帰ろう、帰ればまた来れるから   作:髪様

11 / 15
なれど、掲げるその理想

 序文

 

 日本国は永遠の戦争放棄、日本国憲法第二章第九条の思想を此処に遵守することを明言する。然しながら、今現在日本国は国家存続の危機にあり、自衛権の行使を執行せねばならない状況に置いて、特例法案の可決を宣言する。これ元より、日本国それ自体が戦争放棄の理念それを存続するための特殊特例案であり、国家存亡の危機おいて、それを安寧たるその日までの限定的特別措置であることを明記する。以後、日本国国民の平和それを獲得出来たとそこに判断すべき時、再びこれこの特殊特例法は即座に失効し、破棄する。

 

 

特殊特例法案第一章

 

 

 第一条 艦娘運用国家防衛憲章

 

 艦娘、及びそれに付随し得る艦艇、軍艦その乗員に置いては、旧大日本帝国海軍によって日本国に無償貸与されるものとする。しかし、日本は交戦権そのものを破棄するに付随し後述第二条における特記にて運用はそれに伴い、日本国は一定の権限をこれ艦娘に与え、日本国は国家存続、及び日本国国民に対する生命の保証及び平和維持の為の艦娘における作戦行動全てを容認し、そして出来得る限りの支援を此処に約束する。

 

 

 第二条 特日本海軍再編特記

 

 艦娘運用に当たり、自衛隊は交戦権を持たないモノとして、艦娘運用組織としてこれに該当しないものとする。それに伴い、日本国は限定的保障条約を締結し、此処に日本海軍の存在を承認するものとする。これは日本国における軍組織ではなく、日本国は旧大日本帝国を袂を分かち、これと存在根本を異なるものとするために、旧大日本帝国海軍再編におけるうえで別国家組織としての一部治外法権を認め、その為に日本国は特殊特例法の発布以降の日本海軍に対する命令権及び指名権及び運用権を持たない。

 

 

 第三条 日本海軍階級法及び、該当指揮権

 

 日本国海軍は特殊特例法案下において艦娘、それ付随する艦艇、軍艦、乗員にて編成し、艦娘によってそれを指揮し得る存在を任命し、一定階級をそこに与えるものとする。昇級は艦娘会議によって、多数決及び一定条件下を満たしたものを優先的に任命する。なおそれに伴い艦娘は旧大日本帝国海軍の指揮下に置いて運用、運営される。

 

 

 第四条 防衛的要請権

 

 日本国は日本海軍に国家安全保障の為の防衛支援の要請を行うことが出来る。日本海軍は要請において、確かなる日本国の国家危機及びそれに順じて起こりうる日本国国民の安全の保障が害されると認める時、この要請に対し最優先に応じこれに応えなければならない。

 

 

 第五条 領域内運行運営活動権

 

 第四条に伴い日本海軍が領域内での活動を必要とするとき、日本国はその運用運営を支援し、日本海軍の活動の妨害行為を行ってはならない。しかし、日本国民を害する行動であると認められるときはこれに当たらない。

 

 

以上、明記事項は第二章にて追加補足するものとする。

 

 

 

▽▲

 

 

 一月二十四日、深海棲艦が登場してより幾年。日本が最初の直接的海戦をしてから一年がたった。この海戦のすぐ後に8名の転移者提督及び12名の現地提督が現れ、初期艦娘が登場。合計36隻の艦艇により日本海の防衛が成り、その後の二か月によって最低限の航路の確保が成った激動の時より九ヶ月である。そして特例法、通称艦娘法と呼ばれる法令が制定されて十一ヶ月となった。

 

 日本では一月四日から二十八日までを血の新年と呼ぶ。そして、その海戦において殉職した自衛官達に対する慰霊祭が本日二十四日なのである。東京都の元五輪競技場建設予定地に建立された慰霊碑。そしてここ以外でも日本各地で合同慰霊祭が執り行われる。

 

 これには巡回部隊の一部を除いて各地で艦娘が参加しているはずである。慰霊祭は本日であるが、献花に関しては年中行うことが出来る。一度、着任時に叢雲たちに案内され此処には訪れているが、敷地規模の割に人が居らず閑散としており、あって然るべき献花も見受けられなかった。

 

