虚無と無限の龍神記(仮)   作:xix

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一話目の注意書きを必ず読んでからお読みください。



No.3 日常

「~♪」

 

完全に日が昇った昼。

幸真の家から五分ほど歩いたところにある商店街の、その地下にある喫茶店に鼻歌をしながらやってきたのは虚宮巳姫ことオーフィスだった。

たいして広くないが、ウッドハウスの様な外装と内装がカワイらしい雰囲気を出すこの店の名は『見えない森』。もともと幸真がよく来る場所だったのだが、去年の夏、幸真とここで涼んで以来、巳姫にとってもお気に入りの店なっていた。

巳姫は馴れた手つきで木製の戸を開ける。

 

「いらっしゃいませ……おや、巳姫ちゃん」

 

「……こんにちは」

 

ガランとした店内にあるカウンター。

その奥から出て来た初老のマスターに巳姫は挨拶すると、カウンターの席にかけた。

身長差があるため『ジャンプして』が付くが。

 

「ご飯とパフェ、食べに来た」

 

「はい、ランチのメニューはどうしますか?」

 

「今日のオススメ」

 

短く答えると、わかりました、と告げてマスターは奥のキッチンへと向かう。

この店の常連が食事をする時はメニューなどを見ず、その日のマスターのオススメを頼むのがほとんど。なぜならその日の気温や天候など、環境に合った料理(もの)を選ぶセンスがあるからだ。

若い頃やっていた、天気予報士としての()だと以前に話していたが、なぜ天気予報士から喫茶店になったのかは謎である。

 

「………」

 

ここの店員は店長でもあるマスターだけで、ランチタイムであるのに客は巳姫一人。

店内で聞こえるのは静かに流れているジャズと、ジューと何かを炒める小さな調理の音。

 

「……♪」

 

このさり気ない静けさも、巳姫は好きだ。

表情からは読みにくいが、確かに今の彼女は……心地よさそうにしていた。

 

「お待たせいたしました」

 

いつの間にか、マスターが巳姫の前に皿を置いてくる。出て来たのは、真ん中に半熟卵が乗せられたカルボナーラだった。

全体的にソースとパスタがよく絡み、香りも良好で食欲をそそる。

 

「デザートのパフェは新作のですよね? 今日から出すと話しましたし」

 

コクリ、と頷いて肯定の意を示す。

 

「かしこまりました。食後にお持ちしますね」

 

カウンターの店員側にある椅子に腰かけ、傍にある本棚から一冊取り出し、読み始めた。

巳姫も用意されたカルボナーラを食べる。

 

「ん、美味」

 

具材のベーコンもしっかり味付けされており、半熟卵を割って絡め、備え付けの黒胡椒をかけると、また違った味わいになる。

半分ほどたいらげると、巳姫に視線を向けるマスターが口を開く。

 

「そういえば巳姫ちゃんが来てから、もう一年経ちますね」

 

「………そうかも」

 

ふと思えばそれぐらい時が流れていたことを思い出す。

一年………意外と速かった。

夏には祭りで屋台めぐりしたり(欲しかった遊戯屋台の景品をすべて幸真が取ってくれていた)

秋には家族四人で登山に出かけたり(後半はほとんど幸真に肩車してもらっていた)

冬にはスキー旅行して帰りに温泉巡りしたり(ちゃんと滑れるまで幸真と付きっ切りで練習した)

 

本当に、いろいろあった……幸真が常にいた気がするが……

 

「ハハハ、幸真くんも変わりましたよ」

 

「?」

 

「彼は小学生の頃からこの店に来るようになりましたが、いつも一人でしたからね。そしてコーヒーを一杯頼んで、夕方までボーっとしていましたよ。……でも、君が幸真くんと一緒に来て以来、彼が微笑んだりしましたからね。私、彼の仏頂面しか見たことありませんでしたから」

 

「………そう」

 

どこか懐かしそうに話すマスターに対して、巳姫はクルクルとフォークでパスタを巻き取る。

幸真の過去を少しだけ聞いたが、別にそんなことはどうでもいい。

 

巻き取ったパスタを咀嚼して飲み込み、顔を上げる。

 

「嫌な過去も大事。でも良い思い出と未来の方がずっと大事。幸真も言ってた」

 

「……ハハハ、当時の幸真くんが言うとは想像もできない台詞ですね」

 

そう、年が明けぐらいに幸真が一人で呟いていたこの言葉。

本人にとって深い意味は特になかったようだが、その考えは、巳姫にも影響を受けていった。

 

過去は……自分が生まれたあの場所で静寂を得ようとする考えをしていた。

だが今は……この時間が、この場所が好きだ。

そしてこの先も……良い思い出を作りたい、もっと良い場所で居たい。

 

