帰ろう、帰ればまた来れるから   作:髪様

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シリアス苦手な人は前半を飛ばせば幸せになれるはずです。


なれど、私は車曳き

 一度は平成の世に生まれしこの人生。二度目は西暦1908年過去に大きく遡り生まれることとなった。私の名を木村利正、近藤昌福、否、木村昌福の本来養子先に生まれることとなった長男坊である。本来はいなかった私の存在、しかし生まれる前の養子縁組であるからして、長男は昌福兄上である。一度は昌福兄上を生家に籍を戻す話も出たそうだが、兄上たっての願いにより実行されることはなかった。結局のところ兄上は近藤家で育てられていたのでどういった違いがあるのかあまり理解できないのだが。

 

 開戦後の陸軍の劣悪な環境に耐えられないと判断した私は海軍兵学校を卒業後、海軍大学校に進学。元来、前世含めて賢いとは言い難い頭の出来でしかなかった私は席次も首席や次席には程遠く、卒業後の配属も小型艦艇であった。その後多数の駆逐艦に配属され、兄昌福と同じようにそこそこ名の通った水雷屋となれたのではと自負する。

 

 

 さてはて、運命の転換はいつであっただろう?

 

 

 ある時、本来ならば笹川中佐が艦長を務める筈であった艦、蓮の後任艦長である松田少佐が暴行事件に巻き込まれ着任が遅れることが決まったため、特型の東雲艦長に抜擢されたのである。数多の副長経験と水雷長この時階級大尉32歳であった。

 第三水雷戦隊隷下において南方侵攻作戦に参加。ボルネオ島、現在のブルネイ付近の都市ミリ攻略である。この時ミリは油田が存在する重要拠点として日本に必要不可欠の土地として存在する。

 それ相応の兵力も割かれていたが、余剰兵力の少ない帝国海軍はすぐさま必要な場所へ艦艇を移動させなければならない。

 現地時間午前11時頃、直線距離で60km程の位置にあるブルネイのセリアへと艦を移動させるため、第十二駆逐隊を離れ進路を北東へと向けた。バラム川で隔たれたバラム岬先端にある灯台が見える位置より少し離れ(岬付近は遠浅の為)座礁の危険性のない(ばしょ)を航行する。さらに言えば機雷が敷設されている可能性も大いにあるので手の空いた者(主に水雷隊の水雷長、観測員、魚雷員等)には双眼鏡片手に警戒に当たらせる。

 

 「ん?」

 

 ふと、水上機であろうか?レシプロ機特有の羽の駆動音が聞こえる。しかし、航空機が上がるといったような話は聞いていない。はて、この付近に97式飛行艇は存在しただろうか?音が聞こえるあたりに目を向けてみる。

 発動機が三発……Do24であった。

 

 「敵機!総員、対空戦闘!機銃屋出番だぞ、撃ち落とせ!」

 

 艦内伝声管で対空戦闘、すぐさま最大戦速へと上げるために次は機関室へと声を届ける。種類から言えば爆弾等を600㎏程積めるが専用の投弾装置はないはずなので命中率はよくない、しかし二十ミリの掃射が小型艦艇にとっては恐ろしい。航空機の飛行中の機銃の貫通力は飛行艇の速度であっても駆逐艦の薄い装甲など容易く貫く。魚雷に当たれば一瞬で海の藻屑。機関室に当たれば機関停止のうえ航続不能。船の中にいて蜂の巣にされることもざらにある。

 

 「魚雷投棄!」

 

 苦肉の決断、馬鹿にならない値段である魚雷の投棄、ついでに言えば捨てる際に艦艇員の被害も多く出る可能性がある。だが、250名全員と秤にかけ取捨選択するのも指揮官の性である。頼りの綱は7.7mmだが、これがなかなか当たらない。未だ搭載されている砲は俗に言う初期のA型なので仰角40度、つまり平射砲であるからして、対空戦闘を考慮していないのであまり上空に向けることはできない。それでも威嚇になるし、当てれないこともない。砲を稼働させどこから来ても最小限の移動で砲撃できるように三基全てを別方向へと向ける。

 

 ダッ、ダッ、ダッと少し間を置きながら放たれる銃弾。敵機は艦を横に薙ぐようにして通過する。貫通した機銃弾が第一砲塔、弾片防御などされていない砲室内の乗員を殺傷する。すぐさま交代要員が中の殉職者を引きずり出し、血まみれの内部へとはいる。

 

 「被害ほーこく!」

 「機関いじょーなーし!」

 「砲塔被弾するも戦闘継ぞーくか!」

 

 伝声管と、外部よりそれぞれの声がする。

 すぐさま舵取りを再開、敵の攻撃を避け、更には存在するかもしれぬ機雷には触れないようにと、自らの心臓が爆発しそうなほどの緊張の元の戦闘。乗員の命を預かる身であるからして、責任感にも押しつぶされそうなほどのモノ。

 

 「とりぃーかじぃー!」

 「「とりぃーかじぃー!」」

 

 戦闘速度最大での操舵、振り落とされ海に投げ出されないように大声で叫ぶ。外に近い、もしくはむき出しの機銃員は身構えその手に力を入れる。程々の操舵で投爆をさけなければならない、駆逐艦の戦闘速度で舵を一杯に切れば下手をすれば横転、只の的となり下がる。

 

 どれほど、幾らかばかりの時が過ぎたのだろうか、運が良かったのだろう。ガッコンとこちらにも伝わるほどの異音を挙げ、敵機の発動機が黒煙を上げる。そしてその部分から翼が後方へとへし曲り錐もみ式に宙を舞い海に没する。そのまま操縦が利かなくなったDo24は海面に叩き付けられ、粉砕された。

 

 一瞬、目を見開き俄然とこちらを睨む敵兵と目が合った気がした。

 

 

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