マダオ浪人のセイバーズ 作:パンじぃ
浪人三ヶ月の夏、俺は前世の記憶を取り戻した。
同じ年の時に、トラックに轢かれた。幼い少女がそこにいて、居ても立っても居られずに少女を庇った。その結果、白い空間に放り出され、神を名乗る爺さんに転生させてもらったんだ。
確か、デジモンセイ何とかって世界だった気がする。手からモワモワが出て、機器にぶち込むと、電子生命体が進化するやつだ。主人公は中坊なのに、究極体の歯を折ったりする謎設定の世界だった。
また、デジモンが人間の世界に現れ、怪奇現象を起こす、危険な世界だった。
だが、この記憶が戻るまで気づきもしなかった。政府の隠蔽がしっかりしていて、平民の俺らには無縁すぎる。転生して、なんかに巻き込まれることもなく、クズ人生をリスタートしていた。
今日も、起きて、勉強して、趣味を謳歌するぐらいだ。バイトもしているけど、金にならないし、浪人費用で、金が溶けちまう。「これから何が変わるのか? 」と聞かれたら、前回の浪人経験を活かして勉強するぐらいだろう。
いつも通りに筋トレをして、朝飯を食べに行く。この後は、現代文をやって、遊んだら、数学をやるぐらいだな。
簡単に済ませたあと、食器を洗おうとした。だが、母親がお願いがあると、呼び止めた。
「タクト、今日なんだけど、コスに行ってお菓子買ってきてもらえる? ティラミスとかでもいいからよろしくね 」
と、母から買い物を頼まれてしまった。うちの母はバツイチで今は独身、二十代でも通じる容姿で、買い物に行くとよくカップルと間違えられる。「コス」と呼んでいるのは海外に本店を構える、オーバーな店だ。車の免許を持っていないから、俺が使われる。今日は、お隣の大門さんの美人未亡人と遊びに行くようだ。
買う物のメモを渡されたから、勉強時間の確保のために、さっさと行くことにした。
***
高速で、十何分で着いた。メモを見てみると、とんでもない量だ。
聞いた話だと、大門さん宅で、大型の爬虫類を飼ったそうだ。卵が好物で、大量に買ってきて欲しいらしい。その他にも、息子さんの仕事仲間がちょくちょく来るから、そのときにのためらしい。
中学生だった気がするが、ヤンキーは苦手で、関わっていない。妹のチカちゃんは、マイシスターと友達だから遊びに来る。そのときに「うちのお兄ちゃんはどうの……」そのあとに、「タクトお兄ちゃんは……」と、比較して、褒めてくれる。若干顔を赤くして呟くから、可愛い。
『大門』の姓で、何か引っかかたが、思い出せない。前世の記憶に関係あるかもしれないが、デジモンセイ何とかの内容はほとんど覚えていない。しかし、ご近所にメインキャラクターがいるとは思わなかった。クラスメイトに『藤枝』というサボリ魔がいたが、もしかしたら登場人物かもしれない。
買い物が終わり、車に詰め込んでいる時であった。後方から爆発音が響き、振動が伝わった。振り向くと、メタリックな恐竜がレーザーを放っている。前世の駄知識から、『メタルティラノモン』と解った。何かに狙いを定めて、ヌクリアルレーザーを放つ。狙われている側は必死に車を盾にして、逃げ回る。
次第に迫ってきて、我が愛車も後型もなく屑鉄になった。ローンを組んで間もない宝物が消え、浪人なのに借金が残された。記憶が戻り、運が尽きたのかも知れない。不遇のリスタートだ。
隠れて様子を見ていると、追われているのは兜をかぶった生き物だった。確か、『リュウダモン』という、プロトタイプのデジモンだったはずだ。あちこちボロボロで、逃げるのもやっとであろう。ついに限界がきたのか、つまずいて、転げてしまった。メタルティラノモンはギガデストロイヤーIIを放つ構えをしている。俺はトラックに立ち向かった時のごとく、リュウダモンの前に行き庇おうとした。しかし、ミサイルが目の前まで迫り、危機に瀕してしまった。
その時、俺の身体からスーパーサイヤ人のごとく、黒鉄色のモワモワが一気に噴出した。その勢いでミサイルは消滅し、モワモワがリュウダモンに吸収される。
「リュウダモン進化! 」
リュウダモンは光に包まれて、デジタマのような形になる。次第に細長く俺の背丈まで達する大きさの龍に進化した。
「ヒシャリュウモン! 」