と考えていれば、既に皿の料理が全てなくなっていた。

しかし量もちょうど良かったうえに美味しかったため、やはりマスターのオススメは絶品だと再認識した。

そして今の状態に気付いたのか、マスターが巳姫に尋ねてくる。

 

「そろそろデザートにしますか?」

 

「ん、お願い」

 

かしこまりました、と告げて再びキッチンへ向かっていく。

が、既に準備は出来ていたのか、一分もしないうちに戻ってくる。

 

「お待たせしました。新作のスプリング・フラワーです」

 

いつの間にか、マスターが巳姫の前に品を出す。

出て来たのは、イチゴやキウイなど、春が旬のフルーツが花型のようにグラスに飾られ、その中心にはピンクのアイスが乗っているパフェだった。

 

「さて、感想の方はまた後で聞かせてくださいね」

 

「わかってる……いただきます」

 

パフェ用のスプーンでアイスを一口(すく)う。

口の中はやんわりとしたフルーツの甘さが広がっていった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「ぶぇくしょんっ!」

 

「おわ! いきなりなんだよ~」

 

「ズズッ……すまん」

 

昼休み。

友人達と屋上で食事中、鼻がムズムズしたわけでもないがクシャミしてしまった。

すぐ横にいる赤髪の男友達、日向(ひゅうが)灯郞(とうろう)が驚く。

 

「風邪でも引きましたか? 私、風邪薬持ってますけど……使います?」

 

「いや、そんなことはないんだが……」

 

灯郞とは反対側にいる小柄の女子、小川(おがわ)(みお)が鞄から錠剤を取り出してみせるが、問題ないことを示す。ていうか、なんで風邪薬もってんだよ? 念のためにしても精々絆創膏(ばんそうこう)がいい所だろう。

 

「……………誰か噂してる?」

 

「あ、それかもしれねぇな。職員室とかでセンコーたちが成績がやばいって話してるとか」

 

そして俺と対面している巨漢、土門(どもん)豪樹(ごうき)こと、ゴーキ。

その呟きに灯郞が賛同してくるが、前者はともかく、後者はおかしいと思う。

 

「別に俺の成績はクラスで中の下ってところだろうが。この前の中間試験だって平均点とプラスマイナス五点ぐらいだったしな。それに灯郞、成績についてはお前の方が酷かっただろ。そん時の試験だって赤点を何教科とったんだ?」

 

「うっ! ………三教科」

 

「たしか現代文学と歴史と数学でしたよねー」

 

「わ、バカ小川!」

 

「「……………」」

 

小川の口を抑える灯郞に、俺とゴーキは顔を合わせると溜息を吐いた。

たしかこの四人で試験勉強して………

 

「俺が数学を、ゴーキが現国と歴史を中心で勉強してやったのにか?」

 

「………」

 

「……………あとでテストの復習」

 

その呟きに、ガーンっ! となった表情で灯郞(バカ)が床に手を付いた。

俺は試験勉強はともかく、復習は面倒だからやらない。ただ、次回からはもっと厳しくやっていこうと決めた。マジで。

残りの教科に関しては真剣にやるゴーキに話さなかったんだから、自業自得。

小川はオロオロと心配しているが、俺たちは同情する気は一切ない。

 

にしても誰かが噂か。

……たぶん、巳姫とマスターだな。パフェ食べに行くって言ってたし。悪口でも言ってるのか?

それとも……考えてようとしたが、途中でやめる。今はそれより―――

 

「そ、そんなことより幸真。俺たちを呼んどいて話すことってなんだ?」

 

「あ、私も気になります」

 

「……………無理やり話題変えられたが、同じく」

 

「ああ、そうだな」

 

ちょうどよく灯郞が話題を変えると、三人の視線が俺に集まる。

俺はゴホンッと一つ咳払いして、なるべく声音を下げて話す。

 

「学内でこっち側(・・・・)と考えられる人物が五人、判明した」

 

「「「!!」」」

 

俺の低く発した言葉で全員が険しい表情に変わる。

本当はこんな話をせず平穏に暮らしたいが、関わってしまったんだ(・・・・・・・・・・)

なら、生存率を上げるように連絡をした方がいい。

 

「だから全員、放課後はうちに来い。そこで詳しく話す」

 

「………なら、俺は先に行かせてもらう。休むよう監督に話さなければならん」

 

始めに返答して立ち上がったのはゴーキだった。

そうだ、今日はバスケ部の練習があった。そう考えると部員であり、エースでもあるゴーキが休むのは気が引ける。

 

「ゴーキ―――」

 

「休むなというなよ。これしきのこと、問題ない。それにお前の知らせの方が重要だ」

 

