バカと冬木市と召喚戦争   作:亜莉守

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第十問

それにしても、悠里さんと霧島さんはずいぶんと速いスピードで進んでいるなぁ。この画面だけ全く驚きすらないよ。飛び出した召喚獣は完璧スルーだし、何か放置された召喚獣が他のペアの画面に映ったのを見て、なんかしょっぱい気持ちになった。

 

「ただいまー」

「戻りました」

 

須川君と佐藤さんが帰ってきた。二人ともちょっとだけ顔が暗いや。

 

「あ、お帰りなさい。二人とも凄いねー」

 

僕だったらあんなこと言えないよ。そう言うと二人の顔がさらに暗くなった。あれ?

 

「いや、すまん。せっかくチェックポイントに着いたのにそれを台無しにしてしまった」

「わたしも済みませんでした」

「いいんじゃないかな。二人は自分の代表を誇りに思ってるってことでしょ?」

 

二人は顔を赤くして、笑う。

確かに悠里さんも霧島さんも尊敬に値する二人だもんね。

 

「なんか恥ずかしいな」

「ですね。そういえば代表たちは?」

 

佐藤さんがようやく二人の不在に気が付いたみたいで周りを見渡した。

 

「あ、二人とも行っちゃったよ?」

「「え?」」

「あ、チェックポイントに着いたみたいだ」

 

悠里さんと霧島さんのカメラがチェックポイントを映し出していた。

 

                   ☆

 

さて、悠里たちがチェックポイントに着いたみたいだ。画面には悠里たちが遠くに映されている。神海を拝み倒してカメラをこっそり仕掛けて貰ったかいがあったよ。

 

『待たせたわね、先輩』

『遅かったじゃねぇか、坂本。格下が目上の人間をあまり待たせるもんじゃねぇぞ』

 

相変わらずながらムカつく先輩だなぁ。先輩がそんなに偉いの? いや、先輩は偉いよね。あの先輩がどう考えても偉いって思えないだけで。

 

『あら、それは悪かったわね。日々忙しいセンパイ方は時間が重要なのかしら?』

『当たり前だろ。お前らみたいなバカどもとは違うんだ』」

 

霧島さんと悠里が対戦のための位置に移動すれば、常夏コンビは揃っていやらしい笑みを浮かべた。自分たちが圧倒的に優位な立場にあるという余裕の表情だ。

 

『ところで昨日、お前ら『個人的な勝負ならする』って言ってたよな? それって当然、何か賭けるんだろ?』

『あんたら、難聴なのか?』

 

あ、悠里が完璧に素になってる。まあでもそうだよねー。何処をどう解釈するとそうなるのさ。

勝利を確信しているようで、坊主頭の……変態(なつかわ)先輩は挑発するように霧島さんと悠里を交互に睨みつけた。その後ろではモヒカンの常村先輩もニヤニヤと笑っている。そもそも昨日色々と断ったのに何言ってるんだろうかあの人たち。

まあでも……

 

『……良い。約束かは知らないけど。この勝負、罰ゲームあり』

『いいんじゃない? とびっきりいいもの用意するか』

 

悠里の声色が妙におかしい。あー、結構スイッチ入っちゃってるっぽいなぁ。

 

『『くっ……!?』』

 

常夏コンビがおびえた表情になっている。ま、そうだよね。あのモードの悠里は色々と面倒だし。

 

「……悠里、怒ってる?」

「そりゃそうでしょ」

 

神海と画面を見ながら言い合う。ああ、アキが持ってきてくれたお茶がおいしい。それにしてもこれ何処で作って来たんだろう? それに、どうしよう。これの後処理ぼく担当だよね? 後のことがいろいろと面倒だよ。

 

『別に先輩が嫌なら断ってもいいわよ』

『っ、お前らがそう言うなら乗ってやろうじゃねぇか……!』

『罰ゲームは何にするんだ?』

 

気を取り直して姿勢を整える常夏コンビ。断ればよかったのに、そしたらぼくの仕事減るのに。

 

『そうね……「負けた方は勝った方の言うことを何でも聞く」って言うのはどうかしら?』

『『んだと?』』

 

二人の顔色が変わった。何か恐怖に歪んでいる。ようやく悠里の気配に気が付いたのかな?