それからは圧倒的だ。メタルティラノモンがいくら攻撃しようと、ことごとくかわされ、素早い打撃を受けている。最後に、ヒシャリュウモンは成龍刃で、メタルティラノモンをデジタマにかえした。完全体同士だが、力の差が断然違う。完全体でも、種の力に逆らうことができないのだろう。
そして、思い出したが、身体から湧いてきたものはデジソウルだ。デジモンは長い間経験を積み進化するのだが、デジソウルで強引に進化させることが出来る。
俺はつまらないモブな人生をおくったが、これを期にまともなモブになれるだろう。釣竿おじさんの様に、メルクリ編やクラタ編、ロイヤル編でも危険が無い最低限の活躍をするのだ。
主人公達の到着を待っている間に俺とヒシャリュウモンは打ち解けていた。ヒシャリュウモンは社交性があり、中々会話が弾む。退化していないが、この性格なら、家族からも歓迎されるだろう。
しかし、くつろいでいたら、銃弾が襲ってきた。
「兄貴! 完全体のデジモンが人間を人質にとってるぞ! 」
と、上空からリボルバーの腕のデジモンが俺たちに攻撃してきた。ヒシャリュウモンと戯れていたところを、人質にとって暴れていると勘違いした様だ。
「ライズグレイモン! トライデントリボルバーで怯ませるんだ! ミラージュガオガモンはその隙に人命確保だ! 」
「イエスマスター」
金髪のイケメン君が指示を出している。獣人の様なデジモンが加わり、二体一だ。
「くらいやがれ! 」
指示も関係無しに、ヤンキーの様な中坊が殴りかかってきた。
誤解を解こうをして前に出たら、そのまま殴られてしまった。中学生とは思えない重みのある拳である。流石に、頭にきて殴り返してしまった。
そのまま白目を剥いて、中坊は失神してしまった。
***
それから、ライズグレイモンがブチ切れて攻撃してきたことに驚いた。後ろのイケメン君は口をポカンとして、固まっている。ヒシャリュウモンは一瞬でライズグレイモンをねじ伏せ、何とか事情を説明しようとしたが、一向に聞いてくれない。遅れて藤枝が現れて、驚かれたが、何とか解決してくれた。
「でも、驚いたわ。元クラスメイトが浪人してたなんて」
中坊に挟まれ、藤枝の運転するワゴン車で移送されている。テイマーの資格があったことよりも、浪人していることに驚かれた。
「いや〜、就職してたんだけど、面倒いから辞めちゃったんだよ。でも、藤枝がこんなことしてたなんてなぁ。クラスじゃ影薄いし、たまにしか出現しないから驚いたよ」
「っ、私も青春したかったわよっ! だけど、大変なのよ! 学校行けると思ったら、すぐ呼び出しあるし……」
俺が記憶を取り戻すまで、高校なのに世間の平和を守っていたことは驚いた。でも、アイドル活動みたいだ……
「ぷ! 」
すると、さっきまで気を失っていた中坊が吹き出した。
口に出てしまった様だ。
「誰がアイドルよ! あんたこそ浪人してる癖にぃ! それより、大! 高速から叩きおろすわよ」
「ヒィ! 兄貴ぃこのアイドル怖いんだけど! 」
クラスでもあまり素を出さない藤枝が、ここまでオブラート無しで話したことに驚いた。休んだ分のプリントをとどけた時は、とてもお淑やかだった。少し騙され気がする。ところで、覚醒してから兄貴と呼ばれて懐かれてしまった。デジヴァイスの中のアグモンからは大兄貴と呼ばれている始末だ。
この後、ことの経緯を説明した。イケメン君が通信機で所長さんに伝えたらしく、俺は適性検査を受けることになるそうだ。
「でも、兄貴がお隣さんだったなんてなぁ。確か、仕事から逃げてニートしてるダラ男が居るって母さんが言ってたけど、まさか、兄貴だったなんてな」
大門さんが、俺のことをそう見ていた件は追求しないが、藤枝から、鋭い視線を感じる。
「はぁ……最悪なんですけどぉ。クラスでもまともで、かっこよかったし、人望もあって優良物件にマークしてたのに……とんだマダオだったなんてぇ……」
確かに俺は、クラス委員をこなし、先生からも期待されていた。どうでもよかったが、ここまで言われると流石に傷つく。
「兄貴、マダオってなんだ? 」
アグモンが大にしなくていい質問をする。
「あれだ! とりあえずスゲェってことだ! 」
足りない脳味噌を持っていて少し、ありがたいと思った。
浪人の気分転換ですね