……先に言われた。

流石に一年の時からの付き合い、俺のことをわかっている。

この分だと、いくら言っても動かないだろう。

友のためならやるだけやる。そういう人間だからだ、ゴーキは。

 

「……すまんな」

 

「構わん」

 

小川にごちそうさま、と告げてゴーキは屋上から出て行った。

さて、ゴーキが参加するとなると残りの二人も……

 

「俺はこれと言って用がないからいいぜ」

 

「わ、私もです。お母さんに幸真くんの所で遊んでくると連絡します!」

 

灯郞も小川も了承してくる。

これで三人とも来ることが決定。……いや、ゴーキは確定したわけではないか。

小川の方はさっそくケータイを出して電話している。

 

「よし、授業が終わり次第、校門に集合だ。あとでゴーキにも俺が伝えておく」

 

「了解ですよっと」

 

「は、はい。分かりました」

 

俺は帰るまで平穏で居られる事を祈りながら食事を再開させた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「ふーん、グレモリー先輩に姫島先輩、木場に塔城、加えて兵藤が悪魔ねぇ」

 

「………うむ」

 

放課後。

家に招いた三人の内、灯郞が用意した甘納豆を、ゴーキが羊羹を一つ口にする。

それに対して俺は緑茶を淹れながら「ああ」と短く答えた。

結局、今日一日彼女らとの接触はなく、全員通常どおり授業を受け、今に至る。

そして現在、三人に昨夜のことを説明し終えたところだ。

 

「てか、お前がヘマしなければ面倒にならなかったんだろな。あ、俺にも茶くれ」

 

「……お前らしくもないぞ幸真。俺も頼む」

 

「ふ、二人とも……すいません、私もお願いします」

 

「それについては面目ない」

 

謝罪しながら客用の湯飲みに茶を淹れていく。

 

「えーっと、すいません」

 

「なんだ?」

 

「あの……三人はその人たちのこと知ってるんですか?」

 

先ほどから会話に入ってこなかった小川の一言に、灯郞が溜息した。

ああそういえば、と俺とゴーキは小川が自分と同じだという事を思い出す。

 

「あー、小川も知らなかったのかよ……お前らってホントに周りのこととか知る気ないんだな? 視野は広げていった方がいいもんだぜ?」

 

「友人のお前らは別として、他人の噂なんかどうでもいい」

 

「………同じく」

 

「えと……私は会ったこともないし、ただ教えてくれる人が居なかったので……」

 

灯郞のいう事も一理あるのだが、気にしても仕方ないと考えるのは構わない筈だ。

何の接点もない奴らについて知っておくことなど、俺はやりはしない。自分と似て、孤立しているよう奴らは別だがな。

 

と、ここで話している奴らについて話しておこう。

 

家から歩いて十五分ほどの距離にある学び舎、私立駒王(くおう)学園。

俺たち四人はそこの高等部二年生であり、クラスメイトでもある。

 

昨夜出会った五人組―――リアス・グレモリー、姫島朱乃、木場祐斗、兵藤一誠、塔城小猫。

そいつらは同じ学園の生徒で先の二人が一つ上の先輩、最後のは一つ下の後輩、残り二人はクラスが違うが同級生にあたっている。

そして全員が学園内で有名人であり、『二大お姉様』『マスコットキャラ』『白馬にのった王子様』『変態エロ魔神』という称号をそれぞれ持っている。

 

と、灯郞から少し前に聞いた。

だがなぜ俺が彼女らと会ったことないのに判ったかというと、名前が判ったのも灯郞が容姿を教えてくれたから。それも……

 

「で、五人の特徴は順に、赤いロングの巨乳、黒髪ポニーテールの巨乳、白髪のロリ、金髪のイケメン、エロい眼してる変態野郎」

 

……ちょうど灯郞が小川に説明してくれた通りだ。

そう、どれも特徴的過ぎだったからこそ初見でわかった。

 

「へぇ~、そんな人たちがいたんですか~」

 

「………ん? そういやぁ」

 

小川が説明を聞き納得すると、灯郞が何か思い出したかのような態度になる。

 

「先週ぐらいから兵藤もオカ研に入ったんだっけな」

 

「………オカ研?」

 

「オカルト研究部のことだ。学内でもその存在自体を知るやつが少ない部だ。情報が確かなら旧校舎を基点にしてグレモリー先輩が部長やってるみたいで、所属しているのが今さっき言った五人……グレモリー先輩、姫島先輩、木場、塔城、そして兵藤だけみたいだ。つまりよ……」

 

灯郞のいう事から考え……何がいいたいか理解した。

 

「オカルト研究部そのものが悪魔に関係している………か」

 