 

『てめぇ、何か企んでやがるな……?』

『よっぽど自信があるみてぇじゃねぇか』

『あらあら? センパイ方は自身がないようで? あたしたちはあんた達が言う格下で、しかも代表の資格もないクズなのにねぇ?』

 

訝しく悠里たちを睨みつける常夏コンビに対して、悠里が挑発するかのように心底バカにした態度で話しかける。そうそう、そんなことも言ってたよね。それにクズ量産する装置とか言ってよなぁ。やっぱり躊躇無くぶっ飛ばしても大丈夫だよね。

 

『……自信はあって当然。勝つのは簡単』

 

霧島さんがボソッと言った。なんだろう。悠里の挑発なんかよりよっぽど神経逆なでしそう。

 

『分かった……!お前らが何を企んでいるのか知らねぇが、どうせ猿知恵だろうからな! 行くぞ!!』

『ぶちのめしてやる!!』

 

霧島さんの最後の馬鹿にした態度に切れたみたいだね。常夏コンビが召喚獣を喚びだそうとする。すると悠里がニヤッと笑った。

 

試獣召喚(サモン)

 

常夏コンビよりも先に悠里が召喚獣を呼び出した。それに合わせるように霧島さんも召喚獣を召喚する。

そこにはタートルネックにロングスカート姿、そして妙に綺麗な光色彩の目をした悠里の召喚獣と女神が着ているような服装に背中から大きな翼を生やした霧島さんの召喚獣が現れた。

悠里の召喚獣を見て、全身に氷を這わしたような感覚に襲われた。なんだろう、あれは不味いものな気がする。

行かなくちゃ行けない。そんな感じがした。

 

「……神海さん、広夢、何かこの定点カメラの様子がわかる小型の受信モニターない?」

 

何かアキが急に言い出した。不安伝わってたかな?

 

「は? 明久、急にどうした」

「なんていうかお願い」

 

少しの間、沈黙が続いてから。日暮ちゃんがため息をついた。

 

「了解。よく分けがわからんが、用意するか。土屋、あるか?」

「……はい、あった」

「早っ?!」

 

アキが驚いたような声を出す。様子が気になって振り向けばアキが何かをこちらに投げてきた。キャッチすれば、それは小型のスマホのようなものだ。そこにはカメラの様子が映っている。

 

「姉さん、行くんでしょ? 行ってらっしゃい」

「アキ、ありがとう。行ってくる!」

 

ぼくは教室を飛び出した。アレがどういうものかは分からないけど、それでもやっぱり気になるんだよね。

 

                     ☆

 

姉さんは教室を飛び出していった。画面の方では、悠里さんたちの召喚獣とハゲの先輩たちの召喚獣がにらみ合っている。

先輩たちの召喚獣は牛頭と馬頭、地獄の番人をしているとか言われる妖怪だ。学園長から聞いたんだけど、このオカルト召喚獣は人の根本的な特徴を指し示しているらしい。例えば、Fクラス男子のゾンビは性根が『腐っている』から。工藤さんののっぺらぼうは『露出』とかその辺? 神海さんの吸血鬼は『隠密行動』とかその辺が入っているのだろう。

先輩たちの召喚獣の上に点数が表示された。

 

 

物理

 

Aクラス 常夏 勇作 386点 & Aクラス 夏川 俊平 357点

 

 

先輩たちの召喚獣はやっぱり先ほどの戦闘で点数が低くなっていた。これなら腕輪(もしくはそれに順ずるもの)の能力は発揮されないね。

悠里さんたちのほうを見れば驚きが待っていた。

 

 

物理

 

Fクラス 坂本 悠里 543点 & Aクラス 霧島 翔子 485点

 

 

確か悠里さんって理系科目得意だって姉さんがいつか言っていた気がする。

 

『な!!何だその点数!?』

『か、カンニングだろ!?』

 

悠里さんが鼻で笑った。ちょっと思ったんだけど悠里さんってもしかして、勝負事のときはちょっと荒っぽい?