 そして、今ここで辺りを見渡せば参加しているのは年寄りか、政治家、自衛隊関係者ばかりである。その中で一人の自衛官がその場へ立った。弔辞の為だ、これが終わると弔銃隊が入場し、自衛隊の作法にのっとり三発の弔砲を鳴らす。

 

 「本日は非常に天気にも恵まれ、彼らを送り出すには良き青空だと思います。この一年を生きて迎えられることは、此処に祭られている自衛官並びに殉職者の各位のおかげだと思っております。政府関係者各位並びに御来援の方々には心より厚くお礼申し上げます」

 

 ですが、私は少々残念に思っております。私はこの慰霊祭、日本国民の皆様のご理解を頂き、そして殉職者を弔う長蛇の列で溢れかえり、この会場も海に沈んでいった者たちが少し静かにしてくれと言わしめるほど賑やかなものになると、そう思っておりました。

 

 ですが、どうでしょうか?今ここにおられる方は全て、戦争を知るモノ、有識者、政治に携わるモノばかりです。戦後日本に生まれた人は数える程しかおりません。

 

 『おい、何を彼は言うつもりだ?』

 『誰か止めろ!奴を引き釣り下ろせ!』

 「叢雲、唇をかむな。お前の気持ちはよく分かる、この後の結果も彼は承知の上だろう」

 「確実に処罰されるわ、苦言を言って然るべきなのに」

 

 先の戦いでは、事前に国民投票がございました。日本国として直接的戦闘がない存在への先制攻撃の可否です。結果、日本国憲法にのっとり我々は撃たれるまで、撃たないことを確約しました。そして、その結末は皆様のご存知の通りです。

 

 『国民を敵に回すつもりか!』

 「……何を言いているのかしらね、彼らは。貴方たちの敵は自衛隊なの?」

 「叢雲、言いたい気持ちはよく分かる、落ちつけ」

 

 日本海に展開した護衛艦は奴らの射程圏に近づくまで何もできず、奴らが撃った後にようやく反撃に出ました。ですが、他国艦艇との戦闘機力により、高火力の先制攻撃であっても効果が薄いと分かっている中でどれほどの戦果が期待できるでしょう?

 

 『お前たちが不甲斐ないせいだろう!』

 『少女まで戦わせて!』

 「石、空き缶、ごみ、こんなもの投げられる謂れはないわよね。これでもまだ止めるの?理想の為に殉じた、命を張った人間の慰霊祭には不要な者も混じっているみたいよ」

 「こういう時はな、いい方があるのだよ、少し見てろ」

 

 高崎艦長らは護衛艦に搭乗する自衛官に告げました。これは回収されたボイスレコーダーにはっきりと残っておりました。降りなさい、死ぬと分かって付き合う必要はないと。ですが、自衛官たちはこれにこう返しました。艦は一人では動かせません。我々は自衛官です。共に生き、共に食べ、共に寝、そして死ぬと分かったのなら、共に死のうとそう決めたのです、と。

 

 「ちょっ、何処に行くのよ?」

 

 こうして、席を立ちあがり、壇上の前に向かい、彼と正対し背は参加者席へと向ける。

 

 『何だお前は!邪魔だどけ!こいつらが無能だったから国民の税金が無駄になったんだぞ!』

 『そんなカッコでお前右翼か!戦争屋め!』

 

 少々荒れている人間、ごみを投げている者達の前に出れば、やはりそれを受けることとなる。幾分かは素通りし、彼の元へたどり着くが、それでも狙いづらくなったのか、手前で落ちるか、背や頭に「かこっん」と当たり地面へと力なく落下する。

 

 「どうぞ、続けてください、あまり意味はないですが少しでも肩代わりしましょう」

 「……感謝します」

 

 我々、いえ、彼らは戦争の放棄と争乱を収めるための武力行使の禁止という、日本国憲法の遵守の為にその命を海に沈めました。理想に生きて理想に殉じたのです。彼らとて、家族はいます。彼らとて友はいます。彼らとて、死にたいとは思っても居なかったでしょう。ですが、()の正確な射撃によって護衛艦は瞬く間に炎上し、戦闘機能を低下させました。初弾で乗組員の多くが死傷したそうです。ようやく戦うことが出来るようになっても彼らは、攻撃を受け続け、それでも最後まで此処は通すまじと、不退転の覚悟で発砲出来なくなるその時まで撃ち続けたことが、戦闘記録には残っておりました。

