の召喚獣を叩いてたぞ」
「へ? 工藤さんを神海さんがじゃ無くって?」
すごいことに本人と召喚獣が同時にそれを行っていたのか。
『いたたた、Cクラスもクリアってことで。次はどこに行けば良いんだっけ?』
『……Bクラス』
『情報屋ちゃん、どうして頭を叩いたのかな?』
『……はしたない』
神海さん正論だね。神海さんはそのまますたすた歩いていった。それを工藤さんが慌てて追いかける。
『あ、ちょっと待ってよ。情報屋ちゃん!』
『……土屋神海』
『へ?』
いきなりのことに工藤さんが立ち止まった。
『……私の名前、情報屋じゃない。土屋神海』
『えっと、土屋ちゃん?』
『……それでいい』
あ、ちょっと満足そうとか姉さんが呟いていた。そういえば情報屋って呼ばれるの嫌いだって前に言ってたっけ。
本編中あんまりにも絡みが無かったよねこのコンビとツッコミを入れたい。いや、書いてるの自分だし。
明久が実に冷静なんだ。