ゴーキの言葉に灯郞が頷いた。

俺も同じ考えだ。というより、さっきの灯郞の話を聞くだけで不審な点が多すぎるからそう考えてしまう。

 

「でもなんで悪魔さんがうちの生徒にいるんでしょう?(あ、この羊羹おいしい)」

 

「人間殺しか……仲間集めのどっちかじゃね?(この甘納豆クセになるな)」

 

「……後者の可能性が高いだろうな(………茶がうまい)」

 

「いや、後者で間違いないだろ。相手は『グレモリー』だしな。それとさっきから菓子を食べる手が止まってないぞお前ら」

 

まったく緊張感がないが、各々の意見を出し合い、彼女らの目的を推測し合う。

悪魔や天使なんかには(ランク)付けの制度がある。

そして悪魔の場合、上級以上のランクであれば自分の下僕を持つことが可能、という制度が存在していた。

その下僕を得る方法として、悪魔以外の種でも悪魔化させるというものがあり、人間や妖怪などから優秀な存在を見つけ下僕にするという事がある。

グレモリー先輩もそれが目的で地獄……冥界から人間界に来たと考えた。

 

「ふぅ~………で、結局どうする?」

 

話がある程度まとまり、今後の行動についてに変わる。

 

「……警戒しておくぐらいで今までと大して変わらず、といったところだな。強いて言うなら彼女らとの接触は極力避けるべき。こちらが向こうの行動を妨げてしまう可能性だって十分あるし、逆に向こうが関わってきてこちらの行動が更に制限されてくるだろうからな」

 

「平穏好きなお前らしいぜ……まあ、俺も戦う(バトる)のは避けてぇしそれで賛成だ」

 

「わ、私もそれでいいです。喧嘩しないのが一番です!」

 

「……同じく」

 

俺の結論に三人とも賛同してくれた。

今、戦闘狂がこの中に居なくて心の底から安心し、自分の茶を啜る。

 

「で、今日は狩るのか?」

 

「……行動を控えるような話をしたばかりなのにそれか」

 

いきなり灯郞が質問してくると、ゴーキがそれに突っ込みを入れる。

狩るというのは間違いなく、はぐれ悪魔のことだろう。

判ってると思うが俺はそんな非平穏なこと……一々戦闘なんてしたくない。

だが―――

 

「今夜は周辺調査(パトロール)をするつもりだ」

 

「え、あんまり動かない方がいいんじゃないんですか?」

 

「ああ、実はもう一つ伝えること……ゼラクスたちが町に堕天使の気配を感知したらしい」

 

「えぇえええェエエェ―――」

 

「……うるさいぞ灯郞」

 

やる気のない声を出す灯郞にゴチンとゴーキのチョップが炸裂した。

というかなぜチョップであんな音が出る?

くらった本人は相当痛かったのか、ぐぉ~……と唸りながら頭を抱える。

 

「つぅ~、本気でやることねぇだろ!」

 

「突然大声を出す奴が悪い」

 

「幸真まで!?」

 

「ご近所迷惑ですよね~」

 

「小川貴様もかぁあああ!!」

 

「……もう一発」

 

キッパリ(のち)のほほんとした反応に怒る灯郞だが、再びゴーキ鉄拳(ゲンコツ)によって沈められた。

おお、今度は煙が出てる。

 

「灯郞、いくら堕天使が嫌いだからと言って嫌がるな。過去を忘れろとまでは言わないが一年近く経っているんだ克服ぐらいしろ」

 

「あ~、あれは酷かったですよね~」

 

「………トラウマものだからな。オカマの―――」

 

「やめろぉ! 傷口に塩を塗らないでくれぇぇえええ!!」

 

告げようとした瞬間、復活した灯郎の叫びがそれを遮った。

あの過去は……やっぱりされたと思うと寒気が来て仕方がない。前言撤回だ。

 

「……話を戻すと、堕天使が近場で動いているらしいから調査をする……だな?」

 

「そういうことだ。それと最低でも情報収集が得意な灯郞は参加してもらう」

 

「拒否権を行使!」

 

「そんなの存在しない」

 

今度は俺の宣告を受けてずーんと落ち込んだ。

 

「……俺も参加する。人手は多い方がいいだろうからな」

 

「皆さんが行くなら私も!」

 

ゴーキと小川の二人が参加の意を示して来る。

 

「了解だ。じゃあ今夜はうちで夕飯にするか……各自、自宅への連絡も忘れずにな」

 

「はい」

 

「……了解だ」

 

「へいへい……ほんじゃサイナ―――」

 

帰ろうとしたバ カ(トウロウ)に鉄槌が落ちたのは言うまでもなかった。

 

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