 

『は? 何言ってるのよ。これが素よ? カンニングなんかするわけないじゃない。それともあんたたちのその点数はカンニングだったのかしら?』

『な……!?』

『んだと?!』

『……悠里は私よりも天才。だから普通』

 

霧島さんがボソッと言ってから召喚獣を動かし始めた。召喚獣の手にはいつの間にか杖のようなものが握られている。

 

『おらっ!!』

『死ね!!』

 

牛頭と馬頭が同時に霧島さんの召喚獣に襲い掛かった。霧島さんの召喚獣は慌てることもせずふわりと空中へと浮かび、牛頭と馬頭の攻撃を相打ちにさせた。お互いに離れた隙を縫って、悠里さんの召喚獣が懐へと潜り込み、牛頭と馬頭を伸びた爪で一閃。牛頭と馬頭にははっきりと抉れた痕がついた。

 

『な……なんで…………』

『あら、どうかしたのかしら? 普通に攻撃しただけじゃない』

『そ、そんな馬鹿なことが……』

 

先輩たちが驚くのも無理はない。牛頭と馬頭の点数は一気に200点削られた。残っているのは100点ほど、これは悠里さんがもう一撃加えれば牛頭と馬頭を倒せるね。

 

『先輩、あたし結構キレてるのよね。正直自分でもなにするか分からないわ』

『てめえ!!』

 

牛頭はむちゃくちゃな動きをして、悠里さんを近づけないように必死になって動いている。それをかわしながらニヤニヤと悠里さんは笑う。

 

『……私たちのクラスメイトを馬鹿にしたんだから当然の報い。代表としてもクラスメイトとしても許せない』

『なんだってんだ!!』

 

馬頭の方は霧島さんの召喚獣の攻撃からどうにか逃れていた。あの棒みたいなの風切音が凄い。

 

『ま、そういうことよ。じわじわなぶり殺すのもいいだろうけど、まあ顔を見るのすらムカつくから一撃で葬り去ってあげるわ』

 

悠里さんの召喚獣が牛頭を蹴り飛ばして、馬頭に当てた。それでも点数はギリギリ残っている。すると悠里さんはにやりと笑い、悠里さんの召喚獣は腕を掲げた。すると、牛頭と馬頭はまるで重力の塊に押しつぶされたかのようにひしゃげていった。

 

『お、俺たちの召喚獣が?!』

『なんだと!?』

『ふんっ、どうだ? 格下だとか言ってた連中にストレート負けするのは? なあ、今どんな気持ち?』

 

悠里さんが二人に詰め寄った。悠里さんの召喚獣がしゃっしゃっと素振りの練習をしている。多分、無意識にやってるんだよね。アレ

 

『だからどうしたってんだ!!』

『おい、夏川!』

 

悠里さんに掴みかかろうとするモヒカンの先輩を止めに入るハゲの先輩、ああようやく気が付いたんだ。………悠里さんの殺気に。

 

『………賭けは私たちの勝ち』

 

その空気を霧散させるためなのか霧島さんがぼそりと言った。

 

『くっ!て、てめぇら……!』

『けっ。俺達に・・・何をやらせようってんだ』

 

敗北を認め、忌々しげに吐き捨てるハゲとモヒカンのコンビ。すると悠里さんと霧島さんは笑った。

 

『二年生、特に各クラスの代表に謝ってちょうだい』

 

まあ、妥当だよね。途中で聞くに堪えなくなって、無視してたんだけど後で須川君達に詳しく聞いてみたらかなり酷い内容だったみたいだし。

 

『……それだけかよ?』

『後、おめでとうとでも言っておこうかしら?』

『『は?』』

 

先輩達が固まった。悠里さんが何を言いたいのか分からない様子だ。

 

『……おめでとう。先輩方は……内申点はほぼ無くなった』

『『な、何を言って……』』

 

まあ、日頃の行いとかもあるんじゃないの?

 

『このお化け屋敷の試合のビデオとかって、後で先生達が見るんでしょう?』

『だからそれがどう………!!』

 

いや、現在進行形で見てるよ。学園長がここに居るって知った先生達が最後の勝負については見てたし、須川君たちとの悪口の応酬もばっちり記録に残っている。

 

『さて、あんだけの暴言を吐く生徒を先生達はどう思うでしょうね?』

『テ、テメェ』

 

悠里さんに掴みかかろうとする先輩たち、でもそれは阻止された。

 

『はーい、もうこれぐらいにしておいたほうがいいですよ。センパイ?』

 

姉さんだ。間に合ったといえばいいのかな?