 

 本来このような場で言うべきことではないと分かっておりますが、あえて言わせてもらいます。まず、日本国民の民様の投票によってこの惨事は起こったと言っても過言ではないと我々は思っております。ですが、それを我々は今日この日まで責めるつもりはありませんでした。

 

 『ふざけるなよ!何が世界有数の装備だ!簡単に負けてるじゃないか!』

 『自分たちの不甲斐なさを私たちのせいにするのか!』

 

 我々は戦友達を送るために、自らが選んだ理想に殉じた者たちを送り届けるために、老若男女問わず、きっと訪れてくれるモノと考えていたのです。ですが、結果はこれだ。見渡せば、関係者と過去の戦争被害者の方々しかいない。

 

 我々は、誰のために戦ったのでしょう?我々の戦友(とも)の死は何が原因であったのでしょう?彼らは逃げることもできたのに、結果は伴わずとも日本の為にその命を捧げたのです。おそらく、日本国民の大多数の皆様には彼らの死は新聞やテレビの中の出来事であり、きっと()()()なのでしょう。近くでこれらが起こっているにも関わらず、死んだ人間は自らに関係無いものとして見向きもしない。これは戦争を知らない時代の人間だからといった、言い訳が通じるほどの過去なのか?それほど遠い場所で起こった出来事なのか?なぜそこまで他人事のようにいられるのでしょうか?

 

 

 「もう一度言わせてもらいたい、彼らは誰のために戦ったのでしょうか?」

 

 彼の額より、石で切ったのか血が一筋流れ落ちる。

 

 「以上です、墓前に等しき場での無暗な発言大変お騒がせしました」

 

 

 その後、本来の予定の弔銃隊は入場しない。皆が唖然として、周囲近場の人同士で会話を続ける。彼が悪い訳ではない、きっと彼も友人知人を先の戦いで亡くしたのだろうか。末期でありながらそれに気づかず、未だに蔓延る戦争が他人事という思想。資源に関しても何れ破綻するだろうに。

 

 一国で生存できるほど、日本は強くない。皆それを忘れている。

 

 

 『すまんが、榛名一つ頼みがあるのだが』

 『はい、提督どうなされましたか?』

 『空砲の用意をしていてもらえないか?』

 『空砲?あぁ、今日向かわれる慰霊祭で弔砲行うのですね?』

 『察しが良くて助かる、出来ればより多くの艦娘の艦艇にもお願いしてもらいたい、出来るか?』

 『弔砲ですから、他の提督の命令無くてもできます、流石にそれぐらいの自由裁量はありますから』

 『では頼んだ』

 

 

 本来弔銃が終わって献花の途中で行うつもりだったのだがなぁ……

 

 腰より括り付けた刀紐部分を持ち、回れ右、回れ右。日本海の方へ体を向け、抜刀。即座にどよめきが大きくなるが、それらは全て無視。

 

 「日本海軍艦船(にほーんかいぐんかんせん)弔砲用意(ちょうほーよーい)!」

 

 咄嗟のことだが、それを理解した叢雲たちとその他の参列艦娘。その場に一斉に立ち上がり同じく二度の回れ右にて日本海に体を向け(じゅう)の代わりにその右腕を空へと掲げる。

 

 「弔砲(ちょうほーう)撃て!」

 

 

▽▲

 

 

 今回の弔砲の騒動に関しましては、事前公布なしに大変お騒がせ、ご迷惑をおかけしました。しかしながら、今回行われた騒動による、一連の被害報告の保証は一切致しかねます。今現在、我々日本海軍は戦時下に在り、士気高揚及び士気維持の為にはこの弔砲は決して欠かせぬ軍事行動であったと申し上げます。

 日本国民の皆様の安寧を損ねたとの遺憾の報告も多数上がっておりますが、今現在それら全てが職務中の事故ではなく、行楽施設であったと伺っております。

 確かに行楽も必要な経済行動の一つと言ってしまえば我々の今回の騒動、はた迷惑以外の物ではないと重々承知しておりますが、昨今の()()()()を鑑みるに以前よりの自粛とご協力を我々はお願い申し上げてきておりました。