 

『なっ、お前は』

『悪いですけど。ぼく、親友を犯罪者になんかしたくないんです。無駄な悪あがきは止めてくださいよ。それにほとんど自己責任でしょうに』

『……っ』

『それじゃあ、お開きってことで』

 

こうしてこの勝負は二年の勝利に終わった。いや、まあ、相互的に傷になった部分もあったんだよね。二年生は主にハゲの先輩の女装と小暮先輩のレオタードによる彼氏の暴走による男女関係のもつれ。三年生はハゲの先輩とモヒカンの先輩による学年全体のイメージダウンとかそんな感じで。

 

                     ☆

 

ぼくたちは帰り道を歩いていた。お化け屋敷は一般公開用に改造するとのこと。先生たちも大変だよねー。

 

「はぁー無事終わったね」

「そうね。ところでなんで明乃はあそこに来たのよ」

「んー? 悠里が暴走するって思ったからかな。下手に暴走されると困るんだよねー。『悪鬼羅刹』様?」

 

中学時代には札付きの不良とさえ言われた悠里が暴走したら堪ったもんじゃないよ。

 

「ふんっ、もうそんな名前捨てたわよ」

「結構素に戻ってたと思うけどなぁ」

「……危険だった」

 

あれ、珍しい。神海が悠里の方を脅かすなんて。

 

「うわ、神海?!」

「……悠里だったら殴り返す」

「だよねー。そういえばあのオカルト召喚獣って人の本質みたいなのを映し出すんだって」

「へぇ、じゃああたしの召喚獣はなんなのよ」

 

悠里の召喚獣の本質かぁ。あの召喚獣を見る限り……

 

「『反転』じゃないの?」

「反転?」

「……どういう意味?」

 

あ、そっか。これはどっちかって言うと業界用語に近いよね。

 

「そうだなぁ。何か物事を成すときに自分本位な考え方に切り替わること。言っちゃえば社会とか無視して自分に都合がいいように動くようになってしまうことだね」

 

あれ、意外と合ってるっぽい? 悠里って社会的倫理は一応あるけど自分の方が優先なこと多いし。

 

「まあ、確かに合ってるわね。そういえば明乃の召喚獣ってなんだったのよ」

「ぼく? 召喚してないから知らないや」

 

ぼくの本質かぁ。なんだろう?

 

「……それずるい」

「そうよね。よし、起動(アウェイクン)!」

 

悠里が簡易のフィールドを開いた。

 

「え?!」

「さー、明乃召喚獣召喚しなさい」

 

何この展開。逃げたくなったので逃げ出すことにした。

 

「……逃がさない」

「にょわ?!」

 

カッターナイフ?! しかもかなりの速度だよ。

 

「一体なんだってんだよー。ぼくに()()題があるわけじゃないんだし」

 

そう呟いた途端に召喚円が現れて、召喚獣が呼び出された。そこには、若干見慣れているストライプの長袖に緑色のワンピース? 姿のぼくの召喚獣がいた。なんで?

 

「うーん、なんなのかしらこの召喚獣」

「……わからない」

「とりあえず消すよ!」

 

一体なんで藤村さんの格好で出て来たんだろう? ぼくの疑問は結局明かされることはなさそうだ。

 

 





相変わらずながらのぐだぐだ進行でお送りしました。
分かりづらいところがあったらすみません。

明乃の召喚獣の姿はお察しの通り藤村大河でした。アレが妖怪なのかは不明、てか妖怪だったらアーチャーが困るよね。本質は『受容』を想定してました。

ついでに明久の召喚獣はアポクリの黒のライダー、本質は『幸運』と『自己犠牲』、後は冗談で『女装が似合う(笑)』ご自由なのをどうぞ?

没ネタは比奈丘の召喚獣は人竜化(バグによる変質、本来は戦士で本質は『戦い』)、それから広夢はウィンディーネ『自由』、日向は幽霊『希薄』、夢路はリリス『ヒロイン願望』などなど。考えてはいたんですよ?
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