 我々日本海軍の運営における重要物資は深海棲艦泊地、輸送艦の拿捕によってほぼ全てを賄っておりました。それら全ては我々日本海軍における日本国の代理戦争下において日本国民の皆様に戦時下の気負いを持たぬようにとの考えによって行っておりました。なれど、今回の慰霊祭騒動にて我々は少々裏切られたように感じております。

 赤ん坊が泣いている、可哀想だろうとのお言葉もございました。確かに連日弔砲が行われ睡眠時間が大幅に削られた、落ち着かなくなったとなれば我々は深く反省するとともにそれらの対処に全力を捧げましょう。ですが、赤ん坊とは様々な外的要因によって成長するものであり、此度の一時的騒音は成長それらを阻害するものではないと認識しております。どうぞ、ご理解ご協力の元のご対処をよろしくお願い申し上げます。

 

 『我々日本海軍艦娘一同は確かに皆様の笑顔にために戦うとそう宣誓致しました。その笑顔とは全ての国民、自衛隊員含む皆様であり、一部自らの幸福だけを追い求める方々だけではないと改めて此処に宣言いたします』

 

 

▽▲

 

 

 「スカッとしたわ」

 

 彼女が言っているのは少し前に行われた戦艦大和にて行われた日本海軍大本営発表であろう。今回彼女たち日本海軍運営司令部には非常に迷惑おかけたと反省している。こちらが戦時下にあって慰霊祭を行うときの弔砲は当然だと思っていたのもある、以前は軍部の権利も高かったために、そこに許可をもらうなどいう考えがなかった。少し時代の流れ、ジェネレーションギャップを感じた。

 

 「これは失敗した、いい歳をして猛省せねばならないな」

 「気にすることないわよ、以前から私たち日本帝国海軍と日本国民との温度差が激しかったのが、これで少しは縮まるでしょう?平和なときの平和ボケは素晴らしいかもしれないけれど、戦時下に置いては首を吊ってるようなモノよ」

 「そう言うモノでもないのだよ、法は法。明治より近代国家とは法によって治められ、法によって裁かれとある。法は人を守るために在り、法が人を害するものではあってはならないとあるのだから。戦後日本においてあれだけのことを仕出かせばと、想像し得る事態だ。無暗矢鱈な混乱は避けるべきなのは間違いない」

 「まぁ、アナタが満足しないのならばそれでもいいのだけれども、彼らにアナタを裁く権利はないから結局何も変わらないわよ。ただ、それでもこれ以上は蒸し返すべきではないのは確かね。ようやく大和達の顔出し放送で言が収まりつつあるのだから」

 

 そうこうしながら、いつも通りの通路を歩く。これよりもう少し歩けば船渠(ドック)があり、そこにいま第12駆逐隊と響、酒匂がずらりと並べられ、藤壺取りが行われているのだ。高速艦艇はこれら藤壺による速力低下、燃費の悪化が命取りとなる。時折、船底の掃除を行わなわなければならないのである。そして、今その状況を確認しに行く段階であった。

 

 「あぁ、そう言えば二日目から薄雲と白雲も乾ドックに入ってるらしいわ。そろそろ艦娘顕現するんじゃないかしら」

 「ふむ、しかし、そうなればどこに配属になるのだろうな?」

 「他の提督の指揮下に置かれている艦娘は全体の3割よ?転移者提督が指揮可能数多いと言っても4名が最高。現地提督は多くて二名だもの、考え辛いわね。次の転移者が来るのはもう少し、半年以上は先だろうし、そのまま哨戒に当たるんじゃないかしら?」

 

 しかし、横須賀の船渠のほぼ全てを駆逐艦と軽巡で占めるのはどうなのだろうか? 明らかに大型艦船を優先すべきだと思われるのだが。今現在入渠する艦が居ないらしいので、問題はないが。ふと疑問なのだが、この世界ではバケツは存在するのか?今度聞いてみるかと思ったが、なぜそのような話をと聞かれれば返答に困る。機会があれば調べてみるだけに留めるべきか。

 

 「響が終わったら榛名が5号に入渠するわ、喫水線以下の塗装も対潜防御用の白色迷彩に変えるらしいから二週間はかかるわね」

 「他の艦艇も対潜防御塗装を?」

 「そうよ、実際に効果はあるのか怪しいし、耐蝕効果が劣るからすぐ揚げないといけないようだけれども、海域封鎖の突破には少しでも可能性が必要と判断したみたい」

 「ふむ、深海棲艦が生命体寄りの敵認識であるなら、船底白色塗装も効果が期待できるのだろうが」

 「その辺は試さないと分からないわよね」

 

 そのまま、雑談を続ければ1、2、3号船渠区画近づく。1号に叢雲、2号に薄雲、3号に白雲であるらしい。東雲は同じように自分の艦を見に行っているが、彼女は4号響は5号のため少し離れている。酒匂に至っては6号なのでかなり離れている。

 

 「なぜ、白雲薄雲も船底塗装を?」

 「……そういえばそうね、どういうことかしら?」

 

 叢雲曰くこれ以上の艦艇が配備されるのは考え難いらしいので、そこは考慮していないのだが、一番に考えられるのは支援艦として次の作戦に随伴することであろうか。そうなれば少々防御を厚めな艦列を組める。

 

 「希望は再びともに海にあることなのだがな……」

 「まぁ、大丈夫でしょう。いざとなれば艦娘定例会議で上申するからそこらは大丈夫よ」

 

 

 『お断りだね!なんで私達がこんな奴らの為に戦わないといけないんだよ!こんなんじゃ木村提督も浮かばれないだろうからね!』

 『薄雲殿の気持ちもよく分かりますが、どうぞお考え直しをお願いできませんか』

 『……私も余り戦いたくはないです、少々腹に据えかねる案件であると愚考します』

 『そうそう、鏡さんには悪いけどね、私たちは断固として拒否させてもらうよね』

 

 

 「顕現したようね」

 「ふむ、何か揉めているようだが……」

 

 というか、浮かばれないと言われても、既に物理的に浮いてきているのだがな。

 

 「どうするの?ドロップキックでも叩き込んでこようかしら」

 「何故に?」

 「貴方はここにいるわ、それなのに彼女たちが戦わないなんて認められるとでも?そんな腑抜けならば、ぶたれて然るべきでしょう」

 

 そもそも、彼女たちは今の私の存在を知らないのだからその理屈は可笑しいのだが。それを口に出しても、恐らく結果は変わらぬだろう。これと決めたら、だからどうしたと実力行使するのが、私が今知る叢雲である。

 

 「物騒だな。さて、どうすべきかな?」

 「そのまま横をすり抜けていきましょう。面倒くさいもの」

 「それでいいのか?」

 「行くわよ」

 

 明らかに有無を言わさぬ勢いで腕をひかれる。そして、海上自衛隊艦娘調整官の一人である鏡二佐の後ろをすり抜ける。

 

 「ちょっと何なの!人が大事な話をしてるときにね!」

 「叢雲?と……薄雲彼と少し話をしていて、私用事を思い出したから」

 

 位置関係上、暫定薄雲からはこちらは見えていない。しかし、白雲とは目が合った。見開かれた琥珀色の目は驚きを表し、すぐに口元がにやりと動く。……あぁ、これダメなパターンだとふと気づく。薄雲を裏切ってこちらについて行きます、いいよね?というか何でここにいるの?と言ってきている。

 

 「叢雲、少々船渠に急ぐので、彼女の相手は頼まれてくれないか?」

 

 がっちりと叢雲の方を掴みその目を真摯(笑)にみつめれば、「し、仕方ないわね。あとから行くからこのワタシに任せて待ってなさい!」と、少し斜め下に目線を向けながら答えてくれたので、速度を上げその場離脱する。

 

 「ふむ、白雲はまだいいとして、薄雲は間違いなく、今のまま会えば手に負えない状況になるのは間違いない」

 「……私もそう思います、とその前にお話を聞かせてもらえますでしょうか、提督?」

 

 離脱に成功したと思えば、隣に並ぶ白雲。さすが駆逐艦、足が速い。

 

 『あ!?ちょっ、叢雲あの人まさかね!?』

 『少し静かにできないのかしら?迷惑よ』

 

 

 ……作戦失敗、どうやら見逃してはくれぬようだった。

 

 

 

 『こちら薄雲ね、護衛はいつでもお任せ、海の守護神第12駆逐隊の一隻だよ』

 『白雲です、次こそはその心すらも守り抜いて見せます』

 

 『どうぞよろしくね!』

 『どうぞよしなに』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。